Monologue†Theater開幕に捧げて……
Manaさんという魅力的な人物がいます。
この2002年3月19日、Manaさんはご自身のホームページ“Monologue†Theater”を公開なさいました。私は、そのホームページをManaさんと作らせていただきました。“Monologue†Theater”内において、Manaさんから丁寧な謝辞を頂きましたので、私もそうしたお心遣いに感謝する意味で、この文章を書くことにしました。
多分 “Monologue†Theater” を訪れた多くの方は「ちょっと変わったホームページ」だと思われるでしょう。あなたはいかがでしたか? 訪れたところで中に入れてくれませんし。
見た目や演出からもそう思われるかもしれませんが、もっと本質的なところでも、私たちのスタンスが現れています。
例えば、アクセスカウンターがないこと。私はアクセスカウンターが嫌いで、過去に私が制作したホームページには、アクセスカウンターがありません。今回もそうです。
私たちが表現するものを、ホームページを訪問してくださった「あなた」に伝えたいのであって、来訪する大勢のみなさんに語りかけるような姿勢ではいけないと感じているからです。“Monologue†Theater”においても、Manaさんは(そして私も)いっぱい来て下さる「みなさん」ではなく、基本的には「あなた」に語りかけています。
しばしば、ホームページを立ち上げたら、多くの人に見てもらいたいと考えるあまり、ついアクセスカウンターをつけて数を確認し、満足しようと考えてしまいます。
仕事の場合、私の前述のような考えは受け入れられないことも多く、それが受け入れられない場合は、その段階でそのお仕事はお断りするようにしています。また、かっこいいページを作りたいがためにホームページ制作を依頼されるケースもありますが、本来的な意味でホームページは、自分の主張を言い、考えや思想・自分の姿勢などを発表したりする場/もしくはホームページを通じてそうしたことを表現すべきであって、ホームページを作ることが主目的になってはいけないと思っています。
従って、私はホームページデザイナという仕事は、本来あり得ないものだと思っています。言いたいことがなければ、別にホームページなどいらないでしょう? 見た目がかっこよくても意味がないのです。ですから私は、基本的に「ホームページを作って下さい」という依頼はすべてお断りしています。“Monologue†Theater”は、スタートからして通常のホームページの取り組みと異なっていたはずです。よくあるケースのように、「ああして、こうして」という依頼主からの注文を、デザイナがせっせと実現したような次元ではありません。
Manaさんも私も、この“Monologue†Theater”を通じて表現することがあったのです。“Monologue†Theater”は、いわゆる情報発信ページなどとはスタンスを異にする、いわば独自のプロジェクトです。文字以外の部分でもいろいろな事を語っています。見て聞いて感じて、意味を考えて楽しんで下さい。Manaさんとの制作ミーティングは、本当に楽しいものでした。Manaさんも私もブレーキを踏む性格ではなかったのです。そして、視覚に入るアイテムすべての意味を考え、哲学的ともいえる側面も考慮しました。また、二人ともこだわる性格ではありませんでした。そぐわないアイディアは惜しげもなく捨てることが出来ました(これはなかなか難しいことで、これが出来る方はほとんどいません)。
Manaさんは頭の回転が速く、深いところまで考える割には、決定まではそんなに時間はかかりませんでした。だって、このサイトを作った時間て、2週間そこそこですよ。3月19日は目前でしたが、私はひとつのことに悩んでいました。このアイディアをどう実現すべきか、と言うことです。Flashをインストールしてもらわなければいけない方の存在も考えて、一人でずいぶん悩みましたが、最終的にはこのアイディアを実現するにはFlashを使うしかないだろうという結論に、自分の中ではなりました。
「ホームページの作り方。PlugInを使うな。JavaScriptを使うな。音をならすな。すべてのブラウザで見れなければ……」こうしたことに縛られて、自由度が低くなって、苦痛の中でAnimatedGifで構成したホームページを作っても、今回の作品意図からははずれてしまうと考えたからです。ホームページは公開する本人が本来自由に作ってよかったはずです。ましてや、今回はManaさん個人のホームページです。Manaさんが考えていることを表現できなければ意味がないのです。そうして、Flashで制作することを前提に、実際の作業に入りました。
もっとも私はFlashのプログラミングから勉強する必要がありました。使ったことはありましたが、そんなによく知っていなかったのです。
私は Black Metal 好きと言うこともあって、アイディアがどちらかと言えば悪魔っぽい方向に偏りがちでしたが、急遽吸血鬼の歴史や思想背景などを勉強しなおし、その上でManaさんの持つビジョンを理解しようとしました。
また、コウモリやネズミのアニメーションを描くために、図鑑やビデオ、骨格標本などで骨の構造や動きのメカニズムを大急ぎで研究しました。そして、ファイル容量をなるべく小さくするために、不自然に見えぬようコマを省いてアニメーションさせました。
私は、動物以外のものを描くことが得意ではありませんでしたので、十字架や西洋の墓・建築物を歴史的背景まで含めて勉強する必要がありました。植物も同様。薔薇も写真などは使わず描き起こす必要がありました。結局使わなかった絵もかなりあるのですけれど。
私が思いついたアイディアはすぐにManaさんに伝え、Manaさんも恐ろしい勢いで毎日毎日アイディアを私に伝えてきました。私は全く遠慮をしませんでした。盛り込めそうなアイディアは、後にボツになろうが、積極的に出していくようにしました。Malice Mizer の時には、体制的に話し合いながらアートワークを制作することは殆ど無かったのですが、今回の仕事が始まって、私は Manaさんを全面的に信頼するようになっていましたし、コミュニケーションを深めるほど、どんどんとManaさんを尊敬しながら私の持ち味を出していけたと思います。ファイルサイズは、このホームページの全部をダウンロードしたところで、フロッピーディスク1枚程度の容量しかありませんが、それでも遅い回線でつないだ場合、待ち時間が気になります。
そこで、待ち時間ゲームの基本案をManaさんに話したところ、さらにManaさんはこの待ちゲームが中の世界と整合性を保つようにとアイディアを磨き上げ、最終的にディスカッションして結局今のような形になりました。
もしあなたが“Monologue†Theater”の読み込みが長くて苦痛を感じられたら、本当に申し訳なく思います。なるべく小さくなるように細かく圧縮設定をしていったつもりです。しかし、今回の表現内容を実現するには、今のところこれしかなかったと思うのです。
現在もFlashを勉強し続けていますので、もし効率的に読み込む方法が実現できたら、なるべくお待ちいただくことなく読み込みが出来るように改良します。二人で気を配った点の一つに、難易度の問題がありました。あんまり難しくして、扉の前に入場できなかった方の屍(!)を増やしてしまってもいけないし、簡単すぎてあっさり入れてもいけない。今でもこの点は気になっています。ですから、もし【観客】のところでメッセージを残してくださるときには、何をどうクリックして、どうな風に入ってきてくださったのかを語ってくださると参考になります。気が向いたら、よろしくお願いいたします。
“Monologue†Theater”はあなたがアクションを起こさなければ、なにも起こりません。今後もそうした方向性で更新することになるでしょう。新しくクリックできるところを発見したら、迷わずクリックして下さい。クリックの仕方にも工夫がいるかもしれません(Bat To The Hell は、連打するクセのある人には辛いでしょう?)。そして、そこに提示されている意味も考えてみてください。
Manaさんが新しく始められる、"Moi dix Mois" をあなたが鑑賞するとき、そういった姿勢で味わっていただくことを、私は望んでいます。受け身にならないでください。積極的に楽しんでください。
今回のプロジェクトを通じて私は、Manaさんがひとつひとつの意味を考えて制作される方だと言うことを確認しています。ですから、あなたも安心してManaさんの作品を追究していって下さい。それは無意味なことではありません。
ただ「素敵だ!」という以上のものがそこにはあるはずです。
21-mar-2002, Taqueya
P.S. 過去に私は Malice Mizer のアートワークをいくつかやらせていただいています。クレジットなどで確認してみてくださいね。
また、リリース直前に起用が決まった関係でクレジットには載っていませんが、CD "Beast Of Blood" のポスターやジャケもやらせていただきました。
加えて3.30発売のDVDには、Manaさんが新たに作られた音とともに、私のアニメがちょこっと入っています。
私のメインフィールドは基本的にマイナー世界なので、あなたが私の作品に触れる機会は少ないと思いますが、時間を見つけては作品を発表していこうと思います。もし私にも興味を持っていただけるようでしたら、「震えないで」待っていてください(ショートアニメーションなどの構想があります。アニメーションと言っても実験的なもので、所謂アニメではありませんが)。