Hawaii Playshop 2004

アーサー、奥さんのダイアナ、ハワイ在住でベテランDCFのマイケル・ウォールがメンターたちをお出迎え。

 まん中の豆粒のような人物、じつはアーサーです。

  アーサー と佐々木

 

  

  

  

  

  

 

 今年私は、Intensive Level 2と呼ばれるアドバンスコースを受講しました。アドバンスコース受講者は「メンター」と呼ばれ、Level1の一般 参加者より3日早く到着して研修をはじめます。メンターの役割・学ぶ内容は

1 より深いファシリテーション技術を学ぶ

2 Level 1参加者の小グループ(4〜5人)のリーダーとなる

3 その小グループのお世話をする際のノウハウを学ぶ

4 小グループや他の参加者に対してお手本を示す

5 小グループの個人の様子・進ちょく状況をメンターミーティングで報告し、全体の流れの情報交換を行う

6 プログラム全体の詳細がそれでいいか検討し、変更が必要なら話し合う

等々です。というと聞こえはいいのですが、じつはあらゆるところで率先して仕事を引き受け、プログラムの前後には何十キロもある丸太を100本ほど運んで会場の設営をし(土方?)、楽器を運び、ありとあらゆるキャンプの雑用を行ない、私はKahunaというメンターと共に「オルター」と呼ばれる祭壇の世話係を担当し、実質上は奴隷のように(アーサー、ごめん!)働かされます。ファシリテーターの第一の基本は「社会・コミュニティーに奉仕する」ことですので、それも仕方ないか・・・というより、その中からほんとうに深い学びがあるのも事実です。

 メンタープログラムでは、効率がよくネガティブでない話し方やフィードバックの方法も徹底的に仕込まれます。唯一のノン・ネイティブスピーカーである私が、ネイティブスピーカーと肩を並べてそんなことができるのか・・・? しかも、リーダーシップをとるのは苦手だし、そうそうたるベテランファシリテーターたちに混ざって新米の私がメンターをつとめることができるだろうか? プレイショップ直前になって、ハワイでのアーサーの右腕兼「メンターのメンター」であるJim Boneauにその不安を訴えたところ、あたたかい励ましを受けてなんとか逃げ出さずにハワイに到着しました。

 ご存知のように日本からハワイに着く飛行機はすべて朝到着、出発前も忙しかったため、ほとんど気絶状態でメンタープログラムが開始しました。というより、10日間のプレイショップが終わるまで、気絶状態はますます加速していき、なんだかわからないまま終わったというのが正直なところです。実際に、何がおこったかはほとんど記憶にありません。それはプレイショップ中すでに自分でも予測していたため、「頭では覚えていなくても、スピリットは覚えているからだいじょうぶ」と自分に言い聞かせながら10日間を過ごしました。

 不安なままLevel 1の人たちがチャーターしたスクールバス2台に乗って到着、それからの7日間を楽しみにしている人、新たな世界に不安げな人とそれぞれですが、ドラムを叩いてそのお出迎えするのがメンターの最初の仕事です。はじめは色も白くばらばらな個人の集団だったのが、会場となるキャンプ・モクレイアではプログラムとドラミングで深く結ばれ、日焼けして表情も生き生きとなり、One Big Familyの一員となっていくところが、ハワイのプレイショップの醍醐味。自分自身が去年おそるおそるそこに足を踏み入れたときのことを思い出します。

 アーサーからはあらかじめ、「プログラム半ばになると、Level1参加者も、メンターも、かならず心理的な壁につきあたる人が出てくる。君たちの中にもいるから、おたがいに支えあってほしい」という話がありました。そしてある日、私にも「それ」がやってきました。自分の勉強、グループの世話、合間に10月のプレイショップとアーサーの本の翻訳の打ち合わせ、雑誌社数社から頼まれた写 真の撮影、ときどき通訳と、とてもあわただしい中、こっそり一人で海にいき、「あーあ、このままではこのフラストレーションを人にぶつけちゃってまずいな」と考えて、「限界」がきたことを自分で認めました。すると自然に海に向かって「うがあ〜〜〜〜っっ! うお〜〜〜〜〜っっ!!!」と雄叫びが沸き起こってきました。そこにメンターのSteve Hillが通りかかりました。Steveとは去年仲良くなり、私は彼のイギリス人特有のウィットが大好きで、とてもやさしく繊細な人なので、この一年間しょっちゅうメールでやりとりしていた間柄です。Steveもやや壁にぶちあたっていたらしく、「近くにいっていい? それとも一人でいたいの?」と言うので、「あなたなら大丈夫。いっしょに雄叫びする?」と言って、しばらく二人で海に向かって吠えまくり、すっきり♪してプログラムに戻りました。

 プログラムは朝9:00〜夜9:00くらいまで講義と演習の繰り返し、その後はたき火を囲んで(「囲んで」というのは正しくないですね。火が真ん中だとファシリテーターの立つ場所がなくなるので、サークルの一部がたき火、という形です。ですからたき火があまり大きいと困るのですが、私たちの到着時にはなぜか巨大なたき火があり、Kahunaが半日がかりの土方作業でみごとに小さいたき火に変身させてくれました。)Late Night Drummingという、ファシリテーターなしのドラミングが朝まで続けられます。夜がふけると、眠ったままたたいている人(私もその一人)や、気絶して地面 に倒れている人も。宿泊・食事をするところとその場所は数百メートル離れているため、毎日何度も楽器や荷物を持って炎天下移動するだけでもだんだん足が重くなってきます。日陰を選んで座っているとはいえ、一日中太陽と海風にさらされているのも体力を消耗します。それなのに、朝までたたきつづけた挙げ句、早朝にはヨガをする人、オーバートーンの練習(ドラムだけでなく、唄やダンスも大事な要素です)、目の前にあるウミガメの巣でスノーケルをする人、と、「何者なんだ、この人たちはっ???」とでも言いたくなります。じつはプレイショプの前後もリピーターは共にワイキキで数日を過ごすのですが、その際のホテル選びは「近くでドラムが叩けること」。さらに、スキがあればインターナショナル・マーケットでストリート・パフォーマンスはやるわ、サンセットクルーズやレストランをのっとってドラムサークルはやるわ、レストランやバーで生演奏があればひそかに持っていた小物類で乱入はするわ、えらいこっちゃになっているのです。(ベテラン揃いですから、すべて一般 の方々にはご迷惑のない程度にやっています)ドラムとドラムサークルとそこから湧き出るよろこびを分かち合うことががよっぽど好きなんだな、と思います。

 プログラムでは、単純なことからだんだん複雑なファシリテーション技術を学ぶという順序になっており、「ジャンプタイム」と呼ばれる、やりたい人がサークルに入ってファシリテーションする機会も設けられます。皆さんどんどんうまくなっていき、個性的なアイディアを披露し、自信も身につけます。ただ、こうした個々のファシリテーション(というより、個々の「介入」)は枝葉末節に過ぎないので、そればかりをこれほどテンコ盛りで見てしまうと、「なぜファシリテートするのか」「いつファシリテートするのか」という基本がわからなくなるという危険性があります。それについてアーサーはきちんと説明してくれるのですが、中には表面 的に捉える人もなくはないと思います。また、ファシリテーションは「サークル=参加者に奉仕する」行為であり、ファシリテーターのパフォーマンスではありません。このあたりを勘違いすると、180度ちがう解釈となってしまいます。プログラム内ではファシリテーション(介入)の必要がない場合にも、つねにファシリテーションの練習をするので、要注意なのです。

 その意味で、今年はじめて導入された、毎日メンター二人が行なう「ドラムサークル・デモ」はたいへん意義あることだと思います。「子ども」「コミュニティー」「女性」「チームビルディング」と、45分と短縮版となりますが、対象者別 の日替わりで実際のドラムサークル全体を見ることができます。もちろんそれぞれはたんにやり方の一例にしかすぎないのですが、全体の流れと、GOOW(Get Out Of their Way「ゴウ」=邪魔をしない。ファシリテーションの必要がない時にはサークルに入っていかない。)の重要性を実際に目の当たりにできるのです。私自身、以前にもこれをやってくれていたら、とても助かったのになあと思いました。もちろん、その参加者は実際に子どもやコミュニティーの人たちではなく私たち受講者なので、参加者は「それらしく」ふるまって楽しみます。子どもサークルでは、大のおっさんたちが「先生、ダグくんがおもちゃをとるんです!」「先生たちは結婚してるんですか?(ファシリテーターがたまたま男女二人だった)」「トイレ行っていいですか?」「もれちゃうよお〜〜〜」と大はしゃぎ。コミュニティー・サークルのデモでは、私とメンターのCindyが「乱入してきたアヤシいダンサー」、同じくAuggie Doggieが「よっぱらいのおっさん」を演じ、ファシリテーターがそれにどのように対処するかも見ていただけました。

  私が担当したのは「女性のドラムサークル」。ベテランのCindyとファシリテートさせてもらいました。 興味深かったのは、本番のドラムサークルよりもそれまでのプロセスです。激忙スケジュールの合間をみては、二人で 何を、どのような順番でやるか、誰が何を担当するか、その一つ一つの意味合いはなにか、それぞれのセクションをどうつなげ、どう説明していくか、等々さまざまなことを話し合いました。二人の人間がいればひとつのことに対しても違った考え・解釈・アイディアが出るのはもちろん、そこからさらに新しいものが生まれてきます。 45分という短いサークルだったため、たくさん出たアイディアをかなり割愛しなければならないのが残念でしたが、本番になってもメインで担当していない時間帯のひとりが全体を観察し、タイムキープを行い、必要があればメインファシリテーターの力の及ばないところを補い、コ・ファシリテートのほんとうにいい点を体験する、またとない機会となりました。

 今年新しい動きとしてはもうひとつ、DCFG(Drum Circle Facilitatorユs Guild)が公認ファシリテーター(会員には誰でもなれますが)の認定クライテリアを作り、上記デモがその認定対象のひとつとして選ばれたことがあります。今年メンターがデモを行っている間、他のメンター2人が評価表に記入し、さらに1人がスクライブ(客観的・具体的記録)を行いました。その評価表とスクライブをそれぞれの担当者がDCFGに提出して認可されれば、DCFGとアーサーのVillage Music Circles公認ファシリテーターとなります。

 私のグループには、私よりうんとファシリテートの年季の入っている二人と、一匹狼でなかなか集団行動をしてくれない人が二人と、ベテラン中のベテランですが今年はメンターも行なわず陰の仕事をすべて引き受けていたShakermanがいました。Shakermanは忙しくてなかなかグループミーティング等には参加できなかったのですが、英語ネイティブでもないし、体も小さいし、先輩二人組に対してはちょっと僭越だし、アメリカ人の一匹狼二人を仕切るのにも自信がないし・・・始まった時にはどうしようかと思いました。でも初期の時点で、「私だってあなたたちひとりひとりと同じように、自信がないし、ビビってるから、助けてほしい」「プログラムの内容でも、キャンプの生活のことでも、心理的なことでも、なにか問題があったら、私のアドバイスを仰ぐのではなく、シェアしてほしい」と正直に言いました。あとから聞くと、それによってそれぞれが私を信頼してくれたようです。ちょっと力不足なメンターで申し訳なかったのですが、やればできる、と自分の中の自信につながりました。最後のグループミーティングでは、グループ全員が担当メンターに対してフィードバックする時間があります。よかったことも、改善すべき点も、正直に言ってもらいます。メンターはどんなネガティブなフィードバックに対しても、ただ一言「Thank you」と言うようトレーニングされています。そうしないと、言い訳をしてしまい、自分を守ろうとして,成長することができないからです。私のグループにいたKirstinという音楽療法士の女の子とは、プログラムの間のおしゃべりの中で「じつは私、そうは見えないけどシャイだし、人を強引に仕切るのは苦手なの。だからメンターなんか向いてないの」「私も目立つのはあんまり好きじゃないな」という話をしていたのですが、彼女の私に対するフィードバックは、「カオルは、ほんとうはメンターの仕事が自分には苦手だと思っている分野だったはずだけど、今回のカオルを見て、どの時点かで‘はじめる’ことの大切さを学んだ」と言ってくれて、涙が出るほどうれしかったです。

 ハワイ・プレイショップの最後のメインイベントは、地元の人を招いたオープン・コミュニティー・ドラムサークルです。今年の受講者の中から、私たちを代表する人に値すると思われる8〜9人を全員で選び、3時間のドラムサークルを行ないます。私は去年、その一人に選んでもらいました。去年まではそのファシリテーターとしてメンターも立候補していたので半数程度がメンターから選ばれてしまっていましたが、なるべくさまざまな人に機会を提供するために今年からメンターは立候補を辞退することになりました。ファシリテーターには三原典子さん、横田ともこさんの二人の日本人が選ばれ、みごとなファシリテーションを行なわれました。プレイショップ中のサークル(参加者)は、「世界一ファシリテートしやすい集団」であり、これは実際の参加者とはまったく異なります。そのため、メンターたちの話し合いで3時間の間のファシリテーターの順序を、それぞれのファシリテーターの特徴を考慮に入れながら決めます。これは冒頭、中間、最後の盛り上がりという時間軸に合わせたものと、かならずやってくる「ダンサー集団」「ディジュリドゥーグループ」(今年はなぜディジュリドゥー軍団は来ず、かわりにすごいカポエラの人が来ました)など、「対処」が必要となる参加者の担当ファシリテーターも決めました。全体としては、申し分のないコミュニティー・ドラムサークルとなりました。皆さんおみごと♪

 ・・・とここまで書いて、具体的なドラムサークルの話はあんまりないことに気がつきました。ただ、ファシリテーターにとっていちばん大切なのは、どんな派手で奇抜な個々のファシリテーションを行なえるかではなく、その根底にあるもっと大きなものである、そしてファシリテーターはどんどん人間的成長を遂げていかなければならない、というのが、アーサーをはじめすべてのアーサリアン・スタイルのファシリテーターたちの信条です。 これを読んで、来年ハワイに行きたくなった人、行きたくなくなった人(?) とさまざまでしょう。英語は話せるにこしたことはありませんが、話せなくても大丈夫です。来年はハワイの10周年、トップファシリテーターたちが一堂に会する、またとない機会となると思います。ぜひご参加ください♪

2004年8月 佐々木薫

追記:VMCファシリテーター・プレイショップでは、アーサーの著書「Drum Circle Spirit」を読むことが参加前の宿題となっています。2004年10月、その日本語版『ドラムサークル・スピリット』(ATN刊)が出版されましたので、プレイショップ参加を予定されている皆様はそれをよくお読み下さい。アーサリアン・ファシリテーションには理解しづらい微妙な概念がたくさん含まれています。ハワイでは、プレイショップ中のアーサー他の講議内容を理解できるよう、英語を勉強する、または通 訳に同行してもらう、等をお薦めします♪ せっかくお金と時間を使うのですから、より吸収できた方がいいですよね! (2005年1月)

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