ガンダム戦記 未掲載原稿集



 B5版336ページという巨大な本になってしまった『ガンダム戦記』ですが、それでもスペースや時間的制約等の事情で入り切らなくなってしまった記事がいくつもあります。このコーナーでは、そうして未掲載原稿を順次アップロードしていく予定です。


[コラム]赤い彗星の秘密(その2)


 数ある“赤い彗星”伝説の中でも、特に有名なのが「通常のザクの3倍の速度で移動できる」というものである。シャアの専用機だったMS-06Sのスラスター推力は、強化されていると言ってもMS-06Fの3割増し程度で、実際に3倍の速度を出すのは不可能である。では、何故このような伝説が生まれたのだろうか?
 戦闘時の艦船やMSは、真っ直ぐ進むのではなく、絶えず回避運動を取りながら航行している。そのため、敵に接近しようとするMSは、目標が方向転換をするたびに、それに合わせて軌道修正を行い続けねばならない。この“合わせ”がうまく行かなければ、たとえ相手が鈍重な大型艦だとしても、追いつくのにひどく時間がかかってしまう。逆に、敵艦の未来位置を正確に予測することができれば、最短距離で接近できるだけでなく、方向転換による減速や推進剤のロスを最小限に押さえることができる。
 シャアは、この“合わせ”の達人だったのである。
 普通のパイロットが乗ったザクなら接敵に9分かかると予想される位置にいても、シャアはたったの3分でその距離を詰めてしまう。接近される方から見れば、3倍の速度で接近してくるようにしか思えない動きであろう。 TV版のLDかビデオをお持ちの方は、第2話でシャアザクが初登場するシーンを見返して頂きたい。ホワイトベースの戦術ディスプレイには、2つの光点がほぼ同じ速度で接近してきているはずである。つまり、スレンダーのような普通のパイロットでも、シャアのような優秀な指揮官に追随して軌道修正を行っていれば、通常の3倍の早さで敵に肉薄することが可能なのだ。
 シャアは“赤い彗星”の他に“先読みのシャア”とも呼ばれる。この「3倍の速度」の伝説は、彼の卓越した戦術眼と操縦テクニック、そしてニュータイプとしての才能を示す好例と言える。



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