視覚障害のある人と共に
楽しく鑑賞するには

 視覚障害のある人と、一緒に美術館へ行って作品をみる。言葉にするとこれはとても簡単なことだと思われるかも知れません。しかし、このなかには、おそらくふだん通りに生活しているだけではなかなか気が付くことが出来ないたくさんの事柄が含まれていると思います。

 MARでは、視覚障害のある人とともに芸術を楽しく鑑賞するためには、どのようなことに気を付ければいいのかなど、そのスキルについて、また新たな鑑賞の可能性についても探っていきたいと考えています。

 スキルというものに目を向けるのは、「考え方や感じ方のヒントとして」ということと、基本的なマナーみたいなものです。スキルについては、これからどんどんと深めて発展させていきたいと考えていますので、みなさんの積極的なご意見などもお待ちしています。

 参考として、第1章はエイブル・アート・ジャパンが「このアートで元気になる」展のために作成したガイドレポートを、第2章はMARの発起人の一人である白鳥建二さんが作成したものを引用しました。

 

目次

第1章 見えない人とみるために〜基礎編〜

忘れてはならないこと

対応で気をつけるべきこと

盲導犬について

第2章 見えない人とみるために〜実践編〜

見えない人

方法

第3章 いっしょに歩く〜ガイドのヒント〜

一緒に行動するためのヒント

コミュニケーションの仕方

 

第1章 見えない人とみるために〜基礎編〜

1忘れてはならないこと

●あなたが接しているのは、障害のある「ひと」で、車椅子や病気や障害ではないこと。
 
●美術館を訪れる障害者は車椅子を使ったり、目が見えなかったり、耳が聞こえなかったりするだけで、他の芸術が 好きな健常の来館者たちと何ら変わりはありません。

2対応で気をつけるべきこと

●話しかける時、一緒にいる介護者にではなく、直接障害者本人に話しかけること。
 
●何かお手伝いする前に助けが必要かどうかを直接本人にたしかめること。
 
●美術館によっては障害者対応への基礎準備が出来ているところもあります。そうした活用も含め事前に把握しておくとよいでしょう。(例えば導線、身障者用トイレ、展示の説明、案内、がどこに置かれているか など)
 
●単純、かつ明確に説明すること。かと言って無理に簡潔におさめる必要もありません。視覚障害者にとってイメージを形づくるという事は大変な想像力が必要になります。もっとも効果的な言い方をすれば、それは比較的、単純な明確な言葉になるだろう、という事です。
 
●必要に応じて美術館のマップ等を活用する。これからみる展覧会がどの程度の規模のものなのかおおよその時間配分を決定しておくとよいでしょう。
 
●視覚障害者には盲導犬を同行させる権利があるという事を認識しておくこと。
 
●落ち着いて間違いをおそれないこと。障害者の人達に対して、大切な友達のひとりとして対応していれば、どんな配慮が必要かは、障害のあるその人自身が示してくれるでしょう。

3盲導犬について

視覚障害者には盲導犬を同行させる権利があること。
また、他の障害のある人達もガイド・ドッグを連れる権利があることを認識しておくこと。
 

 ◇盲導犬とは

 盲導犬は視覚障害者の眼の役割をして障害を避け、盲導犬は主人を安全にスピーディに目的地へ誘導します。道路交通法には「眼の見えない人は白い杖か盲導犬と一緒に歩くこと」が定められ、ハーネスという特殊な胴輪を着けて仕事をします。よい素質の犬をしっかりしつけて、手入れも十分にしてありますので、吠えたり、咬んだりする心配はありません。排泄は使用者自身がきちんと始末します。盲導犬はペットではなく見えない人のパートナーです。

 

 ◇盲導犬を見かけたら

●ハーネスを着けているときは仕事中ですから、静かに見守ってください。
 
●盲導犬にも、ハーネスにも絶対に触らないでください。
 
●案内の必要な時には、盲導犬使用者の右側に立ち、あなたの左腕を持たせて歩くか、後ろに立って言葉で方向を指示してください。
 
●食べ物は絶対に与えないでください。
 
●咬んだりすることは絶対にありませんから、犬嫌いの方も怖がらないでください。

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第2章 見えない人とみるために〜実践編〜

1見えない人

はじめに

見えない人の色の概念

絵の説明をするには

充実するために

お互い丸く行くために

2方法

いっしょに歩く

作品のピックアップ

作品の前に来たら

何を話したらいいか

作品に触れられるということ

時間と見るペース

1見えない人

 ◇はじめに
 
 見えない人は、聴覚や触覚が特別発達しているわけではありません。経験的に、使うコツを知っているだけです。また、ほとんどの見えない人は、何らかの視覚的記憶がありますので、頭の中では視覚的イメージを作る力があります。つまり、見える人と同じようなことをしているのです。見えない人に対して、「見えなくなったのはいつ頃ですか?」と聞くことは、それほど失礼なことではありません。かえって、積極的に聞いた方が会話を進めやすいかもしれません。失明についてナーヴァスになっている方もいますが、少数派であることは確かです。「もしもの時には、心から謝る」という勇気だけは準備しましょう。「視覚障害者」という固定概念を捨てて、相手のことを知るために(良いコミュニケーションをするために)、あなたからも挑戦してください。

 

 ◇見えない人の色の概念 
 
 全く見えない人でも、ほとんどの人が色の記憶を持っています。生まれつき見えない人は、具体的な物や色のイメージで記憶しています。例えば、「赤」だったら、「リンゴ」・「とまと」・「夕焼け」・「赤ら顔」・「目を赤くして」・「情熱の赤」・「赤っ恥」などなど、連想ゲームのようになっています。これらの言葉は、色の説明をするときに使えます。「何々みたいな赤」など。

 

 ◇絵の説明をするということ
 
 絵の説明をするときに、「どの方法が最適か」ということを、最初から決めてしまわずに、いろいろ試す中でお互いにリラックスできる形を作ってください。見えない人にとって、平面の作品はなじみのない物かもしれません。しかし、積極的に話しかけたとき、見えない人はきっと新たな楽しみを知ることになると思います。ただ、視覚的イメージを創造的に膨らますことは、集中力のいることなので見えない人が疲れることも事実です。

 

 ◇満足度(充実度)
 
●何をおいても最も重要なのは、見える人と見えない人が、作品を話のネタにしてコミュニケーションをするということです。コミュニケーションがうまくいけば、作品に触れられなくても見えない人は満足します。コミュニケーションがうまくいかないと、「何も収穫なし。」という可能性もあります。見えない人のことを知り、作品についていろんな話をしてください。
 
●見える人の気持ちが充実していることも、非常に大切です。作品をみることに集中していなかったりすると、見えない人にも伝わってしまいます。相手に楽しんでもらうには、自分が楽しめるようにしましょう。自分の好きな作品や気になったことを、紹介するような気持ちで話をすると良いと思います。

 

 ◇お互い丸く行くために

 「がんばりすぎない」・「無理をしない」・「一方的にならない」 

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2方法
 
 ◇いっしょに歩く
 
 見えない方が来られたら、マン・ツー・マンで対応することを基本とします。ガイドの方法などは、ご本人と相談して決めてください。
例えば、「案内スタッフの中野と申します。手引きはどのようにすればよいですか?」
人によって歩きやすいフォームが違いますので、このように訊ねるのが最適です。押したり引っ張ったり、思いこみで接すると、不快感や警戒心をいだかせてしまいます。緊張をやわらげるように接してください。
 
これは展覧会の会場スタッフ用に作成したものですので、「案内スタッフ」という立場で少し形式的ですが、ふだん展覧会などに一緒に行かれる場合は、マン・ツー・マンではなくグループでもおもしろいでしょう。ただ、初めての人には自己紹介をし、手引きの仕方を訊ねることは必要です。ガイドする人される人という関係ではなく、一緒に楽しむことを心がけてください。グループは、見える人があまり多すぎてもイメージがバラバラになってしまうので、見えない人1名に対して見える人3名くらいがベストでしょう。

 

 作品のピックアップ
  
 「ふれられるかどうか」には関係なく、作品をみていってください。また、作品数が多いときには、適当にピックアップして案内していってください。ピックアップの方法は、「特徴的なもの」・「印象的なもの」・「自分の好きな(あるいは、感動した)もの」・「案内しやすいもの」など、どんな基準でもOKです。自分の力量に合わせて、見えない人と相談しながら会場内を進んでください。

 

 ◇作品の前に来たら
 
●平面の作品が多い場合には、言葉による案内が主になります。「作品を目の前にして、二人で語り合う」というように考えてください。見える人は、見ているものや感じたこと・連想したことなどを次々言葉にしていってください。見えない人は、言葉からイメージを膨らませて、作品を想像していきます。
 
●見えない人が、作品に関心を示してくれたら大成功です。作品の印象などから、会話を始めるのは経験的に有効です。また、「何が描かれているか」ということから始めるのも有効です。
 
●大切なのは、ガイドする人される人という一方通行な関係にならないことです。

 

 ◇何を話したらいいか
 
●会話の話題は、作品の印象・描かれているもの・構図・色彩など、何でもけっこうです。ただしこの時、全体から部分へというように、話を進めてください。見えない人がイメージを作りやすくするために、話題を転々としないよう注意してください。その他、作品から連想したことや作品の背景・作者のこと、技法や美術史的なことなどと、際限なく話題はあります。これらの話題の1、2個を使ってもいいですし、会話がどんどん進んでもかまいません。また、場合によっては他の人が会話に参加しても良いかもしれません。重要なことは、「会話をしている」ということです。お互いの関心度や会話のリズムによって、話題を選んでください。それから、見える人のセンスや知識を自由に使って、滑らかに話せるように心がけてください。
 
●見える人が、考え込んで言葉に詰まってしまうと、見えない人は取り残されてさびしい思いをします。

 

 ◇作品に触れられるということ
 
●作品自体に触れてもよいものは、適度に会話をしつつ両手で触れるようにしてください。
 
●「見えない人だったら、触れば全てわかる」というわけではありません。人によって「触るちから」も違いますので、想像力が高まるように会話で盛り上げてください。また、平面の作品においては、そのサイズを知るために作品の縁(あるいは額)をなぞることは、有効なことだと思います。アクリルのケースに入っているものならば、「この中に入っています」といって触れてもらうと、見えない人はみている実感が持ちやすいものです。
 
●気を付けることは、作品を傷つけないように細心の注意を払うことです。指輪や腕時計やブレスレットなど、少しでも作品を傷つけるおそれのあるものは、必ず触る前にはずしましょう。

 

 ◇時間と観るペース
 
●全体の時間は、当然来館者の予定によりますが、2時間程度と考えてください。
 
●時間が長いと疲れますので、みるペースや休憩などは、お互いが話し合って決めてください。

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第3章 いっしょに歩く〜ガイドのヒント〜

1一緒に行動するためのヒント

 いつも鑑賞ツアーに参加している視覚障害者からいただいたご意見をもとに考えてみます。

 歩行を援助する場合、一番理想的なかたちとは、どうしたらスムースにいっしょに歩くことができるか?ということだと思います。そのためには相手の腕を引っ張るのではなく、自分の肘(腕または肩)を相手の手にふれる様にさし出してあげることです。

 その際、重要なのは障害者の方が一体どちらの手に杖を持っているかということ。杖を持つ手と反対の手で自分の肘(腕または肩)にふれてもらった方が動きがスムースになると思います。

 一緒に歩き出した際に、方向を示す時、わかりやすい説明の仕方の一つは時計の針の方向で示すことだと言います。

 まっすぐならば12時の方向。

 右方向ならば3時の方向というように。

 これは、例えばテーブルの上にある物を指示する時にも便利だそうです。

確かに時計は30度きざみになっているので、かなり細かな位置まで正確に思いえがくことができるのかもしれません。「あれ」「これ」「それ」など指示的な言葉の多くは、具体的な事柄を明確に伝えられない「あいまいさ」を含んでいる様です。具体的なイメージを正確に伝えられることで実際の歩行、いっしょに歩く時など、かなりスムースになるのではないでしょうか。もちろん右、左、前、後という大まかな表現でもそれで事が足りれば問題はないと思います。

 歩くということがスムースにできるようになると、歩く行為に集中しすぎるということがなくなり、話もはずむはずです。

 

 

2コミュニケーションの仕方

 見えない人と接する上で、どんな対応をするべきかを決める一番大切なことは・・・何でしょうか?

 それは「常に相手の気持ちを考えながら行動すること」でもなければ、「自分の気持ちを相手にわかりやすく説明していくこと」でもありません。これらは、まったく必要ないとは言えませんが、よく考えてみると、このどちらの考え方も自分が中心になっていることがわかります。

 自分を中心にものごとをすべて考えていくと、相手の気持ちがわかりにくくなります。もちろんこれは見えない人と接する場合に限ったことではありません。人と人の関係においてそうなのであって、これはコミュニケーションと言ったりもします。

 しかし、冒頭の?にもみられる様に特に 見えない人とのコミュニケーションにおいてはなぜか「かまえる様な態度」が用意されているように感じます。どうすればいいのかわからなくなった時に、どうすればいいのか、わかっていなければいけないなどと思ったりしたがるのです。

 そしてこういうのをスキルなどと言ったりする。人と人のことは、やはり人と人の間でなんとか、どうにか、お互いすべきなんだと思います。よくわかってなくていいから、すべてパーフェクトでなくていいですから、だから、自分が世界の中心になりすぎると、一方通行の交通しか作れなくなるような気がします。「わかってる様な気がしている」のは、実はとても暴力的なことなのかもしれません。視覚障害のある人と接する上で、どんな対応をするべきかを決める一番大切なことは・・・<本人に聞く>こと です。

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