MESSAGE FROM HUMAN GEAR
 皆さん音楽のある生活を楽しんでいますか?
 僕達の生活の中で音楽の果たす役割には多くのものがあると思います。日常の生活に潤いを与えたり、気分を向上させたり、 また、心の傷を癒してくれたりするのも、そんな音楽の力のひとつだと思います。僕が音楽の一部を仕事とするようになったのも、 音楽に刺激され、その素晴らしさを何となく感じたことがきっかけでした。 もちろんその頃、「ギターが弾けたらカッコイイ」という初歩的な憧れも十分その理由に含まれていました。 あれは確か中学二年の頃だったと思います。当然レコードを買う様になるわけですが、最初に買ったレコードは、 レターメンという男性ヴォ−カル・グループのものでした。このレコードでは「人の声のハーモニーの美しさ」に驚きましたが、 この時はまだ、このハーモニー(和声)がギターのコード(和音)にあてはまるなんて全く気がついていませんでした。 次のレコードはボブ・ディランの「TIME'S THEY'RE CHANGIN'(時代は変わる)」でした。このレコードは今でもよく聴きますが、 ギター1本と1人の声で何かすごいことを言っているような気がしてはいましたが、意味はわかりませんでした(日本語訳は付いていたのですが、 言葉の内容が理解できなかったという事です)。しかし、その音楽から来るインパクトはかなりの衝撃でした。 「何か大変な事が起こりつつある」という感じがしたのです。でも現実には個人的には何の変化もなく何度も何度も聴き返した事を憶えています。

 高校生になり、まわりにギターを弾く人が集まり出し、自然と友達連中とバンドの真似事を始めました。おそらく世の中には教則本等もあったのでしょうが、 運悪くそれに気が付かずレコードを買っていました。手元にあるのは簡単なコードブックと「ガッツ」という月刊誌が数冊あるだけ。 そんなごくわずかな情報の中からある日偶然にアドリブを自由に弾く事ができるスケールを見つけた時には飛び上がってその「新しい発見」に興奮したものです。 それがブルーノート・スケール、そしてペンタトニック・スケールというものだと知ったのはずいぶん経ってからだと記憶しています。 大学時代は好き勝手にしていましたが、当時は学生運動の末期でもあり、音楽も思想的な部分が多くを占めていた記憶があります。 主義主張のある音楽が氾濫していたように思えてなりません。懐かしいのは、バーズ、ロイ・ハ−パー、ストローブス、エリアコード615、 ボーダーライン、フェントン・ロビンソン、カルビン・リーヴィ、まさに「聴きあさり」の状態です。どうも反主流派が多い様です。 もちろん主流となるものも聞いていましたし、このどちらのパターンにも主義主張があり、かなりの影響を僕は受けていると思います。 この辺が今の僕の「主張する物作り」として具体化しているのかもしれません。この頃初めてGIBSONのES-335TDを買い、それはもう有頂天でした。 多分1973年頃の事だった思います。とにかくB.B.キングと同じような音が勝手に出てくれるのです。でも、あくまでも「同じ様な」音でした。 決して「同じ音」ではなかったのです。

 その後、某楽器メーカーに就職し、6年間働く事になりました、理由は「音楽に関係した仕事がしたい」という単純な考えからです。 当時楽器店にエリック・クラプトンが使用した59年か60年のレスポール・スタンダードが150万円で売られていたのを思い出します。 今では誰が所有しているのでしょうか。次に某楽器店にて広告を担当したり、自社のオリジナル製品の開発の仕事をしていました。 ここでは、広告について少しばかり理解できるようになったつもりではいます。

 ヒューマン・ギヤは設立して17年たちました(2004年現在)。最初はどうなるのかと思いましたが何となくここまできました。 このホームページで見られるものは、全て僕のお気に入りの物だけです。中には、日本での輸入代理店となっているものも多数あります。 しかし、僕は代理店といってもその相手先のものすべてを扱う様な事はしません。僕が試して気に入ったものだけを発売しているのです。 常識的、またビジネス的に考えたらおかしな事ですが、自分が気に入らないものを発売する事は僕にとってとても辛い事です。 その理由は、それらが結果的にユーザーの方のリスクとなってしまうことが多いからです。 もちろん僕が嫌いでもユーザーの方が気に入る場合もある事は理解しています。 しかし、お互いにできるだけリスクを軽減し、良質な物を回り道せずに手にする事がベストであると考えています。 リプレイスメント・パーツは、本体の現状を変える事無く音質が良くするを基本としています。 これは、ヴィンテージ・ギターに使用したとしても容易にオリジナルに戻すことができ、かつストックのバリューを保てる様にとの配慮からです。 この考えは僕の最もベーシックな部分です。ユーザーが所有するバリューを落とすような商品は販売しないという方針は昔から変わりません。

ヒューマン・ギヤには1人のモニターもおりません。多くの友人の意見を参考にして商品を作り上げるのですが、 商品の信頼性を高めるために友達の名前を利用する事もしていません。また、広告は最低限に押さえています。 ある意味で広告はウソとなり得るからです。広告を見る事は楽しい事かもしれませんが、僕は広告を100%信用する事はありません。 単にビジネスとして製品の販売を追求するのならば、友人の名前を利用したり、広告の出稿量を増加し、 投入した資金と最も大切な資本となる時間をできるだけ早く回収する事が基本となります。しかし僕の考えは違います。 販売する物は僕のフェイヴァリッツであり、長期に渡って十分に満足感を得る事ができる物でなければなりません。 この事は、使用する人の経済的なリスクを軽減する事に繋がります。使用した満足感と使用する時間が品物の価格を決定するものだと思います。 製品の開発には長い時間を必要とし、モニター制度を利用するならば、それらのコストも製品に価格となって上乗せされます。 こだわればこだわるほど、コストは上昇します。サウンド・チェックを発売前に行っている会社なら、この部分が大きなコストとなって価格に影響してきます。 企画のみでサウンド・チェックをしない場合は製品の原材料のコストに少しの他のコストを乗せるだけで良いのでしょうが、 僕はサウンド・チェックを何度も行います。しかしコストはほぼゼロといって良いでしょう。

 次にヒューマン・ギアのもうひとつの仕事である「レコーディング・レンタル」の話をしてみます。 レコーディング・レンタルとは、簡単にいえばレコーディング時にアンプをレンタルする事です。 もちろんトーンを決めたり、アンプを曲に合わせたりする事も附随してきますが、基本的にはレンタルが主となります。 この仕事が始まったのは13年くらい前です。友達のアレンジャーが僕のアンプ(確かFENDER 62年のプロ・アンプだったと思います)を借りにきました。 「イイよ」といって貸したのですが返却時にここに「請求書を送って」と言ってきたのです。 僕は何の事かさっぱりわからず「お金をもらえるの?」と聞き返した記憶があります。ちょうどヴィンテージ・アンプに興味を持ち出した頃の事です。 その後アメリカに行った時、友人のショップにTweed Bassmanが2台あり、これが弾いてみると、実に素晴らしい音がしました。 これが僕の最も好きなアンプであるTweed Bassmanとの出合いです。 この頃ケン・フィシャー、ジェフ・ボーバー、シーザー・ディアスと知り合い、彼等の作るヴィンテージ・アンプをモチーフとした製品にも興味を持ち、 カスタムで作ってもらった物もあります。で、2台のBassmanを早速スタジオに持ち込み、レコーディングを開始した時にプレイヤー、 エンジニアと供にとても驚いた事を記憶しています。これをきっかけに多くの極上の音質を求め、アンプを所有し、 他に例のないヴィンテージ・アンプ・レンタルの仕事が始まり、利益を生むようになりました。 今では50台以上のアンプと20本位の名器と言われるギターを所有するようになりました。ここでも誰がどのレコーディングで使ったとかは記録してありません。 それは次に借りる人には関係がないからです。誰が使ったとかは信頼性と音質に関係がないのです。これはモニター制度を取り入れていない事と同じ理由です。 このレンタルで確かに金銭の利益はあります。しかし僕にとっていちばん大きな利益は違うところにあります。もうお解りでしょう。 大きな利益とは新しい製品が素晴らしい環境で、優れたプレイヤーによって、極上なアンプによってサウンド・チェックされると言う事です。 そして結果として僕の製品を使う人の経済的なリスクを軽減する事ができると言う事です。何度も買い替えると言う事は結果的に大きな経済的なリスクとなります。 できるだけユーザーのリスクが無い様にしょうと考えるのが僕の基本姿勢です。Human Gearは多くの優秀な友人の力を借りていますが、 僕1人でその全てをコントロールしています。そのため一般の方にはドアをオープンにできない状態です。その上、製品は常に品切れを起こしています。 これだけでも企業としたら十分失格です。ですが、おそらくこの様な状態でこれからもずっと進んでいくのでしょう。 会社の形を整える事に興味を持ち出したらわかりませんが、いつもその前に「製品の開発と向上」と言う大きな命題が横たわっているのです。

 長い「ヒューマン・ギアの生い立ち」らしきものを最後まで読んでいただいてありがとうございます。 相手の姿が見えないサイバー・スペースの中で少しでも顔が見える様にここに掲載みましたが、どうでしょうか?

 あなたが最良な音楽生活を送れますように。

Human Gear
八木 浩
8/18/2004(改訂)