
伊藤 洋一
《 in retrospect 》
97年の為替相場予想をするに当たって、「去年は96年をどうみていたか」をチェックしてみました。以前から私の書いたものをお読みの方には配布しているので保存してある方は見てもらえばよいのですが、以下のような予想でした。
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日本の経常収支黒字の減少傾向、資産市場の回復による日本からの資本流出、アジアの政治的不安定などを背景に、時おりの円高局面を織り込みながらも、基調としては円安の年になると予想したい。
年間予想レンジ 年末予想
ドル・円 97.00円〜122.00円 112円
ドル・マルク 1.3300〜1.7500マルク 1.6000
マルク・円 68.00〜77.00 70.00
円安を予想する理由は以下の通りである。
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95年末の為替相場は、ドル・円が103円前後、ドル・マルク1.45マルク前後でした。(1)の経常収支黒字の大幅減少は当たっていた。日本の貿易収支の黒字は10月まで減り続けた。(2)の資本の流出を見たところはまずは間違ってはいなかったが、「資産市場の回復」(株価の戻り)を背景として見たところは間違い。(3)の「アジアの政治不安」は、くすぶったし、台湾海峡の不安定はあったものの、それほど相場を左右する要因だったわけではない。
《 my forecast for 97 》
そこで97年予想です。11月以降に出張に行った先では、ズバリ97年の年末のドル・円相場は「117円」と予想してきました。それを含めてレンジと、ドル・マルク、マルク・円の為替相場を予想すると以下の通りです。
97年間予想レンジ 97年末予想
ドル・円 98.50円〜122.00円 117円
ドル・マルク 1.4500〜1.8500マルク 1.75000
マルク・円 65.00〜75.00 67.00
基調としてのドル高を見ています。むろん「円高」の局地戦はありそうですが、理由は以下の通りです。
――などが理由。ドルの高値は、120円を上回ったところを見ている。100円を割る円高はあってもごく短期間で終わるだろう
《 some leeway for argument 》
ここでまず議論になるのは、11月には対前年同月比で一年半以上ぶりに増加に転じた日本の貿易収支黒字の今後の動向だろう。同月は、黒字が6752億円と95年11月の6736億円を0.2%ながら上回った。これを受けて、日本の黒字減少傾向は止まったとする向きもある。確かに今後の日本の黒字減少ペースは、過去1年半ほどの速いものではないだろう。
しかし、重要なのは11月も輸入の対前年同月比伸び率は12.4%と輸出の伸び10.1%を上回っている点だ。円安がかなり進行したこの時点でも輸入が依然として高いペースで伸びていることは、日本経済の輸入体質がかなり定着したことを示している。円安で競争力を取り戻した国内製品も多いが、一方で海外には生産コストとのからみでまだまだ割安な商品が多い。なによりも消費者が「価格の上昇」というものを容認しなくなった。輸入品も円安を理由に安易な値上げは出来ない。ということは、円安だからと言って輸入品が日本の市場から閉め出されることはなく、今後も重要な地位を占めることを示している。
輸出は、確かに勢いを取り戻してきた。しかし、産業構造の変化や企業の世界的な最適生産方針の進展、海外への工場進出の影響もあって、かつてのような集中豪雨的な輸出の増加はないだろう。自動車の輸出も、今年末の増加傾向が続くとは予想できない。
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97年により重要になってくるのは資本動向だろう。96年は、資本の動きが依然として鈍かった。日本の金利が大幅に下がったにもかかわらず資金が予想されたほど海外に出なかったのは、イ)株価が低迷してrisk allowanceが低くて動けなかった ロ)対外投資失敗に対する恐怖心が残っていて、他の市場参加者の成功体験を見極めたかった――などの背景があったため。
日本では株価は依然として低迷しており、その意味ではrisk
allowanceは高くなったわけではないが、一方では今年一年を通じて個人でも法人でも「対外投資」をした向きが一番儲かったという実績は残った。今後運用競争が厳しくなる中で、日本の機関投資家の「外」を見る目は明らかに96年とは違ったものになろう。日本の機関投資家の対外投資比率は依然として5%前後であり、極めて低い。97年は、外為法の大幅改正やその他の規制緩和の動きもあり、対外投資に動意が見える年とみたい。その一方で、株価の低迷、円債相場の天井感、円高期待の後退などで、海外の資金の日本への流入は著しく低下し、この面の円高圧力はかなり低下しよう。
《 still favoring dollar 》
各国の為替相場を巡る思惑は、温度差に違いはあり、さらに97年が進む課程で変化する可能性はあるものの、依然として「ドル堅調地合の維持」で一致している。アメリカはニューヨークの金融市場の安定を求める上でも、海外の資金が急激に流出しかねないドル安は避けたいに違いない。ルービン財務長官には、「国民の購買力を高める自国通貨高は、基本的に歓迎」との考え方があり、またアメリカ企業の対外競争力の回復には自信を深めていて、自動車業界など特定業界の「ドル高警戒」の声は無視している。
ドル高を一番欲しいのは、ドイツなど欧州各国である。欧州は1999年の単一通貨(euro)実現に向けて97年は厳しいバー(インフレ率、対GDPでの財政赤字の規模など)のクリアを迫られるが、現在の経済状態ではかなり苦しい国も多い。インフレ圧力がない今の先進各国の置かれた環境では、「金利の引き下げ」と「自国通貨安」は景気刺激にもっとも手っ取り早い政策である。金利の引き下げについては、今週はフランスなどが実施、ドイツも来年早々に利下げに踏み切るものと思える。欧州各国首脳は、過去に例を見ないような明確な形で「ドル高」を歓迎する旨の発言を繰り返しているが、実際に欧州の金利が引き下げられる過程で、ドル高に移行する可能性が高い。
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日本の通貨当局の立場は微妙である。しかし、一つはっきりしているのは、107円を下回るようなドル安を望んでいるわけではない、ということである。ドルが強地合でいて欲しい事実には変わりはない。日本の当局が恐れるのは、日本の貿易収支黒字の減少ペースが止まり、逆に増加に転じることである。そうなれば、アメリカとの政策協調が崩れるし、株価には打撃になる。従って当面は円安移行のペースには落ちていて欲しいというものである。しかし、これはドル安を望むことを意味しない。依然として、ドルには強い地合でいて欲しいことに変わりはない。しかし、日本の通貨当局の望む範囲内でのみドル・円相場が動くとは限らない。97年に「資本の圧力」が顕在化する可能性が高いと見たい。
《 in short, on interest rates 》
為替に併せて、「金利」に関しても簡単に言及しておきます。
(日本)
何回かの「景気回復期待」から、長期金利が上昇する局面があろう。しかし、長期金利が持続的に上昇するのは再来年になると見ている。日本経済は引きずりがたくさんあり、その重荷はまだ相当残っている。また、「構造改革」の動きは加速するものの、時代とマーケットの変化にそぐわない制度の重しは大きく、日本という国が変化するのには時間がかかる。歴史が200年程度しかないアメリカとは違う。「閉塞感脱出」には時間がかかろう。
一方、「大競争時代」という国際的な競争条件の厳格化とデジタル革命により、世界的にインフレ圧力は軽くなっている。イタリアなどの旧高インフレ・高金利国のインフレ圧力低下は著しく、ロシアのインフレ率もニュースにならなくなった。多少の「景気回復」でも金利が上がりきれないのはアメリカの例を見ても明確である。モノが生産され、販売されるまでの間に存在した今までの厚い「贅肉」は、かなり薄くなってきたが、まだ薄くなるだろう。技術革新と国際競争が「贅肉」の削ぎ落としを余儀なくさせている。贅肉がなくならない限り、原材料や労働賃金のコストが直ちに最終製品に転嫁されることはなくなるだろう。
市場は、「インフレ懸念」を債券売りの口実にするだろう。しかし、インフレがない状況はしばらく続きそうだ。
(アメリカ、ドイツ)
昨年の度重なる「インフレ懸念」にもかかわらず、アメリカの金利は下げ基調を続けると思える。
などが理由。市場の多数説は「連邦準備制度理事会の次の公定歩合操作は上げ」というのが多数派の意見だが、筆者は「下げ」になると考えている。もっとも、アメリカの次の公定歩合操作には、株価のレベルが大きく影響するだろう。
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ドイツをはじめとする欧州各国は、97年を待たずに「利下げモード」に入っている。財政が厳しい監視下に入った以上、景気を刺激するには金利を引き下げるか、自国通貨を安くして輸出に依存するしかない。欧州各国はこの両方に取り組み始めたと見る。(了) <ycaster@gol.com>