帰り道
ここのところ、日曜日になると天気が崩れることがおおい。
今日は朝から曇りがちであった。
日曜日は、仕事がなければとうぜん飛行場へ行くのである。
しかし、飛行機は、雨、風の強い日、は飛ばないのだ。
出がけに少しだけぽつりと来たのであるが、
天気予報では午後から晴れ間も少々ということだったので、
ライムをつれて飛行場へ。
いつものように夕方までたっぷりと道楽を楽しんだのである。
ライムも、草むらで大喜び、帰り際いっぱいまで
草むらをがさがさやっていたのである。
邦彦(ん?だれ?それ?)は、トランクと車室にブツを積み込む。
(ここんとこ、大藪晴彦調にいってみよ)
ドアの隠しポケットには、冷たく黒光りする愛用の凶器を忍ばせた。
(え〜、正確には、ドアの取っ手に、黒っぽい色の携帯電話を置いて)
その長身を運転席に納め、シートベルトをきっちりと装着する。
ブルーバード1800SSSアテーサ4WDリミテッドの
イグニッションをオンにして、数秒待った後に
アクセルを踏まずにセルモーターを回す。
美しい赤の結晶塗装を施されたカムカバーを持つ
1800ccDOHC4バルブ・
ノーマルアスピレーションのそのエンジンが、
生命を宿したかのように野獣の咆哮をあげる。
夕日が直接目にさして瞳孔が閉じないよう
用心のためにレイバンのドライビンググラスをかけた
邦彦(だれが伊達邦彦じゃい?)は、
未舗装路なので慎重にアクセルを踏んでゆく。
いまは急ぐ必要はまったくない。
ブリジストン・レグノ 195/65 HR14タイヤが、
そっと地面を噛み、野獣はその牙を隠してそろりと走り出す。
ま、早い話が、どノーマルである。
もっとも、オートマで、パワーに足周りが完全に勝ってる車だから、
乱暴にアクセル開いたって、
ホイルスピンなんてまずしないんだよなぁ。
しかも重たいんだよね、このくるま。
重たい上にフルタイム4WDなもんだから、
どノーマルのくせに燃費が悪いったらありゃしない。
ガソリンを補給しようと邦彦は(まだ言うか!)
スタンドへ車を滑り込ませる。
身も凍るおぞましい事件は、そこで起きたのである。
「いらっしゃいませ。」
「えっと、キャビアをお腹いっぱい。」
(うそ、ハイオク満タンと訳してください)
給油中ぼーっとしていた。
(ぼーっとしているのは、いつものことでワタシのイニシャル状態)
{そういえば、この時期は、草むらはいったり藪にいくと
あの、おぞましいダニがくっつくことあるよなぁ・・・・・}
ふとそう思ったついでになんとなく助手席のライムをみた。
ん? あたまの後ろのあかいものはゴミ??
もぞ・・
げ、うごいた、ま、まさか・・・ぁあああああ
だ、だにィ!!!!
もももも、
もちきるいわぁぁぁ
(気持ち悪い と訳す)
ぎょええええええ、あかいよぉ
けてすたぁ
(たすけて と訳す)
そう、ダニはとてもキモチワルイ。
灰色のマダニも嫌だが、
赤いやつ、あれはだめだぁ。
あかくて、光源ににかざすと透けてるんだよ。
おぞましいよぉ。
よりにもよってきもちわるいほうのその赤ダニが、
ライムの頭のところで毛の中に潜ろうと
もぞもぞしている。
きもちわるい。さわりたくない。
チョウチョの幼虫でも、カブトムシの幼虫でも、
魚釣りの餌のミミズでもサシ(ようするにウジね)でも、素手で平気、
目黒の寄生虫博物館で、サナダムシを見物したあとに、
ウドン食いに行っても大丈夫だけど、
ダニと、りぶぎご、いや、ゴキブリとラッキョとトコロテンはすかん。
だめなの。ゆるして、おねがい、
あっちいって・・・・
動転しまくってしまったのである。
だが、ティッシュは飛行機や道具に埋もれてとっさに出ない。
ぐずぐずしていて、ライムの皮膚に食いついたらさらにやっかい。
ええい、ままよ
意を決して指で摘む!
うあ、
指に挟まれてうごめいて
るっふふふふんん!!
たまらず、そとに捨てる。
ちょうどそのとき給油が終わった。
「****円です。」
しどろもどろのまま、支払いをする。
「ありがとうございました!」
さわやかな店員さんの声をあとに、
全身総毛立ち、とりさんの肌になって、
夏の夕刻、いっときの涼を味わったのだった・・・・
強力な刺客 ”Danny” との死闘に、
その悪魔のような冷徹さで生き残った邦彦は、
(しつこい)
非常線が張られて身動きがとれなくなるおそれのある高速道路を避け、
一般道をアジトへとひた走るのであった。
(だからさぁ、高速道路で行楽帰りの渋滞にはまるのが嫌で、
抜け道をちょろちょろ走り回ってうちに帰ったんでしょ?
正直に言いましょうよ。だれが、伊達邦彦だよ、まったくもう)