直木賞候補作と言う事で図書館の予約順位が30番台。
「ふちなしのかがみ」と同時期に予約したのに、2ヶ月遅れでようやく読むことができた。
今回は名前にまつわる魔法ではなかった。
今回は『女』の物語。啓太や大地や瀬尾先生など男性も出てくるけど、路傍の石ほどの脇役でしかない。
母娘。ある時から反発を覚える高い壁。上位自我。
それでも自分が子を産み母親になる事で、認めたくは無いが分かり合ってしまう。
女友達。プライドに基づく上下関係と、友達繋がりの横関係との矛盾と欺瞞。
そんな女同士の恩讐がとても濃い。
そしてもう一つが囚われの『地方』と羨望の『東京』との対立軸。
これは「太陽の坐る場所」にも通じる。
長い1章の途中で謎を整理した。
1つ目はみずほが隠している事実。母との微妙な関係の理由は?
2つ目はチエミの居所。
3つ目はチエミの母の死の真相。
また、赤ちゃんポストとみずほの流産との関係は?
赤ちゃんポストに対する瀬尾医師への取材は額面通りなのか?
恩田陸とは異なり、これらすべてに答えは与えられた。
亜理紗と母親、政美と母親、その2家族の母娘の関係性が翠で繰り返される。
望月家への非難はみずほが庇い、山田家の問題はチエミが解きほぐそうと言葉を添えた。
みずほとチエミがあれほどまでにお互いを賭けられるのは、幼馴染みだからなのか。
互いの内に自分を見出したのか。大崎善生にそんな話もあったな。
ちょっとホラーな展開は大山尚利の「揺りかごの上で」も想起した。
チエミが逃げ切れてしまうところなど、ちょっと甘いご都合主義は見られるものの
辻村ワールドを嫌いか? と言われれば、答えは「大好き」と言わざるを得ない。
直木賞には届かなかったけれど、十分に堪能。
文庫化された「スロウハイツの神様」は買って、「名前探しの放課後」は借りて読もうかな。