なるほど、これはホラー小説か。どっちかと言うと「常野シリーズ」の延長かとも思ったけど。
確かに怖かった。内容も然る事ながら、この物語はどう言う終末を迎えるのだろうと。
フリーフォールに乗せられて、思った以上に高い所まで上がって行っちゃった時の緊迫感に似て。
そこから真っ逆さまに急降下すれば、興奮と爽快感を味わえるのだけど、
拍子抜けした『puzzle』の前例もあるからな。
あれは、高い所へ上がって行ったものの、エレベータの様にそのまま降りてきちゃった感じ。
『三月は深き紅の淵を』を読んだ時も一体どう言う結末を迎えるのだろうと、ワクワクと言うより
残りページが少なくなるのがハラハラする不思議な経験をしたのだけれど、今回も同じ様な心境でした。
何だか最後はクーンツの『ハイダウェイ』みたいな内面世界に回帰して行ったのは、良かった様な悪かった様な。
異形の存在する世界観や、恐怖感を煽る筆致は嫌いじゃないけれど、やっぱり読み物としては『黒と茶の幻想』が至高かな。
それにしても、烏山響一。
『三月は深き紅の淵を』の第二章で「畏れ」と言う絵の作者として印象的な登場を果たしていたけれど、
やはり作者にとって思い入れのあるキャラクターだったんだなぁ、と言うのが印象的。
あとがきを読み、極悪キャラとして今後の活躍(?)も楽しみ。
その一方で響一の黒子として立ち回った淳は今回限りなのかな。
淳がどうしても和繁を誘いたかったならば、在学中の接点があまりにも希薄なのが解せない。
そもそも、頑張って呼び寄せた割りにラストの和繁は存在感薄いんだよね。
女王・夏海の狂言回しも上手だったのか、下手だったのか。
箱庭の部屋の主は、やっぱり響一なのかなと思って読んでいたけれど、なるほど。
ただ部屋から貨物列車の音が聞こえるのは何故だろう。
例の製作に敷地内に列車を敷いたと言う暗示なのかな。
金の出所の整合性を取るために、児玉誉士夫と思しきオフィサーを登場させなくてはならなくなったのは
やや強引な気もするけど、クロダ・グループも今後の作品で暗躍するんだろうか。
響一が『三月』ワールドに登場すると言う事は、『麦の海に沈む果実』などの理瀬ワールドとも接しているんだろうね。
恩田作品の底流って、どこか家族問題が秘められている様な気がする。
『夜のピクニック』の貴子と融も然り、『麦の海に沈む果実』の理瀬も然り、『ネバーランド』なんて問題だらけだし。
今回の救世主は家族を思う香織と、更には母の力だった訳だ(その割に父親は名前も出ずに終わっているが・・・)。
平口家が母親、黒瀬家は父親と死別、久野家は父親と離別。これが何かのヒントなのかなと思っていたんだけどな。
また、捷が小学生の時に見えないモノを見たシーンは、『黒と茶の幻想』の節子が銀行強盗を見つけたシーンを
想起させたけどこれも不発。
あとは残された謎。
悲惨な結末を迎えた橘兄弟。弟は何が見えていたのだろう。
橘が見てしまった淳の替え玉は、何を見たのだろう。或いは全くの替え玉だったのか。
香織がご神体に辿り着けてしまうのは・・・突っ込むのは無粋か、まぁご愛嬌だ。
お預かりと呼ばれる、あの絵を描いたのはやはり淳なのか。
『黒と茶の幻想』で屋久島、『麦の海に沈む果実』で釧路湿原、『光の帝国』では白神山地、そして本作で熊野古道。
釧路湿原は読後に影響されてからだけど、私が訪れた地が恩田ワールドに重なると言うのは不思議。
次は知床か、或いは台北?