冷たい校舎の時は止まる

辻村深月・講談社文庫

面白かった。
本屋で平積みになっている分厚い上下巻に目が留まり、
インスピレーションで選んだのだが、初めての辻村ワールドに引き込まれた。
出だしから漂流教室みたいな始まりで、吸い込まれる。
では、ネタバレ御免の読みながらの感想をツラツラと。

先ずは景子が良い。最初のセリフは誤植か? と確かめたくなるが
慣れると景子の台詞回しはカッコいい。
イメージは黒のロングヘア。中島美嘉だな。
梨香は軽い感じで…広末? ちょっと違うな。いまなら吉高由里子か。
榊の部屋で深月が遅くなったのは何か淫らな…、いやそう言うハナシじゃないのね。

冷たい校舎で清水が語り始めた集団失踪事件は、やや行き過ぎな感じで面食らう。
精神世界のミステリのはずが、これではトンデモ系の山本弘か柴田哲孝か。
この辺が、初めて読む著者の手探りな感じでワクワクするところ。
恩田ワールドだとある程度読めてしまう部分もあるからね。

次第に8名のそれぞれに自殺する理由が散見され始める。しかし全てミスリードだとすると…
なんと景子にまで!? 自分が嫌いな人のオンパレードだ。
これは望む自分と望まれてる自分とのギャップってハナシ?

上巻を読み終えたところで今一度実感する圧倒的な面白さ。
これは超一流のエンターテインメントだ。恩田ワールドとも違う精神世界。
これまた分厚い下巻を繰る手が逸る。
まだホストが誰だか分からない。春子も意外な一面を覗かすし。
飄々としている昭彦も脆さを内在していたとは。やっぱり鍵は菅原なんだろうな。

景子の退場で、やはり自己イメージと他人から見られているイメージの差が鍵となる。
景子自身と牧村、裕二に対する景子。梨香に対する景子もそうか。
景子はここにいない裕二と再び対峙しに帰ったのだろう。

で、この期に及んで菅原にも重たい回想シーン。
終盤にきて景子との二本立ては正直言ってテンポ感を削ぐが、青南へのフリにもなってる事だし目をつぶろう。
しかし、これだけプライベートな情報量を掌握してるホストは自分自身か、担任権限で榊?
少なくとも同級生には成し得ないだろう。その辺はどう整合性をつけるんだ?

本作は思春期の高校生たちが8人集まって閉じた世界で内面を戦わせる。
これがもう少し大人になり学生4人の探り合いが道尾秀介の『ソロモンの犬』。
もう少しパーソナルが確立し、背負う物が深き戦いとなったのが恩田陸の『黒と茶の幻想』。私が最も好きな恩田ワールドの一つ。
まぁ、何にせよ、ここまでは大満足。

何だ解答用紙って!

全く分からない。私は深月は自殺していないと、最初から外していた。なぜなら『著者』だから。
カミュだっけ『異邦人』も最後に刑死してしまうが、あれは裁判を傍聴していた記者の目で振返って記されたのだ、
とする説があったが主人公=著者では無かったよな。
ともかく、いざ解答を請う。

んー、確かに確かに。責任感云々なら春子も該当するね。
でも春子がホストでは、牧村や沢口を呼ぶのは無理だろう。
何!? 菅原榊だと。
確かに菅原の下の名は明かされないままだったけど、菅原=榊は成り立たない事が多過ぎるぞ。

分かる様な分からない様な。端から菅原=榊だったと?
じゃあ、スガくんは何なのさ。単細胞とけなされる位に確立された『菅原』と言うパーソナリティはどうなる。
帰って来た後の充や昭彦や梨香は菅原をどう思うのさ。
それにチサトは、ヒロは?
おー、ヒロくんは博嗣かい。すると、みーちゃんは深月なのか。んー、やられた。全てではなくても、十分ストンときたぞ。

最後の清水と鷹野の解説編は冗長だな。春子も別に無くても良い。
許す事ができたと言う“救い”なのかもしれないけど、それは有り得ない訳で。
しかし彼らの儀式も含めて、若い頃の友誼って良いね。眩しいくらいに素敵だ。
これを漫画でどう展開するのか、非常に興味深い。

(08/10/13)

_


茶色い本棚(国内作家)へ戻る

私の本棚へ戻る

タイトルへ戻る