感染

仙川環・小学館文庫

主に仲沢葉月の視点から描かれる。
恩田陸にどっぷり浸かると、こう言う書き方にしっくりこなくなる。
これが恩田陸なら、もっと内面の葛藤をおどろおどろしく書くんだろうな。
正直、あまり好きになれなかった1冊。
仲沢先生が裏金を受領したり、岸川学部長もそれを黙認するキャラなんだな、
などと伏線は張ったつもりなのだろう。
でも、真鍋の共犯の動機とか、桜木の誘いに仲沢が応えてしまうとか、
宮脇の血液検査目前に克二からのTELとか、いろいろ強引なご都合主義も苦々しい。
啓介の告別式に公子は訪れたのだろうか。その辺りのキャラの弱さも残念。

恐らく異種移植と言うテーマに対する“新人賞”なんだろう。
医療を学び、新聞記者となり、それで作家になった作者。
業界人には、荒削りな筆致でも斬新なアイディアが受けたのか。

東都大学感染症研究所は大丈夫か?
教授が脳梗塞で倒れ、助教授はヘッドハントされ、
筆頭助手は影で悪事に手を染め、若い方の助手もしょっちゅう空けてしまう。
栄子がウィルスを検出しようとしていた試験管を割ってしまって、中身が飛び散ったのは平気なのか?
頑張れよ、若林クン。

これは葉月の強さの物語か。
2人の死を目の当たりにし、前妻と対峙し、実家へと再び舞い戻る。
そしていつかは復帰しようとの思いも秘めている。
結論、女性の執念は恐ろしい。

(08/05/18)
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