第1章を読んだ直後の感想は「これはミステリに当たるの?」
作家が作家について書くってのは、ある意味ミステリよりも恐怖をそそるものなのかな。
ところが、章が進む度に『3月』の存在は次第に魔物のように重くなり、第2章を読了したあたりで相当怯えたね。
この圧倒的な恐怖感は恩田ミステリの真骨頂かな。
茶色い帽子の男の伏線は第2章の執拗に描写で気になった。
途中で出てくる鏡の逸話とか、恩田流の伏線は分かり易いメッセージではあるけれど、
第1章の『小泉さん』にまでは気が回らなかったので、しっかり第4章で驚かされたけどね。
でも第3章ではどこで出てくるんだろう。まだ探せずにいます。
その第3章はこれまた暗く重いお話。テーマとしては『3月』の第3部との呼応も分かり易く。
知るべきではなかった2人をつなぐ血のルーツ。どうして最後に祥子は逆の手を離さなかったのか、それは理解しがたいけれど。
人は最後に良い人になって亡くなりましたってかい。
今回の裏テーマとして章にまたがって何度か現代の大量消費についての苦言が呈されましたね。
大衆に受けるスタンダードとは何か、と言うことにも。
広く消費されると言うことに対するアンチテーゼとして、流布されない幻の小説『三月は深き紅の淵を』を登場させ、
存在しないものを軸に物語が進み、結果として幻を追った人々を通して多様な存在となる・・・
いや、上手くはまとめられないんだけど、そもそもこの本がどんな風に終わるのか、第4章の残りが少なくなるにつれ心配したんだ。
比重の大きかった理瀬の物語はそれなりに終息し、最後はやっぱり『3月』の第1部に戻ったのは技巧的なのか。
第4部の書き出しを6パターンも並べて、さりげなくその一つを自身のエピソードとして『回転』させた辺りとかさ。
松江を旅する彼女の話は?八雲との邂逅を描くための舞台装置だったのか。
はみ出した理瀬の物語は次作に続いてしまう。
たぶん読んじゃうな。恩田ワールドにどっぷり首っ丈。
「常野物語」シリーズの様なSFも良し、「ネバーランド」みたいな青春群青劇も良し、「ドミノ」の賑やかなエンターテインメントも◎。
しかし深みを感じるのは本作の様なミステリタッチかな。敢えてここでデビュー作に返って「六番目の小夜子」を読んでみるかね。
ミステリと言うかホラータッチのさ。そこで「夜のピクニック」の前日譚が収められた短編集から先に読んじゃうとか。