ぼくのメジャースプーン

辻村深月・講談社文庫

先輩から借りた本を先に読んでいたので、随分と積読になってしまっていたがようやく読破。
今回の辻村ワールドは、単に心温まるというほど甘くはなかった。
直後に読んだ「心にナイフをしのばせて」に比べれば、全然スッキリしてるけど。

今回の辻村流の逆転トリックはふみちゃんに対する感情か。
自らが犯した罪を覚えている。
これが辻村流の深遠なるテーマなのかもな。
「冷たい校舎の時は止まる」では春子の自殺を覚えている事がキーだった。
今回はふみちゃんが事件に巻き込まれたのは、自分の病欠に端を発している事を忘れてはならない。
ふみちゃんが好きだからではないんだ。これが主人公の底流にある悔悟の気持ち。
でも、サラリーマンNEO流に言うなら、“自分好き”でもええねん。

秋先生の登場で連環する辻村ワールド。これも興味深い。
そしてまた秋先生のキャラクターが強烈。
絶対的な正義でもなく、傲慢だと自認し偽悪的でもある。
それでも導き手として、主人公の対決の舞台にも同席する。
「子どもたちは夜と遊ぶ」を読んだ時には謎だった秋先生の魔法のフレーズ。
今回は主役級の登場で、謎解きにもなった。
とは言うものの、細かい所を失念してしまったから、
「子どもたちは夜と遊ぶ」をもう一度借りてこなければ。(ネタバレ2周目へ

ふみちゃんが最後に言葉を取り戻すのは、ちょっと出来過ぎな気もする。
これは秋先生の力によらず、自意識による復活なんだろう。
もちろん後味の事を考えると、そりゃそうだろうって気もするけど
秋先生に意地を張らせずに、力を使わせて解決しちゃったって、私はそれでも良かったけどね。

父親がいない。これって、ちょっと恩田ワールドな設定じゃないか。
また、最後まで主人公の名前って語られてないよね。
名前も辻村ワールドでは大事な大事な要素なんだけど。
辻村ワールドもまだまだ奥深いって事か。
そんな中、本屋の店頭で辻村深月のハードカバーを2冊見つけた。楽しみがまた増えたな。

(09/09/27)


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