Q&A

恩田陸・幻冬舎文庫

これは幻冬舎のカラーなのか。社会派ミステリ?
集団パニック、個体の意識を共有する群集、は「月の裏側」に通ずる世界観。
期待とは少し違った。もっとグイグイ惹きこまれるかと思っていたけど、読むのに疲れた。
いや、現在の心境のせいだとすると申し訳ないが。

またしてもテーマはシンクロシニティなのか
日常に潜む狂気。その共時性かい。
年金生活者のキャラクターから語らせたカタストロフィ願望や、レスキュー隊員の話は
死は突然に現れるのではなく、生と並行して存在しているものであり、
緩慢に死んでいくと言う村上春樹の世界観(これはあくまで私の印象だが)を思わせた。

残りページが少なくなるにつれ、いつもの様にどうオチをつけるのかが気になる。
「ドミノ」みたいなバタバタでは納得できないのは、今回の設定の悲惨さが強いからか。
「月の裏側」ですら死者はいなかったからな(盗まれた人を「死」と言わなければだけど)。
パニックの直接的な原因となった心中した老夫婦と液体を撒いた男がいたのは事実なんだろうけど、
それら4箇所のトラブル発生の共時性で片付けてしまうのか。
始末されてしまったタクシー運転手が語ったように、当局の陰謀だったのか。

ホントの事なんて誰も知らないって訳だ。これが真のテーマか?
そりゃそうだ。だから事実は存在しても、真実なんてありえない。
その極致が虚構としての小説と言う事。作家の妄想を読み手が追体験する。
調査形式から変わった後半、脚本家のキャラクターに語らせる読み手迎合な風潮への苦言が恩田陸の本音なのか。
うーん、木曜組曲を読んだ直後だからか、かなり辛口なスパイシーな味わいに感じる。

悲惨なニュースや凶悪な事件ですら、次のニュースが見つかれば忘れ去られてしまう。
世の中に事件は溢れているけれど、それらはテレビの向こう側の出来事であり、
表層だけが眺められて、それらは風化していく。事故現場も形を変えて、過去を消していく。
しかも司法は秩序維持のためのものであり、被害者を守るべきものではない事を痛烈に非難しているのか。

メディアも公権力も、誰も救ってはくれない。
今の幸せを奪われてしまう事に怯え、その強迫観念から逃れるために
思い余って自らの手で摘み取ってしまったレスキュー隊員は明日の自分かもしれないのだ。
恐怖だけが残された・・・かに思えた。

最後の章は何なんだ?
まぁ、シナリオとしては悪くないけれど「訪問者」の設定で急に非科学オカルト的になっちゃったね。
うーん、何だか「リング」「らせん」と読んできて「ループ」の世界設定で急にがっかりした時を思い出したよ。
残された謎がいくつか。
1つ目は犬の逸話が何のメタファーなのか。
笠原もニュースで事故を知り、ポケベルで社からの連絡を受けて犬小屋を思い出す。
外岡と思われる人が幼き頃に虫かごを秋田犬に踏み潰される話しとかさ。 2つ目は田中が気になった、逃げる客のカメラ視線はどういう意味か。
ホントの事は分からぬままってことで。

_

(07/04/29)


黄色い本棚へ戻る

私の本棚へ戻る

タイトルへ戻る