講談社文庫5作の中で、一番理屈っぽい気がする。
愛憎半ばの感情を書ききろうと必死。
環の全身全力の喜怒哀楽はしし座のB型かってくらい。
その環の頑張りがイマイチ分かり辛いのは、読み手の恋愛力不足のせい?
拝島のミスも今ひとつピンとこない私は、ホント恋愛力が無いのだろう。
映画館ですっぽかされる少女、その読んでる本がチヨダ・コーキ。不甲斐ない五十嵐に対するスーの心境。
この辺の意図ももどかしかった。
辻村深月は本当に本が好きなんだな。なんだか偏執的な程の執着を感じる。
毎度の辻村ワールドの根幹を成す、肉親との決別、いじめは例外なく本作にも現れる。
今回も新潟や福島の使い方から地方と都市の対立構図も透けて見える。
名前トリックも拘るね。
2代目の芦沢光は、新しい“S・F”と共に友情出演。
桃花の八王子の大学も、秋先生のいるD大ではないかと想像したけど、そこは空振りか? ひょっとしたら関連あるのか?
恩田陸が作家について書いた「木曜組曲」「三月は深い紅の淵を」ともまた違うテイスト。
「木曜組曲」の方が曲がりなりにも一流同士の4人の真っ向勝負なのに対して、
スロウハイツの住人は力量差がある環からの上から目線だからか。それともテーマが結局恋愛だからか。
作品終盤ではスロウハイツの住人たちの巻き返しが頼もしい。
狩野が一番ちゃっかり、したたか者だったかもね。
上下巻の厚さが不均等なので、不思議に思っていたけど
なるほどあそこで分けざるを得ないわな。前半で謎を提示し、後半でそれを解いていく。
後半は話の終着点が読めずにヤキモキした。
狐塚月子が木村浅葱を好きだった様に、環はコーキが好きなのか。
月子はその浅葱に殺されかかるのだけど、環も痛い目に遭うのか。
そしたら最後は愛か。
環と公輝、狩野と桃花、エンヤも家庭を築いた、スーも変遷があった。可哀想に正義と黒木だけが浮いてる。
そもそも黒木のプライベートも十分に謎。あんな人物、成立し得るだろうか。
捨て台詞を残して去っていった加々美はともかく、拝島君はどうなったんだ!?
講談社文庫の過去4作と比べると超常現象が出てこないので、読み物としては一番スッキリするかな。
最終章で伏線にキッチリ回答を出してくれてるのも嬉しい。
(「お久しぶり」の挨拶、プラズマテレビの衝動買い、オズのケーキのコンビニ販売、コスプレ)
やっぱり辻村深月は良いな。これで文庫化されたものは読み尽くしたけど、次が楽しみ。