翳りゆく夏

赤井三尋・講談社文庫

著者はフジテレビの現役社員みたいですね。二束の草鞋ってヤツですか。
本書は江戸川乱歩賞受賞作だから、ミステリーって事だよね。
うーん、小ネタの集積が着眼点の良さって評価だとすれば、通好みの一冊って事かな。

『矍鑠』が書けたのは瞬間記憶(直感像素質)だからってのは、小ネタとしてはあまり面白くない。
華原優がバスから見たという2度目の目撃がそれならばまだしもね。
それに井上が葉山御前を矍鑠と評するのはわざとらしいでしょ。
耄碌だの、鬱蒼だの、難しい熟語を好んで使う傾向にあるよね、この人。

犯人の3度目の接触に関して、ラジオ局の勤務体制を知ってる即ち犯人像=緻密ってのもねえ。
ラジオ局勤務経験のある著者の小ネタだろうけど、証券マンがそんな事知ってるかね。
事件の1週間前に退院した香織が、もう一度病院を訪れる必然性のために
香織の母は入院しなくてはならなかったってのは逆に強引な設定の様に感じるし。

事件の当夜、武藤が執拗に自宅へ帰らなかった辺りも、妙に唐突な感じがしたんだよね。
帰っていればその時に息子の入れ替えに気づいて、こうはならなかったからか。
ただ、この記述がどうにも不自然で武藤が犯人に極めて近かろう事は推察できた。
執拗に武藤家のバーベキューが回想されていたりね。これは裏庭を印象付けるための伏線だったんでしょ。
問題はどう関わっているか、だったけど。

実は千代さんの父親も犯罪者でした、ってのもねぇ。比呂子の翻意は結局それ?
九十九は誘拐の実行犯ではなく嬰児を殺してこそないけれど、悪事に手を染めたことは間違いないんだけどね。
そりゃ、そのくらいハッピーな要素も無ければ寂しすぎるけれど、
エピローグにパウエル長官を持ってきたのには、どれほどの意味があったんだろう。
解説で取り上げられていたように、実名に拘るリアリティの追求を最後までって事ですか。

最後に。堀江を探し当てるのにインターネットを使う件、検索サイトで個人名を牽くとそうなるよね。
私の場合、同姓同名に泌尿器科の先生と、ボディビルダーがいます。

(06/11/18)
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