凍りのくじら

辻村深月・講談社文庫

シャマラン監督かい。ってツッコミ入れた人多いと思うよ。
辻村ワールドはこの手のストンが多い。
菅原榊や、狐塚月子。

そういえば、「別所さんは、この辺りにおうちがあるんですか?」との問い掛けに
「…そうか『おうち』か」と答えたのは思わせぶりなリアクションではなく、ストレートに正解を物語っていたのか。
若尾が危害を加えなかった事が手がかりと言うのは強引な気もするけど、それも伏線。
別所が理帆子をモデルにしたい時もカメラを持っているのが理帆子な様子が不思議ではあった。
多恵が言う「あきらさん」が秀逸なミスリード。この時点では高校3年生の「別所あきら」の事だと思うじゃない。
芦沢光=あきら なのは、多恵の家の「あきらが住んでいた部屋」の芦沢光の写真に記された署名A.Ashizawaで明らかになる。
まさか、自分で撮った写真に囲まれていたって事とはね。

お母さんの死、そしてそれを通してのお父さんの死を受け容れるシーン。
お母さんの写真のモデルになる約束を、知らぬうちに果たしていた事。
おー、理帆子が選んであげたペンダント、あれか。あれが、あれなのか。
ここが清々しく、美しいんだけど、全体を通すとどうしても埋没してしまう。
その後の郁也を探すヤマ場が来ちゃうから。

まったく信じてないけど、ホントに好きだった。
そういや、その後の若尾は放っておかれてる?
ま、今回は若尾を顛末を描かれない方が余韻がスッキリして良かったか。

孤高の天才みたいな屈折キャラも辻村作品には多いね。
清水あやめ、鷹野博嗣、木村浅葱、理帆子。
そして虐められっ子も。
昭彦の友達の沢口豊、立川。
辻村深月自身が、孤高の天才か虐められっ子か、どっちかだったんだろう。
浮いてた子だったのは間違いなかろう。作家になるなんて、大抵浮いてるものに違いない(失礼)。

今回は講談社文庫刊行の前2作に比べて、ミステリ要素は薄いけれど
理帆子の、若尾の、内面精神世界の拮抗は圧巻。
こういうのはやっぱり女性にしか書けないんじゃないかと思うし、
内心こんな事を思ってるのか、と思うと女性は恐い。

この1冊は08年の自分自身へのクリスマスプレゼントだな。
親の闘病とか、重なる部分もあったしね。08年に辻村深月と巡り合えた僥倖に感謝。

こちらでもう少しあきらに関してネタバレを。

(08/12/23)


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