三崎亜記はやっぱり長編が面白い。独特の世界観があるので、序章の冒頭は探り探り。
“広軌軌道”“国土保全省”“ヒノヤマホウオウ”などから、やはりこれが成和ワールドなのかと推察。
第三章では“七階闘争”まで関連付けが。
「あの事件」とは、月ヶ瀬町の消滅と同じ事件の様だが、「失われた町」の続編なのだとしたら
この現象は30年周期の事件の1コマであり、供給管理公社・供給センターと、管理局の関連や
月ヶ瀬町の消失も地下プラントの気化思念が原因なのか、など整合性が気になる。
鈴木光司の「リング」「らせん」「ループ」3部作が最後に大コケしたのを思い出した。
本作の残りページが少なくなるにつれ、どう締め括るのかが気になった。
事件の謎そのものは次回に続くと言う訳か。幡谷さんと沙弓さんの物語で帰結するのは悪くない。
最後に沙弓さんが出てこないのは、恩田陸の「まひるの月を追いかけて」とは違って含みがあるね。
ただ次回に持ち越された謎が、整合性のつかない設定に連環してしまうのは勿体無いと思う。
まぁ、だから今回も月ヶ瀬町の消滅とは全く別と読むべきなのかな?
作品の中には随所に三崎流が見られる。
第一章は藤森さんが主人公なのだが、主人公を「さん」付けで書くのも三崎流。
これで読み手が感情移入せずに、俯瞰的に成和ワールドを眺める事ができるって訳か。
歩行技師と言う職種を通じて語られる職人のプライドや、共鳴士という職種では「鼓笛隊の襲来」に通ずる音に関するこだわりも。
消滅に抗う象徴として描かれる青い蝶には、どんな思いが込められているのだろう。
第三章で持田さんへの思いを伝えられない黒田さんに、沙弓さんが語った言葉は身につまされる。
失ってしまう前に思いを伝えなければ、思いそのものの存在も無かった事になってしまう。
黒田さんの場合は、自分の余命に自信を持てない事で誰かの生に関わるのを躊躇っていた。
そんな心配が無いのだから、全てを出し切るしかないのだろう。
明日より、今を刻み込まなくては。
海は人を隔て、隔たりし故に人は強く思いを響かせあう。想いをつなげし道守に祝福あれ。