ボウ 白磁狩人座像 (1752-53年頃)
A Bow White Figure of Seated Huntsman Ca.1752-53
ボウ初期の作品で、三角帽をかぶり狩猟用のコートを着て横を向いて座っている狩人の白磁像。傍らには猟犬が控えている。本来は女性像とペアになっている。素地の色合いは、若干くすんではいるもののきれいな白で、極めて細かい黒い灰が少し見られる。釉薬はなめらかで均一に掛けられている。
右手首から先が損失しているが、元々は柄を下にして地面に立てた猟銃の先の方を握っていたはずである。猟銃自体も損失しているが、左上腕部に銃口部分が接していたのではないかと見られる跡が残っている。一方、切り株の上に置かれている左手が握っているのは剣だと思われる(上部は損失)が、これは狩人像としては若干不思議である。このフィギュアの類似例(どれもかなりの損傷があるものばかりだが)には、左手にはワイングラス(らしきもの)が握られているものがある。 狩猟がひと段落して、岩か切り株に腰をおろして、同行の女性とともにワインを飲みながら休憩している場面のフィギュアなのかもしれない。剣については、製造時あるいは後世に損傷して補修されたものの可能性がある(左手はオリジナルだと思われる。左手と剣とは釉薬が一体化しているように見えるが、上手に補修されているのかもしれない)。
本品でもう一点注目すべきは、台座底面が開口していることである。ボウ初期のフィギュアは、台座(四角いものが多い)の裏面は閉じて平らになっており中央部に空気抜きの穴がひとつ開いている、というのが一般的である。ただし、1750年頃の女優キティ・クリーブ(Kitty Clive)像には底面が開口している作品があり、そのうちメトロポリタン美術館収蔵のものとジェフリー・ゴッデン氏所有の二作品は、文献(下記参照)で底面の写真を確認することができる。その二作品は(どちらも同様だが)底面の半分以上が大きく開口していて、像の内部が空洞になっているのを覗くことができる。なお、開口部分以外の底面は平ら(無釉)である。
翻って本品の裏面は、底面の端枠のみを残してあとは全体が浅く窪んでおり、像の部分はそこからさらに開口する形となっている。端枠部分は無釉であるが、窪んだ部分と開口部のかなり奥の方まで釉薬が掛けられている。本品の台座はかなり高さがあり、Kitty Clive像の薄い台座とは異なる点は留意すべきであろうが、同じ開口とは言っても印象は異なる。なお、もう少し時代が下がって1750年代終盤になると、本品と同じように底面の端枠のみを残してあとは浅く窪んだ形が多くなるが、あくまで底面は閉じていて中央に空気抜きの穴だけがあるという点は変わらない。したがって、本品はその両方の特徴を持っていると言えるかもしれない。
なお、この狩人座像にはビスケット(素焼白磁)版の作例も知られており、1750年代の英国磁器では珍しいビスケット地の実例として貴重である。
高さ(Ht):13.5cm
マーク:なし
Mark: None
類例/Similar Examples:
-Phillips Catalogues"The Watney Collection of Fine Early English Porcelain" Part I, Lot42 (biscuit version) and Part II, Lot458 (glazed version)
-Anton Gabszewicz and Geoffrey Freeman "Bow Porcelain The Collection formed by Geoffrey Freeman" Item193 (glazed version)
-Peter Bradshaw "Bow Porcelain Figures circa 1748-1774" Plate29 (glazed version), Plates38-39 (biscuit version) and Model List: A46
底面が開口しているキティ・クリーブ像例/Bow figures of Kitty Clive with the underside left open:
-Geoffrey Godden "Eiteenth-Century English Porcelain A Selection from the Godden Reference Collection" Item 7 (pp.24-28)
-Yvonne Hackenbroch "Chelsea and Other English Porcelain Pottery and Enamel in the Irwin Untermyer Collection" Figure 241 (pp.166-169, Plates 76, 77 and 145)
(2012年5月掲載)