フリーア・ギャラリー/サックラー・ギャラリー(米国:ワシントンDC)
Freer Gallery of Art / Arthur M. Sackler Gallery (USA: Washington, DC)
ワシントンDCを中心に、多くの美術館・博物館を(さらには動物園まで)運営しているスミソニアン協会(Smithsonian Institute)ですが、フリーア・ギャラリーとサックラー・ギャラリー(両ギャラリーは隣接した建物に入っており、地下通路でつながっています。)は、同協会が誇る東洋美術の宝庫です。
ここには、中国、韓国、日本の文物はもちろんのこと、インド、ベトナム、中近東などの美術品も広く展示されています。(特に、日本の屏風絵コレクションは充実しています。また、入り口近くの通路に配された鎌倉時代の二体の仁王像も迫力があります。)陶磁器に関しては、中国や韓国の青磁・白磁が目を引きますし、日本作品では江戸時代の茶器などに優品があります。ベトナムの作品(染付けが多いようです。)もきちんとした解説つきで展示されていますし、イスラム圏の作品も興味深いものです。
フリーア・ギャラリーの目玉の一つが、"Peacock Room"と呼ばれる19世紀英国実業家の自宅にあった部屋をそのまま移設したものです。(この部屋だけは館員による解説つきで鑑賞する仕組みになっています。)部屋の中は緑青の壁に金で孔雀が描かれた豪華なもので、さらに壁の多くの部分が棚になっており、そこに(もともとの用途のとおり)中国の染付の壷などがたくさん展示してあります。壁の高いところに展示してある作品は、遠目でよく見ることができず残念ですが、磁器の展示室としてはかなり特異なもので、印象深い部屋であることは確かです。
なお、この"Peacock Room"を装飾したのは、米国画家ホイッスラー(James McNeil Whistler)ですが、彼の絵画もこの美術館には多数展示されていて("Peacock Room"にも)、アジア美術主体の展示の中、異彩を放っています。(私は個人的には、映画版「ミスター・ビーン」を見て以来、お笑い的要素なしにホイッスラーを思い浮かべることができなくなってしまいましたが。なお、念のためですが「ホイッスラーの母」はここにはありません。)
スミソニアンだけでも10を超える美術館・博物館がある中で、両ギャラリーは比較的地味な存在ですし、ワシントンDCには、他にも一流の美術館や首都ならではのモニュメント類が目白押しですので、さらに目が向かなくなるのですが、その分いつでも空いていてゆっくりと鑑賞できますし、東洋陶磁器を見るには絶好の美術館です。
(2006年1月執筆)