エルミタージュ美術館(ロシア:サンクトペテルブルク)
The State Hermitage Museum (St. Petersburg, Russia)
旧都サンクトペテルブルクの中心地にあるこの美術館は、壮麗な宮殿建築と絵画を始めとする膨大な収蔵品により、この美しい街の観光ハイライトの一つとなっています。建物は基本的には横長の四角いものなのですが(後述のとおり、いくつかの別館はありますが)、厳密には隣接する5つほどの建物が渡り廊下で接続されており、さらには各建物が紛らわしい名称(冬宮、大(旧)エルミタージュ、小エルミタージュ、新エルミタージュなど)で呼ばれているため、若干複雑な作りになっています。
数々の豪華な広間を眺め、ダ・ヴィンチ、ラファエロ、ルーベンス等々の絵画に加えて、彫刻、装飾時計などを見て回るのが一般的な見学コースかと思います。ガイドブックなどで順路の目星を付けた上で、各部屋に振られた部屋番号を確認しながら回れば、迷子にならずに済むかもしれません。(ちなみに、印象派以降の絵画のコレクションも充実していますが、それらは旧参謀本部(General Staff Building)と呼ばれる、宮殿広場をはさんで向かい側にある別館に展示されていますのでご注意のほど。)
陶磁器の展示も思ったより多く、セーヴル、マイセン、ベルリンなどのフィギュア、壺、ディナーセットなどが、いくつもの部屋に渡って、キャビネットに収められて、あるいは暖炉の上に置かれる形で、展示されています。部屋番号で言うと、300番前後のいくつかの部屋が中心です。英国作品では、チェルシー及びガールインアスイングの香水瓶や針入れなどがいくつも並べられたケースがありましたが、そこでは作品は横に寝かされて展示されており、裏面の装飾(花絵など)も見ることができるようになっていました。
しかし、この美術館における陶磁器作品の目玉は、何と言っても、ウェッジウッドの「フロッグ・サービス」でしょう。これは1773年に女帝エカテリーナ二世が注文したディナー及びデザートのセットです。クリームウェア(クィーンズウエア)に英国各地の異なる風景画が描かれていますが、緑のカエルの紋が付けられていることから、この呼び名があります(もともとサンクトペテルブルク近郊の「カエルの湿地帯(froggy marshland)」と呼ばれる地にあった離宮用に注文されたために、この紋が付けられたそうです)。合計944点の膨大なセットで、ウェッジウッドはその製作に注力し、1774年に完成させた際にはロンドン店舗で展示会を開いてお披露目したほどです。(なお、ウェッジウッドの共同経営者ベントリーの手紙では作品数は952点とされています。エルミタージュには、そのうち810点が収蔵されているそうですが、展示されていたのは30点程だったでしょうか。)
なお、ロシア製の磁器コレクション(サンクトペテルブルクでは、1744年から磁器が製造されています。)については、それに特化したエルミタージュの別館(the Museum of the Imperial Porcelain Factory)があるのですが、離れた場所にあり、今回は残念ながら訪問できませんでした。
この美術館は(特に夏場は)とても混雑しますので、事前にインターネットでチケットを購入(自分で印刷して持参)しておくことをお勧めします。当日券より若干高いですが、別の入口(ちゃんと看板が出ているので迷うことはありません)が用意されていて、入場する際のストレスを大幅に軽減できます。
(2016年11月掲載)