同時進行リサーチ・プロジェクト
ダービーのカップ・シェイプに新たな発見はあるか?
第3回 パターン・ブックはシェイプ・ブックでもあるか?
前回、ハミルトン・シェイプについての文献を確認した中で、カップに描かれたパターン・ナンバーが記されている例がありました。それを見ていて思ったのは、パターンの中には特定のシェイプにのみ描かれたものがあるのではないかということです。ダービーでは1785年頃にパターン・ナンバー制が導入されて、番号順に詳細に描きこまれたパターン・ブックが現存していますが、近年ダービー美術館がそれをDVD化して出版しています(注1)。今回はシェイプに関する調査なので、パターン・ブックの出番はないかと思っていたのですが、調べてみる価値はありそうです。
ダービーのパターン・ブックについては、図柄の特徴から注書きの内容まで、すでに研究され尽くしたと言ってもいいほどなのですが、考えてみるとシェイプとの関連での研究はこれまで目にしたことがありません。ちょっとしたエア・ポケットという感じですね。
上述のパターン・ブックのDVDには、かなり大きな画像が掲載されており、原寸大にして見ると、図柄の細部まで確認することができます。まるで、原典そのものを虫眼鏡で拡大して見るような感じです。なかなかすごいです。
まずは、パターンブックのページを実際に見てみましょう。
(出典)Derby Museums and Art Gallery "Derby Porcelain Pattern Books Nottingham Road Period"
このページには、パターン・ナンバーの19番から24番までが描かれおり(といっても、21番と22番はティーボウルの枠が鉛筆で線描されているだけで、パターンは描きこまれていませんが)、第1回で検討した、浮彫りのあるカップ(ティーボウル)が並んでいます。右上の20番がアカンサスの浮彫り、下段23番と24番がひまわりの浮彫りですね。いずれも、浮彫りに沿ってエナメルの青で着色するパターンです。ひまわりの浮彫りについては、ウィッシュ・ボーン型の取っ手も描きこまれています。これらのパターンは、浮彫りがあるから存在するパターンだと思います。プレーン・シェイプのカップに、わざわざこんなパターンを描くことはないでしょう。
ところで、左上の19番はどうでしょうか。プレーン・シェイプのティーボウルのように見えますが、拡大してみると、花綱の浮彫りが中央に鉛筆で描かれているのが分かります。ティーボウル下部にも浮彫りがあります。また、青い縁模様にも注目してください。(パターンブックの写真の下地にはDerby City Councilの文字とロゴマークが細かく入っているので少し見にくいかもしれませんが)この縁模様の中の金彩部分は、花綱の浮彫りのカップの口縁にもともと施されている浮彫りをなぞったものになっています。白磁作品と比較すると分かると思います。
ティー・パターンNo.19
花綱の浮彫りのコーヒーカップ(再掲)
次は、43番〜48番が載っているページです。こちらは、縞模様の作品が集まっています。43番は、縞の表面が平らな(あるいは若干へこんだ)トール・ティーボウルとして描かれています。44番は縞の表面が丸くふくらんだ縦縞模様です(47番と48番も同じシェイプです)。43番と44番の縁の枠どりの描き方を比べると違いが分かりやすいと思います。45番はプレーンなティーボウルです。
(出典)Derby Museums and Art Gallery "Derby Porcelain Pattern Books Nottingham Road Period"
46番は縁の枠どりが特徴的ですが、これも拡大して見てみましょう。鉛筆で線描された側面の外枠が肩のあたりでくびれているのが見えるでしょうか。前回、double shapeの候補としてあげたシェイプですね。
ティー・パターンNo.46
Double Shape候補のコーヒーカップ(再掲)
このようにして、パターンを一つひとつ確認していくわけですが、とりあえず50番まで(実際にパターンが描かれているのは、このうち37個です。)のシェイプを調べてみました。その結果は、以下のとおりです。
- プレーン(表面に何の模様もないもの):20個(うち、トール・ティーボウルとして描かれているのが2個。)
- 縦縞(縞の表面が丸くふくらんでいるもの):5個
- 縦縞(縞の表面が平ら、あるいは若干へこんでいるもの):2個(うち、トール・ティーボウルが1個)
- Double shape候補(第2回で検討した、ベルシェイプに類似したもの):3個
- 花綱:2個
- ひまわり:4個
- アカンサス:1個
プレーンなティーボウルが多いですが、結構他のシェイプもあります。パターンを導入する際にあるシェイプを想定して考案された例が少なからずあると言えると思います。もちろん、そうしたパターンが、パターンブックに描かれたシェイプにしか描かれなかったということはなく、例えば第1回で見たように84番図柄などは多くのシェイプで用いられた図柄なわけです(ちなみに、84番はパターンブックでは、縞の表面が平らな縦縞模様のトール・ティーボウルとして描かれています)。ただし、アカンサスやひまわりといった浮彫りのあるカップに関しては、浮彫りに沿って着色する、そのシェイプ専用のパターンも存在したと考えられます。
ところで、今回のパターンブックの調査で登場しなかったシェイプもあります。具体的には、縦縞模様には第2回で見たとおり、flutedとsmall fluteとwaved fluteの3種類があったはずですが、こうしたヴァリエーションがパターンブックでは描き分けられていません。それから、パイナップルの浮彫り、フレンチ・シェイプ、ハミルトン・シェイプも出てきていません。パイナップルの浮彫りとフレンチ・シェイプについては、実はパターン・ナンバーが下っていくと登場するのですが、ハミルトン・シェイプについては、第2回でも触れたとおり、プレーン・シェイプとの区別がいまだに謎ですので、パターンブックでどう扱われているのかは今後の課題です。
もう一つ、パターンブックに関して気になるのは、普通のティーボウルとトール・ティーボウルが描き分けられている点です。この二つはサイズではなくて、異なるシェイプとして認識されていたのでしょうか。あるいはトール・ティーボウルはコーヒー用だということも考えられるでしょうか?この点も、もう少し検討が必要です。これらの疑問点は次回で扱うことにしたいと思います。次回は、それに加えて、パターンとシェイプの関連についてのパターンブック以外の文献調査もしたいと思います。
(注1)Derby Museums and Art Gallery "Derby Porcelain Pattern Books Nottingham Road Period" (DVD)
(2013年9月掲載)