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同時進行リサーチ・プロジェクト
ダービーのカップ・シェイプに新たな発見はあるか?

第4回 一気の解決なるか


 前回は、シェイプとパターンの関連を追いました。アカンサスやひまわりの浮彫りのあるカップには、その浮彫りに沿って着色する専用パターンがあることがはっきりしました。今回は、それらの特定シェイプ専用のパターンの描かれている作品に関する記録を確認して、その中にシェイプ名が記載されている例がないかを探してみます。確認する文献は、ダービーのロンドン店舗の販売記録と、同店舗支配人ジョセフ・リゴからのウィリアム・デュズベリーあての手紙などです。

 今回は、いきなり結論にいきます。ありました。パターン・ナンバー66番と67番の連番です。 1786年11月13日のイタリアのミカリ社への販売記録です(この販売記録は、第1回でNew Embossedを調べたときにも言及しました)。

1 Tea Cup & Saucer wav'd Shanked Enamd fine blue &Gold Pattern No 66 £ - 8 9
1 Coffee Cup & Saucer       〃                     〃  £ - 9 3
1 Full Size Cup & Saucer Devonshire Shape white & Gold Pattern No 67 £ - 9 0
1 Coffee Cup & Saucer       〃                     〃 £ - 9 4.5

 66番図柄の描かれたwaved shankedのシェイプのカップ(ティーカップ、コーヒーカップ両方)、そして67番図柄の描かれたDevonshire shapeのカップ(フルサイズの(ティー)カップと、コーヒーカップの両方)が販売されたということです。ここで、66番と67番のパターンを確認してみましょう。


Tea Pattern No.66


Tea Pattern No.67





(出典)Derby Museums and Art Gallery "Derby Porcelain Pattern Books Nottingham Road Period"


 これは、単純かつ決定的な証拠と言えるでしょう。これまでアカンサスの浮彫りと呼んできたシェイプの本来の名称はwaved shankedだということです。同様に、ひまわりの浮彫りはDevonshire Shapeだったということです。


 次にいきます。ロンドン店舗のリゴが1790年3月4日に書いた手紙の中に次のような記述を見つけました。

I think the tea pattern No 115 is a very good one for the double shaped ware and it seems to meet the approbation of most every one that has see it. I do not think it will look so well on any other formed wares as the double shape.

 115番図柄はダブル・シェイプによく似合い、顧客の評判もよい。ただし、それ以外のシェイプにはあまり似合わない、という意見を述べたものです。この時点で、115番図柄は比較的新しいパターンだったのでしょう。ダブル・シェイプについては、第2回のときに、すでに候補を特定していますが、この手紙の記述はそれを補強することになるでしょうか。パターン・ブックの中の115番図柄を見てみましょう。また、ちょうど最近115番図柄のティーボウルを入手したので、それも合わせてご覧ください。


ティー・パターンNo.115


ティー・パターンNo.115のティーボウル



 パターン・ブックは少し見にくいかもしれませんが、口縁の形状から、第3回で確認した「ダブル・シェイプ候補」のシェイプだと分かります。右側の実際のティーボウルと比べてみてください。この115番というパターンの導入に当たっては、この上部が膨らんだシェイプに合わせることが想定されていたと思われます(そして実際に、初期作品はこのシェイプに描かれたと考えるのが妥当でしょう)。そして、その初期作品が、リゴによって肯定的に評価されたということです。この115番図柄は、カップの肩より上の部分にのみ文様が描かれており、上部がふくらんだシェイプには、確かに似合うだろうと考えられます。


 以上、waved shanked、Devonshire shape、double shapeの3つのシェイプは、ほぼ確定できたと思います。ここで生じる大きな疑問は、一つ目のwaved shankedに関するものです。第2回でも述べましたが、shankedというのは一般には「ひねり縞」を指します。しかし、ここでは、わざわざwaved(波打つ)を追加しています。そして、これも第2回で見たとおり、plain shankedというシェイプが別に存在するわけです。アカンサスの浮彫りがないものがplainなのでしょうか?しかし、そのようなシェイプはダービー作品には見当たりません。

 fluted(おそらく、表面が丸くふくらんだ縞模様を指す)のヴァリエーションにwaved fluteというシェイプが存在したことも、第2回で見ました。「波打つ縞」というのは想像しやすいシェイプですが、同じwavedという単語で形容されるwaved shankedとの関連をどう考えたらよいでしょうか。wavedが「波打つ」あるいは「ひねった」を意味するのであれば、あとはflutedとshankedの違いです。考えられるのは、flutedが丸くふくらんだ(convex)縞模様、shankedが表面が平らなあるいは若干へこんだ(faceted又はconcave)縞模様を意味するということです。shankedはひねり縞を指すのではなく、平らな縞模様を指すということです。平らな縞模様がひねり縞になっているものがwaved shankedで、縦縞のものがplain shankedと呼ばれたということです。(縦縞のものは、本来なら単にshankedでよいのでしょうが、waved shankedにはアカンサスの浮彫りが付随するのに対して、縦縞のshankedには浮彫りがないので、あえてplain shankedと呼んだということではないでしょうか。)"Plain shanked, Hamilton shape"という2つのシェイプが並列で記された例があることも第2回に見ましたが、これについても、Hamilton shapeという基本形の上に表面の平らな縦縞が施されたシェイプだということになります。

small waved flute
waved shanked
plain shanked


 以上、今回はかなり解決に向かって動き出しました。次回は、Hamilton shapeをもう少し深掘りしてみることにします。


(2013年9月掲載)