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同時進行リサーチ・プロジェクト
ダービーのカップ・シェイプに新たな発見はあるか?

第6回 (再び)「新しい浮彫り」の正体は?


 New Embossed(新しい浮彫り)というシェイプについては、第1回で既に取り上げました。1776年6月にシャーロット王妃が購入したシェイプで、1785年3月の即売会カタログには王妃購入品と同シェイプ・同図柄のセットが掲載されています。元々の王妃のセットは、もはやロイヤル・コレクションには存在せず、1819年にその販売を請け負ったクリスティーズからは、問い合わせに対する返答がありません。

 今回、改めてこのシェイプに言及するのは、パターン・ブック上の記載との関係で、もう一度確認したいことがあったからです。

 王妃のセットに描かれた図柄("blue & Gold"とだけ記録されていますが)は、1776年には既に存在していて、そして1785年にもまだ継続して描かれていた(しかもQueen’s patternの名の下に)ものです。同じ1785年に導入されたパターン・ナンバー制度において、このQueen’s patternは当然番号を与えられて、パターン・ブックにも記載されているはずです。第5回で見たように、チェルシー・ダービー期のパターンには、50番以下の若い番号が振られている可能性が高いと思われます。パターン・ブックがシェイプ・ブックとしての性格を持つことがある旨は、第3回で述べました。王妃が買った作品、Queen’s patternと銘打って販売している図柄であれば、パターン・ブック上では、そのシェイプと図柄の組み合わせで描かれている可能性が高いはずです。ですから、パターン・ブックにおける50番までの記載の詳細を確認して、浮き彫りがあり、図柄が青と金彩によるものをピックアップすれば、その中に求めるシェイプ+図柄があるはずだと思うのです。(なお、確実さを求めるなら100番位まで確認すれば、さらに安心でしょう(注1)。もちろん、パターン不明の番号もありますので、完全とまでは言えませんが。)

 ではいきます。青と金彩によるパターンが最初に登場するのは15番ですが、それ以下100番までに出てくるものを全て列挙してみます。パターン・ナンバーの後にカッコでシェイプの名称を追記します。

15(plain), 19(花綱), 20(waved shanked), 23(Devonshire), 24(Devonshire), 30(plain), 31(plain), 32(fluted), 33(plain), 34(plain), 35(plain), 36(plain), 43(plain shanked), 44(fluted), 45(plain), 46(double), 47(fluted), 52(plain), 54(fluted), 59(fluted), 61(plain), 62(Devonshire), 64(double), 65(花綱), 66(waved shanked), 69(plain shanked), 75(plain shanked), 76(plain), 80(plain), 81(waved shanked), 95(double), 97(fluted)

 以上のblue & goldパターンの中で、まだ名称の判別していない浮彫りのあるカップに描かれているのは、19番と65番の二つだけです(ともに花綱の浮彫り)。それ以外で浮彫りのあるシェイプは、waved shankedとDevonshireで、既にどちらも判明済みです。残りはプレーンか縦縞、あるいはダブル・シェイプで、浮彫りのないシェイプです。

 というわけで、かなりあっさりと絞り込まれましたが、王妃が購入したシェイプ+図柄は、花綱の浮彫りのカップに描かれた19番か65番のパターンである可能性が高いということになります。この両図柄については、既に言及したことがありますが、改めて見てみましょう。



パターン・ブック

作品実例
Tea Pattern
No.19
Tea Pattern
No.65

 19番はパターン・ブック上でも明確に花綱の浮彫りとblue & goldの模様が見て取れます。65番も、パターン・ブック上では浮彫りが少し分かりにくいかもしれませんが、ちゃんと描かれています。(ダービー美術館のロゴが透かし模様に入っていて、見にくい部分がある点はご容赦のほど。)

 New embossedと呼ばれるシェイプは、この花綱の浮彫りを指しているというのは、ほぼ間違いないでしょう。そして、このシェイプと組み合わされたQueen's patternは、私の推測では、恐らく19番のパターンだと思います。もともと、チェルシー・ダービー期から継続使用されていたパターンは50番以内の番号の可能性が高いというということもありますが、65番のパターンでは青地の上に金彩以外に白い点が打たれていることがポイントになると思うのです。1785年3月の即売会カタログでは、Queen's patternは"blue & Gold"としか表現されていません。しかし、第1回でも指摘しましたが、1786年11月のミカリ社への販売記録の中で、65番のパターンについては"Enamd fine blue & Gold pearl Border"と記述されています。この中のpearlがこの白い点を指すと考えられます。ところで、1785年3月の即売会カタログに戻って、この中にもpearlが出てくるのです。具体的には、以下の2か所です。

109 Four elegant broth basons, covers, and stands, enameled fine blue and gold pearl border £3 0 0
115 A breakfast set, small flute, enameled with a fine blue and gold pearl border, 18 pieces £4 3 0

 どちらのケースも、"fine blue and gold pearl border"と、上記ミカリ社への65番の販売図柄と同様の記述ぶりです。すなわち、同じ1785年3月の即売会カタログの中で、Queen's patternは単に"blue & Gold"とされ、その他に"fine blue and gold pearl border"と描写されるパターンがあるのなら、Queen's patternにはpearlは含まれていないと考えるべきでしょう。ですから65番はQueen's patternではない、というのが私の考えです。残るのは19番しかなくて、この花綱(=new embossed)に19番のパターンの描かれた作品こそ1776年に王妃が購入したものであろう、という結論になるわけです。繰り返しになりますが、パターン・ブックには欠番がいくつもあるので、断定はできません。しかし、この説が正しい可能性はかなりあると思います。


 さて、かなり長々と続けてきた本プロジェクトですが、今回をもってとりあえずの終了とします。まだ謎がとけていない点もありますが、当初恐れていた、何も判明せずに挫折する、といったこともなく、想定していたよりずっとよい成果をおさめることができたと思います。 多分にひとりよがりのプロジェクトでしたが、読んでいただいた方には感謝します。


(後記)
 ちなみに、第1回で私のコレクションから写真で示した浮彫りのうち、きちんと論じることのできなかったものが二つあります。一つはパイナップルの浮彫りです。このシェイプも特定のパターンとのつながりが強いものだと思うのですが(ピーコック・パターンや、いわゆるヴァンダイク・パターンなど)、自分なりに議論をまとめることができませんでした。もう一つは、葉と鳥の浮彫りです。これは、今回見た中で1784年以降の文献や作品実例に全く登場しませんでした。これまで見た作品は全て1784年以前のチェルシー・ダービー期のものです。推測ですが、この葉と鳥の浮彫りに対して、新たに登場した花綱の浮彫りがnew embossedと呼ばれたということでないかと思います。そして、葉と鳥の浮彫りは1774年までには製造されなくなっていたのでしょう。ちなみに、19番のパターンがこの葉と鳥の浮彫りに描かれた作品は実例があります(チェルシー・ダービー期の作品ですので、19番という番号が与えられる前の作品ですが)。


(注1)Stephen Mitchell "The Marks on Chelsea-Derby and Early Crossed-Batons Useful Wares 1770-c.1790" (p.147)によれば、1784年末までに50〜60番までが導入されており、同じく85年末までには70〜80番まで、86年末までには90〜100番までが導入されたとされている。


(2013年11月掲載)