トップ(top)

コラム16.幻の復刻本


 私は西洋陶磁器についての文献をよく買います。アンティーク収集自体は物欲の塊でしょうが、文献の場合はちょっと違って、勉強の手段であり中身が読めさえすればいいので、古い本の場合は、ジャケットがなかろうが、ヤケていようが、書き込みがあろうが、気にせずにとにかく中古市場で一番安く手に入るものを買います。

 しかし、今回はちょっと物欲に駆られた文献購入をしてしまったので、反省を込めて告白することにしました。

 18世紀ダービー磁器の調査に欠かせない「パターンブック(図柄帳)」は、長くロイヤル・ウースターが所有していたこともあり、なかなか全貌を見ることができない資料でした。今では、現物を買い戻したダービー美術館がDVD化(2009年)して販売しているので、誰でも容易に内容を確認できるようになりましたが、それ以前は1971年に出版された「復刻版」(発行部数は25部!!!)を何とかして手に入れるしかありませんでした。

 私もかつてこの復刻版を一生懸命探したのですが、おそらく発行された全てが専門図書館か筋金入りの研究者の手にあったのでしょう。ネットで世界中の古本屋を検索しましたが在庫はありませんでした。何年かに一度(例えば所有していた研究者が亡くなったりした場合に)オークションに出ることがあるそうで、ディーラーに代理入札を依頼してあとは気長に待つしか方法はなかったわけです。そうこうしているうちに前述のDVD版が発売になり(こちらも発表されてから実際に発売されるまでに何年もかかりましたが)、復刻版探しの旅は終わりを告げました。

 それを今回、英国のあるオークションで見つけて落札したのです。出品されていたのが「秋の美術品」と名付けられた幅広い内容のオークションだったのであまり注目されなかったのかもしれませんし、そもそもDVD版が出てからは欲しがる人も減ったのでしょう、比較的安価に入手できました。海外の地方オークションでも、インターネットで簡単に入札できるようになったのは大きいですね。

 届いた本は3分冊で、通し番号(10番)と発行者(John Twitchett氏)の直筆サインがありました。装丁はあまり高級ではありません。写真は鮮明ですが思ったより小さく、DVD版にある拡大機能はありません(当然ですが)。紙の本ならではの一覧性はありますが、はっきり言って所有欲を満たす以上の価値は少ないと思います。一生懸命に探していたときに入手できていたら、どれだけ嬉しかったでしょう。


(2016年11月掲載)