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コラム5.オークション


 オークションというと、現在では、美術品や古物などの流通の仲介役というイメージが強いですが、物流網があまり発達していなかった18世紀の社会では、オークションは、新製品を市場に送り込む重要な販路としての機能を果たしていました。
 特に、英国磁器窯はどこも民営だったため、貴族などからの特注品は別として、作った作品をどのように販売するかは大きな問題で、オークションは重要な販売ルートの一つでした。年に一度、それまでに作りためた作品群を大規模オークションで売りさばくという例が多かったようです。例えば、チェルシーでは1754年から61年にかけてほぼ毎年のようにオークションが開催されていますし、ボウでも1755年以降開催されたようで、58年には複数回開かれているようです。
 これらのオークションのうちいくつかは、カタログが現存しており、貴重な研究資料となっています。一つ具体例を見てみましょう。ウースターは1769年にロンドンで2回オークションを開催しており、2回目のChristie氏主催のオークションのカタログが現存しています。これは1回目(Burnsall氏主催)の売れ残りが中心でないかと考えられているのですが、それでも、6日間に渡って、多様な図柄・形状の作品が、計570組ほど販売されています。図柄に関しては、Dresden Flowers(マイセン風花絵)、Queen's Pattern(柿右衛門図柄。ウースター「W13」参照)、Old Japan Fan Pattern(伊万里風図柄)などの記載があります。形状面では、Mustard Pots、Hand Candlesticks、Chocolate Cups & Saucers、Salad Bowlsなどの記載があり、図柄とあわせて作品の特定に関する研究が行われていますが、記述ぶりがあいまいで、断定できないことも多いようです。現在のオークション・カタログのように、写真付きだったらどんなによかったことでしょうか。