コラム8.表紙で選べば
本を出すときに表紙絵をどうするか、著者はきっと悩むのだろうなと思います。陶磁器関係の本の場合は、その本の中で紹介している作品の中の一つ(あるいは複数)が表紙を飾ることが多いですが、きっと著者の何らかの思い入れのある作品が選ばれているのでしょう。しかし、作品の写真をただ載せるだけの表紙というのは、あまり工夫がないようにも思います(もちろんセンスのよいものもありますが)。そんなわけで、今回は(極めて個人的な主観に基づく)私の好きな表紙をいくつかご紹介します。
Michael Berthoud “A Compendium of British Cups” この表紙を初めて見たときの驚きは今でも忘れません。著者とおぼしき男性がカップを手にとって調べており、その背景の壁全体を埋める棚に無数のカップが陳列されているというものです。この表紙についての解説には”The author with part of his collection of 2000 British Cups”とあります。研究者とは、こういう環境で研究するものなのかと目を見張ったものです。しかし、この著者はその後、ティーポットやクリーマーについても同様の本を発刊しています。そちらの表紙には、ティーポットやクリーマーに囲まれて研究しているところの写真は用いられていないので、やはり壁を埋め尽くすような陳列棚があるのかどうか、是非知りたいところです。 |
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F. Severne Mackenna “Chelsea Porcelain The Red Anchor Wares” 本体は赤いカバーで、ダスト・ジャケットはクリーム色がかった白地(ざらざらとした質感のある紙)に、書名と著者名のみが赤字で書かれています。写真や絵は一切ありません。とてもシンプルですが、ジャケットの下から時折のぞく本体の赤と合わせて、ツートンカラーのなかなかお洒落な表紙です。 |
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The Trustees of the British Museum “Bow Porcelain 1744-1776” 展覧会のペーパーバックのカタログで、表紙には展示の目玉作品の一つが、バランスを失するほど大きく拡大して掲載されています。本カタログ中唯一のカラー写真ですが、どうやら挿入図版の一つとして扱われているようで、本文中にはこの作品の写真はありません。さらに変わっているのは、表紙に書名や発行者の記載が一切ないことです(作品の裏底に文字がありますが、これはもともと作品に記載されているものです)。何とも不思議な雰囲気を持つ表紙です。 |
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W. Moore Binns “The First Century of English Porcelain” 今回ご紹介している中では唯一、ダスト・ジャケットのない時代の本です。19世紀に出版された本では、表紙に金彩模様(陶磁器関係の本であれば、作品のシルエットや図柄など)を入れたものが多いですが、本書は縁部分の金彩模様に加えて、ピンクのバラの小花を表紙一面(と背表紙)に散らしているのが特徴です。バラが描かれることの多い磁器についての本に相応しい雰囲気を出しています。 |
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Donald L. Fennimore & Patricia A. Halfpenny “Campbell Collection of Soup Tureens at Winterthur” 作品の一部を切り出して表紙に用いる例は少なくありませんが、その中でも本書は、作品の位置や、作品の影を活用した背景の微妙なグラデーション(写真では全体が同じような黒になってしまっていますが)、書名の字体や配置などの工夫により、きりっとした印象を与えるデザインになっています。 |
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Susan Gray Detweiler “George Washington’s Chinaware” この表紙は、作品の写真を掲載しているだけではあるのですが、白地部分を多くし、書名も薄目の色でスマートに配したデザインはなかなかです。中身も写真主体のビジュアル系出版のように想像されるかもしれませんが、実はかなり手ごわい内容です。 |
(2006年10月掲載)