坂田の戦略

今日はNHK-BS(去年まではWOWOWだった)で世界グランプリロードレース、いわゆるオートバイの世界選手権を見た。125cc、250cc、500cc共日本人が活躍して、それぞれ面白いレースだったのだが、やはり面白かったのは125ccだった。世界グランプリロードレースを見た事のない人のために説明するが、125ccというのは一番激戦のクラスでゴールの時点で1位から10位ぐらいまでが1秒以内、ということもある。また日本人が一番多く参戦しているクラスで、表彰台を日本人で独占するという事もざらである。

さてそのレースの方だが、2番手からスタートした坂田のうまさが際立ったレースだった。彼は事前にほとんどテストできていないにも関わらず、終始トップ争いの集団の中でレースをした。それだけではなく、ストレートの伸びるセッティングのマシンとうまい駆け引きを組み合わせて優勝して見せたのだ。

レースは、ターンで速い坂田以外のライダーを、ストレートで坂田が抜きかえす、という展開がずっと続いた。彼の周りの顔ぶれは、序盤から終盤まで少しづつ変わり続けたが、彼がトップグループから落ちるという事は一度も無かった。だが彼は、トップグループを抜け出す事が出来るほどの速さも、持っていなかった。さて、彼は残り1周の時点でトップだったのだが、この状況はどう考えても不利な状況だった。このままトップを走り続ければ、バックストレートで後ろのマシンにスリップストリームを使われてトップから落ちるのは必至だったからだ。2番手に付けていたまなこは、残り3周の時点から坂田の後ろで様子を窺っていて(実際にはストレートでどうしても抜けなかったらしい)、このまま行けば彼が優勝するだろうと私は思っていた。しかし坂田は冷静だった。彼はヘヤピンの手前まで後ろを押え込み、このままトップをキープする戦略を取ると思っていた矢先、ヘヤピンの突っ込みでインを空けまなこを前に出したのだ。この瞬間にレースの主導権は、まなこから坂田へ移った。その後は、バックストレートで坂田がスリップストリームを使ってまなこを抜きかえしそのまま優勝した。

残念ながら、私は過去8年間バイクのレースを見ているが、この戦略は全く思い付かなかった。残り2周の時点で後ろのライダーを前に出す事は考えたのにもかかわらずだ。だが、多分ヘヤピンでトップに立ったまなこも同じ思いだっただろうと思う(彼にしてみれば訳の分からないうちにトップに出るはめになってしまった)。今思い返してみると、最初から主導権は、坂田が握っていたのかもしれない。彼は冷静にライバルと自分の速さを分析して、この戦略を実行したような気もして来る。また私は、「これが以前チャンピオンを取った男なのだ」、と納得させられてしまった。

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