(財)日本船舶振興会(日本財団)による支援


事業計画書

「ロシア船籍タンカー重油流出事故における鳥類への被害の記録整備支援」


1.事業の目的
 海鳥は、プランクトンから魚にいたるまで幅広い栄養段階の食物を摂取し、採餌場所も沿岸から沖合いまでと、海洋生態系の中では主要な位置を占めている。ナホトカ号による事故では、これまで1200羽を超える海鳥が保護、または回収されたが、実際の数はその10倍とも20倍とも言われる。ところが、死体の多くはゴミとして処分される可能性もある。また、こうした鳥の被害は重油の直接的な除去作業などと比べて軽視されがちである。研究会では初期段階より環境庁を通じて死体の収集を依頼した。本事業により、海鳥への被害の規模や海洋生態系への影響を推定し、その後の海洋環境の復元を検討する上での基礎資料を提供することを目的とする。

2.事業の内容 
 死体は環境庁を通じて、各府県から東京港野鳥公園(協力・日本野鳥の会、油汚染海鳥被害委員会(OBIC))に送るよう、指示を出していただいた。これらの死体にはすべて通し番号のついたタグをつけ、油の付着状態や体重、採集地などを記し、その記録はデータベース化される。また、種別に箱詰めし、各研究者による次の作業のために下準備がされる。これらの作業は毎週水曜日と日曜日に行われ、日本ウミスズメ類研究会や日本野鳥の会の会員をはじめ、鳥に興味を持つボランティア希望者により毎回10名程度で行われる。基本的に各府県からの死体発送が終わるまで続けられる(おおむね2ヶ月程度と予想される)。
<研究者による作業>
1. 種の確定
 油にまみれた死体の識別は難しく、国内絶滅危惧種に指定されているウミガラスとハシブトウミガラスの識別など、専門家の手により詳しく調べる必要のある種も含まれる。とくに、危急種に指定され世界的にもっとも絶滅の恐れのあるカンムリウミスズメについては、これまで図鑑で示された羽衣とは異なり、冬羽がウミスズメと酷似している可能性のあることが示唆されている(小野・河野、未発表)。計測は、計測者による誤差を最小にするため、原則として一人で行われる。
2. 年齢の推定
 生殖線の大きさと外部計測値とを合わせることにより、種によってはおおよその年齢が特定できる。これは、今回の油流出事故が、地域個体群にどのくらいの影響を与えたのかを調べる上で、とても重要である。海鳥は、ふつう”少産少死”であるため、このような事故がひとたび起きると、なかなか個体群は回復しない。きちんと被害を推定することで、その後の海洋環境の再生につなげていく必要がある。
3. 生理学的研究
 その個体がなぜ死んだのか、また、重油が環境にどう影響を与えたのかを知るため、死体の組織学的、生理学的研究も必要である。以下の項目が、研究課題として検討されている。
皮及び羽毛重量と皮剥体重、胸筋重量の計測、DNAによる被害個体群の推定、胃及び腸管重量、胃内容のサンプリング、栄養状態の判定用の上腕骨のサンプリング、頭部のサンプリング(齢査定用)、その他の病理解剖

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Compiled by Koji Ono kojiono@gol.com
Revised: 20 Feb. 1997
URL: http://www2.gol.com/users/kojiono/index.html