嗚呼、すばらしきかなニューヨーク<渡航中編>


中西:「よー、小松。忘れ物はねえよな。」
小松:「おー。当たり前じゃん」
 96年8月14日、東京駅銀の鈴前で待ち合わせをした俺達は、これから始まる
 出来事に胸の高ぶりを押さえることが出来ず、やや興奮気味に話し合いながら、
 成田行きの京成線に乗り込んだ。

小松:「パスポートはあるし、保険も持ったし、ドル札も持ったし・・・。 
       お前、チケット忘れていないよな」

 鞄をごそごそ開け、物を確認していると、中西からの突っ込みが入った。

中西:「お前、パスポートとか金とかは、首からぶら下げられる財布タイプのものに
       入れた方がいいぞ」

小松:「そうか。」

 中西は、卒業旅行時にエジプトやらモスクワやらイタリアやら1ヶ月近く
 海外にいってたことがあるやつだ。素直に忠告にしたがった方がいいだろう。

小松:「じゃー成田空港で買おう。ところでニューヨークでどこにいつ行くのか、
      案を考えてきたか?」

 そう、俺達は、ニューヨークでメトロポリタン美術館に行くことと自由の女神に行く
 こと以外はっきりとしたプランもなく行こうとしているおお馬鹿者なのだ。

中西:「そうだな、国連ビルとかニューヨーク証券取引所とかかな」
      彼は時々顔に似合わない真面目でマイナーなことを言う。
小松:「俺はヤンキースの試合がみたいな」

 などと話し合っているうちに、成田空港に到着。
 早速、先ほどの忠告どおり、パスポートホルダーをはじめ小銭入れ、小さな目覚し
 時計、バック用の鍵を2つ、カロリーメイト等々買うと何と1万円近く。
 中西の「行く前にそんなに金を使うやつはいねーよ。」
 という突っ込みに苦笑いをしながら、中西は「俺は持っているがあまり使わない」
 とというアイマスクと簡易まくらを買うのを忠告どおり手控え、「日本円を多め
 に持ってきてよかった・・・。」とほっとする情けない俺だった。

 成田空港で多少迷いながら、HISのカウンター、そしてAA(アメリカン航空)
 のカウンターと順調に手続きを行っていったが、しかし・・・。

AAの受付:「お客様(中西)のお荷物は規定よりも大きいので機内に持ち込め
             ません。ラゲッジとしてお預かりし、到着後お渡しします。」

 妙に心配症な所がある中西にとって、どこかでなくなってしまう可能性が出て
 くることは好ましくないことであり、「えっつ、あっつ、うっつ、いやーその
 何とかお願いします」と言葉に詰まりながらねばり、カウンターの人の説得に成功。

中西:「よー小松。機内には一番早く乗って、席に近い棚を早く確保しよーぜ。」

 中西の言葉を聞きながら、今後の旅行に一抹の不安を覚えずに入られなかった。

 待合室に無事到着し、後は乗り込むだけ。しばらく待っていると、搭乗口で準備が 
 整えられはじめた。

中西:「おい、ならぼーぜ。」

 と中西は言うが、周りは人影もまばら。そんなにがんばらんでも・・・。
 と思いながらも並び、そして搭乗。荷物を早速棚に入れ、あとは離陸を待つのみ。
 気持ちはいやがうえにも高まってきた。

 定時になり出発。席は最悪の真ん中の列の真ん中。飛び立つ瞬間は右手上の
 小さなモニターで車輪を見ながら、という感動のない立ち上がり。「これも格安
 チケットのためだ。やむをえまい。」と自分を慰めながら中西と雑談したり、
 雑誌を読んだりしていると、眠くなってくる。しかし・・・。
 席は狭く、機内も別に暗くしているわけでもなく、寝にくい。横を見ると何と
 中西は、簡易まくらに空気を入れはじめているではないか。

小松:「お前、簡易まくら使わねーって言っとったじゃん」
中西:「え?そうだっけ。やっぱ、あったほうがいいかもな。」

 くっそー。裏切り者め、と舌打ちをしたが、すでに後の祭り。
 中西は、ちゃっかりアイマスクも使い、すやすや寝はじめた。
 機内で出されたジュースを飲みながら、ニューヨーク関連の雑誌を読み、
 これからのことに思いをはせるしかなかった・・・。

 「うっつ」飛行機の減速を体で受けた。知らないうちに眠っていたようだ。
 どうやら乗り換えのシアトルに到着したようだ。
 体の節々が痛い。中西も、ぐっすり眠っていたわりには、体調が悪そうだ。
 今に始まったわけではないが、こいつは、車に乗っても、自分が運転しない
 ときは必ず直ぐ眠るやつで、乗り物には強くない。
 着陸の瞬間は多少機体が揺れて、恐かったが無事到着。
 流れに乗って入国手続きへ。定番の質問に下手な英語で答えながら無事終了。
 ここシアトルで3時間ほど待ち合わせ時間がある。
 すでにアメリカということでやはり雰囲気が違う。
 ぶらぶらと免税店を覗きながら、時間をつぶし、再び搭乗手続きを済ませ機内へ。
 今度は国内線ということで、日本人もぐっと少ない。
 ようやく外国に来た、という感じがするな、などと話しながら席についた。
 すると、となりの席のおばあさん(もちろん外国人)が話し掛けてくる。
 日本人か?どこに行くのか?日本は一度行ったがいいところ、などと話し、
 無事、受け答えが出来たことにほっとしつつ、改めてアメリカにいることを実感
 するのだった。

 そして、5時間。さすがにめちゃくちゃ疲れてきた。日本を出発して14時間。
 今回は、幸運にも窓際の席だったので、眼下にニューヨークの街が見えたときは
 やっぱり感動もの。
 「つばさよあれがパリの灯かりだ」?などという言葉も思い出しながら、到着。
 いよいよ。ニューヨーク。さあこれからだ。

続く・・・。
96年8月 小松 一郎
 
 


嗚呼、すばらしきかなニューヨークへ