小島姫外伝 〜第1話 謎の大男達〜 作:バーベル事件


「私の王子様はどこにいるのかしらバカヤロー」

小島姫の可愛らしい呟きが聞こえてきます。

ここは王国の深い深 い森の中です。

昼下がりの優しい日の光が木々の葉をぬって彼女の顔を照らしました。思わず

眩しそうに目を閉じた小島姫。

再び目を開けたとき、小島姫は自分の目を疑いました。つい先ほどまで森を包

んでいた光や小鳥のさえずり、動物達の囁きが消えてしまっているのです。ど

うしたことでしょう。

「な、な、なんなの?どこなの?」

小島姫は一瞬自分の言語中枢が破壊されてしまったのを感じ、必死にイライ○

棒の真似をし始めました。それでもなかなか自分を取り戻せない小島姫。

「しっかり、小島姫。ミスター味○子よ、バカヤロー」

意味不明の言葉を自分に言い聞かせながら、小島姫はあたりを見回しました。




どうやら、小島姫は洞窟に入り込んでしまったようです。岩でゴツゴツした壁

に手を沿わせ、おそるおそる足を踏み出した小島姫は、ハッと立ち止まりまし

た。10mほど先に真っ黒なトーガをまとった大男が立っているのです。

「だ、だれなの、そこにいるのは?私は小島姫よ、バカヤローッ!止めたって

おうちに帰るまでは前にいっちゃうぞ、バカヤロー!」

小島姫は、聞き分けのない子供のように地団駄を踏みながらさえずりました。

「俺はお前を止めようなどとは思っていないぞ、オラ、エーッ!」

謎の男が思いの外、きつく言葉を返したので、小島姫は思わず立ち止まりまし

た。男の声に驚いたのか、天井に止まっていたコウモリ達が飛び立ち、小島姫

の顔のすぐ横を飛んでいきます。天使のほっぺたを思わせる彼女の頬に、一筋

の血が流れます。どんなことにも恐れず、明るさを忘れないさすがの小島姫も、

頬を触れた自分の右手に血が付いたのを目にして、泣き出しそうになってしま

いました。

「そっんな、大ごっえ、ださっなっくてっも〜」

必死に涙をこらえる健気な彼女。でも変なところで言葉が切れています。

「あ、お前、泣かしたじゃん。何やってんだよ。ははははは」

なんということでしょう。大男の後ろに全く同じ身長体重の男が立っていたの

です。しかも、その男は笑っているのです。

前に立っていた大男が小島姫に近づき、慰めるように言います。

「ごめんな、泣かせるつもりじゃなかったんですよ。な。ですから泣かないで。

世界のためだから。な。」

丁寧に男が言います。うつむいていた小島姫が目を上げると、大男の顔が数

10cmの所に迫っています。目を合わせようと思っても、サングラスが彼の目

を隠しているので合わせられません。しかたなく、小島姫は彼の目があるだろ

うと思う周辺に目を向けることにしました。

丁寧な物腰とはうらはらに、彼の周りには危険な香りとイッセイミヤケの香り

が漂っています。

「こんな暗い所でサングラス。面白い人ね。」

危険な香りに気が付かない小島姫、くすくすと笑いはじめます。

なんて不用心なお姫さまでしょう。

でも、それが小島姫の小島姫たるゆえんなのです。

笑いが止まらない小島姫に、大男は穏やかに言いました。

「ちょっとこちらへどうぞ。お姫さまに立ち話もなんですから。な。」

穏やかながらも有無を言わせないこの男の言葉に、さすがの小島姫の心にも多

少警戒心が頭をもたげたようです。

「こいつら、侮れないわね。とりあえず言うとおりにしておかないと。」

そう思った小島姫は、可愛さを総動員して「わかったわ。」と言って口を尖ら

せました。

さっき笑った男がまず先頭を行きます。

側転しながらもやたらと正確に前進していくこの男の後ろに小島姫。そしてそ

の後ろからサングラスの男が洞窟の中を進んでいきました。 



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