小島姫外伝 〜第3話 男の話と仕事〜 作:バーベル事件


「この魔術はちょっとやそっとの真似事じゃできるようにはなりませんよ。ガ
ッチャメラ。」

そう言って小島姫のお願いを一蹴したチョーノ。

今度は左の方を指さしています。何かの暗示なのでしょうか。そして、小島姫

にはいまいちよくわからない話しが始まったのです。

現在の王国の社会はピラミッド型であること。そのピラミッドは底辺が支えて

いるから成り立っていること。これからの社会は意識の面では特にそのピラミ

ッドが逆転しなければならないこと。そして新世界秩序のこと。

小島姫は、一生懸命聞いています。可憐な眉を難しそうに寄せて、本当に一生

懸命なのです。でも、彼女の頭の中では難解な言葉が竜巻のように渦巻いてい

ます。チョーノの話しが一段落ついた所で小島姫は切り出しました。

「でも、あたし、お姫さまなのよ。そんな話しをされても実感ないわ。あなた

の話し、難しすぎるもの。」

「わかりました。では、実際にごらんになって下さい、オラ、エーッ。ムタの

姿を。彼は実は哲学者なのです。しかし、こういった理論を唱えていたために

お隣のWCW王国を追放され、この国にやって来たのです。その彼がフロント

のおかげでどんな生活を強いられているか。」

チョーノは悲しそうな、それでいて怒りのみなぎるサングラスでそう言いました。

さっきムタの入っていったドアの前で、チョーノは後ろの方を指でさしながら

「その鍵穴から中の様子を見ることができますから、ガッチャメラ。」

と小声で小島姫に囁きました。

言葉通り、鍵穴に小島姫が愛らしい目を当ててみると、ムタがブツブツ言いな

がらせっせとなにかやっているのが見えます。耳を澄ましてみると、

「マジック持ってる?マジック持ってる?」と言っています。

部屋の中にはムタ1人。手元をよーく見ると、ボールペンを持って表彰状らし

き紙に「NWO」と書き込んでいます。机があるのに床で仕事をしているムタの

右には、まだ「NWO」と書き込まれていない表彰状の山。表彰状を目を凝らし

てみてみると、「IWGPタッグ」という文字が見えます。

「ムタの仕事、これなの?大変そうだわね、バカヤロー。」

ムタに聞こえないよう、小声で小島姫が呟きます。

「これが終わったら薬剤調合をしなければならないのです。他人は彼を『マウ

スウォッシュ調合の鬼』と呼ぶこともあるんですよ。な。」

いつになく神妙な顔をしてソファーに戻る小島姫。箱入り娘の彼女は、貴族の

暮らししか知らなかったのです。あまりのショックにしどろもどろになりながら、

「あの、わたしに、できること、って、ありますか?あの、こんな、苦労、し

て、る、人がいるなんて、あの、知らなかったの、バカヤロー。」

うつむき加減の彼女に向かって、チョーノが言いました。

「このTシャツを王族の皆さんにプレゼントしましょう、オラ、エーッ。これ

を着るだけでいいんです。どうです、簡単でしょう?ガッチャメラ。10着あげ

ますからね。」

チョーノはトーガの下からTシャツを取り出しました。

不思議な要望に、小島姫は頭をすごい勢いで上げ、目をまん丸くしています。

渡されたTシャツを声を出して読む彼女。

「んうぉ?」

さすがのチョーノもちょっとあきれ顔です。サングラスの奥の目は遥か彼方を

見つめているのでしょう。

大きな溜息をつき、チョーノは発音を正します。

「えぬ・だぶりゅー・おー、だ、オラ、エーッ!」




続きを読む
トップへ戻る
小島姫目次へ