資料5:国際条約の解釈について

 

日本政府は昨年の五月十日に「子どもの売買、子ども買春および子どもポルノグラフィーに関する子どもの権利条約の選択議定書」に署名しました。その後、内閣府男女共同参画局の女性に対する暴力に関する専門調査会では次のようなやり取りがありました。

(以下引用)
「○林委員 エクパットをはじめとするNGOの力で子ども買春、ポルノ禁止法を成立させることができたわけですけれども、今のお話で法律の運用にいろいろまだ問題が残っているということはわかりました。が、法律をつくるときに積み残した点、本来は法律の条文に入れたかったけれども、入らなかった大きな点というのがあれば教えていただきたいと思います。特に、子どもの権利条約の選択議定書に日本が署名しましたので、それとの関係で日本の今の法律というのは国際人権条約、子どもの権利条約が要請する基準を満たしているのかという点について、NGOの皆さんはどういうふうに考えていらっしゃるかということを教えていただきたいと思います。

○宮本説明者 ついこの間(2002年5月10日)の国連子ども特別総会で日本政府が署名いたしましたので、これは力に なるなというふうに思っております。99年法が成立した段階で、すぐに問題になってくるだろうと思ったのが、子どもポルノに関しましては疑似ポルノ[筆者注:擬似ポルノの定義については資料6を参照]のこと、 それから需要そのものである単純所持と呼ばれる所持ですね。現在は販売目的の場合のみ、所持が処罰されますので、いわゆるペドファイルが「売る気持ちはない。これは自分のためだけだ」と言った場合には、明らかに虐待して製造しているけれども、単純所持が主張できてしまうわけです。」

(引用元)http://gender.go.jp/danjo-kaigi/boryoku/gijiroku/bo13-g.html

 ストップ子ども買春の会共同代表の宮本潤子さんは、選択議定書に関する質問を受けて「擬似子どもポルノ(6を参照)」と単純所持の規制が問題であると述べています。しかしながら、この選択議定書はあくまで実在の子どもを性的搾取から守ろうとする趣旨の条約で、製造過程で現実の虐待を伴わない表現の規制を求めるものではありません。この議定書が単純所持の規制を求めていないことも条文を読めば明らかです。

 一方、欧州評議会サイバー犯罪条約は、各国の判断で批准しない権利を認めた上で、成人が子どもの演技をする性的に露骨な画像と、写真と見間違えるほど精密なコンピュータ画像の規制を定めています。宮本さんはこの条約に基づいて「成人が学生服などを着て子どもらしき人物を演じるポルノ」と「実写同様にリアルなコミック」の規制を求めて働きかけているようです。

 しかしながら、条約の注釈書を起草する段階で漫画(cartoon)は規制対象から外されたという経緯があり、サイバー犯罪条約は漫画を規制するものではありません。(警察学論集第55巻5号「サイバー犯罪に関する条約」について-その意義及び刑事実体法規定-瀧波宏文)。

 このように、宮本さんは独自の解釈に基づいて国際条約の説明を行っています。

 「擬似子どもポルノ」の定義についても同様で、ストップ子ども買春の会の宇佐美昌信さんなども機会がある度に独自の見解を披露されています(資料6を参照)。