立ち食い的本格蕎麦?



◆カウンターだけの超ユニーク店

ラグビーを見るのが好きなので秩父宮に行くのですが、1997年の1月11日、三洋電機vs近鉄の試合を見に行ったときに“発見”した店です。青山一丁目駅から銀杏並木方面へ歩いていて、「満月」という店の前に「純そば蕎和」という看板が出ていました。目をやると、「満月」の2階にガラス張りの店。うーむ。心をそそられるものがあって、試合の後入ってみると・・・。10ぐらいしか席がなく、しかもすべてカウンター。半分は、ラーメン「直久」みたいに、ガラスの壁に向かって食べる設定。牛丼屋か150円の喫茶店という見かけで、とても落ちつけない感じ。なのに、ふわんとした雰囲気があるのは、カウンターの中の女性のせいだったかもしれない。
彼女は、歳のころなら40過ぎ。昔はそうとう可愛らしかったのではないか(なんて、失礼な)と思わせる様子で、でも、どっしりと落ちついた女性でした。店の中は、彼女一人。カウンターの中左手に、朱塗りのこね鉢。のし棒が太細まぜて5本ほどかかっています。しかし、どこで延ばすんだ? そんなスペースはないぞ! だったのですが。さて、先客は、2名。ひとりは若い男性で、すでにきこしめしていたました。肴などをつくってもらって、のんびりとしています。おやまあ、いくら4時前だからって、こんな店でゆっくり飲めるものかいな? なんて思ったのですが、そんなところは、かつて椎名町にあったを連想させるものがありました。もうひとりは、初老の男性。注文するところでした。
さて、品書きを見て、予想を超えるものがありそうだと思いました。予想としては、これが当たりなら、1枚500〜600円のせいろ、だったのですが、1枚1300円のもりが最低でした。ちょっとまえの、金がない時代だったら腰を抜かすかあわてて逃げ出すところでした。(あー、昔女の子と銀座の喫茶店に入って、あまりの値段におしぼりで手を拭いた後さっさと逃げ出したことを思い出す)しかし、1300円か。よーし。やってもらおうじゃないの。食ってやろーじゃないの、という気持ちがふつふつと湧いてきたのです。量はどうだろう。味は。薬味は?
という間に、彼女は船から生蕎麦を取り出して正確に秤で計ると(このへんも、翁と似ているなあ)、さっさと釜に入れ、あっという間にあげると水洗いして、手際よく長方形のせいろに盛りつけると、ひょいっと目の前にもってきました。量は、これだけでは満足できそうもないけれど、もう一枚は食べられそうもないという量でした。 薬味は、ネギとワサビと、よく絞ったおろし。
さて、味ですが、純そば=100%そば、といったからといって直ちにうまいとは思いませんが、まず粉なの素性が違うと思いました。口の中にふわりと広がる蕎麦の香り。上質のそば粉を、高度にそば切りにしたものです。こりゃ、ただ者ではない。しかし、釜前は、彼女がやっている。じゃあ、誰が打っているんだ? 好奇心はふつふつとわき上がってくるのですが、気が弱い僕は聞かずに店を出たのでした。
あの量は、もう一枚食べられる。量ではなく、あの質がもう一枚食べさせてくれる。後ろ髪引かれのまま、も店を後にしました。もりの他に、ゆずなどの変わり蕎麦もあって、一茶庵系のそば屋です。できることなら、3色そばとかもメニューにあると、いろいろ食べられるのだが・・・。切り盛りが手一杯かなあ? の、注目の店の登場であります。



1997年2月21日(金)の午後に、2度目の味見をしに行ったのでした。食べたのは、1,500円の2色もり。“ゆづ”と“茶”が選べるとのことでしたが、僕は“ゆづ”と“せいろ”にしてもらいました。控えめな“ゆづ”と香りの高い“せいろ”は、あっという間に胃の中に収まってしまった。
あの優雅な女主人に、どこから出店したのかを尋ねたところ、店を出したのは初めてだとの答を得ました。以前、神田に店を出していた一茶庵の片倉さんが伊東に「そば道場」を開いたのだそうで、そこで修業したということです。おおっ。これは凄い! この日は、もうひとりの女性の方も働いていましたが、女の手でまかなっているというのがウソみたいな上品な味の店であります。ファンになってしまいそう。いま、東京のトップレベルにあるといってもよいと思います。(1997.02.23)



1998年の感想

ラグビーシーズンになると、通う店です。1998年、秋も好調に店を開いています。「蕎麦屋はいま、不景気ですよ」なんておっしゃってましたが、この店を目当てに来ている固定客はちゃんといる模様。平日はもちろんですが、土曜日の、勤め人があまりいない時間も店を開いているのは、自信の現れと見ます。そばは、去年の、ちょっと薬臭いものから、すっきりした味わいのものに変わりました。癖がなくなった分、食べやすくなったといってもよいでしょう。店の看板も木造の行灯というか灯篭というか、なんていうのか知らないけど、立派なのもになったし。今年も快調なのは、なによりです。(1998.11.01)



2003年9月

13日にラグビートップリーグの開幕試合があったので、青山一丁目から国立競技場の方へ。と、なんと、店がなくなっていた。げげ。ここ何年かは前を通っても入ることはなくなっていたのだけどね。なぜって、僕が青谷に行く土日は休業日だから。昔は土曜日も開いていたから入れたのだ。それにしても。たしか、6月に前を通ったときはあったのに。どこに行っちゃったんだろ? さびしい。(2003.09.14)





  • 地下鉄銀座線/半蔵門線青山一丁目から
  • 青山ツインタワー側ではなく、ホンダの向い側の出口から銀杏並木方面徒歩3分
  • もり/1300円
  • 変わりそば/1500〜1700円(ぐらいだった・・・) |ホームページへ戻る|