東京スコラ・カントールム第50回定期・慈善演奏会
「特定非営利活動法人 ワールド・ビジョン・ジャパン」のために
響け賛美の歌 〜世代を超えて
2008年10月10日(金)午後7時 ウェスレアン・ホーリネス淀橋教会
J.S.バッハ 教会カンタータ BWV179 心せよ、神への畏れが見せ掛けにならぬよう
... Siehe zu, dass deine Gottesfurcht nicht Heuchelei sei
♪ 1. 合唱 Coro
2. レチタティーヴォ Recitativo
3. アリア Aria
4. レチタティーヴォ Recitativo
5. アリア Aria
6. コラール Choral
J.S.バッハ ミサ曲ト長調 BWV236...
Missa in G-Dur
♪ 1. 主よあわれみたまえ Kyrie
2. 栄光あれ Gloria
3. 主に感謝し奉る Gratias
4. 神なる主 Domine Deus
5. 主のみ聖 Quoniam
6. 聖霊とともに Cum Sancto Spiritu
ジョン・ラター 子どものミサ...
The Mass of the Children
♪ 1. あわれみの賛歌 Kyrie
2. 栄光の賛歌 Gloria
3. 感謝の賛歌 Sanctus and Benedictus
4. 平和の賛歌 Agnus Dei
5. 終曲(われらに平安を与えたまえ) Finale(Dona nobis pacem)
指揮・アルト:青木 洋也
ソプラノ:藤崎 美苗/テノール:谷口 洋介/バリトン:薮内 俊弥
管弦楽・合唱:東京スコラ・カントールム
児童合唱:東京少年少女合唱隊 合唱指揮:長谷川 久恵
演奏会録音の試聴はこちら
プログラムノート... 岩崎 次郎(東京スコラ・カントールム)
♪信仰の遺産を受け継いで…
イエスの宣教の旅に同行し、その受難と十字架上の死を目撃した後、その復活にも立ち会った初代信徒たちがエルサレムで作った教会が、今では世界各地に広がっています。現代のクリスチャンたちは初代信徒たちの経験を、聖書を読むことを通して追体験し、彼らの信仰を引き継いで生きています。
クリスチャンたちの日曜日ごとの礼拝も、初代信徒たちの礼拝の基盤の上に、その後の代々の信徒たちがそれぞれに時代風と地域風を加えながら守ってきた内容を引き継ぐものです。
そうした礼拝の重要な要素の一つである賛美歌を初めとするキリスト教歌曲も現代のクリスチャンたちが受け継いだそのような信仰遺産の重要な部分です。東京スコラ・カントールムは第50回コンサートのプログラムを、この「信仰の遺産」を意識して組みました。
♪初代教会から賛美の歌は始まった
初代教会で歌われた賛歌はどのようなものだったでしょうか?
それは詩編歌(旧約聖書の詩篇に曲を付けた歌)を主としながらも、新約聖書に書かれている、受胎告知を天使から受けてマリアが歌った賛歌(Magnificat)、ザカリヤ[洗礼者ヨハネの父、その妻エリザベト(ヨハネの母)はマリアの親戚]の預言(Benedictus Dominus)、シメオン[メシアに会うまでは死なないとのお告げを神から受けていた人]の歌(Nunc dimittis)なども含むものだったと言われています。
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マリアの賛歌(ルカ1:47〜55)
私の魂は主をあがめ、
私の霊は救い主である神を喜び讃えます。
身分の低いこの主のはしためにも
目を留めてくださったからです。
今から後、いつの世の人も、私を幸いな者と言うでしょう、
力ある方が、 私に偉大なことをなさいましたから。
--以下略--
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ザカリヤの預言(ルカ1:68〜79)
褒め称えよ、イスラエルの神である主を。
主はその民を訪れて開放し、
我らのために救いの角を、
ダビデの家から起こされた。
昔から聖なる預言者たちの口を通して語られたとおりに。
--以下略--
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シメオンの歌(ルカ2:29〜32)
主よ、今こそあなたは、お言葉どおり
このを安らかに去らせてくださいます。
私はこの目であなたの救いを見たからです。
これは万民のために整えてくださった救いで、
異邦人を照らす啓示の光、
あなたの民イスラエルの誉れです。
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これらの歌はユダヤ教のすべての祈りの終わりに付けられた「頌栄〈栄頌〉」(下に示すのはキリスト教的に変化したもの)と「アーメン」、「ハレルヤ」あるいは「ホザンナ」というヘブライ語と共にキリスト教的伝統の中で世紀を越えて受け継がれ、2000年後の現在の教会でも歌われています。
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頌栄(栄頌)
栄光は父と子と聖霊に、
初めのように今もいつも世々に。アーメン
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♪教会がイスラエルの外、地中海世界に広がって…
パウロやペトロ等の働きで地中海世界に教会が広がるようになってからは、その地の信徒たちが作り出したキリスト賛歌も歌われるようになりました。そうしたキリスト賛歌は、新約聖書の中に収められた、ヨハネの黙示録やパウロ等が各地の教会に宛てた手紙の中にいくつかが取り上げられていて、そのいずれもが現代のクリスチャンたちにも馴染みやすい、あるいは馴染んでいる詩なのです。ヨハネの黙示録から二つの詩をご紹介してみましょう。
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聖なるかな、聖なるかな、聖なるかな、
全能者である神、主、
かつておられ、今おられ、やがて来られる方。
ヨハネの黙示録4:8
玉座に座っておられる方と小羊とに、賛美、誉れ、栄光、
そして権力が、世々限りなくありますように。
ヨハネの黙示録 5:13
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♪教会がローマ帝国で公認されて…
地中海地域を経て、ついにはローマにまで伝えられたキリスト教の諸教会の信徒たちは、長い間ギリシャ語を共通語としていたようです。そして信徒の中にローマ人たちが増えるにつれてラテン語の歌も歌われる機会が増えていったものでしょう。
彼らの礼拝用語も長らくギリシャ語であったものが、コンスタンティヌス一世による教会公認(AD313)前後にはラテン語に変わったと考えられています。(そうは言っても、“Kyrie Eleison, Christe Eleison”は今に至るまでギリシャ語のまま残っています。)
教会公認後、キリスト教はローマの周辺から帝国各地に広まって行きました。ミサ典礼の様式と式文はローマでも時代を経るにつれて変化し、またキリスト教が伝えられた先の各地でそれぞれに独自の変遷を重ねたもののようです。
♪公認後の教会音楽
ローマ皇帝によるキリスト教公認後には各地でそれぞれ独自に典礼聖歌も作られ、歌われるようになりました。
讃美歌21に収録されている賛美歌全580曲の中から、中世末(15世紀半ば)までに作詞された聖歌を私はざっと拾い出して見ました。44詩を拾うことが出来ました。一つの詩に複数の曲を付けたもの(たとえば、ハレルヤ7曲、アーメン8曲、キリエは6曲、グローリア7曲、主の祈り2曲など)があるので曲数ではさらに多いのです。その44詩の原詩の言語による内訳は、ヘブライ語7、ギリシャ語9、ラテン語27、アイルランドの英語1です。ギリシャ語とラテン語の歌詞が生まれた土地については9人(キレネ[北アフリカのリビア]、クレタ[クレタ島]、スミルナ[トルコ]、オルレアン[フランス]、ミラノ[イタリア]、アッシジ[イタリア]、パリ[フランス]2人、シエナ[イタリア])を除いてまだ調べがついていません。詩人名さえも知られぬものが16詩あります。
中世末までにユダヤを初めとする地中海地域、そして西ヨーロッパの各地で書かれた詩による聖歌が歌い継がれ、この日本で大勢の人々が歌う聖歌集の中に収録された曲の一割にも達しているのです。
♪グレゴリオ聖歌と呼ばれるようになって…
これらを含む各地の典礼聖歌はまず8世紀半ばにカール大帝のフランク王国の中心地(ライン河とパリの間の地域)で統一され、広大な王国内で広く用いられ、後にグレゴリオ聖歌と呼ばれるようになりました。
グレゴリオ聖歌の源流にはユダヤ教の詩篇歌があったでしょう。初代教会の祈りと賛歌が加えられてその源流を豊かな中流の流れと変え、ラテン人の音楽と詩の文化がそこに生気を加え、ゲルマンやフランクの土地を含む中世ヨーロッパ各地の音楽と詩が加わって普遍性を強められた祈りの歌、それが今に続くグレゴリオ聖歌ではないでしょうか。
10世紀頃からグレゴリオ聖歌に対旋律を加えた形の多声音楽・オルガヌムが創作されるようになり、13世紀にはそのオルガヌムから世俗的なモテットが生まれます。しかしモテットは15世紀半ば頃からその性格を大きく変え、教会で特定の場合(ことに葬儀)に用いられる典礼用音楽となります。
カトリックの全教会が一つの典礼書によって礼拝するようになったのは、1545年に始まったにトレント公会議が要望した新しいミサ典礼書が1570年、教皇ピウス五世のときに出版されてからでした(印刷術の発達の一つの成果です)。このとき以来、今日に至るまでミサ通常式文五章(キリエ、グローリア、クレド、サンクトゥス、アニュス・デイ)は不変です。
♪ルネサンスと宗教改革
14世紀に芽吹き、15世紀を通じて発達、16世紀に花開いたルネサンスは個人の独立と自由、学問と芸術の宗教からの開放、経験的知識重視の現実主義、などをもたらして中世世界を変えました。
このルネサンスの進行と平行して、キリスト教会内部でも、制度が時代に合わなくなっていたローマ・カトリック教会のほころびが目立つようになり、内側からの改革が進行していました。そして16世紀初めにはマルチン・ルターなど、聖職者や貴族たちの具体的な行動としてヨーロッパ各地で顕在化し、この動きは宗教改革と呼ばれるようになりました。
改革がもたらした顕著な変化はまず、聖書が各地の民族語に翻訳され、礼拝の公用語がラテン語から民族語になったことです。礼拝で歌われる聖歌も民族語で書かれたものが増えてゆきました。地域色を豊かに映した、声楽と器楽から成る礼拝用の音楽(たとえばカンタータ)も各地で誕生しました。今日では、プロテスタントであるとカトリックであるとを問わず、聖書、礼拝用語、聖歌の全てで各地の民族語(一部にはギリシャ語やラテン語も残しながら…)が用いられています。改革によって伝統がなくなったのではありません。ルネサンスも宗教改革も、伝統の土着化のプロセスでした。
♪今夜演奏されるバッハとラターの音楽は…
今夜のプログラムのうち、バッハの2曲は18世紀のドイツで作られ、ラターの1曲は20世紀末のイギリスで作られました。
バッハのカンタータの歌詞はドイツ語で書かれた聖書に基づき、ミサ曲はラテン語で書かれたミサ通常式文を用いていながら、旋律、リズムなどの音楽要素はそれぞれに当時のドイツの音楽状況を反映して18世紀の雰囲気を伝えます。ラターが用いた歌詞はミサ通常式文がラテン語で、その他の部分は5世紀に、また 16、17、18、19世紀に英語で、書かれた詩を用いています。その音楽要素はグローバル化時代のイギリスのもので、私たちの耳に親しみやすい現代的な響きで迫ります。
このような相異なる要素を背景としつつ、今夜のいずれの曲も、時代を超え、民族をも超えて継承されてきた[神への賛美]を歌うのです。
伝統の「継承」という重要な役割を担う主役は子供たちです。東京スコラ・カントールムはこの度、東京少年少女合唱隊のご協力をいただき、子供たちと一緒に世代を超えて賛美の歌を歌えることを大きな喜びと感じています。 ご来場の皆様にこの喜びをお聞き取りいただければ幸いです。 |
リハーサル風景
バッハの練習
ラターの練習。ソプラノとバリトンのデュエット♪
先生の視線の先には・・・
少年少女合唱隊が。
いよいよ本番が始まります
ガウンに着替えて、整列!
合唱隊も、天使のような白いガウン。
たくさんの方々にご来場いただき、無事に演奏会を終えることができました。
本当にありがとうございました!! |