2006DE耐!参戦記



今年もDE耐の季節がやってきた。しかしチームPROPMANの2006DE耐プロジェクトは昨年のDE耐が終わった時点から始まっていた。これはその戦いの記録である。


1.バイクとチーム編成


 propmanでは毎年チーム編成を変えてDE耐に望んでいる。単にレースに勝つためだけなら同じバイク、同じチーム編成で望むのが効率的なのだろうが、あえてチーム編成を組みなおすことにいろんな二次的効果を考えている。今回自分が担当することになったのはワシ号(別名05鉄筋号)。昨年のpropmanワークスマシンである。

 チーム員は昨年もこのバイクに乗った今尾氏、もて耐ライダーだが12inchには始めて乗る宮下氏、今年Propmanに入った若手の藤田君、そして自分の4名となった。
 このメンバーとバイクで新たに「propman.jp ワシ組」が編成され、2006年のDE耐を戦うことになった。


2.ワシ号


 昨年このマシンはレース序盤良いパフォーマンスを示したが、レース半ばでエンジンブロー、リタイヤしている。しかしそのブローは即原因解明され、他のマシンが完走するための人柱となった。

 今年はこのことを考慮して、ワシ号に関しては新しい冒険をなるべく少なくし、安定して完走させることを最優先とするコンセプトを立てた。車体はすでに完成しているので、それでなるべく多くのテスト走行をこなし、データを可能な限り集めて本番に臨もうという作戦である。テストは冬の間から開始され、全ては順調に進んでいるように思えたが…

3.ニューエンジンとの葛藤


 ワシ号はエンジンを組みなおす際に、ボアストロークを変更した2006年度エンジンの仕様になっていた。このエンジンは高回転が非常にパワフルであるものの、中速域のトルク不足という問題点に悩まされていた。うまくトルクをつなげることができれば爆発的に速くなりそうな予感がするのだが、何をしてもうまくいかない、タイムが縮まない。
 キャブセッティングはもちろんのこと、ファンネル、フライホイール、点火タイミングまで変更したが、なかなか打開できる決定打が出てこない。

 DE耐を目前とした4月の走行会で、キャブの内径を小さいものに変更することで改善する可能性を見つけたのだが、タイムそのものは大きく縮むことはなかった。そこで監督の下した決定は「2006年エンジンお蔵入り、2005年の仕様でエンジンを組みなおす」ということだった。
 もしかしたらこのまま開発を進めれば打破できる可能性はあるが、それを詰めていくためにはもう圧倒的に時間がない。勝つためには諦めなければならないこともある。幸いにして昨年度のエンジンはそれなりの実績とデータがあるので、この段階でこの状況なら戻した方が可能性が高いという判断であった。
 しかしエンジンを組みなおすといってもクランクを作り直すことから始まる大仕事である。また、2005年仕様と言ってもまったく同じものを組むわけではなく、改善可能な場所はモディファイされている。勝算を信じて行うとはいえ、やはり決断は一つの賭けであった。


4.前日の練習走行


 レース2週間前に組みあがったエンジンを搭載し、ワシ号はかろうじてナラシ走行だけを終えてツインリンクもてぎに持ち込まれた。
 今年は応募が多く、抽選に漏れたチームの3時間耐久が開催されることから、われわれの練習走行枠はわずか40分しかない。そこで燃費やらタイムやらを確認しなければならない。
 走行の結果はそれほど芳しいものではなかった。熱ダレの症状がひどく、思ったほどタイムがあがらない。ただ、これはライダーが慣れていないだけという可能性もあり、それでも2006年度エンジンのテストで出したタイムは上回っていた。
 藤田君が5周乗った後、自分もタイムアタックに出てみた。しかし、タイムアタックはわずか1周しかできなかった。今回の決勝に向けて作成した燃料コック切り替えシステムを走行中に試す必要があったのだが、その切り替えがうまくいかなかったのだ。燃料を最後の一滴まで使うために、走行中にリザーブに切り替えるのだが、そのときにうまく燃料が流れなかった。このため、ワシ号はコース脇に止まってしまい、約5分間再始動ができなかった。結局これで練習走行の時間切れとなってしまった。

 しかし練習でこれが試せてよかった。フューエルラインに問題があることがわかったので、全てを作り直す。それでも、新しいフューエルラインがうまくいくかどうかは本番でないとわからない。ここはただ己の作業が正しかったことを祈るのみだ。



5.作戦会議


 前日の夜に行われた作戦会議は厳しいものだった。「希望的観測で作戦を立ててはならない。データは少ないが、テストで出た結果のみが信頼できるデータだ。」とはもて耐ライダーの宮下氏の意見。しかし練習走行で出たタイムは凡庸なもので、それでシミュレーションを立てても凡庸な周回数しか出なかった。唯一燃費は悪くない計算が出ており、状況によっては給油回数を6回から5回に減らせる可能性はあった。しかしそれでも普通に走っていてはガソリンは全然足りない。3時間くらい燃費走行しないともたないのだが、それでは結局トータルの周回数は変わらない。なかなか勝つためのシミュレートは難しい状況だ。
 とりあえずこの段階では各自の走行でベストを尽くし、走行が一巡した時点で燃費データを再計算して臨機応変に行くという方策が決定された。


6.スタート・序盤の展開


 決勝の天気は快晴。エンジンの熱ダレが心配ではあったが、今日は一日ドライでいけそうだ。
 グリッドは33番グリッド。スタートライダーは経験から宮下氏が担当することになった。オープニングラップはまずまずで25位で戻ってきた。今回は給油回数を減らす可能性を考え、最初の一巡は各ライダーがタンクギリギリまで走ることになっている。

 宮下氏は序盤ペースが上がらなかったが、7周目くらいからタイムを伸ばしてきた。練習走行よりも5秒も良いタイムだ。これくらいのペースで走れるならチャンスはある。後は燃費がどの程度になるかだ。リザーブに入る前にピットインさせる周回数計算だったが、宮下氏は事実リザーブに入れることなくピットインしてきた。少なくともペースが上がってその分燃費が著しくは悪化していないようだ。
 二番手は今尾氏。昨年ワシ号を経験している唯一のライダー。数周するとペースも上がってきて淡々と周回をこなす。他のチームよりピットタイミングを遅らせているため、自然と順位は上がってくる。気づくといつのまにか電光掲示板にはゼッケン26番が5位のポジションに表示されていた。


7.自分の走行順


 今尾氏も規定周回数回って、リザーブに入れることなくピットインしてきた。思ったより燃費は良いようだ。もしかしたら5ピットで行ける可能性があるかもしれない。早く燃費再計算して残り時間の作戦を立てたい。

 だが燃費を確定させるためには誰かがリザーブまで入れなければならない。そうしなければ今何CC残っているか正確な残量がわからないからだ。監督から三番手の自分に「リザーブに入るまで走れ」という指示が出た。
 しかしここでトラブル発生。給油時にフューエルラインからの燃料漏れが見つかる。ライダー交代時にこの部分を修理。単なるパイプの緩みだったが、修理に1分近くロスしてしまう。この焦りからか再始動時にキックペダルを折ってしまい(レース本番では信じられないことが良く起きる)、押しがけでスタートした。
 走行しながら監督の指示を自分なりに汲んでみた。開始3時間の時点で燃費を確定させたいということは、「給油回数を一度減らす可能性を見つけたい」ということに他ならない。自分は爆発的なタイムを出せるライダーではないので、可能な限りペースを落とさずに燃費を確保することに集中した。コーナーでは一つ高いギアで抜け、ダウンヒルではクラッチを切った。
 しかし3周目に監督から「ペースアップ」のサインが出る。自分には最初このサインの意味が理解できなかった。「燃費走行にしてもペースが遅すぎるから上げろ」という意味に解釈し、燃費走行を続けながらもコーナリング速度を高める方向でペースアップをした。もちろんそれでは画期的にタイムはあがらない。
 意味が分かったのは「P2(後2周でピットイン)」のサインが出たときだった。リザーブに入れてからピットインであればこのサインは出ない。P2が出るということは、リザーブに切り替えるのは中止という意味だ。ここで思い出したのだがキックペダルが折れている。DE耐ルールではコース上の押しがけ再始動はできない。キックがなければ、コース上の停止=即リタイヤだ。昨日のコック切り替えがうまくいかなかったことから、キックの無い状態でこれを行うのは危険すぎる。そのためのピットインだった。結果的にペースアップできたのは最後の2周くらいだけだったが、この燃費走行が後に生きることを祈る。

8.燃費再計算


 というわけで、走行中にリザーブに切り替える役目は若手の藤田君に託された。彼がリザーブまで何周走れるかで残りの作戦が決まる。藤田君には「燃費とかめんどくさいことは考えずに、普通に走れるだけ走って来い」という指示が出ていた。彼は体重が軽いのでほっといても燃費がよいであろう。交代時にキックペダルも交換した。
 パソコンによる自分の燃費計算では、今回給油した3Lと、自分までの走行順でためたガソリンを使って、藤田君は25周回れるはずだった。もちろん自分の走行での燃費走行もシミュレートに入っている。しかし、藤田君はそれよりも2周多く回って帰ってきた。心配だったコック切り替えもうまく行き、タイムも悪くない。ライダー4人のトータルの燃費が思ったより良かったということだ。また、天気は曇りになって気温が下がっていることから、熱ダレの問題もだいぶ改善されたようだ。順位は2位まで上がっている。

 コックがリザーブに入ったことにより、残ガソリンが確定される。ワシ号はリザーブに切り替えるとかっきり300cc残るようになっているのだ。
 このデータを元に燃費を再計算。残り時間をどのように走行するか大急ぎでシミュレートする。結果、残り3時間の半分を燃費走行すれば、後1度の給油で最後まで走れることがわかった。しかしそれでもギリギリの賭けだ。
 ここで監督の決断。一番経験がある宮下氏に燃費走行を行わせ、可能な限り燃費を稼ぎリザーブに入れる。そしてリザーブに入ったら、残りを体重の軽い藤田君に走らせる。それでどれだけ上位に行けるか。

9.最後のライダー交代


 自分の計算では、宮下氏が一周三分の燃費走行を続け、ガス欠ギリギリまで走って初めて最後まで走れるという結果だった。ペースが速いとその分周回数が増えてしまい、余計な距離を走らなければならなくなる。燃費は本当にギリギリだったのだ。
 しかし宮下氏は実に良い仕事をしてくれた。指定のペースを守ったまま自分の計算より二周も多く回り、しかもリザーブに入れずに戻ってきた。リザーブに入っていないということは、ガソリンが300cc以上残っているということだ。

 最後のピットインでガソリンが3L追加される。このガソリンとタンクの残量だけで残りの1時間40分を走りきるのだ。パソコンによるシミュレートでは、ゴールした次のウィニングランの周にリザーブに入ることになっている。しかし、ゴールのタイミングによってはもう一周増えるかもしれない。とにかく走りきることを信じて見守る。
 ここにくるといろんな不安が出てくる。エンジンは焼きつかないだろか、どこか壊れないだろうか、オイルは?ガソリンは?まさか転倒したりしないか?


10.チェッカーフラッグ


 最後の一時間はチーム員全員がモニターに釘付けになった。上位陣は6回給油組が猛烈に追い上げを開始したり、その追い上げに失敗してガス欠で止まったり、とにかくいろんなことが起きた。また、他のチームでも5回給油組がおり、燃費が厳しいのかペースダウンしているチームもあった。
 いろんな思惑の中、とにかくワシ号はトラブルに見舞われることなく最後まで走りきった。順位は3位。DE耐では同一周回は同一順位とみなされるので、公式記録では2位のフィニッシュだ。チーム過去最高位である。
 チェッカーフラグが振られ、各車両は一周してホームストレート上に止められる。チーム員全員でワシ号にかけよると、ライダーの藤田君がヘルメットの中で泣いていた。実に感動的な涙だった。



11.エピローグ



 レース終了の車検の後、残ガスを抜いてみたらかっきり400cc残っていた。ほぼ計算どおりの結果だ。
 今回、特筆するほど速いラップタイムを刻んだわけではない当チームが、このような結果を残せたのは、いろんな要素がうまく組み合わさった結果だったのであろう。バイクの燃費、ライダーの技量、燃費計算を主とするレースマネジメント、そしてそれを可能としたサポート体制・チーム総合力の結果であると考える。これに運が加わり、結果としてうまくかみ合ってこの周回数と順位を実現したのではないか。おそらくどれか一つが突出したり不足したりしていたら、バランスは崩れて凡庸な結果になっていたことだろう。正直このチームで望みうる最高の結果だったと思う。もう一つ上に行くためには、さらに高いバランスが必要となる。それは今後の課題となるだろう。
 これでバイク屋Propmanの棚にはDE耐2位のトロフィーが新たに並ぶことになった。2004年に取った3位のトロフィーとあわせて、残るトロフィーはあと一種類だけとなった。
 目指すものはもちろん表彰台の真ん中だ。来年のレースはもう始まっている。




 これで2006年DE耐のレポートを終わりますが、最後に、当レースにかかわりサポートしてくださった全てのメンバーに感謝の意を表します。



おまけの写真


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