2008年11月30日(日曜日)

 (22:23)宿泊したことはなかったものの、2004年にムンバイを訪れたときにインド人の友人であるチャタルジーさんと一緒にボンベイ証券取引所を訪れた後におちゃっこまでしたことがあるホテルですから、タージマハールホテルでの銃撃戦は、他人事でない関心をずっと持っていました。

 インド門を目の前にし、その先にはアラビア海が広がり、海鳥がいっぱい飛んでいた。非常にホテルは荘厳な作りで、今世紀初めにイギリス国王を迎えるために建てたと言われるのが分かるような気がする作りでした。

 そのタージやオベロイ、それにムンバイのユダヤセンター、駅など10カ所での惨劇。日本時間の日曜日には既に一応の終結を見ているようですが、誰が何を目的に、どういう背景でやったのか、今後のインド経済と国際経済にどういう影響があるのか、分からないことが多い。

 まず日本であまり報じられていないことから書きますが、金曜日、つまりテロ発生の当日のインドの株式市場(取引所はテロの現場から直ぐ近くです)は臨時休業して、再開後の最初の営業日です。その日のインドの株価は、実は上がっている。引値はSENSEXは9,092.72で、水曜日の引値日で +66.00。ウォール・ストリート・ジャーナルはこの点に関して以下のように報じている。

Even as gunshots continued to ring out in Mumbai, India's stock market recovered from early losses Friday to post a modest, but surprising, gain.

The 0.7% rise in the Bombay Stock Exchange's benchmark Sensex index stood in contrast to the initial swoons by markets in London and Madrid following terrorist attacks in those cities earlier this decade. Analysts had reckoned this week's audacious assaults would weigh heavily on Mumbai's markets, particularly given the Indian economy is already showing signs of fatigue.

The gains came even as India Finance Minister P. Chidambaram and emerging-market investors like Christopher Smart warned the attacks could scare away foreign investors, at least in the near term.

 意外と受け取った人が多かったのでしょう。そう言えばロンドンやマドリードのテロの時は、その直後の両都市の株式市場はパニックに襲われた。しかしムンバイでは金曜日でまだ銃声が聞こえているときでさえ、朝方こそ弱かったものの株価は午後には反発した、と。

 しかしこれは、インドで大きなテロが起きたときにしばしば起きる現象です。私のようにインドをずっと見ている人間には、「そうなることかも知れない」と予想でき、であるが故に伊藤洋一 のズームアップ+αでインド経済が受ける打撃は小さいと申し上げた。私の言うことを聞いていたラジオのディレクターは目を丸くしていましたが。インドは悲しいことにテロ慣れしている。

 ですからそこで申し上げたとおり、インド経済に長期的な成長抑制がかかるとは思えない。インドに影響があるとしたら、世界経済の減速の方がはるかに影響が大きい。投資の鈍化もテロと言うよりは世界的な投資抑制の方がインドには影響が大きいでしょう。むろん、ゼロというわけではない。しかしテロは印象は強いものの、言ってみれば散発的な出来事であり、それが続かなければ実体経済に永続的な打撃を与えることはない。人々の心は深く傷つきますが。むしろ国外にインド経済への悲観的見方は、ルピーの対ドル相場の小幅下落に現れた。

 それにしても不気味なのは、「誰がなぜ」の部分が全く不明な点です。正式は犯行声明も、何か要求があってビラを配ったということも明確には報じられていない。しかしそれにしては大規模です。事前に二人くらいが各ホテルにチェックインし、大量の武器を持ち込んで行ったと言われている。襲われた箇所はホテル、駅、ユダヤセンターなど10カ所に及ぶ。参加したテロリストの数さえ特定されていない。多分10人強でしょう。同時に襲われた箇所の数から推測されている。それにしても被害は大きかった。

 その後出てきている記事などによると、テロリストは手当たり次第の殺戮をしていたようだ。インドの一人の当局者は、「なるべく多くの人を殺し、なるべく大きな打撃をホテルに与えることが目的だったのではないか」という人もいる。大義も明確な目的もなかったのか。

 テロ発生から暫くして、「テロリストはアメリカとイギリスのパスポートを持っている人を探して殺している」との報道があった。日本の新聞にもそういう記事が多かった。しかし「アメリカの領事館はアメリカ人の死者は今のところゼロ」というアメリカの新聞の記事を読んで、「英米人狙い」説はおかしいかも知れないとラジオで紹介しておいた。

 結局「米英人を狙った」説は後で否定されているようです。実際のところ、「探した」にしては米英人の死者は少ない。ユダヤセンターなどでアメリカ人が6人ほど、イギリス人も数名。日本人は一人。195人に達した死者は圧倒的にインド人で、「彼等は誰でも良かった」「なるべく多く」が目的だったという見方が今は強い。負傷者は少なくとも295人と報道されている。

 テロ集団の構成もいろいろな属性の人が加わっていると言われる。中には「イギリス国籍のパキスタン人が加わっていた」という説もある。モーリシャスのパスポートを持っていたという説もあるし、パキスタン人、パキスタン訛り、現地人などいろいろな属性の人間の参加が報じられている。まだ真偽は確認されていない。「数人げ逃げた」との説もある。その中ではイギリスは、イギリス国籍人のテロ参加を今のところ否定している。

 「カシミール」の名前も出ているが、この紛争地帯の名前はテロの当初から出ていました。金曜日の朝には海外のいくつかの新聞にはテロリストの一人がインドの地元放送局に電話をして、

  1. インド国内のイスラム教徒が置かれている厳しい状況(貧困や差別や権利侵害)
  2. カシミールでいかに多数のイスラム教が殺されたか
 の二点について喋ったという。むろんそれが本当にテロリストの一員だったのかは分かっていませんが、この話は朝のラジオ番組でも紹介しました。今朝段階の日本の新聞ではテロの実行犯の少なくとも何人かはカシミールのテロ組織「ラシュカレトイバ」(Lashkar-e-Taiba)のメンバーではないか、との話が載っている。事件の最初の段階からの報道からすると理解できるし、多分そうなんでしょう。

 ということは、テロリスト達に思いはあったものの、それをはっきり示す(テレビに出て要求するとか、インターネットで主張するとか)ことはしなかった、ということになる。もしかしたら、複雑な構成のテロ集団だったので、目的は一つではなかったということも考えられる。中にはただ彼等の言う「聖戦」を戦いたかった自称ムジャヒディンがいたかも知れない。

 インドにとって難しいのはパキスタンとの関係です。シン首相などは最初から「外国」「隣接する外国」、もっと具体的に言えばパキスタン、またはその国内集団と今回のテロとの関係を示唆している。「インド以外にベースを持つ勢力」という形で。カシミールも意識しているのでしょう。

 問題はパキスタンにベースを持つ過激派、テロ集団が何らかの役割を果たしているとしても、それがパキスタン政府の意志が働いた結果なのかどうかは分からない、ということです。今度のテロ事件をきっかけにインドとパキスタンが協力してテロ対策、過激派退治に乗り出すことだって考えられる。しかし一般的には、パキスタンは「テロの原因はパキスタン」と言われれば身構えるでしょう。

 タイも揺れている。東南アジア、南アジアの混乱は世界にとっても当面の大きな課題だ。


2008年11月29日(土曜日)

 (23:23)うーん、これは一歩前進なんでしょうね。問題はインドネシアがどう出るかです

 注目したのは日経の夕刊です。一面トップの記事。「途上国に無償提供」とある。何を無償提供するかというと新型インフルエンザワクチン。この新型インフルエンザ、今生きている人間誰もが抗体を持っていないが故に、大流行(パンデミック)したら日本でも64万人くらいの人が死ぬのではないか、と見られている。

 発生したらワクチンをいかに素早く開発し、それをより多くの人に摂取させるかがパンデミック封じ込めのために必要。そのためには、今まで鳥インフルエンザ(鳥→人)が多く発生しているインドネシアやベトナムなどが、検体をWTOや日米欧におけるウイスル分析が出来る研究機関に提供し、このウイルスが新型インフルエンザ(人→人)に変異する履歴を追うことが必要になる。その履歴がワクチン開発に役立つ。

 しかしインドネシアのシティ保健相(40代の女性だと思った)というのが、「検体を提供しても、それで出来上がるワクチンを途上国は高値故に購入することが出来ない。検体は知的財産」と主張して、今はこの検体の提供を拒否している。つまい人類全体にとって大問題の新型インフルエンザのワクチン開発が、インドネシアの検体提供拒否で遅延しているのです。

 そこで今回の無償提供のための備蓄制度が重要になってくる。この備蓄制度を使って「新型インフルエンザが発生したときには、途上国にもこの備蓄制度を発動して即座にワクチンを大量供給する。むろん、インドネシアにも」というわけです。「だから、検体を提供して下さい」と。

 新型インフルエンザ(人→人)は、鳥と豚と人間の三者が一緒に、渾然一体となって生活している場所で、豚を介在として鳥と人間のウイスルのキャッチボールの中で発生すると考えられている。実際に今までにこの条件を持つ国で鳥インフルエンザが発生していて、それは感染死者数でも示されている。インドネシア(112人)、ベトナム(52人)、エジプト(22人)、中国(20人)、タイ(17人)などとなっている。全世界でもまだ感染死者数は245人に過ぎない。

 インドネシアのシティ保健相の言い分にも耳を貸すべきところがあった。検体を提供しても、出来上がったワクチンは高値で自分達が買えない。先進国の製薬会社が儲かるだけ。じゃ、検体提供なんてしない....と。しかしそれでは、ワクチン開発が遅れて新型インフルエンザで死亡する人の数が劇的に増えてしまう。

 そこで今回のWHOの備蓄制度が意味があるのです。もしこれをインドネシアが評価して検体提供を再開すれば、ワクチン開発がより準備が整った状態で、短期間に行うことが出来る。新型インフルエンザ発生の際の対応力が高まると言うことです。

 具体的に「備蓄」の規模は金額換算で15億ドルから30億ドル。英グラクソ・スミスクラインなど大手ワクチンメーカー数社の現物拠出で賄われるという。まあ製薬会社としてはそこまで出しても、ワクチン開発で大きな儲けが期待できると言うことでしょう。

 どうなんでしょう。結局ワクチン開発は企業に依存しなければならない面がある。しかしパンデミックのような人類全体にかかわるような病気に関しては、もっとWHOなどの国際機関が関与すべきだと思っていたところなので、「一歩前進」とは思います。

 さて、インドネシアの保健相はどう動くのか。


2008年11月28日(金曜日)

 (06:23)東京全体がクリスマスツリーによって飾られる季節になりましたね。木曜日の夜に赤坂、青山、新橋を移動する中でそう思いました。

 最初に綺麗だと思ったのは、ニューオータニの本館正面のツリーかな。隣の赤坂プリンスがあまりにも赤坂見附駅から見て綺麗なのでニューオータニのサイドはむしろ寂しく感じるのですが、上智大学サイドにあるオータニの本館の前の広い車回し、庭のツリーは綺麗です。ツリーを取り巻く動物がいい。

 赤坂プリンスは毎年綺麗で、今年はレーザー光線を使ってビル全体をツリーに見立てる構想をしていて、これがなかなかいい。青山三丁目のツリーといえば以前からエイベックスですが、今年は下に入っていた三井住友青山支店が表参道方向に100メートルくらい移って、ビル全体が「エイベックス・ビル」になった。

 で、ビル全体がエイベックスになった結果劇的にツリーが変わったかというと、それがあまり変わっていない。ただしビル全体がシロっぽくなったので、その分がツリーを目立たせる形になっている。相変わらず見るに値する。

 霞ヶ関ビルの新橋寄りのツリーも赤やピンクや白で綺麗でしたね。うーん、六本木のけやき坂が使っている(今年もそうらしい)ブルーは嫌いだな。なにか寒そうなんですよ。飽きましたし。出たときは、つまりけやき坂が最初にあのブルーを採用したときは新鮮だった。しかし2年目には飽きて、3年目には「もうやめて欲しい」と思った。ヒルズでも上の方は赤が多いツリーで良い。

 ニューヨークのロックフェラーセンターのツリーはまだ点灯していませんでしたが、感謝祭を控えては点灯したでしょうから街全体が綺麗になっているに違いない。まあ、世界中がそういう意味ではイリュミネートされてきている季節と言うことです。

 「だから混浴はやめられない」の著者の山崎まゆみさんからはメールを頂きました。「自分の本がどのように読まれているかを知りたくて、時々、書名で検索をしております」ということだそうで、それは私もたまにそうしている。「仕事柄、旅が多く、昨日もフランスとアイスランドから帰ってきました。むろん混浴も」とのこと。羨ましい。

 「もしお休みが取れるようでしたら豊かな温泉の郷へ」とのことですが、実は今年の年末と来年の正月は去年から今年初めにかけての沖縄本島が寒かったので、「温泉があるところ」と思って、九州の南を狙っているのですがどうでしょうか。山崎さんの本を影響か?

 まあしかし世界を見ると、きな臭い。ムンバイのテロでは「パキスタン出身者が捕まった」と一部で放送されている。せっかくパキスタンとインドは関係改善が進んでいたのに、もしパキスタンのテロ組織が今回のインドでのテロに関与しているとしたら、両国の関係はややこしくなる。まあでも問題は、インドのイスラム教徒が同国の経済発展から取り残されているということです。  これには、この地域の長い歴史がある。長くなりますから今ここでは書きませんが。


2008年11月27日(木曜日)

 (10:23)ムンバイで起きていると伝えられるインドでの大規模テロは、従来のものとかなり質的に違いがあります。

 まず、大人数が堂々と行動していて、今でも一部は人質を取って立て籠もっている点。つまり大規模かつ大胆で、表だって行動している点である。従来のインドのテロは、何カ所に爆弾を仕掛けるにしても、犯行声明も希薄なものが多く、犯人が人前に顔を出すことはめったになかった。しかし今回は4人が射殺されたとされるものの、9人以上が捕捉されている。

 第二は、明確に標的が「欧米人」を狙ったとされる点。今までは観光地が狙われたことはあったものの、どちらかといえばヒンズー教徒が狙われていたように思う。今のところ87人が死亡し、その中には一人の日本人が入っているようだ。出張中だったと言われる。もう一人は怪我をしたという。欧米人が多い高級ホテルに居たところで巻き添えを食ったらしい。

 ムンバイは昔のボンベイで、日本人は多い。ニューデリーより多いかもしれない。確か全日空がニューデリー線を持つ日航に対してビジネスクラスだけの飛行機を毎日飛ばしていると思った。

 インドにおけるテロが持つインパクトに関して言うと、「テロによるショックは小さい。市場はあまり気にしない・・・」だった。我々日本人からみて、「これは酷いテロだ」と思ってもあまりインドの市場も他の市場も反応しないことが、つまり悪材料としてことさら響くと言うことはなかった。慣れているというか。

 しかし今回はどうだろうか。ちょっと大規模だし、連鎖がないかどうかも分からない。インドのテロが局面展開した印象が私はするのだが。ムンバイといえば、証券取引所とあの海岸、インド門を思い出すのですが。


2008年11月26日(水曜日)

 (19:23)移動中に面白い本を読みました。新潮社の新書ですが、大阪の駅で「あれ」と思って手にとって、そのまま買って列車に持ち込んで読んだら結構意外性があって面白かった。

 「だから混浴はやめられない」というのです。私は記憶をたどっても混浴というのは大人になってからは経験がないな。子供の頃はあったかもしれないが、母親に連れられて入ったのは混浴とは言わないでしょう。

 まあちょっと気分的に毛色の変わった本を求めていた面もあって、手に取ったのです。著者の写真まで表紙に出ていて、「うーん女性が書いている。これはちょっと意外性があるかもしれない」と。新幹線の中で読むのにちょうどいいと思ったら、その通りだった。

 それと「一点で本を書くとどうなるか」という興味もあった。私も「カウンターから日本が見える」は、「なぜ料理カウンターは日本にしかないのか」という疑問だけで本を書いた。「混浴」という一点で本を書くとどうなるかという興味もあった。

 繰り返しが多いが、結構よくまとまっている。古代からの日本の入浴の歴史も紐解いて、「(混浴が)自然の姿」と主張し、その上で「混浴に関わるマナー」を説いている。

 どうやらこの人は、混浴を取材し、文章を書いて生計を立てているらしい。なかなか興味深い職業ですね。まあ女性だからできる仕事と言うことになる。男はそれを主張してもダメでしょう。ははは、将来機会があったらここで紹介された鄙びた温泉なんかに行くのは良いなあなんて思いました。

 本と言えば、「The Trillion Dollar Meltdown」も少しずつ読んでいます。実はこの本は「なぜアメリカ経済は崩壊に向かうのか」という形で翻訳本が出ている。それは読みました。しかしたまに一冊まとまった英語の本を読んでおくことは、単語の確認とか最近のアメリカの本の書き方などを確認する上では役立つと思って読んでいるのです。単語の使い方などを知っておくことは、インタビューなどの時に役立つのです。


2008年11月25日(火曜日)

 (13:23)月曜日に故障して出張中は出しておいたビスタPCをピックアップして設定し直しを時間を見つけながらやっているのですが、非常に順調です。どうしてこんなに違うんだろう。もしかして、出てすぐに買ったのでずっと調子が悪い状態で使い続けていたのかと思うと、悔しい。

 ある程度設定がすんだので、ニューヨークに持って行ったPCはちょっと疲れが見える(?)ので、設定したばかりのビスタPCを持って大阪に移動しつつありますが、特に問題もなく、いつもやらねばらないことは十分にできている。なんなんだこの違いはと思います。

 ひょっとして最初からサービスパックの1を入れてもらったおかげかもと思います。出ると比較的素早く買う癖があるのですが、まあそうでしょうね、サービスパックが一本出るくらいの時の方がシステムが安定して良いのかもしれない。

 それにしてもアメリカの金融政策は揺れに揺れている。不良債権の買い取りは7000億ドルではしないと言ったのもつかの間、シティに対しては買い取りに近い損失保証をするという。昨日の世界の株式市場はとりあえず懸念材料だった金融システムが一応安定の方向に向かうのではないかというので反発しているが、まだまだ紆余曲折はあるでしょうね。そう思います。


2008年11月24日(月曜日)

 (23:23)「それでも」と思って持って外出して、非常にニューヨークで役立ったのは、実は日本の免許証でした。

 これは普通に観光している人にはあまり関係ないかも知れませんが、ちょっと大きな会社の本社があるビルに入るなんて言うときは、今のアメリカは空港並に警備が厳しい。冗談ではなく、IDを見せろ、鞄を例の透視する機械に入れて中に爆発物が入っていないかどうかをチェックするといった具合。場合によっては空港の警備以上。最近になってまた非常に厳しくなった気がする。

 その時パスポートが一番有効なIDなのです。それは写真と英文の名前が入っているから。この両方でやっと向こうは認識してくれる。ではパスポートをアメリカで日本人が持っていない場合は何で自分を証明するか。

 クレジットカードでは写真がない。自分がいつも身に付けている物で写真があるのは、日本の自動車免許証だけでした。そこでこの日本の自動車免許証と、英文の綴りがあるクレジットカードを両方見せて、何とかチェックを通過した場所が二カ所もあった。一日で。

 日本ではそんなややこしいところではないですよ。ビルの写真を撮るのも嫌がられるし、ましてや動画カメラはもっと嫌がる。アメリカも非常に警備の厳しい国になったものです。かつてはおおらかな国だったのに9.11以降、徐々に厳しさが激しくなっている。

 本当はいつもパスポートを持ち歩いた方がいいんでしょうが、私などは直ぐに現地に着くとホテルのセーフか部屋の金庫に入れてしまう。持ち歩いてなくしてはと思うからですが、これからはアメリカに行ったときにはちょっと気をつけないと。

 週末にはまたアジア市場の開始を気にしながらの発表が。今回はシティグループに対する新たな救済処置。不良資産のかなりの部分を政府保証にしたり買い取りの対象として、これまで同社に投じた250億ドルに加えて、新たに200億ドルという資金の注入が柱。106カ国に200万の顧客を抱える銀行ですから、やはり「too big to fail」で行くしかないでしょう。

 それにしてもGMといい、シティという動きは急です。シティの株価は週明けでは急騰しているようですが、これでも信頼が戻らないとなるとアメリカの金融市場が抱えている問題は実に実に大きいと言うことになる。

 そうした中、オバマ次期大統領は財務長官にガイトナーなど一連の経済閣僚を発表する。ヒラリーも正式発表の見込み。しかしまだ彼がアメリカの大統領になるには2ヶ月ある。


2008年11月23日(日曜日)

 (23:23)混んではいましたが、飛行も成田着後の都内への交通も非常に順調だった。それにしても、この経済危機にもかかわらず、どうしてまだ世界的に空路は人が一杯なんでしょうか。新幹線の方が早く人の流れの減少が目立つ。

 帰りの飛行機は時間が長いので、眠っていないときには大体映画を見る。明かりをつけて本を読むのも回りの人の迷惑になりそうな気がするし、疲れますから。というわけで、今回も合計4本くらい見たのかな。

 その中で、二つの映画がアメリカが抱える問題をある意味正面から扱っていて面白かった。まずThe Visitorです。前半は主人公の大きな感情の起伏もないまま、映画もたんたんと進む。「訪問者」とは要するにアメリカに毎年250万人は入ってくると言われる不法移民の事です。この映画では、シリアとセネガルからの二人の訪問者が話の中心で、彼等と男性サイドの母親、それと好演が目立つ初老の大学教授との関係が、大学教授の心のひだを描くように興味深く展開する。

 静かな展開、徐々に明らかになってくる映画のテーマ、そして高まっていく出演者の心と、それをはっきりと感じることが出来る我々見る側。良い映画の条件が非常によく揃っている。見ていて、「いい映画だな」と思わざるを得ない展開となっている。

 残念ながら、この「The Visitor」が日本でどういうタイトルでどういう形でリリースされているのか知らないのです。実はその事情は次の映画も同じで、次の映画の題名はSwing Voteというのです。つまりそれで結果が左右される投票の事。

 この映画の場合は全く極端に、つい先頃もあって世界の関心を集めた米大統領選挙が、ケンタッキーのたった一つの郡の、それもたった一人の有権者(男)による、投票マシンが停電(掃除のおばちゃんが電源を抜いてしまった結果なのですが)による投票不備→やり直し投票によって決まるという展開を辿る。

 そのたった一人の男をケビン・コスナーが演じるのです。彼も好演ですが、その娘役が非常に可愛いし賢い。この政治意識溢れる女の子が親にも投票所の人にもこっそりと投票をしてしまうのですが、それが機械に引っかかってしまう。それが問題のやり直し投票となるのです。

 本当にそういうルールになっているのか知りませんが、「10日後のその男の再投票」にすべてが掛かってきてしまうので、二人の大統領候補が「その男の関心を買うために選挙運動をする」というおかしな展開になる。しかし今のアメリカの選挙制度から実際にもごく僅かに起こりうる希有な事態なのが面白い。

 グータラなオヤジと、すこぶるできの良い娘。その娘を捨てて、歌手になると言う夢を追う母親、などなどアメリカが抱える問題もいやというほど出てくる。それが面白い。日本語名をご存知の方は教えて下されば幸甚です。結構笑えもする映画です。

 それともう一つ。HP開設以来なのに多少の変更にとどまっていて、読者の一部からも私自身も「劣化した」と思っていてニューヨークのレストラン情報を今回大幅に書き換えました。こうした形への書き換えには、ニューヨークで知り合いになった松本さんの存在が大きい。長くニューヨークに住む松本さんから実に膨大なデータベースの提供があって可能になった。

 よって、他のページとはかなり違って「私が行っていない店」の情報提供もかなりする形となっている。しかしこのページについてい言うと、キャビン・アテンダントさんのその種の情報も入っていましたから、その部分が肥大化したと言うことも言える。私が常に行ける場所ではないニューヨークの情報ですからそうなる。

 なのですが、ニューヨークを知り尽くしている松本さんからの情報、それにキャビン・アテンダントさんの情報も参考にしていただければハッピーです。


2008年11月22日(土曜日)

 (08:23)まあ言えることは、アメリカは国全体として「深い危機の中にある」ということでしょう。その象徴が、取締役会の一部メンバーが破産法の申請まで検討し始めたGMの惨状であり、ほんの少し前まで「この会社は揺らいでも絶対持つだろう」と思われていた米金融界の代表選手シティグループで進む危機です。

 多くのアメリカ人は、「まだアメリカにはGEがあり、キャタピラーがあり、それにIBMがある」という。しかし、GMやシティのような代表選手の危機が国としての危機を代表していることに間違いはない。今はITのように国を上げての次の産業の目が見えないだけに、余計そう見える。

 Citigroup の株価の下げは驚くほど早い。GMの株価が3ドルを割ったと話題になっているが、Citi の株も既に今週末段階で3.77ドルである。最後の金曜日だけで94セントも下落した。分母が小さいだけに、何十%という落ちだ。高値からは、同社の株価は94%も下げた段階にある。

 同社の会長以下は、今週一時流れた「身売りや一挙の会社ごとの売却」を否定している。この週末も政府かFRBに同社の先行きが安泰である旨の声明か何かを出してもらうために交渉を同社は続けるという。3ドルを割った株価が直ちに会社の先行き不安に繋がったGMの例を見るまでもなく、危機は接近していて、打開策が必要だ。私が飛行機に乗っている間にも、何らかの措置が打ち出される可能性がある。

 GMは、ワゴナーがずっと否定してきた「連邦破産法11条」の申請を検討し始めたようだ。GM支援を表明しているオバマ次期大統領の来年1月20日の登場前に、同社は資金繰りに行き詰まる可能性が高い。その可能性が高いから、既に部品メーカーから何から今後同社は「現金決済要求」に近い扱いを受けるだろう。一昔前なら信じられない事態だ。今の状態で年を越せるとは思えないので、年末までに一時は誰もが考えなかった「GMが破産法を申請」と実際になる可能性が高い。

 そうした方が良い、というのが私の考えでもある。破産法を申請し、トップ・マネジメントを代え、legacy cost にも労組との関係にもメスを入れ、再出発するのである。だからといってGMが直ちに「売れる車」を作れるようになるとは思えないし、ワゴナーが言うように「破産した会社の車は消費者は買わない」と言うことはあるかも知れないが、まだ再生の道は開ける。今ずるずると米政府が資金を注ぎ込んでも、今のGMでは再生の機会はない。税金の無駄使いだ。

 GMがいってしまうと、多分クライスラーも危ない。ということは、「ビッグ・スリー」という使い慣れた単語の運命も風前の灯火だということだ。ウォール・ストリート・ジャーナルは以下のようにGM取締役会の中での動きを伝えている。主に社外取締役の動きらしい。

DETROIT -- Members of General Motors Corp.'s board of directors are willing to consider "all options" for the ailing auto maker, including an eventual filing for bankruptcy protection, a stance that puts them in rare disagreement with Chairman and Chief Executive Rick Wagoner, people familiar with the matter said.

As part of his push to win a federal bailout for the company, Mr. Wagoner told Congress this week that GM management believes bankruptcy protection is not a viable option for the company. Instead, GM is focusing on persuading lawmakers to provide financial help, Mr. Wagoner said.

 たった一ヶ月が前回の出張取材から過ぎただけなのに、他の会社を積極的(一部は押しつけられていたが)に買収していたシティが今は「切り売りや買収されるかも」という状況にある。事態の変化は素早く激しい。オバマが登場するまでには、まだ2ヶ月ある。

 市場経済の伝道者のアメリカが、市場経済という海の木の葉のように揺られている。しかしアメリカには、修正市場主義しか取る政策余地はないでしょう。それはオバマ次期大統領も多分そうです。しかしどう「修正」すれば経済が安定するかはちょっと分からない。deleverage には10年かかるという人もいる。

 10月の取材の時と同様に、小口、椎名両氏にはお世話になった。Dの渡辺氏も一人二役で大変だったと思う。この3人は私が帰った後もシカゴで取材し、日本に帰ってくるのは来週の半ばである。今回の取材で一つ心残りがあるとすれば、ワシントンがあまりにも「in a transition mood」で取材先との都合が合わずに、行って雰囲気を見ることが出来なかったことか。

 まあそれは少し固まってからの方が良いかも知れない。いずれにしてもオバマの登場でアメリカは変わる。ブッシュの時代に一方に引っ張られていたペンデュラムが振りかえるように。内閣のメンバーも感謝祭の前にはかなり決まるでしょう。ガイトナー財務長官とか、ヒラリー国務長官とか。

 日本も「in a flux」の状態のようですね。また小沢、麻生の不信が続き、その麻生さんも党内から厳しい批判に。口は災いの元ですが、喋らないで過ごせる首相職なんてない。元厚生事務次官宅襲撃事件では、出頭者があったとか。どこの国も騒がしい。

 また14時間か。まあ飛行機の中でまとめておきたいことはいっぱいある。


2008年11月21日(金曜日)

 (00:23)新しいエッセイ「環境」の一文字もない!がアップされました。この記事は確か出張の頭で飛行機の中などを利用して書いた文章ですが、相当頭に来ながら、つまり怒りながら書きました。

 「成長」が重要なのは分かる。しかし、「成長の質」も明らかに必要な時代なのに、何の言及もなし。がっかりです。

 「怒った」のではなく、「驚いた」のがパンチクリン君の一丁上がりかな。ニューヨークに来ると私がこう呼んでいる方とは情報交換もあってメシを食べるのですが、今回は「フィアンセを連れて行く」と。最初は冗談だと思った。どう見てもその気配が今までなかったので。

 そしたらちゃんと現れた。来年2月ですと。3人で飯を食べて(「安田という寿司屋でした。ちょっとご飯が固いが、外人で一杯」)、その後さらに商社の広報の方も合流して軽く一杯。ははは、そこはまずまずのバーでしたが、メチャ混んでいました。

 うーん、どうしてあのステーションの方々は外資系の方々と出来上がるのか....などと考えながら次の仕事に取りかかるのでした。


2008年11月20日(木曜日)

 (17:00)取材先でインタビューを終えてふとそこにある株価ボードというかテレビを見たらブルーンバーグで、ニューヨーク・ダウの引値が444.99ドル安(7552.79ドル)と。「またか」と思いました。昨日も引け際の1時間で売り殺到から下げた。今日も。下げ幅は444と99と実に覚えやすい数字。ははは、本当に死にそうな人もいるに違いない。

 もうこうなったら「下げの理由」は理屈ではない。ニューヨーク・タイムズにいみじくも書いてあるように「fear and uncertainty」で、その中には景気の著しい悪化懸念、デフレ懸念、有名企業の行き詰まり懸念などなど。アメリカは言ってみれば「株の国」です。誰もが株をかなり自分の生活の中に入れている。401kだったり、貯蓄の代わりのささやかな投資だったり。

 それが高値の半値に接近している。確か14000ドルちょっとが高値ですから、まあ半値は7000ドル。今日の引値は、また今日くらい落ちたらそこに到達するというレベル。

 しかし考えてみると、日本の株価は39000円近くから7000円台に落ちている。日本の39000円近くが行き過ぎだったとしても、その割合から言えばアメリカの株価にはもっと下げ余地がありそうにも見える。グリーンスパンが「根拠なき熱狂」を警告したのは、1996年12月5日で確か6000ドル台だったような。

 言えるのは、日本の株価の下げよりはアメリカの株価の下げは家計に打撃になる、ということです。取材先のある人が、アメリカの個人消費のGDPに占める割合は「直近では72%になっていた」と。そりゃ高い。

 アメリカのこの高い消費が落ちることは健全なのです。しかしその落ちる過程の痛みは相当大きい。オバマもそれはシカゴで言っている。しかしどのくらい耐えられるか分からない。着地は理想としては60%台の下の方でしょう。しかしその場合には、世界経済の調整も大きくなる。

 誰がこの消費の落ち込み、需要の落ち込みを補填できるのか。まあ候補はいっぱいあるが、それらの国もそれぞれ問題を抱えている。需要の移転がうまくいかなければ、世界経済そのものが成長率を落とすと言うことになるのでしょう。しばらくは。


2008年11月19日(水曜日)

 (07:45)アメリカの本屋を覗くと、写真のようにオバマ一家を表紙にした雑誌が山のように置いてある。バラク・オバマ個人だけではなく、既にファミリー全体が人気になっているのです。

 例えば、二つの雑誌を比べてみると見出しも似ている。

 「First Daughters' excitement & fears; new school,a puppy & new rules!」(US)
 「New home,new friends,new puppy ! All about their move to the White House」(People)

 となる。この手の雑誌は、自動車業界がどうとか次の国務長官はヒラリーかとかいうよりも、このファミリーがシカゴからワシントンに移ってホワイトハウスの住民になるときに、転校とかをどう乗りこなし、何を着て学校に通い、大統領になったバラック・オバマが父親としてどう振る舞うか、ミッシェルがどういうファースト・レイディーや母親になるのかに興味があると思える。

大人気でアメリカの一般的な雑誌の表紙に登場しまくりのオバマ一家  文章を読んでいくと、ほほえましい話が一杯出てくる。まあアメリカ国民の多くにとってオバマ・ファミリーは羨望の的であり希望の星でもあり、その一挙手一投足が注目の的になってくると言うことでしょう。今はシカゴにいるので、その気分は特にシカゴの多くのアメリカ人が共有していると思える。

 まあしかしそうでない人もアメリカには一杯いるわけで、それが多様な国・アメリカの特徴ですが、シカゴのオバマ氏回りの警備の厳重さから見て、この二律背反性(一方で人気、一方で反感も強まる)にどう取り組むかは、今後少なくとも4年間のアメリカ政府全体の問題になるでしょうね。特に警察の。恐らく来年1月20日の就任式(チケットの転売禁止が決められた)も相当厳しい警備になると思われる。

 話は変わりますが、MLBのアメリカン・リーグのMVPにダスティン・ペドロイアが選ばれたのは、ずっと彼には注目していた私としては、「納得」という印象。あのいつでもバリバリにバットを振るスイングは圧巻です。小柄ですよ。自分でも、「自分が街を歩いていたら、誰も俺を野球選手だとは思わないだろうね。ずっとこの問題とは直面してきたんだ」と自分で言うくらい。

 彼が投票で集めた票が317。圧倒的です。2位がツインズのモーナー。257。三位がユーキリスの201。レイズからはペーニャがやっと9位に入っている。ペーニャの二つ下がロンゴリア(レイズ)。日本人はいないかと思ったら、イチローが1票。マリナーズで入っていたのはむろん彼だけ。

 イチローとペドロイアは同じヒット213本で同じなのですが、まあ新鮮さと言ったらペドロイアでしょう。「二年目のジンクス」というのは、アメリカでは「a sophomore slump」と言うらしいのですが、まあ彼の場合はどうなんでしょうか。あのスイングには魅力がある。二塁手がMVPになったのは、1959年以来らしい。

 その他で私が注目したニュースは

  1. アメリカの自動車メーカートップは昨日議会で「援助」を懇願したのですが、議会は冷たかった。GMとクライスラーの二社が「援助がなければ年内にも資金ショートになる」と訴えたのですが、支援を主張している民主党の中からも「今更」という空気だったらしい。そのGMとクライスラーはロスで開かれるエコが中心的テーマの自動車ショーにほとんど出品しないそうだ。幹部も行かないと。うーん.....それじゃじり貧ですな。日本車やドイツ車メーカーはかなり手厚い展示をするらしいのに。

  2. 軍への入隊を希望する若者が増えている、という。聞かれて「恐らく軍に入る」と答えた若者の割合は今年上半期の間に9%から11%に増えたという。景気が悪くなったのと、イラクの情勢が安定化したことが理由と。

  3. ニューヨークのブロードウェーにも不況の波が。特に10月の半ばからの客足の落ち込みが激しいらしい。劇場の客の入り具合は現在71%だそうで、10月中旬から既に五つの出し物が「近く終了」を宣言したという。Spamalot、Hairspray、Spring Awakeningなどがその中に入っているという。Hairsprayは日本でだったか見た気がする。映画かな。「10月中旬から」というのが面白い。リーマンが逝ったのが9月14日。一ヶ月間は予約で埋まっていて、10月になって影響が出たと言うことか。


2008年11月19日(水曜日)

 (00:45)別に何かあったわけではないが、改めてインタビューは難しいな、と思いました。

オバマが若き頃活躍したオールトゲルド・ガーデン地区の入り口にある表示板  いろいろな番組で、インタビューは何回となくしています。政治家だったり、エコノミストだったり、科学者だったり、研究者だったりする。言ってみれば彼等は一般的には私よりその問題については知識が上だったり、当該の世界に詳しい人だと言える。

 実はそういう人達へのインタビューは結構楽なのです。なぜなら、ある意味でこっちから「本音を聞き、本質を聞き、そして知識を引き出す」ことをすれば良い。まあ言ってみれば「チャレンジし突っかかっていけば良い」のです。なぜならそういう人達は私より必ず強いモノ、強い知識を持っている。時に優しくなることは必要だが、強者には正直強く聞ける。

 それはノーベル経済学賞を取ったばかりのポール・クルーグマンでも同じ事です。偉業を達成した、それが評価されたと言うことではアウトスタンディングな人ですが、私としては非常に聞きやすかった。周りの人の方が緊張していた。彼のこれまでの主張も知っているし、彼の人柄も文章を何度も読んでいるので知っている。まあ言ってみれば、「知人への、知り合いへのインタビュー」なのです。

 しかし難しいのは今まで会ったこともない種類の人達、社会的には弱いと考えられる人達へのインタビューです。これは難しい。なぜなら、これはあまり私自身があまり経験したことのないことを想像しながら聞かねばならない。

 具体的にはレイオフされたり、自分が買った家が人手に渡ってしまったり、今家族が困っている人達へのインタビューです。私はレイオフされたこともないし、家を失ったこともない。「レイオフされたけど、どうですか」では、「悲しいに決まっているだろう....」となってしまう。入り口が実に難しいのです。

 まあそれは別に今回に限ったことではない。それは以前からなのですが、今回はそういうアメリカ経済の苦境に喘ぐ人達と数多く会っているので、余計そう思うわけです。今の状況に立ち至ったことについては、皆それぞれ思いがある。反省もしているのでしょう。

 しかしだからこそ、他人に触られたくないことも一杯あるはずです。それでもインタビューに応じている。「俺に言わせろ」という人もたまに現れるが、必ずしもそうではない人もいる。しかし、こちらも「聞いて良かった」というところまでインタビューを深めるためには、それを意図的に避けていてもいけない。最後には触らなければならない問題もある。

オールトゲルド・ガーデン地区にあったスーパーマーケットの残骸。いかにも廃れた感じがする。オバマ氏が活躍していた頃はどうだったのか  最初は何と言っても「心を開いてもらうこと」でしょうか。このことについては、失敗も成功も今回はある。相手の目をしっかり見て、「あなたの言うことを真剣に聞いていますよ」という姿勢をはっきり示すことは当然必要だが、あるときには聞きたいことに到達するのにちょっと時間をかけていろいろな「感情を共有しながら」進む必要があるし、それが礼儀というものでしょう。

 今回思ったのは、決して急いではダメということです。あまり長くてもいけないが、「この点だけ聞けばよい」という態度は相手にも伝わってしまう。また重要なのは、せっかく良いインタビューだったとしても、出来上がった番組の中では使われない部分も多いし、全く登場させしないケースもある。インタビューに出た人はある意味で、「(番組のVTRに)出る事を覚悟し、一方でそれを楽しみにしながら」応じる。だから例えば今は私はアメリカにいますが、「これはいつの番組だ」「こちらでは見れないのか」とインタビューした相手によく聞かれる。

 「DVDは送るから」と言っても、わずか出来上がりの番組は1時間程度、長くて2時間の番組。それに入りきらないで全く出てこないインタビューや取材はいっぱいある。だって、長い場合は一本のインタビューが1時間以上かかりますから、切らざるを得ない。番組の中では重要な要素が入っているところを取り出さざるを得ないのです。

 私のような人間は、例えば雑誌のインタビューを1時間近く受けても、使われるのはたったワンだったりツー・センテンスなんてことはしょっちゅうなので慣れている。しかしそうじゃない人達もいる。だからインタビューが入っている日には、「何から聞こう」「きっかけが出来たらこう展開しよう」と一生懸命考えるのです。

大部分の棟が老朽化し、既に出入り口、窓などすべて目張りされていて使われいない。ところでころにまだ生活の臭いがあるが、住んでいる人はごく少ない。ゴーストタウンのように薄気味が悪い  インタビューが難しいのは、相手が言っていることを聞きながら、その流れの中で次に何を質問したらよいのかを考えなければならない点です。これは日本語の時は結構楽です。しかし英語で質問し、その答えを英語で聞きながら、その最中に次の質問を英語で考えるというのは結構難しい。私の場合は相手が英語を喋れば通訳を入れずにやりますから、ずっとそれを続けるわけです。そして最後に聞き残したことはないかともう一度考えるわけです。

 一回死にそうになったことがある。ナマでの話です。インド人が電話の先にいてまず英語で質問し、聴取者に「こう聞きました」と説明し、相手の喋りを聞いた後でまたそれを聴取者に「彼はこう言ってました」と説明し、その過程で次の質問を英語で考える......というやつです。はっきり聞き取れれば良い。しかし相手はインド人。その英語が実にインド訛りであまり良くわからない。パニくりましたよ。この時は本当に逃げ出したくなった。ナマですからね。しかも事前の打ち合わせもする時間がなかった。

 まあでも通訳を入れたらインタビュー時間が二倍になってしまう。取材効率が悪いわけです。少なくとも経済については、通訳さんより中味は私の方が知っているし、ニュースも追っている。まあ時々次の質問を考えているときにふっと「あれ今彼は何を言ったんだ」とアットアロスすることもある。聖徳太子にならないといけない。

 ところで、昨日話題にした若きオバマが1985年6月から1988年5月まで3年弱社会活動家として働いたオールトゲルド・ガーデンズに再び行ってみました。どうしても気になったからです。もう一度見たいし、写真も撮りたいと。上の三枚がそれです。いつもの通り写真の上にカーソルを乗せて頂けると説明が出てきますが、改めて上からを順番に説明すると

 「オバマが若き頃活躍したオールトゲルド・ガーデン地区の入り口にある表示板」
 「オールトゲルド・ガーデン地区にあったスーパーマーケットの残骸。いかにも廃れた感じがする。オバマ氏が活躍していた頃はどうだったのか」
 「大部分の棟が老朽化し、既に出入り口、窓などすべて目張りされていて使われいない。ところでころにまだ生活の臭いがあるが、住んでいる人はごく少ない。ゴーストタウンのように薄気味が悪い」

 当のオバマ氏のその後は、シカゴで自宅と連邦ビルの事務所を往復しながら、次期政権の骨格を作っているらしい。連邦ビルはシカゴ商品取引所(CBOT)の直ぐ近くにあって、凄まじい数の警官がいる。国務長官にヒラリー・クリントンを検討しているだとかいろいろ言われているが、まだ大きなところは決まっていない。司法長官が決まったのかな。

 今回の一連の取材ではいろいろなオバマへの期待が見えてきて、それは番組(来年の1月1日)に紹介できると思うのですが、だからといってまだ上院議員になったばかりの若き次期大統領がどういう人か分かったわけではない。ブッシュの場合は非常に分かりやすかったのですが、オバマは違う。

 今回の取材で彼の活動の原点をしっかり見れたことは良かったと思う。明日、いや今日19日にはニューヨークに移動します。


2008年11月18日(火曜日)

 (00:45)ちょっとショッキングでしたね。「上院議員であり、ハーバード・ロー・レビューの編集長だった」といろいろと次期大統領であるバラック・フセイン・オバマには経歴があるのですが、シカゴの貧しい人達が住むサウスサイド、もっと具体的にはその中でも酷いと言われるオールトゲルド・ガーデンズで何を思い、何をしていたのかずっと知りたいと思っていました。人の原点というのは、その人の若いときの思いにあることが多い。若いときの思いというのは、結構続くものだからです。彼が考え方を形成した場所は是非見ておきたいと。

 常識的に考えれば、彼は通常の人が選ばない道を歩んでいる。ケニアからの留学生である実父のバラク・オバマ・シニア(Barack Obama, Sr. 1982年没 ケニアのニャンゴマ・コゲロ生まれのイスラム教徒で教授だったという説もある)と、母親であるカンザス州出身の白人、アン・ダナム(1995年没 人類学者)の子供であることは良く知られている。ハワイで生まれ、母親の再婚先の夫の国インドネシアで小学校時代を過ごしたことも、そしてハワイで母方の両親と高校まで住んだことも知られている。

オバマが勝利宣言したグランとパークをシアーズ・タワーからのぞむ  しかし、母方の両親の元での人生とその後数年間はどちらかというと優等生(マリファナなどをしたにしても。当時は普通だったと思われる)タイプである。ウィキペディアには、「1979年に同高校を卒業後、カリフォルニア州ロサンゼルスの私立オクシデンタル単科大学に入学。2年後、ニューヨーク州のコロンビア大学に編入し政治学、特に国際関係論を専攻する」と書いてある。コロンビア大学に編入し、かつ卒業できたのだから優秀だった。

 問題はその後だ。「1983年に同大学を卒業後、ニューヨークで出版社やNPOで勤務し、1年間を過ごした」と日本語のウィキペディアには書いてあるが、「ニューヨークのコンサルティング会社で高給を取っていた」(日経BP)という説もある。この二つは矛盾しないのか。この点を英語版のウィキペディアで調べてみると「Obama graduated with a B.A. from Columbia in 1983, then at the start of the following year worked for a year at the Business International Corporation and then at the New York Public Interest Research Group.」とある。

 では「the Business International Corporation」「the New York Public Interest Research Group」とは何か。リンク先を探ると、前者は「a publishing and advisory firm dedicated to assisting American companies in operating abroad」とあり、出版とコンサルタントを両方していることが分かる。これで二つの説明はちょっと繋がる。では後者は何者か。

 リンク先を辿ると説明が書いてある。「a New York State-wide non-partisan political organization」。これだけでは分からない。もっと読み進むとラルフ・ネーダー(消費者運動の提唱者)の名前が出てきた後に興味深い記述がある。

One of Barack Obama's first community organizing efforts after graduating Columbia University was in conjunction with the campaign. In 1984 (or possibly 1985 -- accounts differ), Obama was among the leaders of May Day efforts to bring attention to the subway system particularly the station serving CCNY. Obama traveled to stations to get people to sign letters addressed to local officials and the MTA. Obama was photographed holding a sign saying "May-Day! May-Day!! Sinking Subway System!"
 「station serving CCNY」というのは具体的には「137th Street City College (IRT Broadway Seventh Avenue Line)」のことだという。つまりオバマはコロンビア大学の直ぐ近くの地下鉄の駅の問題に取り組んでいたと言うことになる。「the Business International Corporation」と「the New York Public Interest Research Group」の二つのオーガナイゼーションではテーストが違うから、この二つのオーガナイゼーションを移るときに彼の気持ちに大きな変化があったのだろう。その大きな変化があったあとで、彼はシカゴに行く。彼の人生の中でシカゴがなぜ浮かんだのかは分からない。何か秘密があるのかも知れない。

 日経BPオンラインには「住民が抱える社会問題を解決するために、年俸1万ドルで地域活動家になった」と記述してある。「高給から年俸1万ドル」は大きな差だ。一説には、「自分は黒人だが、実際には黒人の中で生活したこともなければ、黒人の生活も知らない」という気持ちがあったとも言われる。うーん、この辺は彼の自伝を東京の家に帰ってまた読み直さないと。

 そこで彼が「社会活動家」として選んだのが、シカゴのサウスサイド、特にオールトゲルド・ガーデンズなのだ。では、オールトゲルドとは何か。ちょっと調べたらやはりドイツ系の人だった。19世紀末の初の民主党イリノイ州知事の名前があった。「プロジェクト」と呼ばれる貧しい人達用の住宅地区に付ける名前としては適切かも知れない。

 前置きが長くなりました。論理的に考えないと意味が分からなくなるので。で「ショックを受けた」というのは、月曜日に時間があったのでそこに行ってみたのです。「原点を見たい」と。それはそれは殺伐とした風景でした。ちょっと写真を撮るのも憚られるような。二階建ての低層の茶色の粗末な集合住宅が点在している。同じ「プロジェクト」でも、ニューヨークの場合は10階建てくらいの一応マンション風のビルですし、渡辺氏の話によると西海岸の「プロジェクト」は明るい色に塗られているというのです。しかしシカゴのこの地区の「プロジェクト」は逃げ出したくなるほど酷い。

 車を走らせても、ほとんどの家の入り口や窓は黒く目張りがしてある。時々窓が開いていて人の気配がしていても、酷い貧しさを感じる家ばかり。人にほとんど出会わない(実際のところゴーストタウンの風情です)のですが、たまにいる住民は「predominantly black」です。一人だけ白人がいましたが、それは一応リノベートしている工事の人で、道を聞いたら最後に「be careful」と言われた。まあこれはシカゴのサウスサイドの一角の話でしょうが、日本人の私には近寄りがたく、車を降りる気にもならなかった。

 では彼はなぜここに来たのか。英語版のウィキペディアには以下のように書いてある。

After four years in New York City, Obama moved to Chicago, where he was hired as director of the Developing Communities Project (DCP), a church-based community organization originally comprising eight Catholic parishes in Greater Roseland (Roseland, West Pullman, and Riverdale) on Chicago's far South Side, and worked there for three years from June 1985 to May 1988.During his three years as the DCP's director, its staff grew from one to thirteen and its annual budget grew from $70,000 to $400,000, with accomplishments including helping set up a job training program, a college preparatory tutoring program, and a tenants' rights organization in Altgeld Gardens. Obama also worked as a consultant and instructor for the Gamaliel Foundation, a community organizing institute. In mid-1988, he traveled for the first time to Europe for three weeks and then for five weeks in Kenya, where he met many of his Kenyan relatives for the first time.
 つまり、「was hired as director of the Developing Communities Project (DCP)」(雇われたからだ)と。彼の功績として、スタッフの数を一人から13人にしたとか、予算が7万ドルから40万ドルになったというのは良く取り上げられる。しかしこの記事には具体的な内容として「a job training program, a college preparatory tutoring program, and a tenants' rights organization in Altgeld Gardens」とある。つまり、貧しい人達の社会的地位が将来上がるようなことをした、テナントの権利向上に尽くしたということです。

 住民の教育レベルを上げるとか、住宅で使われていたアスベストを除去するなどの活動なのだが、彼は3年弱(1985年6月から1988年5月)に渡って年収1万ドルかそれにやや増額があった程度の給与で働いた後、シカゴのこの地区での活動に見切りを付けるわけです。彼が見切りを付けたからなのか、社会的圧力のなせる技なのか(もちろん後者が大きいが)、今でもオールトゲルド・ガーデンズは凄まじく放棄された雰囲気の中にある。つまり彼の3年間の努力は、「その時の成果」で終わって長続きはしなかったという事だ。

シカゴ商品取引所(CBOT)での取材風景。フロアにも降りました  実際にそこを見回りながら、あまりにもの荒廃ぶりに「結局この地域は良くなっていない」というのが私が下した印象です。「いったいオバマの努力はどこに行ったのか ?」

 ここにこそ、オバマの発想の原点、というか転換があるのかもしれない。彼は恐らく「地道な努力を続けても地域を変えることは出来ない」と考えたはずです。まあ言ってみれば、彼はそれを言わないだろうが「上からの改革」を意識したはずだ。これは私の推測ですが。

 そこでハーバード大学に入るわけです。それは非常に合目的的な行為に私には見える。政治に携わりたい、政治家になりたいと考えるのなら、ハーバードは悪くない。「彼には拘泥しない合目的性がある」と思う。そなまま社会活動家を続ける道だったあったはずだ。シカゴを一端去った後のオバマの優秀さは良く喧伝されている。

Obama entered Harvard Law School in late 1988. At the end of his first year, he was selected, based on his grades and a writing competition, as an editor of the Harvard Law Review.In February 1990, in his second year, he was elected president of the Law Review, a full-time volunteer position functioning as editor-in-chief and supervising the Law Review's staff of eighty editors.Obama's election as the first black president of the Law Review was widely reported and followed by several long, detailed profiles.

 文章もうまかったことが分かる。2004年の前々回選挙までは「誰も知らなかった」とされるが、この文章だと1990年にはオバマはそこそこ時の人になっていたことが分かる。私は覚えていませんが。当時の新聞を調べれば面白いかも知れない。ハーバードを優秀な成績で出たのだから、法曹の道とか一杯道はあったはずだ。事実、声もかかっていたようだ。しかし思い、履歴でしょうね、彼はまたシカゴに戻った。シカゴの住民はそれをまた「彼を好きになる点」として挙げるのです。

 ははは、長くなってしまいましたね。でも、シカゴのサウスサイド、オールトゲルド・ガーデンズの印象は強烈だったのです。「Altgeld Gardens」という看板は、ちゃんと道に掛かっていました。しかし、カメラを向ける気にはならなかった。機会があったらまた行きますが。次はニューヨークですから、機会があったらその「the New York Public Interest Research Group」というのも面白いかも知れない。何せ彼の原点がそこにある。


2008年11月17日(月曜日)

 (00:45)シカゴは寒い日曜日でした。雲が立ち込め、午後はずっと積もるような代物ではないが、ちらちら雪が。きっとマイナスかプラスに顔を出すくらいで推移したと思う。Fで33度でしたから、私の記憶だとこれは日本で言えばゼロ度。

 相変わらず週末もなく働いていて、ちょっとシカゴから南に行った住宅地に。1時間半以上も車を走らせました。結構これが「ハート・オブ・アメリカ」の雰囲気があって良かった。ニューヨークや西海岸にいるとこういう場所にはなかなか来ない。私にとってゆっくりとアメリカの心臓部近くを見たのは2006年のアイオワ以来かな。その前も何回もこの辺には来ていますが、数日間滞在するというのはなかった。

 日本は週末だというのに、なんやかやと電話が多かった一日でした。PCをどう修理するかという電話が多いんですけど。まあいろいろ調べてくれたようで、結局「メモリーが悪い」という結論になったそうです。

2006年の時と同じ店で。我々の直ぐ後ろにあるテーブルが2年前に撮った写真の場所。今回も日曜日なのに混み合っていた  「メモリーが悪い、それがハードディスクに影響している」と言われましたが、私としては「じゃ、メモリーを代えてよ」と思うのですが、「メモリーを修理します」と。うーん、まあ日本に帰ったときに直っていてくれればハッピー。今のところ他のマシンが動いていますから。

 15日の「地球特派員」を見たという人から、ケイタイにだったり、ネットメールアドレスにだったりいろいろメールを頂いている。大枠を知っていますが、私はまだ完成品を見ていない。録画してあるので楽しみですが。

 備忘のために、日曜日(11月16日)のアメリカの新聞から気になったニュースを。

  1. アメリカの個人破産(personal bankrupcy)が10月に前月に比べて約8%も増加した。米個人破産は過去2年間一貫して増大してきたが、10月は10万8595件と2005年に個人破産を難しくする法律が通って以来初めて10万の大台を突破した。10月の1営業日当たり平均の個人破産発生件数は4936件で、これは2007年の同月に比べて約34%も増加している。失業、医療に関わる支払い、離婚、景気悪化など通常の景気後退期に見られる原因とは別に、「銀行の融資姿勢の厳格化」が最近の米個人破産増大の大きな原因となっているのが特徴。カード等々、アメリカの銀行は厳しくしていますからね

  2. アメリカの大部分のエグゼクティブと同じようにブラックベリー(四角張ったアメリカ人が好んで使うモバイル機器)大好き人間で、ベルトにいつも装着し、外部の人との接触でこの小さなモバイル機器を一番よく使うオバマ次期大統領だが、彼はもうすぐこのマシンを使えなくなるかも知れない。大統領が外部との交信に使う機器や記録に関する法律(the Presidential Records Act 大統領交信記録の保持・公開に関する法律)もあり、またブラックベリーの電子メールのセキュリティーに関する疑念もあり、間もなくオバマ次期大統領は自分のブラックベリーを取り上げられる可能性大だとか

  3. そのオバマは金融サミットが行われたワシントンにも行かずにシカゴ市内の自宅と政権準備チームが入っているビルの往復(ジョギングなどをしたり、スポーツジムには行くようだが)しているが、この警備にシカゴ警察は90人も余分の警察官を警備に使わなくてはならず、予算的にも相当困っているらしい。米各州の財政は相当悪化していて、この予算の回し処に困っているという

  4. GMの経営危機の深刻化で、例えばゴルフのビュイック・オープンなどGMやその部門の名前が付いた冠スポーツ大会が大幅に減りそうで、こうしたスポーツイベントの縮小や廃止が今後議論に上ってくる可能性が大だという。GMは米オリンピック委員会の公式スポンサーを長く務めたし、米TVのテレビ広告のもっとも有力な提供会社の一つ(スーパーボール、ワールド・シリーズなど)だったが、今後はこれも減少の見通し

  5. ウォール・ストリート・ジャーナルの週末版の第3部かな、一面の大きな見出しは「Just Say No To Detroit」でこれがなかなか面白い。私がアメリカのメディアの中で見た一番理路整然とした「デトロイトなんてなくなっても良い」論です。まあ私もこの意見に賛成ですね。UAWは今になって、「デトロイトの苦境は最近のガソリン価格上昇と金融危機だ」と言っているようですが、70年代からビッグスリーを見ている身としては「何を言っているんだ」という感じ。数字も揃っていて、一読に値


2008年11月16日(日曜日)

 (00:45)危機を受けた初めての世界サミットとしてのG20に評価できる点があるとするなら、「流れを作った」ということでしょうか。掲載した最終声明の最後にありますが、来年の3月31日までにやることと中期的にやることをいくつかの項目で「これでもか」と列記した。

 はっきり言って目新しいものはない。目新しいものはないが、20カ国もの多くの国から首脳を集めて開いたのだから、それ自体が「政治的意志の表明」にはなっている。まあブッシュが会談後に記者団にPresident Bush Attends Summit on Financial Markets and the World Economyで述べているように、「そんなことが出来るのか」「会議はいったいどうなるのか」というところから、よくここまで来た、ということでしょう。

 会議はFact Sheet: Summit on Financial Markets and the World Economy という形で成果をファクト・シートとして残したものの、「声明」と呼べるものは以下の文章のようなので、備忘のためにここに掲載しておきます。かなり読み進んだが、エキサイトする文章はどこにもない。

 まあオバマも参加と予想された当初に比べれば、レームダックのブッシュでは最初から期待値は低かった。はっきりって、「ブッシュもここまで良くやった」というところでしょうか。文章を長々と作ったと言うことは、中味がなかったから一生懸命官僚が「これでもか」と作ったと考えられる。

 比較的興味深く読んだのは、3〜12くらいまでかな。あくまでもベースは「自由な市場」だというのがはっきり書いてあるのが評価できる。

DECLARATION

SUMMIT ON FINANCIAL MARKETS AND THE WORLD ECONOMY

November 15, 2008

1. We, the Leaders of the Group of Twenty, held an initial meeting in Washington on November 15, 2008, amid serious challenges to the world economy and financial markets. We are determined to enhance our cooperation and work together to restore global growth and achieve needed reforms in the world's financial systems.

2. Over the past months our countries have taken urgent and exceptional measures to support the global economy and stabilize financial markets. These efforts must continue. At the same time, we must lay the foundation for reform to help to ensure that a global crisis, such as this one, does not happen again. Our work will be guided by a shared belief that market principles, open trade and investment regimes, and effectively regulated financial markets foster the dynamism, innovation, and entrepreneurship that are essential for economic growth, employment, and poverty reduction.

Root Causes of the Current Crisis

3. During a period of strong global growth, growing capital flows, and prolonged stability earlier this decade, market participants sought higher yields without an adequate appreciation of the risks and failed to exercise proper due diligence. At the same time, weak underwriting standards, unsound risk management practices, increasingly complex and opaque financial products, and consequent excessive leverage combined to create vulnerabilities in the system. Policy-makers, regulators and supervisors, in some advanced countries, did not adequately appreciate and address the risks building up in financial markets, keep pace with financial innovation, or take into account the systemic ramifications of domestic regulatory actions.

4. Major underlying factors to the current situation were, among others, inconsistent and insufficiently coordinated macroeconomic policies, inadequate structural reforms, which led to unsustainable global macroeconomic outcomes. These developments, together, contributed to excesses and ultimately resulted in severe market disruption.

Actions Taken and to Be Taken

5. We have taken strong and significant actions to date to stimulate our economies, provide liquidity, strengthen the capital of financial institutions, protect savings and deposits, address regulatory deficiencies, unfreeze credit markets, and are working to ensure that international financial institutions (IFIs) can provide critical support for the global economy.

6. But more needs to be done to stabilize financial markets and support economic growth. Economic momentum is slowing substantially in major economies and the global outlook has weakened. Many emerging market economies, which helped sustain the world economy this decade, are still experiencing good growth but increasingly are being adversely impacted by the worldwide slowdown.

7. Against this background of deteriorating economic conditions worldwide, we agreed that a broader policy response is needed, based on closer macroeconomic cooperation, to restore growth, avoid negative spillovers and support emerging market economies and developing countries. As immediate steps to achieve these objectives, as well as to address longer-term challenges, we will:

Common Principles for Reform of Financial Markets

8. In addition to the actions taken above, we will implement reforms that will strengthen financial markets and regulatory regimes so as to avoid future crises. Regulation is first and foremost the responsibility of national regulators who constitute the first line of defense against market instability. However, our financial markets are global in scope, therefore, intensified international cooperation among regulators and strengthening of international standards, where necessary, and their consistent implementation is necessary to protect against adverse cross-border, regional and global developments affecting international financial stability. Regulators must ensure that their actions support market discipline, avoid potentially adverse impacts on other countries, including regulatory arbitrage, and support competition, dynamism and innovation in the marketplace. Financial institutions must also bear their responsibility for the turmoil and should do their part to overcome it including by recognizing losses, improving disclosure and strengthening their governance and risk management practices.

9. We commit to implementing policies consistent with the following common principles for reform.

Tasking of Ministers and Experts

10. We are committed to taking rapid action to implement these principles. We instruct our Finance Ministers, as coordinated by their 2009 G-20 leadership (Brazil, UK, Republic of Korea), to initiate processes and a timeline to do so. An initial list of specific measures is set forth in the attached Action Plan, including high priority actions to be completed prior to March 31, 2009.

In consultation with other economies and existing bodies, drawing upon the recommendations of such eminent independent experts as they may appoint, we request our Finance Ministers to formulate additional recommendations, including in the following specific areas:

11. In view of the role of the G-20 in financial systems reform, we will meet again by April 30, 2009, to review the implementation of the principles and decisions agreed today.

Commitment to an Open Global Economy

12. We recognize that these reforms will only be successful if grounded in a commitment to free market principles, including the rule of law, respect for private property, open trade and investment, competitive markets, and efficient, effectively regulated financial systems. These principles are essential to economic growth and prosperity and have lifted millions out of poverty, and have significantly raised the global standard of living. Recognizing the necessity to improve financial sector regulation, we must avoid over-regulation that would hamper economic growth and exacerbate the contraction of capital flows, including to developing countries.

13. We underscore the critical importance of rejecting protectionism and not turning inward in times of financial uncertainty. In this regard, within the next 12 months, we will refrain from raising new barriers to investment or to trade in goods and services, imposing new export restrictions, or implementing World Trade Organization (WTO) inconsistent measures to stimulate exports. Further, we shall strive to reach agreement this year on modalities that leads to a successful conclusion to the WTO's Doha Development Agenda with an ambitious and balanced outcome. We instruct our Trade Ministers to achieve this objective and stand ready to assist directly, as necessary. We also agree that our countries have the largest stake in the global trading system and therefore each must make the positive contributions necessary to achieve such an outcome.

14. We are mindful of the impact of the current crisis on developing countries, particularly the most vulnerable. We reaffirm the importance of the Millennium Development Goals, the development assistance commitments we have made, and urge both developed and emerging economies to undertake commitments consistent with their capacities and roles in the global economy. In this regard, we reaffirm the development principles agreed at the 2002 United Nations Conference on Financing for Development in Monterrey, Mexico, which emphasized country ownership and mobilizing all sources of financing for development.

15. We remain committed to addressing other critical challenges such as energy security and climate change, food security, the rule of law, and the fight against terrorism, poverty and disease.

16. As we move forward, we are confident that through continued partnership, cooperation, and multilateralism, we will overcome the challenges before us and restore stability and prosperity to the world economy.

Action Plan to Implement Principles for Reform

This Action Plan sets forth a comprehensive work plan to implement the five agreed principles for reform. Our finance ministers will work to ensure that the taskings set forth in this Action Plan are fully and vigorously implemented. They are responsible for the development and implementation of these recommendations drawing on the ongoing work of relevant bodies, including the International Monetary Fund (IMF), an expanded Financial Stability Forum (FSF), and standard setting bodies.

Strengthening Transparency and Accountability

Immediate Actions by March 31, 2009

Medium-term actions

Enhancing Sound Regulation

Regulatory Regimes

Immediate Actions by March 31, 2009

Medium-term actions

Prudential Oversight

Immediate Actions by March 31, 2009

Medium-term actions

Risk Management

Immediate Actions by March 31, 2009

Medium -term actions

Promoting Integrity in Financial Markets

Immediate Actions by March 31, 2009

Medium -term actions

Reinforcing International Cooperation

Immediate Actions by March 31, 2009

Medium -term actions

Reforming International Financial Institutions

Immediate Actions by March 31, 2009

Medium -term actions


2008年11月15日(土曜日)

 (23:45)ははは、どえらく時間は経過しているのにまだ土曜日です。日本と15時間の時差のあるシカゴに来ているので、一日が24+15という感じ。シカゴと東京都の時差は15時間、ニューヨークとの時差は1時間です。

101年も飾り付けが続く現メーシーの中の巨大なクリスマス・ツリー  寒い。飛行機が降り立った午前8時前後、ちょうど東京で私が10月にニューヨークの取材に出かけて撮った「地球特派員」の放送が終わったくらい(日本時間土曜日午後11時)のシカゴの温度は摂氏5度。空港の外に出て、久しぶりに寒さで目が醒めました。

 ニューヨークに比べて飛行機に乗っている時間は3時間ほど短いし、直ぐ近くには以前大阪で取材に応じてくれた方がいて、「やあやあ」という感じで気楽に過ごせたので快適だったのですが、降りてからが寒い。

 日中は素早く取材で街のあちこちを歩いていたのですが、表通りをよく人は歩いている。聞くと近くの街から来た人が多い。この辺ではシカゴは大都会だから、ちょっと近郊の街に住んでいる人は、季節も季節だしシカゴに遊びに来るのでしょう。土曜日だし。

 しかし店によるのですが、店の中は寂しい。人が本当に少ない。10月の小売売上高が統計を取り始めて以来最大の2.8%の下落なったことの一端を見たような気がする。しかしシカゴの街の賑やかしになっているのはオバマ次期大統領の顔です。一種の社会現象ですね。

 街の通りの街灯の柱に大きな写真になって列を成していたり、Tシャツを中心とした土産物屋が徹底的にオバマをモチーフにして売り上げを伸ばしていたり。立ち止まってもらって「オバマをどう思うか」と聞くと、皆目を輝かせて自分の意見を言ってくれる。まあでもあんまり寝てないので、ちょっと疲れ気味でしたね。10時間ちょっと言うのは、ちょっと中途半端かな。

 今回のメンバーはカメラと音声さんがニューヨークの時と同じ小口さんと椎名さん。Dは2006年のちょうど11月、つまり2年前にシカゴに来たときの渡辺さん。まあ全員を知っているという珍しいケースです。

 私が見れなかったBS1での「地球特派員」再放送の予定は決まっていて、またBSハイビジョンの予定を合わせて記すと

 11月22日(土)BS1 午後4:10〜 5:00
 11月24日(月)BShi 午前9:00〜9:50

 時間があったら見て下さい。今回シカゴとニューヨークでフィルミングする分は、2009年の1月1日の午後7時10分から元旦特別番組として放送される予定です。


2008年11月15日(土曜日)

 (07:45)早く出掛けるために早起きしてニューヨークの市場を見たら、つい引け直前までプラスでいた株価が引け際ドーンと落ちて、ダウで337ドル94セント安になっている。相変わらず不安定だ。「一瞬先は闇」という政界状態。ウォール・ストリート・ジャーナルは金曜日の下げで今週一週間のニューヨークの株価は「5%下げた」と。

 もっとも、ニューヨークの金曜日の株価は朝方から基本的には軟調だった。10月の小売り売上高が2.8%も減少したからで、アメリカのGDPの7割を占める米消費が不振となれば株式市場の先行き不安感も高まろうというものだ。「ケイタイ電話から高級デパートまでダメ」と。ノキアは見通しを引き下げた中で、「 a "rapid change" in consumer behavior」を報告。

 米小売売上高の10月の2.8%の減少は、「a record dive」だとウォール・ストリート・ジャーナル。 Nordstromなどのデパート株が大きく下げている。今アメリカで商品の売り上げを伸ばしているのはウォール・マートなど激安の一部のショップだけのようだ。

 日中一時株価がプラスになったのは、ポールソンがCNBCで以下のように述べたためとされる。ウォール・ストリート・ジャーナルの記事から。

 He said he has grown more confident about the financial system, as the rescue plan known as the TARP and coordinated action with the Federal Reserve and Federal Deposit Insurance Corp. have taken effect. "I think we've stabilized the system, and I feel very comfortable with that," Mr. Paulson told CNBC as he prepared to meet with financial leaders at the G-20 summit in Washington this weekend.

 He also defended the recent strategic shift under TARP -- the Troubled Asset Relief Program -- to capital injections into banks, saying that by the time Congress passed the bailout the commercial-paper market had frozen, making purchases of distressed assets no longer feasible.

 "You're never, ever going to get me to apologize for being so prudent as to change a strategy when the facts change, and to do it in a way that protects the taxpayer," Mr. Paulson said.

 TARP が実は Troubled Asset Relief Program ではなくなってしまったという現実。ポールソンは「現実が変わったのだから」(the facts change)と述べているのだが、議会があれだけすったもんだの中で承認したのだから、さぞや議員達は驚いているでしょう。焦げ付き資産の買い取りはやめてもっぱら資本注入に7000億ドルを使うと。その対象にはGEやGMの子会社であるノンバンクも含まれると言うことになった。

 そのGMの救済はオバマ次期大統領やペロシ下院議長の思惑通りには進んでいないようだ。次の英文に登場するシェルビー上院議員(アラバマ州選出、予算委員会の共和党有力議員)の発言。ある意味で凄まじい。正論ではあるが。

 Senator Richard C. Shelby of Alabama, the senior Republican on the banking committee, said he would not support legislation to aid the auto companies and seemed prepared to let one or all of them collapse.

“The financial straits that the Big Three find themselves in is not the product of our current economic downturn, but instead is the legacy of the uncompetitive structure of its manufacturing and labor force,” Mr. Shelby said in a statement. “The financial situation facing the Big Three is not a national problem but their problem.”

 と。「今のデトロイト・ビッグスリーの資金面での苦境は、今進行しつつある景気の落ち込みの結果ではない。製造システムや雇用形態が抱える非競争的な構造の遺産だ。ビッグスリーの財務状況はアメリカという国の問題ではなく、彼等の問題だ」と厳しく冷たい。「prepared to let one or all of them collapse 」(一社または全社倒産させることもやぶさかではない)とまで書かれている。

 米自動車業界救済には、まず上院で60の賛成票を確保しなければならないらしい。しかしオバマ次期大統領は確か16日に上院から席を抜く。バイデンも抜けるので、民主党は11票の賛成を共和党から確保しなければならないが、それが難しいというのだ。

 私がこの話をすると、大部分の人が「そんなばかな」という顔をする。私が悪い冗談を言っているのではないか、という風情なのだ。しかし筆者は10年スパンで見れば可能性は十分あると思っているし、アメリカ人自身に聞いてみると「別に他に良い製品があればそれで良い」とほとんどの人が言う。

それは、「アメリカが自動車産業を失う日」である。この文章を読んでいる多くの方も、「まさか」と思われただろう。

 まあこれは正直GMの倒産を念頭に書いたが、それが本当に起きるかも知れない。10年なんていう長きスパンではなく。従兄弟のためにもGMには頑張って欲しいが。


2008年11月14日(金曜日)

 (00:45)ちょっと質問です。「エスカルゴ」という文房具をご存じ。文房具ですよ。食べ物ではなく。

 実はこれなんですよ。通常紙を閉じるときには我々はずっとホッチキスを使ってきた。金属を使うわけです。しかしこれは非常に不便です。裏紙をプリンターで使おうとしても、いちいち外さなければならない。燃やすにしても、ホッチキスをしたままだと焼却炉に悪いような気がする。

 しかしエスカルゴは違うのです。何とホッチキスのマックス針に相当するものが紙なのです。「紙製の専用テープ」(様々な色があります)で巻くようにして綴じるのです。しかも切れ目を入れて紙で閉じるので、そこが多少取れやすくなる。ということは、あのと処理が非常に楽なのです。

 実は私は今週初めてまじまじとこの「エスカルゴ」で閉じられた書類を見ました。といっても私のレジメをそれで綴じていてくれた会社があった。この会社は食品の会社で、「工場ではずっとこれで使っています」と。ホッチキスの留め金(マックス針)が何か(食品)の中に入ってはいかん。「なるほど」と思いました。ただしコピー用紙8枚までしか綴じられない。それでも、私には非常に優れた製品に思えた。

 最近本当に思うのですが、「もうこれは変わらないだろう」と思うものほど変化する。掃除機も、洗濯機も、そして冷蔵庫も。木曜日の日中はあるテレビの番組ロケでこの会社と、この会社を取材したのですが、日頃身近にあるものでも本当に変わるものだな、と思いました。

 表参道のアマダナでは、「N-04A」という新しいケータイも見ました。今私が使っている携帯の第二世代。ちょっと魅力的でした。


2008年11月13日(木曜日)

 (05:45)昨日の夜ですが、親戚が集まる葬儀の席があって、そこで何と言っても皆の注目を集めたのはつい最近アメリカのGM(ゼネラル・モータース)に就職して、今はデトロイトに暮らす従兄弟でした。

 彼はつい先頃も母上の病状悪化で急遽日本に帰ってきていて、その後いったん はアメリカ(デトロイト)に帰ったのですが、母上が今週初めに残念ながら亡く なったので、再び帰ってきたもの。彼の母上は私にとっての叔母です。父方の。 私も練馬の家に一年間下宿したりして、大変お世話になった。本当に最後まで元 気で、90才になっても自転車に乗っていた方でした。

 彼の歳は私と一つちょっとしか違わない。彼が上です。大手自動車メーカーに いたのですが、辞める前かな、辞めてからかな、忘れましたが、GMから声を掛け られた。その時私に電話がかかってきて、高円寺の喫茶店で行くべきかとか(彼の気持ちとしては決まっていたと思うが)、外国企業との契約のこととか1時間以上話をしたのが1年ちょっと前くらいだったかな。アメリカに直接行かないで、GMの韓国関連事業を暫く見た後今年に入ってデトロイトに赴任した。

 まあでもGMじゃないですか。親戚の目と関心は、「どうなの」とか「大丈夫」 とかそりゃまあ皆知っていますから注目の的ですわな。当然私もいろいろ聞きましたよ。なんと言っても「ナマ GM」のようなものなので、当然興味津々ですよ。何をしているかというと、新しい車の「車体の品質管理」を担当しているらしい。彼は日本では有数の技術系の大学を出ている。

 少し話したのですが、赴任したのが今年ですからまず何が多くてビックリした かというと、「送別会」だったそうです。自分は赴任したばかりなのに「送別会 の嵐」。これにはビックリしたと。まあそうなんでしょうね。今の状態では、ア メリカの自動車業界、GMという会社に見切りを付けた、または会社から見切りを付けられた人は一杯いるでしょう。それは私のようにたまに取材に行っている人間には分からない。

 ちょっと心配だったので、「ちゃんとやれてる?」と冗談半分に聞いたら、「やっぱし英 語」と。ちょっと想像しても、工場のうるさいところで英語を数人のアメリカ人 に囲まれて喋り、聞くことを考えたら、私なども頭が痛くなる。まあそうなんで しょう。

 「会議は?」と聞くと、一言「ダメ」と。だから会議の後でも、「徹底的に聞 く」と。彼は当然教える立場の人間ですから、何が問題なのかが分からなければ 教えられない。これは大変だと思う。短期の赴任かと思ったら、「30年のロー ンを組んで家をデトロイトに買った」と。

 でも彼が一言、「何が起こってもおかしくない」と。今のGMについて。まあ会長があれだけあからさまに資金状態まで明らかにしている会社ですから、そりゃ何が起きてもおかしくない。名刺ももらったのですが、メールアドレスが「@gm.com」と簡潔で良い。世界で一番短いメルアドかな。私のは「@gol.com」ですが、それより一時短い。

 私も15日にシカゴに飛ぶので、「一緒の便になるのでは」と聞いたら、「ちょっ とそれには間に合わない」とのこと。まあそうでしょう。母上の葬式ですからし ばらく何やかやとある。それにしても、なんというかタイムリーな従兄弟がいるた ものだと。

 葬儀、法要では長らく会っていない親戚が集まる。亡くなった人が会わせてくれるのだとずっと思っているのですが、まあそれにしても面白い人々がいるのです。各種揃っている。そう言えば15年も海外中心に移動を繰り返した弟も、いよいよ日本が本拠になる、といいながら、また数日後にチュニジアに行くと。どうなっているんでしょうね。チュニジアで橋を造っているらしい。

 うーん、デトロイト(今回は寄らないのです)もチュニジアも行ってみたい。


2008年11月12日(水曜日)

 (09:45)昨日から今日にかけてのビックリするような数字のいくつか。

  1. PC企業のデルが5万円のパソコンを30%値下げ、と。じゃあ一体いくらになるのかと考えてみたら3万5000円。ケイタイ電話より安いPCの登場(!!)。ケイタイは使わなくても基本料を取られるが、PCはそれはなし。うーん.....

  2. 石油価格がバレル60ドル(WTI)を切る。ついこの間でしたね、147ドルは。つまりざっくり三分の一。それにしても市場の振幅が大きい、というか大きすぎる。日本国内でもこの価格の振幅の大きさ故にガソリンスタンドの営業を続けられない店が続出と私の親戚

  3. GMの株価が一時3ドルを割ったらしい。アメリカや欧州の証券会社の中には、同社の株価の目標価格を1ドルとか0ドルに置いているところもあるらしい。「0ドル」が目標と言うことは、倒産確実と見ていると言うことでしょうか
 ははは、anomaly(異常値、例外値)なのか新しい時代の予兆なのか。まあGMの株価はこの低空飛行は続けられないので、助けられるのか助けられないのかの一点がポイント。ペロシ下院委員長は「自動車業界救済の為の特別セッションを」と提案。金融サミットはあるのですが、それとはまた全く別個に急速に悪化が進む実体経済がアメリカを悩ます。

 オバマ次期大統領は慎重ですね。金融サミットにも出ないし、各国から来る首脳とも会わない、と。代理人が会う、と。顔合わせには格好のチャンスなのに、「次期大統領と会えない」では、各国の首脳のモティべーションも下がるでしょうな。ブッシュが喋ってもみんな上の空.....。


2008年11月11日(火曜日)

 (23:45)どないなっているんでしょうね。ビスタPCが潰れちゃいましたよ。サービス・パックの1をやっとダウンロードし、リブートしようと思ったら一定の画面以上は全く進まなくなった。

 もっとも買ったときから調子の悪いPCだった。ビスタ出始めの最初の方に買ったからでしょうか。今までも何回も思う通りに動かないPCだったが、ついにクラッシュ。もうしょうがないので、そのまま量販店のPCドックに連れて行って今朝回収を頼んだら、あとで電話があって「うちでも対処できない故障であることが分かりました」「メーカーに動作確認してもらいます」と。

 全く良い印象がないな。ビスタには。今でもXPの方が良く動く。使い心地も良い。なんででしょうかね。なぜバージョンがアップした方が使い勝手が悪くなるのか分からない。バージョンアップで使い勝手が悪くなる。何とも納得できない。

 何時戻ってくるんでしょうね。まあアメリカから帰ってくるまでにはお願いしたいと。量販店の担当者に、「他の方でビスタが使いにくいという声は出ていないのですか」と聞いたら、「サービス・パック1のあとはあまり」と。いやいや、私のビスタ・パソコンはそのダウンロードで動かなくなったのですから、私にとってはたちが悪い。

 ところで、今日は夜の遅い時間から11月15日に放送される「悪夢はいつまで続くのか〜世界金融危機 アメリカからの報告〜」のスタジオ収録でした。寺島、森永の両氏と。結構面白かった。スタジオは16分しかないのに、全部で1時間半くらい議論していましたかね。

 あとは13日に音入れをしておしまいです。放送が楽しみ。15日午後10時10分からです。


2008年11月10日(月曜日)

 (23:45)経済政策でもっとも効果の薄い政策には、少なくとも三つの特徴があります。その二つは英語では「too little too late」と言いますが、「ちまちましすぎていて、発表のタイミングも遅い」政策です。麻生首相の発案による一人1万2000円とされる定額給付金は、まずどう考えても「too little」でしょう。

 「little」というから当然額の問題はある。それで何を買おうかと思ってしまう。加えて問題は、もらう国民がどう思うかです。「これで自信が湧いてきた。さあやるぞ」と思うようならいい。しかしそうじゃないでしょう。国は赤字を膨らませてやっていると皆知っている。だったらもっと有用な政策をまとめてやってくれ、と考える人が多いのではないか。

 また一般的に(これが第三の条件ですが)、経済政策で効果的な打ち出し方は「予想外」であるとされる。「予想外」は人々の気を活性化させる。市場はそれを好感し、消費者や企業家(起業家)も「政府がそこまでやるなら」と反応する。その逆が、つまり語られすぎ、マスコミでいじられすぎ、そして政府の方針もはっきりしない経済政策です。それはおそらくとんと効果がない。定額減税はこの条件にピッタリ当てはまる。

 「迅速に対処するために」と進められているこの定額減税構想だから、必ずしも遅くはない。しかし「国民全部にだ、いや富裕層は辞退を....」と政府の方針もはっきりしないうちに、「嫌な既視感」が強まって「迅速さ」も欠けてきた。ということで、定額減税案には三つの「ダメな経済政策のファクター」がすべて揃ってしまった。目玉だった筈なのに。

 まあ「筋の悪い政策」でしょう。私以外の多くの方もそう思っているようで朝日新聞には、『定額給付金について、「必要な政策だと思う」は26%にとどまり、「そうは思わない」が63%と、否定的な見方が圧倒的だった』という記事がある。どこだったか別の新聞でも53%が「不必要」と応えていたと思う。

 支持率が下がっている麻生政権。こうしたことの積み重ねがますます政権への国民の期待を削いでしまっている気がする。

 あと気になったニュースは、中国ですかね。真っ先に思ったのは、「金融サミットを前にうまいな」と。アメリカの需要が暫く落ちると分かっている今では、世界の誰もが「Who's next ?」と考えていて、成長率が依然として10%前後の中国には期待が高まる。外貨準備も多い。

 4兆元(約57兆円)にのぼる大規模な景気刺激策をしておけば、もう私たちはやったし、お手本を示しましたよ、とサミットで言える。まあ実際にそういう狙いはあるんでしょう。しかし、サンケイ新聞がこの記事で指摘している要因も大きいと思う。つまり刺激策でも打たないと国内がもたない。

 それにしてもこの記事には、「2億人の出稼ぎ労働者の1割、2000万人が失業している」と恐ろしいことが書いてある。まあそうかもしれない。農村で生活できないから出稼ぎに来ているのに、その都市でも職がないとなれば、社会不安が高まるのは自然です。

 景気の悪化、株の暴落。「中国では成長率が7%を割ると失業者が一気に増える」と言われてきた。それは正規雇用の人もそうだ、ということでしょう。ということは、中国政府は「これ以上景気を冷え込ますことは出来ない」「体制批判そのものに繋がりかねない」と考えていると言うことでしょう。

 日本を含め週明けの市場はこの中国の景気刺激策とその規模に少し踊った。しかし中国、そして政権の内実は結構厳しいと私は見た。


2008年11月09日(日曜日)

 (23:45)自分の番組以外は、久しぶりに野球をずっと見ていました。西武対巨人の日本シリーズ第7戦。相変わらず貧打戦だったのですが、分かれ目はやはり片岡かな。「試合を動かす意志」というか、あの初球からの盗塁。そして中島の凡ゴロでの3塁からのホーム突っ込み。

 それはそれは速かった。ノーヒットで1点ですからね。あの時キャッチャーが阿部だったらとか、いろいろ考えられるが、まああれは片岡の巨人バッテリーに対する勝利でしょう。鶴岡も良くやっていた。あの形で同点になったことで、戦況は西武有利に傾いた。

 越智を続投させた腹監督の意図は分からないではない。同点になってクルーンが出てきて、それでもしダメだった場合は山口を投げさせるつもりだったのではないか。しかし巨人は2回から西武の先発級のピッチャー(石井、涌井など)を全く打てなかった。全くヒットが打てないなら、片岡のようにデッドボールか四球で塁に行くしかないが、それも選べなかった。片岡が死球でガッツポーズをしていたのが印象的だった。

 このシリーズ、東京では非常に視聴率が高かった。関西ではどうだったか知りませんが。紙一重だったが、西武の「優勝したい」気持ちがちょっと強かったと思う。巨人は人気集団の弱さがちょっと出たような。それにしても西武には良い、そして若い選手が多い。ジャイアンツもイスンヨクなんて出さないで、若い選手を出し続けた方が良かった方かも知れない。以前の西武対巨人の日本シリーズはもうちょっと打線が活発だったような印象だったが、今回は違った。

 明日は新聞なしか。新聞休刊日に優勝がぶつかるなんて、ちょっと西武の選手に気の毒。


2008年11月08日(土曜日)

 (23:00)二つのBS番組の予告です。一つは、BSジャパン(7)で始まったばかりのレギュラー(毎週)番組、もう一つはNHKの最新「地球特派員」。

 日曜日午後8時30分から30分間 BSジャパン(チャンネル7) 世の中進歩堂 

 10月に始まったこの番組も、早いもので今回で6回目。今回は長嶋教授の登場です。ほぼ毎回、最新の科学技術の最先端の先生達に来ていただいているのですが、今回はバイオミメティックスの第一人者。

 私も知らなかったのですが、バイオミメティックスとは「虫や昆虫など生き物の機能や形状をヒントに新しい技術を開発すること」。私が結構前から知っていた「バイオメトリックス」とは全く違う。それが実に面白いのです。ヒントですが、コガネムシにしろタマムシにしろ、非常に綺麗な、「誰が考えついたんだろう」というほど綺麗な色をしているじゃないですか。あれはどうやって出来ているのか....、何かに応用できないか.....という話。

 15日土曜日 午後10時10分から50分間 NHKBS(1) 「地球特派員」

 私が10月11日から9日間もっぱらニューヨークに行って取材した報告です。ノーベル賞受賞翌日のクルーグマンに会って話を聞いたり、彼方此方の車のディーラーに行ったり、リーマンの社員が良い行っていたアイリッシュ・バーで話を聞いたり、そしてブティック型のインベストメント・バンクを立ち上げつつある連中の話を聞いたり。

 BS1での再放送の予定まで決まっていて、またBSハイビジョンの予定まで記すと

 11月22日(土)BS1 午後4:10〜 5:00
 11月24日(月)BShi 午前9:00〜9:50

 ともに面白い。時間があったら見て下さい。


2008年11月07日(金曜日)

 (13:00)今日の新聞で一番面白かった記事は、破れた共和党陣営の副大統領候補であるペイリンさんに関するものです。フィナンシャル・タイムズに出ている。

 オバマさん、その彼が次期政権の閣僚に誰を選出するのかに新聞が占拠されている中で、久しぶりに(?)彼女が登場している。記事のタイトルは「McAain camp whispers try to limit Palin options」というのです。つまり、負けたマケイン陣営がペイリン・オプション(次の大統領の候補の可能性)を限定的なものにしようとしている、というのです。

 この記事によると、彼女はマケイン共和党候補が敗れたことからアラスカに戻った。空港では支持者が集まって、「2012」「2012」と叫び、それについて記者から聞かれた彼女は「We'll see what happens then.」(まあその時にどうなっているかですね)と答えたというのです。つまり否定しなかった。

 しかし彼女を副大統領候補に担ぎ出したマケイン陣営は、どうもそれが気にくわないというか、彼女だけが生き延びるのが好ましいと思っていないのか、はてまた「とても大統領になれる人ではない」と考えているのか、彼女の可能性を減じる秘密情報を流しているというのです。その中で面白いのに、「彼女はアフリカを大陸だとは思っていなかった。国だと思っていた」というのがある。

 あやや、アフリカを大陸だとは知らずに、国だと思っている。アメリカにはとてつもなく地理音痴の人がいますが、これはちょっと酷い。それが明らかになったのは、副大統領の討論会の直前に彼女が集中勉強をさせられていた時のことだというのです。マケイン側近がFOX NEWSに明らかにした、とこの記事。

 まだある。彼女は副大統領候補として選挙期間中に15万ドル(1500万円)相当の衣類を買ったと日本でも報じられたが、ニューズ・ウィークによると、「とてもそんなものではなかった」と明かされているという。つまり「もっと使っていた」というのです。

 こんな事まで出てくるのは、負け陣営としてはアメリカでも珍しいらしい。それだけ、ペイリンがマケインの期待に添わなかった、重荷になっていたということのようです。まあマケインさんに人を見る目がなかったとも言える。自分で選んだのですから。保守を取り込み、ヒラリーの女性票を彼女に確保してもらいたかったが、それが出来なかった。

 「目」を試されているのは今はオバマ次期大統領です。今閣僚を選んでいる。ホワイトハウスの首席補佐官にはラーム・エマニュエル下院議員(48)を示し、彼もこれを受諾した。まだ一杯人を選ばなければならない。財務長官、国務長官......。

 一つアメリカでは今のオバマ氏の事を「president-elect」という。決して次期大統領(next president)とは言わない。各州の投票で選ばれた選挙人が公式投票をするのは12月15日、副大統領が連邦議会で選挙人票を開けるのは来年の1月5日。そこで初めて「次期大統領」と決まる。就任式は1月20日です。ずいぶんと長い。まあ日本語で「president-elect」を「大統領選当選者」と呼ぶのもややこしい。だから、「次期大統領」と呼びます。

 その次期大統領ですが、一番急いでいるのは財務長官。ガイトナーとサマーズに絞られたという説もあれば、いやダークホースがいるといった報道ばかりで、それらを読んでもあまり参考にならない。要するに決まるまで待つしかない。しかし7日に記者会見をオバマ氏が当選後初でするので、その時に発表するという見方もある。

 エマニュエル下院議員の評判は良い。上下両院を民主党が取っているからと言って、議会がオバマ大統領の思う通りに動くとは限らない。ブッシュも議会との関係で苦労していた。株は既にオバマ当選後に2日連続して大幅に下落している。陣容と政策が固まるまでは、市場も「熱狂の中で決まった大統領」を直ちに歓迎とはいかない。


2008年11月06日(木曜日)

 (23:00)新しいエッセイがここにアップされました。オバマ次期政権と環境問題の関わりを考えています。


2008年11月05日(水曜日)

 (13:00)日本時間の午後2時くらいからのオバマ次期大統領の「勝利宣言」をCNNで見ていましたが、それはそれ自体が一つの「革命」の瞬間と言っても良い事のように思えました。

 なぜそう思うかというと、アメリカに4年間住んだ人間として、オバマが大統領に当選した現在でも人種間の複雑な感情が残っていることを知っているだけに、「それでもアメリカがそれを乗り越える努力をした」ということが、理由の第一。多分20年前のアメリカでは決して起こらなかった事です。それが起こった。それはアメリカのマスコミ風に言えば「sea change」です。

 その結果、つまりオバマが大統領になったことで最終的に人種間の融和が進むのか、逆に人種間の対立が深まるのかは、何年も先にしか分からない。しかしアメリカは試すことに決めた。そこに活力を感じるし、アメリカ政治のダイナミズムの典型だと思うわけです。多くの国民が「試すことを決めた」ということ自体が意味あるトライだと思う。

 「黒人を自分の大統領候補に選ぶ」ことに、どのくらい多くのアメリカの白人が抵抗を感じたのかは知らない。想像するしかない。多分年寄りの方が抵抗感が強かったのでしょう。 CNNが今流している面白い分析では、若い人ほど「人種の壁」を意識せずにオバマに票を入れたとしている。年齢別に統計を取るとマケインが勝っているのは、相当上の世代だけらしい。

 だとしたら、「ブラッドリー効果」など20年も前の現象を主に取り出して、「微妙な人種間の壁」の可能性を語っていた我々の方が、アメリカの政治の大きな変化から取り残されていた可能性がある。さもなくば、今は少なくともそういう感情が一時的に低下するインターバルなのかもしれず、私などもそれを読めなかったとも言える。

 アメリカは依然として人口の75%を白人が占める国だ。黒人(Afro-American)と呼ばれる人は13%くらいしかいない。古いかも知れないが人種中心に物事を考えるなら、一般的に「黒人」と呼ばれるバラク・オバマが圧倒的選挙人の差で大統領に選ばれたのは、そこ事自体が非常に画期的なことだと思う。オバマも勝利宣言で、「Change has come to America」と表現していた。日本の、そして世界のマスコミが「初の黒人大統領」と見出しを打つのは分かる気もする。

 その一方で、大統領選挙をずっと見続けたし、10月には9日ほどアメリカに行っていた人間とすると、「でもアメリカ人がどちらの大統領が良いのか」を決めたのは、やはり政策、特に経済政策と、それを遂行する能力(年齢も含めて)だったのではないか、という気がする。それほどまでに今のアメリカの病根は深い。ではその深い憂鬱を振り払えるのはオバマか、マケインか。その選択だった。

 これは日テレの特番でも言ったのですが、筆者は選挙運動を通じて見ていてマケインについて、「この人は成長した」とは一回も思わなかった。どの選挙演説会場でもオウムのように同じ事を繰り返していた。これに対してオバマは明らかに成長し、柔軟性を増した。アメリカ国民もそこは見ていたと思う。ロングアイランドで行われた第三回の候補者討論会を聞き終えたとき、私は「オバマは成長した」と思った。

 だから私は、確かにアメリカ国民のオバマ選出は、多くのマスコミが言うように「historic」(歴史的)であると同時に、非常に大事なことに「pragmatic」(実利的)な選択だと思う。金融危機が既に始まろうとしているときに、「アメリカ経済のファンダメンタルズは依然として強い」(マケイン)は、彼の「経済音痴」ぶりを際立たせた。

 長くなるのでまた書きますが、ということは「実利」に叶わない、「期待」にそえないことが分かったら、「歴史的な決断」の後でも、アメリカ国民は非常にオバマを突き放した目で見る可能性がある、ということです。少し先の話ですが。

 最近の世界各国の新政権は、発足時にこそ高い支持率を誇るが、直ぐに「失望」に変わる。オバマはその前に、いくつかの「変化」を国民にもたらさねばならない。それは経済の回復かも知れないし、イラクからの撤退かも知れない。

 しかしそれはなかなか難しい。


2008年11月05日(水曜日)

 (07:20)アメリカは東西に広がっている国で、私がこの文章を書いている現在まだ中部から西部にかけては投票をしている段階ですが、ポイントはペンシルベニア(選挙人21)ですかね。ずっと大統領選挙では民主党が強かったが、民主党の現大統領候補であるオバマは、ここで白人の女性候補であるヒラリー・クリントンに負けている。

 前回2004年の大統領選挙で民主党のケリー候補が取った選挙人の数はこのペンシルベニアを含めて252。オバマはこれに加えてアイオワ(7)、ニューメキシコ(5)も取る可能性が極めて高いという。オバマがペンシルベニアで勝つとすれば、他のケリー獲得州は硬いと言われているから264。270まであと6。

 「あと6」を上積みできる非・共和党州(テキサスなど共和党が硬い州)で必ずしも帰趨が分からない州はフロリダ(27人)、オハイオ(20人)、ノースカロライナ(15人)、バージニア(13人)、インディアナ(11人)、ミズーリ(11人)、コロラド(9人)の七つ。いずれか1州を上積みするだけで「270」を超える。世論調査を見る限り、オバマ優位はバージニア、オハイオ、コロラドなどなど。

 それとは別にまだ帰趨が分からない州の一つにネバダ(5)がある。264に仮にネバダの5だけがオバマに上積みされた場合、269で全く同数ということもある。総数が538(上院100、下院435、コロンビア特別区3)なので。しかしその場合でも、議会を民主党が握ると見られるため、大統領はオバマになる。

 ということは、マケインが勝負をひっくり返すことが出来るとすれば、ペンシルベニアを共和党に持ってくることだけだ。同州は21の選挙人を持つ。これは大きい。ヒラリー支持者をマケイン支持に動かすことが出来れば、同州で勝って全体図式を変えられる可能性がある。

 常識的に考えて、上に掲げた七つの州を全部マケインが取るのは難しい。アップセット(upset)を起こすためには、従来の大きな民主党州を一つ取ることです。そうするとゲームプランが変わる。それが今回の場合はペンシルベニアだということです。ということは、ペンシルベニアの帰趨が決まった段階で米大統領選挙は事実上終わり、ということです。同州はニュージャージーの直ぐ西だから、開票も速いでしょう。  今朝は午前10時前から日本テレビの開票特番に出ますが、そのころにはかなり情勢は明らかになっているでしょう。一つアメリカから報道されていてはっきりしているのは、各地の投票所に長蛇の列が出来ていると言うこと。アメリカではこれを「heavy turnout」という。ウォール・ストリート・ジャーナルの見出しは、「Record Voting Seen After Long Run-up」と。

 「アメリカ史上もっとも投票者が多い、つまり投票率が高い選挙」という意味でしょうか。投票率が高いということは、今の熱気から言うと「オバマ支援に駆けつけた人が多い」と読める。オバマにランドスライドの可能性あり、ということです。

 大統領選挙結果もそうですが、上下両院での争いも興味深い。今は民主党51、共和党49。今回は35人が改選。うち23人が共和党サイド。これは共和党にきつい。民主党にはオバマブームで選挙資金も集まっているという。9人増えて60人になると、40人に減る共和党は、フィルバスターと呼ばれる議事妨害も出来なくなる

 ということは、オバマ政権が成立し、米上院で民主党が60以上の議席を獲得すれば、非常に「ねじれのないストレートな政権」が生まれると言うことです。4日のニューヨーク株式市場の株価のダウでの300ドル以上の上げは、こうした「展望しやすい政局」への歓迎シグナルかもしれない。


2008年11月04日(火曜日)

 (19:20)ついに、というか、「やっと」というか、アメリカの大統領選挙は投票ですか。長いですね。この間、候補者はまず党内で勝ち残り、そして候補になって相手に勝ち残り、と凄まじい試練の連続。オバマとクリントンの争いの激しさは今でも記憶に新しい。

 世論調査ではオバマがかなりリードしている。まあそうでしょう。ずっと見ていてオバマは明らかに成長している。候補同士の討論会でも、その他の受け答えでも。回を追うごとにうまくなっている。対して、マケインはあまり進歩がないし、問答に柔軟性がない。経済に弱いのが大きな欠点かな。彼の経済に関する発言は、かなり何を言っているのか分からない。この金融危機の最中に。

 まあそれでも選挙は開けてみないと分からないと思っているのです。今回はいろいろな要素がある。明日の昼頃のお楽しみというわけです。一つ間違いないのは、誰が大統領になろうと、アメリカ経済を上向かせるのは容易なことではないということです。

 10月の米新車販売は聞きしにまさる酷さだった。月間100万を割ったばかりか、90万を割って85万前後になったという。まごまごすると、平常年だったら年間1600万台行くアメリカの新車販売台数は、年間1000万台そこそこになってしまう。米銀が大企業を含めて起業への貸し出しを厳しくしている割合は85%に達するという。

 期待を売った方が厳しい現実に直面して右往左往した時には辛い。という意味では、オバマの方が厳しい。マケインは最初から勝つと思われていないし、発射台が低い。

 発射台が高かったという意味では、小室哲哉氏も高みからの落ち方が激しい。芸術家というのは厳しいんですよ。才能はいつまでも続かない。才能が落ちたときにこそ、その人の生き方が問われるのですが、彼は躓いた。気の毒な気もするが、やったことは酷い。


2008年11月03日(月曜日)

 (23:20)経済はいかに「サイコロジー」が大きいかという話。今週末、土曜日のあるデパートの衣料品売り場で。予想よりえらく人が多い。「どうして?」と私。

 デパートの人の話。「先週はひどかったんですよ。昨年の四分の一の売り上げで、一体どうなるのかと.....」と。彼の言う「先週」とは日経平均が急落のうちに終わった週(24日に終わった)の事です。27日から始まった先週は、週初27日にはバブル後最安値(一時7000割れで引けは7162.90)を更新したが、その後は反発した。引け味としては、先週の方が良かった。

 まあ一応底値が見えた形になった先週は、金曜日を除いて日本の株価は強気な動きだった。それもあったのか、3連休の初日と言うこともあったのか、デパートの売り場は少し華やいでいた。その前の週が悲惨だったというのは分かる。マーケットがあれでは、買い物をしようという気にならない。

 まあ他に要因があるのかもしれない。しかし世界全体が同時心理状態になっている今の世界では、世界の消費者の心理の悪化は経済全体に影響を及ぼす。しかもその心理の変化が「刻々」というのが特徴です。私にはそういう印象が強くする。

 映画を見ました。ボーダータウンというのです。今最終段階に進んでいる米大統領選挙に絡めて言うならば、NAFTAに反対を唱えるオバマ候補に有利な映画です。

 私も2006年にボーダータウンに行った。ノガレス(エルモシージョの北)が私の行った街ですが、映画の舞台はフアレス。ノガレスより東。エルパソの直ぐ南。「実際にあった話をヒントに作った映画」ということだが、メキシコとアメリカの国境の街が置かれている状況、そこで働くメキシコの南部出身の若い女性。ネットを調べたら、このようなサイトもあった。

 映画としてもスリリングなものになっているし、何よりもアメリカとメキシコの間に横たわる問題の一つに取り組んでいると思う。


2008年11月01日(土曜日)

 (08:20)二日にわたって日銀の利下げ発表に関して書くのですが、私は今回の日銀の発表方法に大きな瑕疵があると思う。昨日も述べたように、利下げに関して日銀がネットに出した発表文は、ここにあるのですが、ここには何度読み返しても「反対した4人が何を主張したのか」書いてない

 私はこの日銀の発表(午後2時過ぎでしたか)を最初に聞き、そして発表文をネットで確かめて見たときには「ああ、4人は引き下げに反対したんだ」と思った。

賛成:白川委員、山口委員、西村委員、野田委員。反対:須田委員、水野委員、中村委員、亀崎委員。可否同数のため議長が決した。
 と発表文には注釈があって、そこで「可否同数」とあれば、真っ二つという印象であり、4人が0.2%の利下げに賛成し、その他の4人は利下げに反対と読めた。思い込みかも知れないが、私は最初そう思った。

 しかし白川総裁が1時間以上もたって記者会見で明らかにしたところによると、総裁など執行部案(0.2%引き下げ)に反対した4人(須田委員、水野委員、中村委員、亀崎委員)のうち、「3人は0.25%への利下げを主張、一人は0.5%の誘導目標維持を主張した」というのです。つまり、利下げそのものは8人の審議委員のうち7人が賛成していた。金利据え置きを主張したのはたった一人。

 この白川発言で、「4対4の賛否同数」の意味合いは全く違ってくる。繰り返すが、利下げ派、据え置き派が拮抗という当初イメージは、白川総裁の公開によって「利下げそのものは政策決定会合の大勢だった」ということになる。8人中7人は利下げ派なのですから。

 私が思うのは、なぜ日銀が「反対の中味」、つまり誰が何を主張したのかを発表文に入れないのか、です。同じ執行部案に反対だとしても、「そのものに反対」と「幅に反対」ではインプリケーションが全く違う。市場はそれを最初から知る権利がある、日銀はそれを公開する義務がある。発表から1時間もたって、「利下げそのものは決定会合の大勢として決まった」ということが分かったとしたら、発表の意味合いそのものが変わってしまう。

 FOMCの声明文も毎回同じように短い。しかし決定に異論が出たときには、「決定とは違った主張した人が誰で、何を主張したのか」を必ず短く入れる。例えば、今年4月30日に「0.25%の2.0%への利下げ」を発表したFOMCの声明文には以下のような明示がある。

Voting for the FOMC monetary policy action were: Ben S. Bernanke, Chairman; Timothy F. Geithner, Vice Chairman; Donald L. Kohn; Randall S. Kroszner; Frederic S. Mishkin; Sandra Pianalto; Gary H. Stern; and Kevin M. Warsh. Voting against were Richard W. Fisher and Charles I. Plosser, who preferred no change in the target for the federal funds rate at this meeting.
 これを読んで初めて「ああ、プロッサーとフィッシャーは据え置きを主張したんだ」とFOMC全体の意見のバラツキ具合が見える。異なる主張(Voting against)をしたときにはその人の名前とその主張(上げ下げの幅や据え置きなど)を書くのがFOMC声明の常なる作業です。その方が瞬時にFOMC全体の雰囲気を世の中に伝えやすい。

 正直言うと、私はFOMC声明が出るとまず上げ下げ据え置きの決定を最初のパラグラフで読み、次に説明を飛ばして「全会一致」だったのか、「誰か異論を唱えていないのか」を下から2パラ目に読みに行く。29日の発表もそうでした。今回は全会一致だった。だってそうじゃないですか。決定の決まり方は非常に重要です。説明はその後でいい。

 私は今回の日銀政策決定会合が「可否同数」「議長裁定」という一件劇的な内容だっただけに、反対した人達の意見を明確に発表文に最初から入れるべきだったと思う。日銀の今回の発表形式では、「誰が据え置きを主張したのか」という推測がまたぞろ出るだろう。

 1人の据え置き派に関しては、東京新聞は須田委員であり、日経は水野委員のようだと書いている。他のマスコミはまた別のことを書いているのかも知れない。白川総裁は記者会見でもそれも明らかにしなかった。その人が誰だったのか、どういう主張だったのかは日銀の発表形式では今後も詳細には分からない。これは不透明だ。重要な決定なのに。

 発表方式の改善を日銀には望みたい。



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