2008年10月31日(金曜日)

 (15:20)0.5%の利下げを決めたFOMCを受ける形で開かれた日銀の政策決定会合は、政策金利の0.3%への0.2%引き下げを発表して閉幕。0.25%下げて0.25%へという紛らわしさを避けたと言うよりも、「新たな下げ余地を残した」と見るのが妥当でしょう。または反対派に歩み寄った ?

 このちょっと変わった下げ幅以上に、「賛成4:反対4」というのが興味深い。注1は次のように言う。

賛成:白川委員、山口委員、西村委員、野田委員。反対:須田委員、水野委員、中村委員、亀崎委員。可否同数のため議長が決した。
 日本はそれほど危機ではないという見方がある中で、全会一致を最近貫いているFOMCに対して、「同数・議長決裁」というのがなかなかスリリングだ。つまり、執行部が利下げをしたかった、ということだろう。パワフルな措置と言うよりは、市場に押し切られたという印象が残る分だけ、市場の反応も曖昧だった。

 声明文を読んで思うのは、景気や物価についてはFOMCとほぼ同じような認識をしているという点だ。インフレは先々収まるという認識を示している。心配なのは景気だ、と。そうだろう。しかし、金融緩和で出ていったお金が、あらぬところに抜けていかないような手だてが必要だと思う。


2008年10月30日(木曜日)

 (03:20)注目されていた29日が最終日の今回FOMCは、いつもの通り短いが、しかし興味深い文章で声明を構成しながら、FF金利誘導目標と公定歩合の各0.5%引き下げを公表して閉幕しました。FF金利誘導目標は1.0%に、公定歩合は1.25%になった。

 利下げ幅(0.5%)と帰着金利(1.0%)の数字が接近してきて、ちょっと紛らわしい。例えば今度0.5%の下げ幅で利下げしたとしたら、利下げ幅と帰着金利は全く同じ0.5%となる。つまり、「FOMCは0.5%利下げして、新金利を0.5%にしました」といった具合。アメリカの金利も本当に下がったものだ。

 注目されるのは、0.5%の引き下げによる1.0%へのFF金利誘導目標引き下げに、理事の誰一人、地方連銀の総裁誰一人異議を唱えなかったこと。参加した全員が賛成したと書いてある。つまり全会一致。私は反対意見の存在が好きだったし、8月5日までのFOMC決定には結構反対意見が記載されていたのに、今年9月以降はリチャード・フィッシャーを含て誰一人として決定に反対していない。「危機には結束するFOMC」か。

 理由説明の書き出しも特徴的ですが、まず以下に全文を。

Release Date: October 29, 2008

For immediate release

The Federal Open Market Committee decided today to lower its target for the federal funds rate 50 basis points to 1 percent.

The pace of economic activity appears to have slowed markedly, owing importantly to a decline in consumer expenditures. Business equipment spending and industrial production have weakened in recent months, and slowing economic activity in many foreign economies is damping the prospects for U.S. exports. Moreover, the intensification of financial market turmoil is likely to exert additional restraint on spending, partly by further reducing the ability of households and businesses to obtain credit.

In light of the declines in the prices of energy and other commodities and the weaker prospects for economic activity, the Committee expects inflation to moderate in coming quarters to levels consistent with price stability.

Recent policy actions, including today’s rate reduction, coordinated interest rate cuts by central banks, extraordinary liquidity measures, and official steps to strengthen financial systems, should help over time to improve credit conditions and promote a return to moderate economic growth. Nevertheless, downside risks to growth remain. The Committee will monitor economic and financial developments carefully and will act as needed to promote sustainable economic growth and price stability.

Voting for the FOMC monetary policy action were: Ben S. Bernanke, Chairman; Timothy F. Geithner, Vice Chairman; Elizabeth A. Duke; Richard W. Fisher; Donald L. Kohn; Randall S. Kroszner; Sandra Pianalto; Charles I. Plosser; Gary H. Stern; and Kevin M. Warsh.

In a related action, the Board of Governors unanimously approved a 50-basis-point decrease in the discount rate to 1-1/4 percent. In taking this action, the Board approved the requests submitted by the Boards of Directors of the Federal Reserve Banks of Boston, New York, Cleveland, and San Francisco

 まず私が気になったのが、「最近の経済活動のペースは著しく鈍化した」ことの説明として「owing importantly to a decline in consumer expenditures.」(重要なことに、消費支出の減少)と指摘していること。これは昨日発表になった消費者景気信頼感の指数なども考えに入れてこう書いているのでしょう。あまり今までのFOMCの声明で importantlyという単語が使われた記憶はない。それだけ「消費の落ち込み」にFOMCが興味を持っているということでしょう。

 今の金融市場の混乱激化については、「家計と企業が融資を得られにくくなることなどから、今後一層消費や設備投資での支出削減に繋がる可能性が強い」とこれからことを心配しているのが印象的だ。インフレについては、エネルギーやその他商品価格の下落や景気の一層の弱体化により、「(FOMCが目指す)物価安定に沿ったレベルに今後数四半期の間に鈍化してくる」と楽観的だ。FOMCはインフレではなく、もっぱら景気を心配していることになる。

 声明は、今回の1.0%への利下げを含めて、各0.5%の協調利下げ(10月08日)、緊急流動性付与措置、一連の金融システム強化措置(不良債権の買い取りや公的資金の注入などでしょう)などの措置が、アメリカの金融情勢の改善と、それによる妥当な経済成長路線への回帰を助けるだろうとしながらも、「Nevertheless, downside risks to growth remain.」と言い切っている点。

 これが非常に重要なのは、今回の利下げを含めてこれだけ当局が措置を施しても、「まだ景気のダウンサイド・リスクは残る」と述べていることになる。ということは、例えばまだ本当に悪くなったらゼロ金利といったどこかの国がやったような措置が必要になるかもしれない、ということだ。

 アメリカはグリーンスパン前議長の下で、2003年夏場から2004年の春くらいまで既に「FF金利誘導目標1.0%」というのをやっている。当時のアメリカには「デフレ懸念」があった。今のアメリカの金利がそれに並んだと言うことは、デフレ懸念も出てきたと言うことだろう。FF金利1.0%それ以下というのは私の記憶にないので、今の水準から更に引き下げられるなら、それはアメリカにとって新境地ということだと思う。

 FOMCの利下げを受けて注目されるのは、日銀の動向か。中国もノルウェーも利下げを発表しており、今後この「利下げの動き」は世界中に広まる可能性がある。

 ところで、「融資が得られない」が広がっているという話を一つ。不況に強い産業といえばカジノ産業が今までは代表格だったと思ったのですが、ウォール・ストリート・ジャーナルに面白いニュースが。「MGMミラージュの今年第三・四半期の純収益が67%もの減少となり、その背景となっているクレジット・クランチを理由にラスベガスとアトランティック・シティでのカジノ施設の建設を中断すると発表した」というものです。

 記事を読む進むと、二つのプロジェクトを進めるのに必要な資金が集められなくなったということらしい。カジノばかりでなく、例えばニューヨークのグランドゼロで進められているフリーダム・タワーの建設も、当初は2010年が予定だったが、建設費の高騰やらテナント集めでの苦戦などで、2年くらい先になるのではないかとの見方が強かった。

 出来上がった森ビルの上海の上海環球金融中心もテナント集めに苦労していると先に森ビルの社長さんが明らかにしていた。


2008年10月29日(水曜日)

 (07:20)火曜日にアメリカで発表された経済指標の中で私が一番驚いたのはコンファランス・ボード(昔から有名な民間調査機関)の消費者信頼感指数でしょうか。これが凄まじい下げ方なのです。

 9月が61.4(改定値)だったのですが、10月はなんと38.0に落ちた。これは調査が始まって以来の最低水準。落ち込み幅は23.4ポイントに達している。事前の市場の予想が「51.5への下げ」だったから、予想を立てたアメリカのエコノミストはいったい何をしていたのか、という話になる。

 「消費者信頼感」は、確たる数値的な根拠のない、言ってみれば「サイコロジー」です。日銀の短観などと似ているところがある。「心理」だからどっちにも時に大きく振れる、ということはある。しかし、61.4から38への落ちなんて、私もアメリカ経済を長く見ているがめったにない。「さすがのアメリカ人も弱気になったか....」とも思える数字だ。

 消費者が今の景気や先行きに不安を募らせればどうなるか。それは端的に言って「ものを買わなくなる」というのが当たっている。あたかもアメリカはこれから一年でもっとも消費が本来なら盛り上がる年末商戦に入るのに、この「景気と先行き信頼感」では「消費抑制」ということになるでしょう。11月によほどこの信頼感を押し上げる良いことがなければ。こうした数字を見ると、借金体質のアメリカ人も「今までの自分たちの生き方に対する反省」が少しは出てきているのかな、とも思う。

 良いこととしては、火曜日のニューヨーク株価が引けでダウが 9065.12ドル( 889.35ドル上げ、 10.88%アップ)、Nasdaqが 1649.47ポイント( 143.57ポイントアップ、 9.53% 上げ)、S&P 500が 940.51( 91.59の上げ、 10.79% up)となったことなどが挙げられる。これは私がウォール街のニューヨーク証取に駆けつけた10月13日の936ドルのダウの上げに続く史上二番目の上げ。東京もそうでしたが、火曜日の世界の株価はスペインなど一部を除けば大きく上昇した。

 まあこれは、そもそも「相場水準が笑えるほど低くなった」ことが大きい。今朝の新聞にはいろいろ理由が書いてあるが、「この世が終わらない」という前提に立てば、どう考えてももう買っても良いという水準に接近しつつある、と世界中の人が考えたということでしょう。今の世界の市場経済中心の経済体制が基本的には続くと考えれば、株価がゼロになることは当該企業の倒産がないとすれば、ない。解散価値(PBR)にもいろいろ議論はあるが、一つの重要な目安でしょう。anomaly も行き過ぎていた。当然心理やポジションの切り返しがある。

 この上げが続くのかどうか。それが問題だが、相場の発射台が低くなった分だけ以前よりは持続性があると考える。相場はやはり相場の水準そのものが一番大事なのです。理由はあとから付けられる。「ridiculously low」なものは、周辺環境が悪くても買われる。その後はまた分からない。

 ほぼ全ての経済指標は遅行指標なのでそれを差し引くにしても、悪い数字が依然として多い。8月の米主要10都市の住宅価格の下げは、17.7%で最大となった。主要20都市でも16.6%下落。大きい下げ幅が続いている。下げ幅が大きければ大きいほど、「底入れは早くなる」とも読める。大きく落ちているのはフェニックス(30.7%)、ラスベガス(30.6%)、マイアミ(28.1%)など。一方ボストンとクリーブランドは前月より上昇したという。同じアメリカでもバラツキがあるということだ。

 それにしても、アイスランドが金利を6%も上げたのにも驚いた。今月15日に3%下げたばかりで、新金利18%は経済活動に関してはpunitiveでさえある。新しいことはやるな、という。IMFが21億ドル貸す条件としたのでしょう。クローナが暴落してインフレ圧力が高まっているとはいえ、正しい政策決定かどうかは不明だし、国民の反発は強まるでしょう。そう言えば数日前にハンガリーも利上げした。IMFの役割は11月15日のサミットで議題となるはずだ。

 その反対、つまり利下げをアメリカは今日発表するでしょう。日本の30日早朝になる。可能性としては今の1.5%から1.0%に。効くかどうかは分からない。しかし、「a bleak economic outlook and fears of deflation」(ウォール・ストリート・ジャーナル)の中では、そうせざるをえないでしょう。

 今朝の日経には「日銀、利下げ検討」とある。まあそうなんでしょう。筆者はいつやってもおかしくないと思う。これも効果のほどは分からない。だから反対派も当然出てくる。今の「危機脱出」が最大命題の状況では、「金融政策で何が出来るか」という議論をする場合には、項目として上がっておかしくない。


2008年10月27日(月曜日)

 (23:20)半日以上お台場にいましたが、雨の後だったこともあって空気が綺麗ですがすがしい昼時間でした。知らないうちに夕方には雨が降ったようですが、お台場の方から汐留などの湾岸を見るのもなかなかいいな、と。

 もっとも仕事で殆どスタジオの中にいましたから、景色が見られたのはほんの一瞬で、あとは台本との睨めっこが続きました。やはり水というか海というか、さざ波にしろもっと大きな波にしろ、きらきら光る水があるのは景色を綺麗なものにする。

 それはそれとして、東京の株式相場もそうですが、世界の株価も冴えない展開が続いている。相場は何でもそうですが、一瞬や短期間の動きだとマスコミは騒いでも実体経済に与える影響はそれほど大きなものとはならないものです。その水準で契約が交わされる経済活動の量が少ないからです。

 例えば、一瞬極端な円高に振れても、人々が唖然として間に円安に戻ったら、「あれはいったい何だったのか」ということで済む。マスコミは「○○円を突破」とか大きく見出しを掲げるでしょうが。呆然としている間の事ですから、契約が結ばれる量は少ない。オプションのノックアウトくらいです。起動するのは。

 しかし相場レベルが一定時間以上続くと、それはジワリと経済活動に響いてくる。今の世界的な金融危機は、長引けば世界経済に大きな変化を強いることになる。円も株価もまあ言ってみれば anomaly でしょう。ほっておいても戻るかも知れないが、意図を持って是正する段階に来たと考えるのが自然です。


2008年10月26日(日曜日)

 (23:20)色々な方からメールをもらいました。ミッドタウンの「有名なケーキ屋さん」について「まだ入っていない」と書いたら、既に行かれた方から「がっかりした」というご意見がいくつか。「包装紙が凄いだけ」というご意見も。ははは、まあはっきり言って自分も味わってみたいのですが、あまり期待しないようにしよう.....。

 神戸の空港については、江口さんから以下のようなメールを頂きました。

 伊藤さんこんばんは。いつも番組楽しみにしています。今日は神戸空港の話題が出ましたので思わず・・・

 神戸空港は私たち神戸市民も激しく反対しました。しかしいつものように署名運動もむなしくできてしまいました。私も空港は利用したことがあるのですが、伊藤さんご指摘のとおりの本数で使えません。

 逆に私も東京に行く時は伊丹や関空を利用します。それぞれ三宮からそれぞれ40分、50分で着くからなのです。阪神高速が混むか?と言えばどちらも環状線を経由しませんのでほぼ時間通りに着きます。

 神戸空港を使うとすればポートライナーかタクシーで一番奥の駅までいかないといけないのですがそうすると益々伊丹との差はなくなります。全く呆れたものですよ。

 ただ単にパンフレットに陸、海、空からアクセスできると書きたいが為の税金の無駄使いです。しかも神戸空港の離着陸には六甲おろしが影響してパイロットはかなり緊張感を伴うそうです。そういう面からも危険です。かくなるうえは、LCC誘致しかないなと思っております。

 長文失礼しました。新番組も拝見させてもらってます。頑張ってください。応援しています。

 そうでしたね。反対した方も多かった。私は関西テレビの番組で、関西3空港の整理統合を提案したことがあるのですが、現状は3空港。使い勝手が良いのは伊丹だけですね。今年関空を使ったのは一回。それも海外からの乗り換えだけです。リニアが仮に大阪まで伸びたら、大きな整理が必要になると思う。

 「世の中進歩堂」 も見ていただいているそうで、徐々に面白さが増しているのではないかと思います。これからもどしどし面白い内容を出していきます。


2008年10月25日(土曜日)

 (16:20)こんなんで使いものになるのかな.....と。どう考えても、なかなか難しいんでしょう。

 何の話かというと、神戸空港です。午後3時くらいまで神戸にいて、もう新幹線で帰るのは疲れるので、「初めて神戸の空港を使おう」と思ったのです。で、4時頃の羽田行きを調べてもらった。そしたら、「ありません」と。

 そりゃないでしょう、と思ってもう一度調べてもらった。そしたら航空会社を問わなくても午後3時のあとは午後6時だというのです。もちろん羽田行き以外は充実しているのかも知れない。しかし、東京行きがそれほど少ないのなら、利用者も少ないのだろうと。

 結局、神戸国際空港の初使用は諦めてJRの新神戸にタクシーを回してもらった。神戸として新空港を歓迎する気持ちは分かるのですが、ちょっと使い勝手が悪い。もうちょっとどうにかしてくれないと。

 うーん、やはり関西に3空港とは多すぎるのではと思ってしまいました。


2008年10月24日(金曜日)

 (16:20)新しいエッセイがアップされました。今回は来月の15日に開かれる金融サミットでもしかしたら話し合いが行われるかもしれない新しい国際金融システム。それが途上国に与える影響という視点で考えております。むろん、日本への影響も別途ありますが、今回はこのコラムに相応しい途上国の視点で。

 URLはhttp://premium.nikkeibp.co.jp/em/column/itou/33/index.shtmlになります。

 昨日は友人との約束があって六本木のミッドタウンに移動。時間より早めに着いたのでガレリアの3階から一階までをゆっくり時間を潰しながら見回りましたが、オープン当時に比べてあまりにも人の数が少なくなったのでビックリしました。当時は凄い人が出ていた。

 しかし今回は、天候も良くなかったと言うこともあって、本当に人がゆったり歩いている感じ。逆に、「こういう方が買い物場に相応しいのでは」と思いました。3階は相変わらず小物が揃っていて見ていて楽しい。2階が女性もの、1階が半々という感じでした。地下も比較的空いていて、平田牧場の揚げ物も食べたかったのですがこの次に。

 地上一階のあの有名なケーキ屋さんも直ぐ入れる感じでした。そういえば、あのケーキ屋さんにはまだ一回も入っていない。ははは、そのうち時間を見て。


2008年10月23日(木曜日)

 (14:20)なんか打ち合わせが多いこの二日ぐらい。年末も近づいてきたので、その関係もある。来月の出張もあるし。ははは、今度は私が再びアメリカに行く日が「金融サミット」の日ですか。ワシントンに入るのか、その他の都市に入るのかは決めてありませんが。

 危機は世界の金融機関から、今度は国に移ってきた。アイスランド、ハンガリー、ウクライナ、韓国、パキスタン。まだまだある。水曜日には南アメリカ各国の株価が大きく下げた。軒並み10%前後。まあ国もleverage をかけて運用してきたようなところは今は全部危機に直面している。

 考えてみれば、こうした各国の危機の中で日本の通貨・円がもっぱら買われているのは、ある意味では日本という国の特異性、パワーを示している。円高は輸出企業には痛手ですし、日本の株は外貨建てから見ればあまり売られていないことになるので、一段と売られることになる。これは問題です。キャッシュ化の動きは止まっていない。

 しかし通貨が急落して石油も割高な価格でしか輸入できなくなるよりは良い。その辺をどう考えるかはまた難しい問題です。ただし円とともに強いドルとの「なぜ強いか」の理由比べには大きな差があることだけは認識しておく必要がある。

 最近数日間で発表された統計では、Growing Unequal? Income Distribution and Poverty in OECD Countriesが面白い。各国のジニ係数をOECDとして発表している。

 日本については、COUNTRY NOTE: JAPANにありますが、ここでは日本での「格差は拡大している」論にもかかわらず、日本の格差が縮小していることが示されている。いろいろな見方が出来るのでしょうが、議論は客観的な統計に基づかないと意味がない。そういう意味では興味深い統計です。

 ここ数日だけでいろいろな人と話をしていて、面白い話がいくつかある。取材するのも取材を受けるのも、結構世の中の変化が分かって面白い。今日は日経ビジネスの人の人との駅中商店街に関する話題が面白かった。


2008年10月21日(火曜日)

 (09:20)アメリカを中心に、そして世界中でこれだけ公的資金を銀行にぶち込めば、または注入される見通しにあるのなら、インターバンクの短期金融市場の金利は少しは下がるでしょう。先週末から今週初めにかけてそれが起きた。

 ニューヨーク市場が開場する前の3ヶ月ものユーロダラー金利(3m Libor)は、4.05875%に低下した。これは先週末の4.41875%から更なる低下。当然ながら市場が注目しているTED金利も下がった。アメリカではCP金利も下がっている。

 昨日の東京市場も300円を超える日経平均での上げですが、週明けはニューヨーク・ダウも上がった。 413.21ドル、4.7%の上げで、引けは9265.43ドル。「魔の午後3時」以降の株価の動きは、月曜日の場合は「上げ」。石油価格の上昇を受けてシェブロンやエクソン・モービルが各11.6%、10.2%の上げでダウの上昇を引っ張った。

 ただし、この3ヶ月物ユーロダラー金利の水準は、リーマン・ブラザーズが9月14日(破産法申請)に実質的に破綻する前の水準を依然として上回っている。先週末にはもっと短いタームのユーロドル金利が下がっていたから、月曜日の世界的な株価の上げは理解できる。ただし上がれば上がるほど、レバレッジ外し(de-leverage)とキャッシュ化の動きは出る。依然として下方圧力は残っているということでしょう。それが分かっている上で、世界中の投資家が買えるのかどうか。

 今回は議会で証言したバーナンキは、日本の新聞にある通り「追加財政出動」は「適切だ」と証言。金利も下げる用意があるのでしょう。来週の28、29が次のFOMCですが、多分私は0.25%か0.5%か難しいところだが、引き下げをすると思う。アメリカでは「デフレの懸念」さえも台頭している。バーナンキの証言で一番重要なのは、以下の文章の最後の部分です。

 I understand that the Congress is evaluating the desirability of a second fiscal package. Any fiscal action inevitably involves tradeoffs, not only among current needs and objectives but also--because commitments of resources today can burden future generations and constrain future policy options--between the present and the future. Such tradeoffs inevitably involve value judgments that can properly be made only by our elected officials. Moreover, with the outlook exceptionally uncertain, the optimal timing, scale, and composition of any fiscal package are unclear. All that being said, with the economy likely to be weak for several quarters, and with some risk of a protracted slowdown, consideration of a fiscal package by the Congress at this juncture seems appropriate.
 ただし何をするのかは難しいし、今のアメリカは権力の移行期にある。利下げの動き強めているのは、今まで高金利を維持してきた途上国です。週末から週明けにかけては、ベトナムとインドが各1%の下げを実施した。といっても、新しい金利はベトナムが13%、インドは8%。非常に金利が高い国。

 市場は落ち着き始めているものの、ピンチに立つ国は増えている。ウクライナ、アイスランド、ハンガリー、パキスタン。まだまだいっぱいあると思う。借入金で国を運営していた国は、アメリカ以外は厳しい。日本は世界で対外借り入れが少ない国の筆頭です。
 ――――――――――
 月曜日は昼前から新潟に。県の統計大会というのに呼ばれて。最初何の会合か分からなかったが、ちょっと話を聞いていたら我々が見ている各種統計の元の統計を集めている方々を表彰したり、慰労する大会だと分かった。「ああ、自分が見ている統計は、もともとはこういう方が集めていらっしゃるのか」と思いました。結構面白かった。

 http://www.ycaster.com/のFTP問題は、東京に帰ってきてプロバイダーからのメールを再点検したら、容量増大のサービス拡大に伴って、ユーザーネームとパスが変えられていたことが判明。「なあんだ」という問題だった。

 あとはケイタイ問題ですが、まあこれは他の機能は十分に回っているので今のところ差し迫った問題ではない。
 


2008年10月20日(月曜日)

 (06:20)「伊藤さんが帰ったとたんに真冬の寒さですよ 」とニューヨークでお食事をご一緒した方からメールが。5度ですと。そりゃ寒い。私がいた間は、異常に暖かかったということでしょうか。それから考えると、持って行くものをもうちょっと冬仕様にしなければいけなかったのだが、結果的には「異常な暖かさ」で良かったと言うことでしょうか。11月15日からまたワシントンなどに行きますが、その時は「覚悟」という感じで行かないと。

 午後0時30分頃JFK出発の便だったのですが、空港でまったく偶然に若手二人と遭遇。その二人も別に申し合わせていたのではないらしく、結果的に3人が偶然一緒に、ということになった。しばらく話していて、今回の危機の広がりは凄まじいと改めて。

 今回のニューヨークやプリンストン、それに大統領候補者討論会(ハムステッド)での取材をベースにした番組は、多分11月15日の土曜日の夜にNHKのBS1で放送されます。ちょっと勘違いをしていて、選挙の次の週末だと思っていたら、そこはスタジオ収録になっていたので、放送は11月15日です。

 日本に着いたのは午後3時35分くらいですかね。非常に順調で揺れもなかった。満席だったな。9.11の直後にニューヨークに行ったときには270人乗りの飛行機に60人しか乗っていなかったことを思した。満席と言うことは、依然ニューヨークは話題の多いスポットだということでしょう。まあ何日いても飽きない。もうちょっといたかった。

 改めて今回のニューヨークを思い出して、「日本人も韓国人も減った。増えたのは欧州人」という印象でした。どのレストランに行っても、非英語の欧州人が多かった。ユーロが高い時期に契約したツアーで来ているのでしょう。5年後はどうなるか。

 夕方には家に帰っていたので、「世の中進歩堂」を見ようと思ったら定位置の午後8時半にない。あとを見ていったら午後10時半に入っていた。特別番組でちょっとずれたんですな。

 そうそうこの「人体通信」は面白かった。あの後も根日屋先生にはいろいろ情報を送ってもらっています。次回も面白いですよ。「触覚研究」の最先端

 この番組が良いのは、最先端の研究をしている先生や経営者に直接会えて、しかも話を聞けること。毎回面白いですし、それが見ている方には伝わればいいなと思っています。日本経済新聞さんが最初からのスポンサーさんなんですが、後枠もいろいろな企業さんに入っていただいたようで良かった。来週の不思議なヘリコプターや「触覚研究」をお楽しみに。


2008年10月18日(土曜日)

 (06:20)ははは、早いもので先週の土曜日にこちらに着いてもう一週間。北米渡航は日本からだと行きと帰りで24時間ちょい飛行機に閉じ込められますから、土日を両サイドで出張期間に入れても実働は7日間です。今日土曜日の飛行機に乗らないと日本の日曜日には戻れない。

 日本のいろいろな人からメールを頂いた中で、「歴史的な一週間に立ち会えたのは良かったのでは」とよく言われる。ちょっとへそ曲がりなことを言えば、歴史はどの週でも、どの瞬間でも世界中で一ページを刻んでいる。それはいつでも変わりはないことです。まあしかし、ニューヨークの株式市場を見ただけでも史上最大のポイントでの株価上げがあり、そして史上2番目の株価下げがあった。今週一週間で都合3回も取引所に駆けつけました。フロアでも撮影した。市場は激動だった。

 第三回目の、最後の大統領討論会が水曜日に行われ、私も現場に居たのですが、それを契機に圧倒的に「オバマ優位」が確定したことも、途中経過かも知れないが、私にとって記憶に残る事です。しかし選挙はやってみなければ分からない。ブラッドリー効果もあるかもしれない。

 しかし私がアメリカを去ろうとしている現時点の状況は、「オバマ圧倒的に優位」です。テレビを見ていても、コマーシャルを打っているのはオバマ陣営だけです。あまりテレビを見る時間もないのですが、正直言ってマケインの選挙コマーシャルを私は見たことがない。オバマのそれは昨日のレイズ対ボストン中継でも何回も見た。マケインは選挙資金がなくなりつつあるとも言われる。事実今日のニューヨーク・タイムズには、コマーシャル時間の確保でオバマが圧倒的に優位に立っているとの記事がある。

 市場安定化に向けて、今週はアメリカだけでなく世界中の当局も激しく動いた。先週の土曜日のG7声明から、今週の欧州各国の様々な動き、「不良債権買い取り」から「銀行への資本注入」に焦点を切り替えたアメリカの危機対策など。歴史のページとして書き残されることは多かったと確かに思う。しかし私にはアメリカ人が「way of life」に対する考え方を一部では変え、一部では全く変えていないのが面白かった。それはおいおいスタジオトークなどでも紹介します。

左から小口、松本、伊藤、増田、本山  一週間も居ればいろいろある。「http://www.ycaster.com」のサイトへのFTPがおかしくなって更新が出来なくなっていることや、ケイタイを閉じたときのデジタル表示が明らかにおかしくなっていることなど。まあちっちゃいことです。HPはhttp://www.ycaster.comでは更新が止まっているが、http://www2.gol.com/users/ycaster/http://arfaetha.jp/ycaster/で生きている。あと爪が伸びてきて、キーボードが打ちにくくなってきたことかな。

 メンバーも面白かった。新しいヤンキースタジアムの前でしか考えたら集合写真を撮らなかったので、別の写真を掲載しますが、左からカメラの小口さん。音楽好きのおっちゃんです。深夜のブルーノートがお好き。松本さんはニューヨークに暮らして14年。私が去った後のニューヨークの変遷や現状についていろいろ教わった。彼には新しいレストランを一杯。私の右の増田さんはDで、あんな何もないアイオワに一年も留学した経験がある。私の後輩です。一番右はもうちょっと突っ込めば面白いものが出てくるかも知れない怪しいニューヨークの若者・本山君です。現地コーディネーター。

 前の写真に居て、今回の写真にいないのが椎名君(音声さん)ですが、彼の実家には大統領候補討論会の最中に実家のお母さんのところに例の詐欺電話がかかってきた。多分偶然だと思うのですが、「アメリカ」と言う言葉が入っていてお母さんは仰天し、かつ動揺したらしい。これは防げた。しかし、最後の晩に合計7人で打ち上げをやったら、最初と最後に参加した早崎さんが、「私の実家の母親は実際にやられました」という話になった。小さい一本だったそうです。もう私は両親が居ませんから両親がそういう詐欺にひっかかる可能性はないのですが、聞きしにまさる巧妙さにびっくりしました。

 久しぶりにニューヨークという場所に居を据えていて、はっきり言って面白かった。ニューヨークの変わったところ、変わっていないところ。もの凄い数の人に会いましたが、意外な人が面白かったな。ノーベル賞直後のクルーグマンはそれでそれで面白かったが、考え方自体は本やコラムで知っている。まあ彼はVTRの中にも登場するでしょう。登場しないかも知れない人の中にも面白い人が一杯いた。それは放送の時のお楽しみです。編集陣がどう編集するか。

 私は帰りますが、スタッフは水曜日ごろまでいるようです。マンハッタンからちょっと出た良い場所(?)のホテルに移って。ははは。素晴らしい。ご活躍を。


2008年10月17日(金曜日)

 (00:20)松坂が打たれ(5失点)、パペルボンが打たれ(2塁打で2点)たら、もうちょっと回復不可能だと思うじゃないですか。だから一回テレビを消したんですよ。仕事もあったし。7−0でボストン敗色濃厚の時に。

 しばらくたって、「あれ」と思ってテレビを再び付けてみたら7−7になっていた。それから最後まで見ましたが、9回裏にJDドリューのサヨナラヒットでレッドソックスの勝ち。どえらいチームですな。まあまだ岩村のレイズの方が一勝先勝していますが。パピーが3ランを打ち、ドリューが貴重な3打点。ははは、ボストンファンの歓喜がニューヨークにまで聞こえてきそうだ。

 ところで16日も一日あちこちに行き、あちこちで取材しましたが、それとは別に非常に強く感じたことがある。それは、「日本人がいない」ということです。それは私が住んでいた70年代、そして日本が一番存在感を高めた80年代、その後の影響力(日本の)低下気味だった90年代に比べても、そして前回ニューヨークに来た2003年にもなかった現象です。

 例えば15日の夜は遅くまで大統領候補者の最後の討論会が行われたロングアイランドのハムステッドに行っていてろくなものが食べられなかったので、昼は稲ぎくの天麩羅を食べたいと思って6人で行ったのです。以前はそこでは日本人が半分ほどの席を占めているのが普通だった。

 ところがところがです。私が見たところ、日本人の客はわずかに一組しかいない。あまりにもビックリしたので、「日本の方は少ないのですね」と店の人に聞いてしまった。そしたら店の人が、「最近は本当に少ないんですよ.....」と。

 稲ぎくだけではない。街を歩いていても、本当に日本の方が少ない。いえ、直ぐに分かるのです。持っている雰囲気で。日本食屋でなくても、どこのレストランに行ってもほとんど日本人がいない。以前は必ずどんなレストランにも日本人のグループがいくつかいた。

 別にだからどうこうということはない。しかしあまり以前と比べて少ないと、「どうしたのかな」と思ってしまう。日本領事館に登録している日本人の数は8万人くらいで減ってはいないらしい。しかしあまり街に出ていないし、観光客も少ないというのが実体らしい。

 いろいろな人と話すと、パリでもミラノでも、そしてここニューヨークでも「日本人が減っている」というが共通現象らしい。この間の円安もあるが、どうやら「日本人が外にでかけなくなった。特に若い人が」というのが大きな背景のようだ。

 うーん、でもちょっと寂しいな。ここまで減ってくると。何か日本が内向き志向を強めているようで。もうちょっと様々な日本の方が海外で跳梁跋扈してくれないと。


2008年10月15日(水曜日)

 (18:20)日中の雰囲気から「もしかしたら」と思って夕方にニューヨーク証券取引所に駆けつけたら、やはりでした。今回は取引所の外ではなく、3年前と同じように取引所の中のバルコニーからずっと見ていました。引けがダウで733.08ドル安になるのを。

 はっきりってそんな下げなど見ていたくないですよ。バーナンキが「経済と市場の安定のためにあらゆる手段を発動する」と言い、G8の首脳が「緊密な協力と調整のもと、金融システムの安定に取り組む決意」を表明した「世界経済に関するG8首脳声明」を出しても、ニューヨークの株は史上二番目の下げを記録した。ここが重要です。

 市場救済の各種の措置がとられ、今朝のウォール・ストリート・ジャーナルには「銀行救済で貸し出し市場に緩和の兆し」との見出しが一面トップになったにもかかわらず。そしてアメリカが銀行への直接資本投入という市場の一番望んだ措置を打ち出したにもかかわらず。世界の首脳の苦悩は深いに違いない。バーナンキやポールソンを筆頭に。「もうあと何をすれば」という印象でしょう。

 ニューヨークの株は、私たちのチームがニューヨークのヒルトン・ホテルでバーナンキの講演を取材していたときから300ドル以上下げていました。朝から弱かった。しかし、バーナンキ発言は具体性に欠けた。発言が始まる前に手元のPCで概略を読んでそう思いました。それが午後12時ちょっと過ぎ。FRBのサイトには、実際にバーナンキが話し始める前に講演録がアップされた。

 午後もジワジワと下げ、我々がニューヨーク証取の前に着いたのが午後3時過ぎで、その時はダウは500ドル前後安。ドスンと落ちたのは、我々がバルコニーでカメラを据えてからです。金融株の下げがきつい。

 何が悪いのか。経済実態が悪すぎるのです。9月の小売売上高は、0.7%の減少予想の時に1.2%の減少となった。ベージュブックも悪く、JPモルガンは84%の減益。打つ手は打ってのこの下げ。ちょっときつい。

 夜はこれからロングアイランドに行きます。。選挙前最後の大統領候補討論会を取材するため。デイリー・ニュースはこの討論会を「Last Chance」と銘打ち、「Tonigh's debate is do-or-die for Mccain's campaign」として(記事はここです)、もの凄い一面を構成している。サイトのどこを探してもないので、ここには表示できませんが。


2008年10月15日(水曜日)

 (06:20)久しぶりにニューヨークに滞在して数日が過ぎただけですが、思うのは「もうデータベースを書き換えねばならない」ということです。例えば、「ニューヨークの店」というサイトは、私が1970年代から行っていた店の一部を掲げたものです。この中にも依然として美味しい店はある。しかし、もっともっと面白い、新しい店も増えているということです。

クルーグマン教授とのインタビュー風景。近くにいたディレクターの話によると、約40分のインタビューで私は30近くの質問のやり取りをしたらしい。面白かった。上背は私よりちょっと小さいくらい。横が太かった  かねてニューヨークの友達などに言われていたことですが、今回は「本当にそうしよう」と思いました。何せニューヨークは大きく変わって来ている。特に今回感じたのは、マンハッタンのウエストの変化の凄まじさ。ウエスト・サイド・ハイウェーは昔からあるのですが、今は道もまったく変わったし、その沿道の店も大きく変わった。昔は店なんかなかった。ハドソン川が埋め立てられて、ウエスト・サイドの景観が変わってしまったと言っても過言ではない。

 特に昔ミート・パッキング・エリアと言われたところには、次々に新しいレストランやショップが出来ている。「ここがニコール・キッドマンが住んでいるマンション」と紹介されたのも、ウエスト・サイド。以前はあんなマンションがウエストの下の方にあるなんて信じられない。

 もう少し前からあるらしいのですが、ゴルフ練習場があるのには驚いたな。マンハッタンに。あと魚介類の店、スポーツジム、などなど。私がニューヨークに住み人達に夜などに連れて行かれた店で面白かったのは今のところ以下の通りです。

  1. チャイナ・タウンのPING(合記飯店の前)=安くて美味かった
  2. ブッダカーン(http://www.buddakannyc.com/buddakan.html
  3. その近くの13の9thアベニューにあるデザイナーホテルの屋上のスポット
  4. バブルラウンジ(http://www.bubblelounge.com/
  5. A VOCE(http://www.avocerestaurant.com/)というイタリアレストラン
  6. 230fifth(http://www.230-fifth.com/
 最初の店は、「よく合記飯店には行った」と言ったら、コーディネーターの松本さんが、「その前のピンも美味しいですよ」と行ってくれたことで全員で仕事終わりで行ったもの。合記は2003年にも行ったのですが、彼が言うとおり「ちょっと店の味が変わった」。以前の方が美味しかった。

 次のブッダカーンはニューヨーク駐在のテレビ局の友達から連れて行ってもらったのです。株の上げがきつかった月曜日だったので、友人とその友達は遅れてきた。でバーで酒を飲んでいてバーテンと話をしていたら、突然彼が「私の妻は京都生まれの日本の方です」としゃべり出した。それから暫く話したのですが、面白かった。彼とはメルアドまで交換しちゃったな。

 アフロ系の方で、ロスで知り合って今は二人で4年くらいニューヨークで暮らしているという。それは置くとして、このレストランは上下に、そして横に大きい。店が物理的にディープなんです。ミート・パッキングのエリアの再開発としては一番大きなもののようで、どの店の人に「テーブルはいくつあるのか」と聞いても、誰も「わからない」という。基本チャイナで、あと豆腐などもある。味はまあまあ。店が面白い。

クルーグマン教授とのインタビューの後の写真撮影。その日のフィナンシャル・タイムズのWhy Mr Krugman deserves his Nobelというエディトリアルを見せたら、「まだ読んでないんだよ」と言いながら、最後に覗き込んで興味深く読んでいたのが印象的だった。  今回感じたのは、ルーフトップのバーが増えているということです。考えてみれば、マンハッタンはハイライズの街です。その一番上にバーを作れば、面白い景観が見られる。二つちらりと行きました。三番目に書いた店と、最後の店です。規模は下の方が大きい。230fifth です。真っ赤な寒さよけのコートも用意してあった。

 今回は松本さんに、「これがニューヨークで今美味しいレストランの一覧です」というA4の紙を3枚(びっしり書き込む済み)を頂いた。むろん、短期間に全部は行けません。徐々に自分で確かめて、私のデータベースを変えていかないと。

 引き続きインタビューや取材を続けている。火曜日はペース大学に行ったり、ニュージャージーのプリンストン大学(マンハッタンから片道1時間20分)に行ったり。プリンストン大学では、ノーベル経済学賞を受賞してまだ一日しかたっていないポール・クルーグマンに会いました。以前からインタビューの予約が取れていて、「キャンセルになるかも」と一瞬思ったのですが、きちんと予定を維持してくれて、30分の予定がなんだか盛り上がって40分もいろいろ話をしました。

 彼がノーベル賞を受賞してから最初に日本のメディアとして取材したのが我々だった。彼自身が「全く予想していなかった」と言っているくらいで、私たちも月曜日の朝に受賞を知って「インタビューはどうなるのか」と心配したくらいだが、約束に変化はなかった。そこが偉い。

 彼の本は何冊も日本で読んでいるし、ニューヨーク・タイムズの彼のコラムもたまに目を通している。14日のニューヨーク・タイムズが誇らしげに彼の写真を一面に掲げて受賞をお祝いしているのが面白かった。

 インタビューの最初の方で彼に見せたのはフィナンシャル・タイムズのWhy Mr Krugman deserves his Nobelというエディトリアルです。たまたまその日のFTを買ったら出ていた。副見出しが、「His skills as a theorist are rare; as a communicator, rarer」というのです。ははは、嫌がるかなと思ったらこれで話題が盛り上がった。

 インタビューの内容は、11月の大統領選挙の直後の週末に放送される「地球特派員」までは紹介できません。しかしインタビューはやっている私自身が非常に面白かった。かなり突っ込んだ質問もしていますから、どこの部分が放映されるか知りませんが、面白いものになっていると思っています。そこから漏れたものがあれば、その後に紹介します。新政権への関わりなども聞きました。ははは。


2008年10月14日(火曜日)

 (06:20)

Goldman Sachs Group Inc.=100億ドル
Morgan Stanley=100億ドル
J.P. Morgan Chase & Co.=250億ドル
Bank of America Corp.(including the soon-to-be acquired Merrill Lynch)=250億ドル
Citigroup Inc.=250億ドル
Wells Fargo & Co.=200〜250億ドル
Bank of New York Mellon=30億ドル
State Street Corp.=20億ドル

 ブッシュ大統領が14日の朝に発表する「金融機関への資本投入」政策の当面の対象となる大金融機関」として、アメリカのマスコミで名前が挙がっている企業名です。メリル・リンチは直ぐにバンカメに買収されので、それを考慮すれば「8金融機関」ということになる。右にある金額は、投入されると噂される資金規模で、米政府は当初5%の配当が付き、5年後には配当率が9%に上昇する議決権のない株式、「優先株」を購入する。

 「資本注入を嫌がった金融機関もある」とアメリカの新聞には書いてある。そりゃそうでしょう。13日の午後3時からワシントンで行われたポールソンとこれら金融機関のトップとの話し合いは相当時間がかかった。トップの報酬に対する制限、ゴールデン・パラシュートの禁止など、独立心が強いアメリカの金融機関トップには気にくわない条項がいっぱいあった。

 ポールソンは最後は「しのごの言うな」という態度だったらしい。「君たちはこれを受け入れねばならない」と。今後は地方の金融機関などに広げられる資本注入の規模は、総額2500億ドル(25兆円)だと伝えれている。

 議会がすったものだの上に通過させた「不良債権買い取り機構」設立法の中に入っている一つの条項を使う。あの総規模は7000億ドルだったので、そのうちの36%弱を金融機関への資本注入に使うことになる。うまい条項を潜り込ませたものです。

 それで十分か。イギリスが3大銀行への資本注入の為に用意したお金が370億ポンド(6兆3700億円)であることを考えれば、また不良資産買い取りスキーム(4500億ドル→45兆円)もあることを考えれば、当面ということでは妥当か。何百という地方金融機関への注入も視野にあるらしい。

 何が狙いか。別に株価を上げるのが真っ先に来る狙いではない。「designed to keep money flowing through the financial system, ensuring that banks continue lending to companies, consumers and each other」ということにある。つまり、金融市場を企業、個人のところまで再び機能させることが狙いだ。その結果は、「金融市場の正常化」ということで、株価は好反応を示すかも知れないという因果関係。

 まあそれにしてもどえらく差がつくものですな。どこに居たかで。ベア・スターズはJPモルガンに救済された、ということはベア・スターンズで働いていた人は基本的に助かった。今後どうなるかは知りませんが。リーマン・ブラザーズで働いていた人は職を失った。破綻したから。AIGは救われた。そして今、アメリカの巨大8金融機関には公的資金が入って、少なくとも当面は存続が約束された。

 株式市場を見ても、先週までに「もうあかん」と思って株を売ってしまった人は、今週からの株価の反騰に乗れていない。逆に買う勇気を持っていた人は、大きな利益を確保した。紙一重であると同時に、どうしても一部の人達にとっての「大きなモラル・ハザード」が生じている。「システムを守るため」(ポールソン)と言っても、生じた格差は大きい。大部分のアメリカ国民はあまり得をしていない。

 今から想像するに、ここまで規制と統制の網をかけた金融市場を元の姿に戻すには相当時間がかる。そのプロセスをどう考えるのか。いろいろな言葉が浮かんでくる。金融社会主義もその一つだが、ではそれを乗り越えたところにどういう金融システムが残るのかは分からない。


2008年10月13日(月曜日)

 (06:20)ははは、アメリカの株式市場が週明けとなって寄り付く午前9時30分前後にはウォール街のニューヨーク証券取引所の前にいました。ABCなどのテレビが並んで緊張した雰囲気。こちらも少し仕事をして、その後は一連のインタビューの為にニューヨーク証取を離れた。

 その間にもケイタイに入るニューヨークの株価は時々チェックしていましたが、日中は500ドルを上回る程度の上げ。ところが最後の最後に一段高となって、引けはダウで936.42ドル、11.08%の上昇。上げ幅を見たときには驚きました。引値は9387.61ドル。ポイントでは史上最大の上げ、パーセンテージでは1932年以来だと。引け(午後4時)も行けば良かったかもしれない。

 ニューヨークの株が10日の寄り付き時にダウは8000ドルのレベルを一時割れた(7882ドルだったと思った)ことを考えれば、その後の二営業日の間に14000ドル以上も安値から反発したことになる。Nasdaqも194.74ポイント、11.81%高。これも一日の上げ幅としてはポイントで史上最高・最大。パーセンテージでも史上最大とも。

 もっとも10日まで8日間の下げ幅(約2400ポイント)に比べれば、この日の上げは半分も取り戻していない。また13日の急騰したダウの引値でも、今年これまででは依然として29%の下げであり、約一年前の昨年10月09日に記録した14164.53ドルに比べれば33%の下げである。

 ダウ構成の30銘柄のうち、下げたのはGE一つだけ。10ドルを先週割っていたモルガン・スタンレーもこの日の引けは17ドル台。アメリカのテレビは「今日だけでモルガン・スタンレーは84%も上がった」と騒いでいる。三菱UFJの名前がアメリカのテレビに頻繁に登場。GMは33.1%上昇、アルコアとシェブロンは各20%上昇し、マイクロソフトは18%高、アメックスは17.9%アップ。つまり、上げ幅を見ると優良株の上げの方が激しい。

 でもどうなんでしょうかね。下げも酷かったが、13日の上げもある意味暴力的です。週末からの世界の動きを見ると、「寄って集って、結果的には株を上げるために世界中の国が全力」を使っている。銀行を国有化し、短期市場に流動性を付与し、預金を保護し。

 しかしやることは一杯残っていますよ。弱くなってきた世界経済をどうするのか、アメリカ経済の借金体質をどうするのか、大規模に発生しているモラル・ハザードはどうするのか。宿題は多い。投資家にとっても、これからがまた難しい。上げが続くのか、それとも一時的と見るかで全く戦略は違っている。

 いずれにせよ、先週までに株を見限ってポートフォリオから外した人は13日の世界的な株価の上昇には乗れない。やはり評価すべきはバフェットおじさんの慧眼か。


2008年10月13日(月曜日)

 (00:20)ほう。相当エキサイトしたみたいですな。仕事が忙しくて見てありませんよ。しかし以下の文章を読むと、黒田の投資、おっと「闘志」がドジャースを、そしてジョー・トーレを救ったような。

Indeed, no punches were thrown and no one was ejected, though plenty of unprintable words surely were said.

If five first-inning runs Sunday night re-established the Dodgers as contenders, then one well-placed pitch by Hiroki Kuroda restored the sizzle to this National League Championship Series.

Kuroda refused to let his team be pushed around any further

Kuroda continued his mastery of Philadelphia, allowing five hits and two runs in six innings, but it was his no-surrender mentality that endeared himself to a team that had been waiting 48 hours for someone, anyone, to do what he did to Victorino.

仕事の帰りに寄った新しいヤンキースタジアムの前で。来年の松井はここで活躍してくれるのだろうか。今回のメンバーは椎名、小口、伊藤、増田、本山。あと松本さん  ははは、unprintable words というのが面白い。何が言われて、何を言ったのだろう。せっかく渡ったのだから、日本人選手には活躍して欲しいじゃないですか。今年はピッチャーの当たり年ですな。バッターは岩村くらい。彼はいいですよ。あのモヒカンがチームをリードしている。


2008年10月12日(日曜日)

 (00:20)綺麗な土曜日でした。ニューヨークの秋の週末に一度あるかないかという。日差しは柔らかく、風がないので、暖かい。街にはTシャツとマフラーやコートが共存するような。実際昼はTシャツが似合い、夕方はちょっと寒くなって一つ余分に欲しい。アメリカ人はこういう秋の一日を、「beautiful」という単語で表す。

 日本と同じ三連休の初日。JFKに午前10時15分ごろ着いて直ぐにスタッフと落ち合って車移動。タイムズ・スクエアに行ったり、グランド・ゼロの回りのダウンタウンに行ったり、セントラル・パーク・サウスに行ったり。近くまで行ったので「30リンカーン・プラザ」も懐かしのちらみ。ニューヨークに居住していたときに最後に、かつ一番長く居た建物です。変わらずに活況だった。

 それにしてもニュースの多い土曜日でした。JFKに着いたら、これでもかというくらいにケイタイに速報が入ってきた。ロサンゼルスでの出来事、けしからん話としてのブッシュ政権による北朝鮮のテロ支援国指定解除発表。料金はどのくらいかかるか分からないが、日本のケイタイが日本にいる時と全く同様に世界中で使えるのは便利です。

 アメリカもニュースが多かった。GMがクライスラーを買収するかも知れない、と。そんな弱弱合体をして何になるのか。その一方でフォードはマツダの持ち株(34%程度でしたか)を売却するかもしれない、と。自動車業界生みの親であるアメリカで、自動車業界のランド・スケープを変えるような変化が始まっている。

 ランド・スケープと言えば、面白い職業を名乗る人に出会いました。「俺はランド・スケーパーだ」というのです。道の真ん中にあるちょっとした公園ゾーンを指さして言っていたので、「造園師かな.....」と。調べます。

 それはそうと観光客が多い。バスを連ね、ぞろぞろと。海外からもですが、何よりもアメリカ中から。うーん、この時期を過ぎるとニューヨークは時にめちゃ寒くなる。それを知っているアメリカ人が、ニューヨークを訪れる。ニューヨークは初めてというテキサスの一家などに会いました。

 英語は錆び付いていますな。特に喋る方は。「あれ、こう言うときなんて言ったっけ」みたいな。ニューヨークは夜中ですが、今テレビではレッドソックス対レイズの試合が正に9回裏で8対8。ルーズベルトでしたか。野球は8対7が一番面白いと言ったのは。

 岩村が1アウトで2塁強襲のヒット。彼がホームに帰ってくれば、レイズはサヨナラ。一勝一敗でボストンに行ける。


2008年10月11日(土曜日)

 (10:00)私が成田エキスプレスの中にいる間に発表されたG7後の声明では、以下の二つが重要です。今後それぞれの国が、「我が国はこれをやる」というのが出てくるでしょうが。むろん、「もうやった」という措置もかなりある。そういう意味では、斬新さに欠ける。

G7のPlan of Action

G7後のStatement by Secretary Henry M. Paulson, Jr.

 ともに米財務省のHPにある文章です。前者は「行動計画」ですから、G7に参加している国の当局が何をするかを述べているはずですが、個々の国が何をするとまでは書いてない。「urgent and exceptional action(緊急で例外的な措置を取る)」と述べて、その後に

  1. 金融システム保持の為に重要な金融機関の支援と破綻阻止
  2. 金融市場の目詰まり解消と流動性確保、資金調達への広いルートの確保
  3. 銀行やその他金融仲介機関の公募、私募での資本調達の促進と信認回復、それによる企業、家計への貸し出し
  4. 預金者の金融システムへの安心感維持の為の預金保護制度の拡充
  5. 住宅ローン、その他関連証券市場の再スタート、資産の適切な評価と透明性のある開示、高度な会計基準の一貫適用
 と。これだけだと一般的な措置を並べただけ。結局、G7に参加したそれぞれの国が何をするかは、この週末、または週明け後に何を発表するかに掛かっている。「行動計画」とした割には、列挙に終わっていて弱い。まあG7が出来ることはこのくらいかもしれない。だからこそ、ポールソンは期待値を下げる努力をしていた。

 今週大荒れになった市場は、各国の措置を見ないと安心しないのではないか。今までの措置の積み上げと、相場水準の大幅下方修正は念頭に入れる必要があるが、具体性に欠ける。「協調」も弱い。

 多分、この「行動計画」だけでは足りないと思ったのでしょう。ポールソンはG7後に声明を出した。下のリンクです。その中で一番肝心なのは、

We are developing strategies to use the authority to purchase and insure mortgage assets and to purchase equity in financial institutions, as deemed necessary to promote financial market stability. As we develop plans to purchase equity, as in the approach we are taking to broad mortgage asset purchases, we are working to develop a standardized program that is open to a broad array of financial institutions. Such a program would be designed to encourage the raising of new private capital to complement public capital. Consistent with the legislation, any equity the government purchases through a broadly available equity program would be on a non-voting basis, except with respect to the market standard terms to protect our rights as investors.

 まあアメリカの市場が落ち着かないと、そして欧州の金融機関やシステム維持の方式が揃わないと、そして可能なら日本も例えば流動性対策で一歩踏み出すとか協調を示さないと多分来週の市場もかなり荒れ模様となるでしょう。ただし今週のようには一方的な下げばかりの展開とはならないでしょうが。


2008年10月11日(土曜日)

 (06:00)朝起きて金曜日の引け直後のウォール・ストリート・ジャーナルを眺めたら、どえらい見出しの連続。

  1. ダウ、1000ドルのスイングのあと128ドル安で引け(NASDAQは小幅高)
  2. モルガン・スタンレー、一ケタドル台に急落、ゴールドマンも大幅安
  3. 石油価格、80ドルを下回る
  4. GEの利益が22%減少
  5. 朝方の600ドル安からの反発にもかかわらず、今週一週間のニューヨーク・ダウの下げは18%に達し、112年のニューヨーク証取の歴史で最悪
  6. The U.S. is weighing two dramatic steps to repair ailing financial markets: guaranteeing billions of dollars in bank debt and temporarily insuring all U.S. bank deposits(銀行債務の保証と全銀行における全預金の一時的保護という二つの劇的措置で、病む金融市場を修復する方向でアメリカは検討中)
 相変わらず動きが激しい。朝方600ドル以上下げて寄り付き、引け際には一時300ドル高があったが、引けで128ドル下げた、という展開らしい。午後の引け際の反発を支えたのはシティバンク(9.1%高)やJPモルガン(13.5%高)などの銀行株の上げだったという。「なぜ」はこれから調べないと行けない。空港に着いてからか。

 しかし、まだ良く読んでないが、モルガン・スタンレーやゴールドマンは急落したということは、旧インベストメント・バンク業態への不信感や個々の企業への格下げがあったということでしょう。寝る前に聞いたブッシュ大統領の演説は、その時点では株価を押し下げただけの効果だったのですが、確かに不良債権買い取りに関する法律に触れた中で「銀行への資本注入」の可能性を示唆していた。今朝の日本の新聞の見出しはこれになっているが、アメリカの新聞はあまり大きくない。8分間の演説の最後の方だったと思った。

 G7の声明は現時点では出ていない。今から一時間後らしい。CNBCを見ていたら、ローレンス・サマーズなど識者が次々に出てきて、「lack of」の後に「trust」とか「confidence」という単語を繰り返し使っている。サマーズは、「銀行間の、そして国民と政府の、そして政府とウォール街のトラスト(信認)の欠如」が問題だと。だとしたら、その相互不信を育てたのは何だったのか。金融機関は相互にやっていることを知っていたはずで、「だからこそお互いに信頼できない.....」ということか。

 昨日自分のアメリカに書いていた文章を思い出した。ちょうど二年前の10月の中旬にニューヨークに滞在した際にまとめたもので書いた文章「Where are you going .....?」の一つの結果が今のウォール街の現状、今の危機に苦しむアメリカだったとしたら、悲しい。その時自問したことは、

  1. 滞在期間中の2006年の10月17日朝に人口3億人になったアメリカ。今後どれだけ人口を増やすのだろうか。EUをいつ追い越すのだろうか

  2. グローバリズムを唱えながら、ニューヨーク証券取引所の回りには頑丈な防御ポイントを設け、市場経済の心臓部を守ろうとするアメリカ。そしてメキシコとの国境には高いフェンスさえ作ろうとするアメリカ。やっていることが矛盾しているとは思わないのか

  3. 誰にでも夢を与えてきたアメリカ。しかし中産階級は限りなく厳しい環境に置かれていて、良い暮らしをしているが故に世界全体に対して寛大だったアメリカ人の心の根幹はゆらいでいないのか

  4. 豊かで強大になったが故に、世界中の人々から畏敬と畏怖を抱かれながら、しかし一方でそれ故に疎まれているアメリカ。イラクを初めとして外交が行き詰まる中で、世界における役割をいつか変えようとするのではないか

  5. しかしその一方で、マンハッタンのビルやコンドミニアム価格の急騰、米長期債に対する海外からの大量の資金流入に示されるこの国への信頼感の高さ。この国の魅力はいったいいつまで続くのか
 でした。アメリカ人も何が起こったのか、とこの週末はちょっと考えざるを得ないかもしれませんな。今回のニューヨークでは、結構面白い取材が出来るかも知れない。


2008年10月10日(金曜日)

 (06:30)ECOマネジメントのサイトに、新しいエッセイがアップされました。インドの急激なCO2排出大国化を扱っています。


2008年10月09日(木曜日)

 (13:30)二日も連続してノーベル賞の受賞者が出るなんて日本も実力、かつラッキーというか....と思ったのですが、まあアメリカなどは「連発」は珍しくないし、今回受賞した日本人のうち二人は基本的生活空間はアメリカですからね。世界のマスコミとしては、「アメリカ人の....」ということでしょう。

 科学者、化学者が研究しやすい場所を選ぶことは決して非難できないと思っているのです。だから今年はこんなに賞が取れたことは良かったとして、今後はどうなんだろうと逆に心配になる。

 私が聞いている範囲でも、基礎研究などの分野での日本の研究者が置かれた環境はどちらかと言えば劣悪だし、何よりも「食べていけない」という声を聞く。今の受賞を喜ぶだけではなく、将来もこうした受賞が続くような体制作りが必要な気がします。

 一方金融市場。昨日の協調利下げで、ちょっと今週末のG7は「具体策」と言っても明確には期待できない状況になってきたし、当局も「期待値」を下げる努力を始めたようです。ポールソンは以下のように述べた、とウォール・ストリート・ジャーナルに書いてある。

WASHINGTON -- Treasury Secretary Henry Paulson played down the chances that the Group of Seven major economic powers would unveil any global plan to confront the widening financial crisis.

On the same day that the Federal Reserve, the European Central Bank and other monetary authorities announced a joint cut in interest rates, Mr. Paulson said the G-7 countries will likely go their own ways when it comes to using tax or spending policies to respond to the credit crunch.

White House spokeswoman Dana Perino predicted that the G-7 meeting will "help make sure everybody is on the same page as we move forward since we're all so interconnected now."

 まあそりゃ国情は違う。かつ、G7としても期待値が高いのは辛い。それを下げておこうと。しかし実際にはフランスも公的資金の預金保護に乗り出したし、徐々に先進国がやっていることは必要なレベルに接近しつつある。加えて、以下のポールソン発言です。
WASHINGTONー Having tried without success to unlock frozen credit markets, the Treasury Department is considering taking ownership stakes in many United States banks to try to restore confidence in the financial system, according to government officials.

Treasury officials say the just-passed $700 billion bailout bill gives them the authority to inject cash directly into banks that request it. Such a move would quickly strengthen banks’ balance sheets and, officials hope, persuade them to resume lending. In return, the law gives the Treasury the right to take ownership positions in banks, including healthy ones.

 最後の「健全な銀行を含めて」....というところが重要です。日本も健全な銀行も含めて公的資金の注入を行って銀行の資本ベースを確かにして、仲介機能回復を手助けした。その結果、経済が回るようになった。

 FRBがCPを買ったり、企業に直接貸し出しをするような状況は決して好ましくない。そういう意味では、これだけの株の危機的な下げによって政治的な環境は整ってきている。あとは「どうしてこんなことになったのか」「次の体制はどういう形がよいのか」という今後を展望した形になるべきでしょう。

 今週の土曜日からのニューヨーク出張は、その辺が焦点です。


2008年10月08日(水曜日)

 (23:30)やはりやりましたか。やるなら協調が良いと書いてきたのですが、午後8時過ぎにケイタイに協調利下げの速報が。FRB、ECB、イングランド銀行、カナダ中銀、スイス国立銀行、スウェーデン中銀の6中銀がそれぞれ0.5%の利下げを発表した。

 FRBの声明は、世界的にもインフレ率は低下しているので、「世界的な金融緩和は正当化される」(Some easing of global monetary conditions is therefore warranted.)と説明している。

 6中銀揃っての0.5%協調利下げが「some easing」の範囲内かどうかは別にして、急がざるをえなかった理由の一つは、今日の東京で見られたような「節度を失った投げが続くことによる世界の株式市場の崩壊」を何とか避けたいという意志でしょう。

 ここ数日の世界の株式市場は、換金売りの嵐の中にある。ヘッジファンドやその他投資家から預かった資金を株式市場で運用していた運用者の投げ売りが続いている。この売りは、利下げがあってもお客さんの指示だから当面は続く。だから協調利下げがあっても直ぐに売りがなくなるわけではない。ある程度の「売り尽くし」が必要だ。また、アメリカや欧州を中心に金融市場が目詰まりしているという事情も変わっていない。

 しかし、時間が掛かっていて市場に近い人間には「遅い」と感じるが、当局の対応は徐々に整ってきつつあるように見える。出来ることからやっているという状況ではあるが、多くの国で実質的に銀行が国有化されたか、公的資金の注入により部分的に国有化された。国有化されれば、その銀行は金融市場で信じてもらえる。情けない話だが当面はそれで凌ぐしかない。

 肝心のアメリカでの不良債権の買い取りが始まっておらず、市場の人間にはその先に必要性が見える銀行への公的資金注入の展望が今はないのが不安材料だが、政治的プロセスもあるから一気に全ての措置が揃うわけではない。しかしFRBが次々に措置を打ち出せるうちに、アメリカ政府はそれを急ぐべきだろう。

 残念なことだが、相場のレベルが下がること自体が、市場全体の底入れの大きな力になる。市場は依然として不安定な、そして時に緊張感の漂うものだが、水準の低下に伴う市場の自律的な内部要因、それに政府の措置など外的な環境の変化は始まっていると見るべきだろう。


2008年10月08日(水曜日)

 (10:30)先週の土曜日の東京新聞のコラムに「中央銀行の出番」と書いたのですが、本当にそういう時代になった。今見たウォール・ストリート・ジャーナルには、「FRBが非金融機関に直接貸し出しをする」と書いてある。

The Federal Reserve said it will bypass ailing banks and lend directly to American corporations for the first time since the Great Depression, and it hinted strongly at further interest-rate cuts -- a cocktail of unconventional and conventional remedies for an economy whose prognosis is deteriorating rapidly.

The historic and potentially risky move of lending to nonfinancial corporations, the latest in a string of extraordinary steps taken by the Fed over the past month, carries the government deeper into the role of propping up private markets. Investors remain unconvinced any of it will work.

 大恐慌以来という非金融機関への直接貸し出し。今は資金を取れない銀行が金融の仲介機能を失っている。だとしたらCPを買い取ったり、直接的な貸し出しに乗り出さなくては成らない。FRBは利下げも検討しているようです。筆者は「協調利下げ」が良いと思っているのですが、バーナンキは7日の講演で次のように利下げを示唆した。
Overall, the combination of the incoming data and recent financial developments suggests that the outlook for economic growth has worsened and that the downside risks to growth have increased. At the same time, the outlook for inflation has improved somewhat, though it remains uncertain. In light of these developments, the Federal Reserve will need to consider whether the current stance of policy remains appropriate.
 調べたら、次のFOMCは今月の28と29日かな。それまで待てるかどうか。今週末に開かれるG7の会合が一つの切っ掛けとなる。そこで先進国協力しての対策を何らかの形で打ち出さなければ、市場を早期に安定化させることは出来ない。
All told, economic activity is likely to be subdued during the remainder of this year and into next year. The heightened financial turmoil that we have experienced of late may well lengthen the period of weak economic performance and further increase the risks to growth. To support growth and reduce the downside risks, continued efforts to stabilize the financial markets are essential. The Federal Reserve will continue to use the tools at its disposal to improve market functioning and liquidity.
 今回の不況の長期化に関するバーナンキの予測は、「もし何もしなかったら」という前提で出てきている。危機が深まれば深まるほど、当局が何かをしなければならない必然性が高まる。日米で株価は10000のレベルを下回った。ゼロにまで落ちる相場はないから、金融機能の少しでも回復すれば状況が変わりうる地点に差し掛かっているとも思える。


2008年10月07日(火曜日)

 (23:30)

アップ
ダウン
チャーム
ストレンジ
トップ
ボトム

 記事を読み進んで複合粒子である陽子や中性子を基本粒子として上に名前のあるクォークの名前に触れたとき、「へえ、案外親しみやすい名前になっているんだ」と思いました。最初の二つが第一世代、次の二つが第二世代、最後の二つが第三世代だそうです。

 ははは、はっきり言って「世の中の最小単位を突き詰めていくと、原子の構成要素として中性子と陽子があり、その中性子と陽子を作っているのが6種類あるクォーク.....ということしか分かりませんでした。

 しかしナノテクノロジーの知識を応用すれば、仮に人間が将来この6種類のクォークを自在に組み立てることが出来れば、なにせ物質の最小単位のわけだから「人間は何でも作り出してしまえる」ということになる。卵も鶏がいらないし、飛行機だって組み立てが出来る。何の素材もなしに......。

 ははは、分子や原子のナノの世界でも「自動組み立て」が難しいのに、クォーク組み立てなど所詮は途方もなく難しい作業なんですが、そんなことも考えました。大体が飛び回っていると聞いているし。しかも、クォークは理論物理で想像されている存在に過ぎないのに。

 南部陽一郎・米シカゴ大学名誉教授(87)と、小林誠・高エネルギー加速器研究機構名誉教授(64)、益川敏英京都大学名誉教授(68)の三人の方がノーベル物理学賞を受賞したというニュースは、御堂筋をタクシーで下っている午後7時半ちょっと前にケイタイ電話に入った速報で知りました。直ぐに同乗していた他の二人に知らせ、みんなで「へえ」と。全員マスコミ関係でしたが、日本人3人げ受賞というのは誰も予想していなかったような。少なくとも私は。

 でも嬉しかったな。何か「また日本の力が発揮された」というような印象を受けて。これも私の本の題名から取れば「日本力」ですから。なにかじわっとこみ上げてくるような喜び。ははは、人間は不思議ですな。「同じ日本人」というだけなのに。朝日新聞は3人が受賞した分野に関して以下のように説明。   

素粒子物理学は、宇宙の起源を解明する宇宙物理学の基礎にもなっている。クォークや電子といった基本粒子は約140億年前、宇宙誕生の際の大爆発(ビッグバン)による大きなエネルギーが生み出したと考えられている。

 究極の素粒子の本質を探る研究は、いまなお続く。物質がなぜ質量をもつのかを説明する理論も、実験で証明されたわけではない。

 このお三方のインタビューがなかなかユニークで面白い。読売新聞のサイトにこの3人に江崎玲於奈、野依良治の両ノーベル賞受賞経験者を加えた5人の電話会談が掲載されていて面白かった。「若手の奮起」を皆さん強調。

 ええことだと思う。日本人の研究、論文がこういう具体的な形で表彰の対象になるのは。だってこういう名前の通った賞でも取らないと、我々物理学などに関係ない人間は「理解しよう」とも思わない。まあ「対称性の自発的破れ」と言われても、それだけでは分からない。これも朝日の記事は分かりやすい形で、以下のように説明している。

 たとえば底が盛り上がったワインの瓶は上から見ると左右対称なのに、そこに小さな玉を入れると、玉は瓶底の中央ではなく、へりに近いくぼみに落ち込むようなものだ。瓶そのものは左右対称でも、玉まで含めた場合は「対称性」が失われている。

 日常感覚では、このような現象は当たり前で、人間の心臓が常に左側にあるように、左右の対称性がそもそも失われている。だが、素粒子はすべての物質の最も基本となる構成要素だ。どこから見ても同じであるべきで、どんな状況でも「対称性」が成り立っていると信じられてきた。

 しかし、南部さんは「素粒子の世界でも対称性が自然に破綻(はたん)するケースがありうる」と考えた。破綻するのは、対称性が失われた方がエネルギー的に安定する場合だ。一見、常識破りのこの考え方が、「質量の起源」を解き明かす研究の端緒となった。

 ここまで読むと、何となく分かった気になる。「素粒子の世界でも対称性が自然に破綻(はたん)するケースがありうる」と考えたのが素晴らしいと。これが50年も前の発想だったというのが素晴らしいですね。我々の日常生活には、「非対称」が溢れかえっている。本当に対称があるのは、絵画とかそういう世界の方が多い。


2008年10月06日(月曜日)

 (23:30)お台場で長い収録。時間がかかりました。午前10時過ぎにスタジオに入って、終わったのは午後6時ちょっと前。手順が悪かったわけではなく、やることが多かったため。「世の中進歩堂」は毎回勉強になる。昨日は日経新聞の番宣の取材もあった。

 その間にも、株価は大きく値下がりしていたような。世界的な株安になってきたのが心配で、特にヨーロッパは「連邦予算がない」(トリシェECB総裁)のが危機対応力を問われている。こうなったら、何をするにも「協調」でないとダメ。月曜日の朝に文章を書きました。

 最近の新聞はあまり面白くない。なぜなら、金融や経済に関する記事で一杯になってしまって、その他の世の中で起きていることに割かれる割合が少なくなってしまうため。まあそれも私の記憶でも戦後決してなかったようなインパクトの危機ですから仕方がない。

 ただし直感で言うと、案外危機からの回復は早いかも知れない。なぜなら、世界における需要は依然として強いからと、危機の進行も早いから。ただし負債をパイルアップさせすぎた経済(例えばアメリカなど)の回復には、そうでない国より時間がかかる。

 いずれにせよ、今週の土曜日からのニューヨーク出張は、どえらいタイミングの取材となった。見たいこと、聞いてみたいことは山ほどあり、感じることも多いでしょう。行っている間にも色々なことが起きそう。11月にも10日ほどアメリカに行きます。


2008年10月05日(日曜日)

 (21:30)ははは、改めて見ても異色の番組でした。BSジャパンの新番組である「世の中進歩堂」です。自分で言うのもなんですが、世の中金融危機で大騒ぎしていますが、世の中はその他の分野でちゃんと歩みを忘れていない。この番組を見れば分かります。ある意味でほっとする。

 先日も書きましたが、私自身にとってもこの番組にかかわることはすごく勉強になる。「ああ、こんな事もあったんだ、こんな技術もあるんだ」と。見ている方にも毎回驚きの連続になる。今夜の第一回(今後毎週日曜日午後8時30分 BSジャパン)をご覧頂けたら頷けてもらえたと思います。

 私には考え方の基本のようなものがあって、「世の中を変えているのは技術だ」というものです。それにぴったりの番組で、私が今までいろいろやった番組の中で「毎回勉強になる」と常に思うのはこれが最初です。

 相方が”女優”というのも刺激的。CMの女王(?)城間さん。今まではアナウンサーの方が多かったのですが、びっくりしたのはやはり女優は台詞覚えが速い。私はどちらかというと同じ事を機械的には言えない、「こう言って」と言われると決してそれが言えないタイプ。その点、彼女は凄いですよ。

 月曜日からまた仕事をしよう、新しい技術を知ろうと思ったら、日曜日の夜にこの番組です。今回のだと、遠距離恋愛支援システムとか電脳フィギュア(拡張現実)が面白交野ではないでしょうか。

 ところで、日曜日は比較的現在の金融危機に関するテレビ番組もよく見た日でしたが、論点がまとまった番組はなかったように思いました。午前中のテレビ朝日の番組ではもっと水野さんが喋れば面白かったのに、横のうるさい人が論点をぼかしていて残念だったし、NHKのディベートも過去と現状の切り離し、責任のありかの分別が良くできていないような気がした。切り口がポイントだと思いました。


2008年10月04日(土曜日)

 (18:30)ほんまにええ天気でしたな。今日は。日中数時間外にいましたが、年に何回かしかないだろうというような。外を歩いている非常に気持ち良かった。

 今日読んだ雑誌の記事などでは、日経ビジネスの「敗軍の将、兵を語る」で石破茂さんが総裁選敗北について語っていて、そこで明確に「総理大臣を目指します」「今回は小手試し」と述べていた点。石破さんが立候補したとき、「何でだろう」と思っていたのですが、これで得心がいった。

 獲得できた票は25票だったんですね。与謝野さんが66票で、小池さんが46票でしたっけ。分からないが、今後案外人気が出る可能性があるな、と思っているんですよ。マスコミ受けがするし、どんな問題にも的確に、多分ご自分のものだろうと思える意見を言う。あんまり裏表がない人のようにも見える。お会いしたことはないが。

 ところで、あんまり記憶にない声明をFRBのサイトに見つけました。FRBがこうした議長名の声明を発表するのは、非常に珍しい。

Release Date: October 3, 2008

For immediate release

I applaud the action taken by the Congress. It demonstrates the government's commitment to do what it takes to support and strengthen our economy. The legislation is a critical step toward stabilizing our financial markets and ensuring an uninterrupted flow of credit to households and businesses.

The Federal Reserve will continue to work closely with the Treasury as it undertakes these new initiatives. We will continue to use all of the powers at our disposal to mitigate credit market disruptions and to foster a strong, vibrant economy.

 日付しか書かれていないので、何時にアップされたのか不明。確実なのは米下院が一連の不良債権の買い取りを柱とする金融関連法案を通過させた後だということです。それが米東部時間の午後1時過ぎくらいでしたっけ。しかしそれから直ぐに出たとは思えない。

 多分下院の通過にもかかわらず、ダウが157ドル下げた後なのではないか。政府がとりあえずやれることはやった。不良債権の買い取りの方式(価格算定方式)が決まって、実際に買い取りが始まるには1ヶ月はかかる。にもかかわらず市場の不安感は収まらずにニューヨークの株価は下がった。週末に「先行き不安感」が高まることは明確である。

 この声明は、「中央銀行であるFRBが市場を見守るし、やれることは全部やりますよ」という意思表示、決意表明です。「use all of the powers at our disposal」(使いうるあらゆる権限を使う)ということで何があるかというと、金利操作(利下げ)と流動性供給、それに欧州や日本との歩調を合わせた行動(協調利下げ、協調介入など)。


2008年10月04日(土曜日)

 (07:30)米下院で修正されて451ページ(当初は2ページ半)に膨らんだアメリカの金融救済法案は、民主党から前回投票時(29日)より賛成が32票増えて172票、共和党から同26票増えて91票、合計263の賛成票(反対票171 前回は賛成205反対228)を集めて議会を通過しました。ブッシュはこの法案に直ちに署名、法律となった。

 しかしそれまでダウで一時は313ドルも上がっていたニューヨーク株式市場の株価が落ち始めたのは、まさに通過の瞬間からでした。「噂で買い、事実で売る」の典型例。引けはダウが−157.47ドル(1.5%)、NASDAQは−29.33ポイント(1.48%)。一日のチャートを見ても分かるのですが、たった一日の間に470ドルもの悪しきリバーサル。

 これは市場関係者にとってもショックだったでしょうが、賛成に鞍替えした下院議員も驚き、かつ「騙された」と思った人もいたかも知れない。しかし否決していたら、月曜日(777ドル以上の下げ)の二の舞になったかも知れない。そういう意味では、通過して良かったとは言える。

 午前中は勢い良く上がる市場を見ていて、「持続するには危うい市場だな」と思った原因は、出てくるアメリカ経済に関する指標があまりにも悪いからです。朝方発表された米9月の雇用統計は、失業率こそ6.1%で横ばいだったのですが、注目の非農業部門就業者数は10万人ちょっとの予想にもかかわらず15万9000人も減少した。

 これは過去5年間でもっとも早い就業者数の減少ペース。重要なのは、就業者数の減少が製造業、建設業から数多くのサービス産業まで幅広く広がっていること。雇用の減少を伝えるニュースは今月も続いていて、アメリカの雇用情勢に今のところ改善の兆しはない。GDPの約7割が消費で出来ているアメリカ経済にはこれは痛い。失業の増加は、消費者の購買力の低下を実際にも、気分的にも招く。

 自動車の販売不振は木曜日の記事で触れました。工場受注は4%も減少した。今見ているNHKのニュースは全米で学生が「教育ローンの更新を断られている」というもの。ちょっと状況は悪い。何回も書いているのですが、一番の問題は、金融が目詰まりしているということです。これは解消しないと経済は再び回り始めない。目詰まり具合の判断という面で私が見ているのは、TEDスプレッドなどです。

 市場の混乱の中で、契約の混乱も起きている。「米銀行大手6位のワコビアが同7位のウェルズ・ファーゴと合併することで合意」というニュースには、「あれ」と思いました。なぜならワコビアはたしか連邦預金保険公社のお墨付きで先月29日に、同社の銀行業務を同業大手シティグループに売却すると発表したばかりだったからだ。ニュースを聞いて先ず思ったのは、「あの契約はどうなったのか」だった。

 合意は、その時のシティとの合意を撤回し、ワコビアの銀行業務ばかりでなく証券や資産運用業務なども含めて全体を対象にしてウェルズ・ファーゴと合併する、というもの。そりゃシティは怒りますよ。「シティ以外との交渉を禁じた契約に明らかに違反する」としてワコビアにウェルズ社との合併協議の中止を求めた。ということは訴訟に発展する可能性もあり、ワコビアをめぐる金融再編の行方は不透明だ。

 3日の株式市場の午前中の株価上昇は、このワコビアの政府の支援を受けないウェルズ・ファーゴとの合併の動きに対する評価の面もあった。しかしその株価も終わってみれば下落で後味の悪いものに。ワコビアとウェルズ社の合併が実現すれば、総資産は約1兆4200億ドル(約150兆円)でシティなどに次いで全米4位になるというが、これは訴訟の行方次第だ。

 私が今気にしているのは、ペロシ下院議長が今週の初めに骨格7000億ドルの救済法案に関して、「これが国民の税金が投じられる最後のケースだ」と述べたこと。29日だったと思った。しかしどうだろうか。今の状況を見ていると、やはり最後は日本が追い込まれたように金融機関への直接資本注入が必要になるような気がする。

 その時の議会の議論、そして米国民の反応はかなりシャープなものになる可能性が高い。


2008年10月02日(木曜日)

 (22:30)先輩への贈り物を買おうと、以前から入ってみたかったヤマダ電機の新橋店に入ってみました。5時前だったので、店の中は静かですが、出来たばかりなので綺麗です。

 入って一応上から下まで見た後で、「ここではPCなどがないな」と気が付いた。聞いたらその種の製品は機関車サイドのヤマダ(デジタル館)にある、と。そう言えばあそこもヤマダになった。凄まじい勢いでヤマダは都心攻め込みを始めている。新橋にはヤマダは知らないうちに2店もある。

 フロアをそれぞれ見ながら、「これはデパートなどに脅威になる」と思いました。何でも揃っているのです。並べ方がデパート的ではない。製品と製品の間隔が狭い。例えば有力メーカーのペンなどでもです。しかし一応は揃っている。気が付いたのは、中国語のカンバンがやけに目立つこと。中でも「銀聯歓迎」の各種。そう言えば、私の後ろにいた家族連れも中国語で話をしていました。世界では銀聯などデビット・カードが益々主流に成りつつある。

 ヤマダを見た後でスタジオでウォール・ストリート・ジャーナルを見たら以下の記事。

Federal Reserve officials are weighing further interest-rate cuts, even if Congress passes a $700 billion rescue plan, in the face of a deteriorating economic outlook and severely strained financial conditions.

The Fed's willingness to consider additional cuts marks a turnaround from the past few months, when soaring food and energy prices turned its attention to inflation risks. At a regular September meeting, after oil prices had receded, officials still declined to move the central bank's federal-funds target rate from 2%.

A reduction in rates is still far from certain, in part because of inflation worries. But in just the past few weeks, as the credit crisis pummeled the financial system, economic data have become steadily worse, raising fears of a recession.

 この文章にもあるのですが、これは実体経済の悪化を受けたもの。米9月の新車販売が100万台割れとなり、17年ぶりの低水準になったのはある程度予想されたとはいえ、やはりビックリする。アメリカはここ10年ほどだいたい年間1600万台の車が売れてきた。月間100万台以下になったということは、年間1200万台売れないと言うことです。前年同月比割れは11ヶ月連続。

 衝撃だったのは小型車にも販売不振の波が及んできたこと。自動車ローンを得られない、または条件が厳しくなった人が増えた結果です。こうした流れの中で、トヨタが32.3%の販売減、ホンダが24.0%の販売減。GMやフォードは苦しくなった。

 日経の夕刊には、「米GE、1.5兆円増資」という記事がある。金融機関ではなくても、金融に絡んだ事業をしている企業は厳しくなっている。GEがそうです。それにしても、この増資にバフェットが30億ドル出すという。バフェットはゴールドマンにも50億ドル出している。一体いくらもっているんでしょうか。


2008年10月01日(水曜日)

 (22:30)まず連絡です。先週日曜日の「新BSディベート どうなる原油価格」はなかなか評判が良かったようで、まず以下の日程で再放送します。NHKの担当者の方から連絡がありました。

BS−1/10月5日(日)
第1部  13:10〜14:00
第2部  14:10〜15:00

 それと同じ日曜日10月05日は、BSジャパンの新番組である「世の中進歩堂」のキックオフの日です。午後8時30分から。この番組は本当に面白いですよ。CMの女王(?)城間さんとやっているのですが、私自身にとって番組そのものがすごく勉強になる。「ああ、こんな事もあったんだ、こんな技術もあるんだ」と、見ている方にも毎回驚きの連続になるはずです。

 私には考え方の基本のようなものがあって、「世の中を変えているのは技術だ」というものです。それにぴったりの番組で、私が今までいろいろやった番組の中で「毎回勉強になる」と常に思うのはこれが最初です。

 相方が”女優”というのも刺激的。今まではアナウンサーの方が多かったのですが、びっくりしたのはやはり女優は台詞覚えが速い。私はどちらかというと同じ事を機械的には言えない、「こう言って」と言われると決してそれが言えないタイプ。その点、彼女は凄いですよ。

 月曜日からまた仕事をしよう、新しい技術を知ろうと思ったらこの番組です。

 ところで、今朝話題にした「時価会計見直し」と「預金に対する連邦保険の金額の上限引き上げ」に関しては、私が大阪から東京に移動している間に動きがあって、前者についてはSECが時価会計の適用方法を見直して、弾力運用の方向に舵を切ったようです。今の市場で出来る値段(有価証券の出来値)は、しばしば突飛値です。投げが投げを生んでいるような所がある。

 直近の値段だからといって、その値段が時価評価に使われると、金融機関の損失は異常に膨らむ。今まではそれでも「直近の値」が手がかりだった。それをSECは「正常な取引で成立した売買価格に基づく」とした。基本的な認識は、「現在の環境は公正な価格を決めにくい時期」というもの。

 では何で評価するのか。「企業内部での独自見積もりを容認する」「対象商品が長期保有目的かなどによって評価が変わりえる」という考え方。日本の金融機関の足を引っ張ったアメリカの制度が、今は明らかにアメリカの金融システムの重石になっている。だから変えよう、ということでしょう。

 預金保険額の引き上げに関しては、イギリスも実施の方向で、こちらは現在660万円を940万円まで引き上げる方針という。アイルランドは6金融機関の預金を全額保護と発表。依然として各国中央銀行の懸命の努力が続く。


2008年10月01日(水曜日)

 (09:30)今日から10月ですか。昨日一緒に軽く飲んだある企業の元経営者が、「あのアメリカの株価暴落が一日遅かったら良かったのに」と話し始めた。日本の企業にとっては上期決算は9月30日。その日の前日(29日)にニューヨークの株価は777というパチンコだったら大当たりのような急落(ポイントとしては史上最大)。東京の株価も日経平均で500円近い下げ。

 企業は期末に保有証券の評価換えもする。値段が前期末より評価が下がったら、それをちゃんと決算に表示し、入れないと行けない。時価会計ですから。昨日たまたま見たBBCで英野党・保守党の党首が「時価会計システムの持つ矛盾」を盛んに指摘していたし、米議会の議論の中でも「時価会計ってどうなのよ」というものもあったし、法案にも潜り込んでいたようだ。しかし否決された。しかし、世界各国でこの制度は依然として保持し続けられている。もう簿価制度に戻した方が良い、という意見も必要なのだが。

 会計制度に基づき、日本の企業の多くは9月30日の引けの安くなった株価で保有証券を評価をする。決算の見栄えが悪くなるわけです。むろん最初から良くはないが、9月30日当日の下げで一段と悪くなった。元経営者は現役との会合を終わって、それを嘆いているのです。

 昨日の早朝に文章を書いて以来30時間以上が過ぎて、その間に起きたことと言えば、29日のニューヨークの株の下げが結局777ドル(%では7%くらいで、これは歴史的に見ればそれほど大きくはない)で、その後東京などアジア株が大きく下げて引けた後、30日の欧州当たりから反発の気配が広がり、30日のニューヨークの株価は多分ドレッシングもあったのでしょう、ダウで485.21ドル、Nasdaqで98.60ポイント上げたまで。

 しかしウォール・ストリート・ジャーナルの30日のニューヨーク市場の株の上げに関する表現は、「a whiplash-inducing rebound」。「whiplash」とはなんぞやと辞書を引いたら、「むち先のしなやかな部分,むちひも」とあった。なるほど、あくまでこの上げは昨日大きく下げたあとの「むち先の遊びのような反発」という印象ということか。

 株価の動揺を見て、「今度は議会も動くだろう」という楽観論が台頭しつつある、ということですが、私が気になるのは「アメリカにおけるリーダーシップ・クライシス」です。ブッシュも、共和党指導部も、ペロシ下院議長など民主党指導部も、そして両大統領候補も、米下院の一般議員の投票行動に十分な影響力を与えられなかった。一般議員が気にしたのは、11月4日に迫った選挙だった。

 今朝の新聞には、議席確保が難しかった議員ほど、「NO」を投票したという分析があるが、これは先週以来議員に地元から来ているメール、電話などが圧倒的に「ウォール街救済に反対」という声だったことを考えれば理解できる。

 昨日のニューヨーク・タイムズに私が先週以来言っていることに非常に近い表現があった。

the difficulties of dealing with fast-moving emergencies through the slow-moving and inherently political legislative process.
 私は月曜日の日経CNBCの番組で、「先行する市場、遅行する政治」と言ったのですが、今回のアメリカの民主的プロセスによる下院審議と投票はそれをよく表している。そういうことからも、火曜日のアンカーでは、「市場のスピードにまだ近い早さで動けるのは当面は中央銀行だけ。政治プロセスに時間がかかる間は、中央銀行が世界の金融システム、信用システムを支えないと」という話をした。

 30日のニューヨークの株価の反発には、「ワシントンは今回に懲りて、今度は金融救済法案を通すだろう」という楽観論が入っている。これに関しては、議会指導者やホワイトハウスの中には「下院で拒否された法案に微調整を加えるだけで、今度は通るのではないか」という楽観論もあるという。微調整とは何か。

 オバマもマケインも賛成し、そして13票(賛成は205だったが、法案通過に必要なのは218)を賛成に回すには、例えば預金に対する連邦保険の金額の上限を今の10万ドルから例えば25万ドルに引き上げる、などの案が出ているという。預金をしている国民には安心材料だ。また失業保険給付の数ヶ月間に渡る増額もアイデアだという。

 いずれにしても、「リーダーシップ・クライシス」は世界的な現象であるとしても、依然として軍事、経済で世界最大の国家であるアメリカで、しかも今の世界的な経済混乱の根っこであるアメリカでこれが起きているのは危険なことです。「世界に対して責任がある」ということは分かっているにしても、議員がその地位を与えられているのは「選挙区の選挙民の投票行動」からであって、マーケットからではない。議員は落ちればただの人というのは、日本でもアメリカでも同じ。

 ニューヨークの株の反発で始まった東京の株価も力強い動き。しかし暫く先を見ると、結局「世界的に信用システムは正常化するのか」ということでしょう。今の経済はすぐれて「信用のリンク」で出来ている。マネーが信用のリンクの中を移動する中で、商売も雇用も生まれている。

 その「信用」が傷ついたままだと、流れるような経済の動きは無理となり、極端な場合にはキャッシュ・ベースの決済になり、経済活動は大きく縮小する。なくなりはしません。しかし縮小する。縮小すれば成長率は著しく低下し、多くの職が失われる。

 その信用を補完しているのが今は各国の中央銀行ということです。欧州でも多くの民間銀行が国有化されたり、公的資金を注入されている。デクシアに対するフランス、ベルギー、ルクセンブルクによる64億ユーロの公的資金注入などが最新の動き。欧州では28日にフォルティスへの112億ユーロの公的資金注入が決まったばかり。アイルランドも国内の六つの銀行の預金と社債を全額保証した。イギリスではB&Bが国有化された。

 この大騒ぎの中であまり報道されていないが、ロシアなどでも大規模な救済劇が展開されている。株式市場そのものに対する救済策も。「信用」に対する疑念が晴れるのには何が必要か。その視点が今後は重要になる。株価の上げ下げとはまた別の視点だが。



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