2008年09月30日(火曜日)

 (03:30)万が一と思って目が覚めたのでCNBCを見ていたら、日本時間の30日午前2時半過ぎですかね投票が始まって、あれよあれよと見ているうちに金融救済法案(financial rescue package)が下院の本会議で否決されてしまった。CNBCに出演していた誰もが凍っていたのが印象的だった。

 法案が通るためには218が必要だった。しかしCNBCの今の画面によれば

        賛成       反対
民主党    141       94
共和党     66      133
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
        207      227

 という結果。ニューヨーク・タイムズなどはちょっと違った数字(205対228)を出しているが、まごうことなく「通過に失敗」という結果。最初は今日中で「投票のし直し」とかいう話もあったが、「今日はない」ということになって、その後はダウ平均は500ドルを超える下げ。CNBCによれば、最大限705ドル下げたと言う。瞬間でしょうが。引けはどうなるか分からない。案外今の水準より少しは上がるかも知れないし、逆に大きく続落する可能性もある。

 もともと「通ってもあまり効果は」と言われていた法案で、それが東京を含むアジアの株、欧州の株の下げに繋がっていたが、それでも「ある程度の効果」を市場は予想していたから、それが拒否されたら市場は「ショック」状態となる。CNBCのアナウンサーが「コカコーラは上がっているし、これは世界の終わりではない」と二回くらい言ったのが印象的だった。

 下院指導者が出てきて、「案をもう一度作り直すし、そのために働く」と述べていたが、市場的にはダメッジは既に起きたと言う状況。見ての通り、政権党である共和党から多くの離反者が出た。哲学で反対した議員も、地元からの反発のメール、声、手紙で反対を投じた議員もいただろうが、ブッシュ政権にとっては大打撃だ。

 特徴的なのは、金が上がったのに対して、原油は世界経済の先行きに対する懸念から97ドル台まで下げた点。対して、財務省証券の、特に短期の利回りは大きく低下した。ドルはむろん全般に安い。


2008年09月29日(月曜日)

 (23:45)最初ウェルズ・ファーゴと合併を言われていたワコビアですが、蓋を開けたらシティバンクと一緒になると。ついこの間モルガン・スタンレーに電話して、「どう一緒になるのは」と提案したところが、逆に「シティによる救済合併」と呼ばれる状態になるめまぐるしさ。

 火事場は欧州にも広がっている。国営化される銀行が続々。信用が創出した経済は、その根っこのところで崩れるとドミノ倒しになる良い証拠です。「こうした中で健闘する業種は」と日経CNBCの午後2時50分からの番組で聞かれたので、「超ドメ・キャッシュ商売」とお答えしておきました。

 まあ一つの例えです。いくら信用システムが動揺していても、人間は生きていくために食べ、着て、寝なければならない。それに必要なものはいっぱいある。そういうビジネスは信用危機の影響を受けにくい。29日の市場でも、紙、パルプ、食品が比較的しっかりしていた。

 話は変わりますが、「どうなる原油価格 広がる金融不安の中で」は、出演していた人間からすると、「よくここまで編集した」という印象です。世界の四カ国の識者が結構角度を違えた議論をしていて、東京には3人。やりながら「どうやってまとめるのかな」と思っていたのですが、結構論点が通った形で番組は進んでいた。

 別に議論をはしょるようなことはしていない。流れを作って、妥当なところで妥当な登場人物と話を入れて流れを作っていた。編集の技というのはあるものだと。あれを生のまま流したら、結構退屈で、なかなか素直には見られない番組になったのでしょうから、出演していた人間としても良かったと思います。

 それと、10月中旬にウォール街で今起きていることを、11月中旬に大統領選挙の後のアメリカ情勢を各9日間くらい探りにニューヨークやシカゴ、それにワシントンを訪れることになりました。うーん、今回の取材はちょっと楽しみだな。今後の世界を考える上でも。


2008年09月28日(日曜日)

 (17:45)ははは、考えたらちょうど収録1週間で放映ですか。先週は酷い雨で、NHKに向かう途中で降られてびしょびしょになってしまったことを思い出しました。

 今日の新BSディベートの放送は午後8時10分から午後9時までが前半、10分のニュースがあって午後9時10分から午後10時までが後半。テーマは「どうなる原油価格 広がる金融不安の中で」です。海外の論者が4人、スタジオが日本人3人と7人で論じたのでちょっと論点が行ったり来たりしてめまぐるしかったのですが、まあ面白い番組に仕上がっているのではないでしょうか。

 ところで、土曜日から日曜日にかけて「ラーメン屋 vs. マクドナルド」(竹中正治著 新潮新書)を読みました。面白くて、一気に読んでしまった。タイトルがもうちょっとましなものだと良かったのですが、中味は知的な議論と体験に基づいていて、私のように「アメリカに実際に生活したことがある」「日米の経済関係を為替という定点からずっと見てきた」という著者と同じような経歴を持つ人間にとっては、ことのほか面白い。

 3章の言語マスターにかかる時間的要素という視点は、私がアメリカで子供を育てた経験がないので、「なるほど」と膝を打ちました。第4章は、同意できることが多い。日米の資産保持の方法が著しく違うから「アメリカの方が進んでいる」といった議論は意味がない。

 日本人が戦後ずっと対外投資に消極的だったのは円高が基本的には1990年代の半ばまで進みっぱなしだったことを考えれば当然だし、一時はサブプライム関連証券ほど利回りが高かった郵便貯金制度があったことを考えれば、資金がそこに偏在したのは当たり前です。人間はどこでも非合理的な行動を長くは続けない。ある大きな傾向、動きの背景には必ず理由がある。

 第5章のクルーグマンが指摘している「米国政治思想史上の最大の謎」(なぜメリットがないのに中西部の普通の人々が、資産家や高額所得層に有利な経済政策を展開しがちな共和党を支持するのか)は、確かにアメリカを考える上での最大のカギだと思う。自由な市場でめちゃめちゃやられているのに、アメリカ人がまるで宗教のように捨てたくないと思っている哲学がある。しかし今の大統領選挙を見ていると、少しずつ変わりつつあるように見える。

 第六章の「(究極的に格差を縮小するには)子供の教育と労働者の再教育が必要」は、「スピードの経済」でさんざん主張したことなので、大賛成です。単に「格差」だけを表に持ち出すのは、解決策を遠ざけるだけです。

 改めて「スピードの経済」を手にとってみて、1997年の7月に発行したことを思い出しました。ははは、もう11年も前ですか。それにしても、竹中さんの本は面白い。アメリカを複層的な目で改めて見ようと思ったら最適の本です。


2008年09月27日(土曜日)

 (12:45)この週末はマケイン共和党候補にとって、結構「痛い」ものになったような印象がする。日本時間の午前10時から約90分行われた第一回の大統領候補同士の討論会をCNNで見ていたが、「討論下手」と言われていたオバマ氏がかなり生気溢れる表情で明瞭な発言で乗り切ったのに対して、マケインは顔色悪く、経済政策と言えば「肥大した政府」「ムダな支出の削減」ばかりを主張していた。

 イラク政策に関する主張では互角だったような気がしたが、経済政策ではオバマの方が主張がはっきりしていて「何をやりたいか」が分かった。マケインの方が具体性に欠けていた。今の世論調査の劣勢に立っているマケインは討論で一歩前に出なければならなかったのに出れなかったという印象。

 今ワシントンで行われている金融安定化法案(不良債権買い取り機構創設)に関するホワイトハウスと議会民主党、共和党の話し合いがほぼまとまりかけていた状態から、「怒鳴りあいの決別」に終わらせるきっかけを作ったのもどうやらマケインらしい。

 金曜日の朝の段階では、7000億ドルを三つのトランシュに分けて支出するなどの案がほぼ決まりかけていて、私も「スタンバイ」でそれを説明した。しかし番組を終わってしばらくしたら、「また怪しくなった」という記事になっていた。アメリカの新聞サイトには顛末が書かれているが、「マケインがかき乱した」と例外なく書いてある。

 もともと同法案に対する国民受けはよくない。木曜日にはウォール街が1000人規模のデモもあった。共和党は哲学もあるし、こうした国民の声も拾いたい。そこでホワイトハウスと議会民主党の間で固まりかけていた案に異論を吹き込んだというのが定説で、その後ろにはマケインがいたというのが実情だったらしい。

 金融安定化法案はオバマ、マケインの両候補がミシシッピの討論会場に去った後また合意に接近しているらしい。議会は日曜日に議決に回したいという。まあどうやっても、国民の不満は残るでしょう。残った不満は、現政権、それを引き継ぐ印象が強いマケインに向きやすい。私の印象では、「マケイン、ちょっとピンチ」。

 まああと大統領候補討論は2回あり、来週の木曜日でしたか、副大統領候補討論がある。


2008年09月26日(金曜日)

 (15:45)新しいエッセイが公開されました。途上国、特にインドでの「住民反対運動」に関して考察しました。

 ところで、今週は「おくりびと」を見ました。そういう仕事があることは知っていましたが、葬儀屋さんが自らやっているのだと思っていたので、「納棺師」という職業の名前さえも知らなかった。

 映画として非常に良くできていると思う。音楽がこの映画を際だったものにしているし、綺麗にしている。それに空を飛ぶ白鳥。いつもながら、山崎努さんの演技が秀逸です。彼の存在感がこの映画を落ち着いたものしている。本木雅弘さんは侍姿もいいが、これは私の趣味なんでしょうが、広末涼子はもうちょっとという感じでしたな。

 無駄な台詞が少ない。一つ一つの言葉が映画の中で繋がりを持っている。「門」ね。門の先には何があるのか知らないが、そう考えた方が人生の出直しという意味でも希望を抱かせてくれるかもしれない。

 味のある俳優が多い。見ていて「ああ、こう繋がるのか」と。最近見た映画の中では記憶に残る映画となるでしょう。


2008年09月25日(木曜日)

 (15:45)日本時間の25日午前10時くらいから行われたブッシュ大統領の全米向け演説は特に目新しいことを言ってはいないものの、であるがゆえに大統領がここまでよく言ったというか、言わざるを得なかった非尋常性が伝わって来るという意味で、特筆すべきものだと思う。強気のブッシュは消え、議会に懇願するかのように「今回の不良債権の買い取り機構法案を通してくれ」と言っている。

 比較的易しい英語で書かれているので、ご興味のある方は上のリンクから入ってホワイトハウスのサイトにあるブッシュの演説をお読みになったら良いと思う。なぜそう言うことが起こったのかについては、「アメリカにお金が入りすぎたから」という部分とか、アメリカのシステムの欠陥についてあまり触れていないのは気になるが、かなり的を射た分析をしている。

 25日にホワイトハウスでオバマ、マケイン両次期大統領候補や議会指導者を集めた会議を開いて、「超党派」で事を進める意志確認をするらしい。こういう展開になれば、政府案にいくつかの条項、例えば政府に不良債権の買い取りを申し込んだ金融機関のトップの報酬制限や、住宅ローン返済に困っている人々への何らかの救済措置を上乗せしながら議会を通りそうな気がする。というか、通らなかったら「大変なことになる」と大統領自らが言っているわけだから、その場合には金融市場の地合は著しく悪くなる。

 逆に言うと、こうなると「通ることが当たり前の前提」となるので、通っても「これで良かった」とにはならない可能性がある。通っても市場は不安定なままでしょう。明日のホワイトハウスでの話し合いがどうなるのか、予定通り26日にマケイン、オバマの初討論会が開かれるのか、法案は予定通り26日に成立するのか.....などなどまだまだ山場は続く。

 ところで、非常に長い時間を掛けて、というか掛けざるを得ない状況を作り出しながら、「江戸っ子と助六」を読みました。読み終える前に、何と歌舞伎のDVDを5枚ほど紀伊国屋で買って見ながら読む羽目になりました。しかし面白かった。

 いままで歌舞伎にはあまり興味がなかった。多分今後もあまり自分から積極的に行こうとは思わないでしょう。しかし歌舞伎が江戸の庶民にどう愛されてきたのかは分かったし、江戸の庶民の最大の楽しみが観劇だったことも分かって面白かった。醤油を今でも「紫」というのは単なる雅語だと思っていましたが、昔は「助六」と言い、そのわけ助六が頭にしている紫の鉢巻きから来ていると初めて知りました。

 ははは、面白い作品です。さあーーーーと読むより、じっくりしばらく自分の身の回りに置いておいて読む方が面白い。その合間にちょっと歌舞伎の代表作をDVDで見ながら.....


2008年09月24日(水曜日)

 (10:45)ははは、全く偶然ということはあるものだ、と。火曜日の夕方の話です。扇町の局での放送を終えて地下鉄に乗り、長堀橋で降りて御堂筋に向かって歩いていたら、自転車に乗っている人から突然「伊藤さん.....」と声を掛けられた。

 ちょっとびっくして、お顔を拝見したら存じ上げない方だったのですが、まあ常識として「はい、こんにちは」とか何とか言ったと思う。しかしどこでお会いした人か思い出せない。方向が反対だったので、ちょっと笑顔を交わして分かれたのですが、それから暫くして局の方に田中さんという方からメールを頂いた。

 このpodcastを拝聴しながら移動中、心斎橋付近にて目の前から伊藤さんらしき人が歩いてきたので、目を疑いました。思わず「伊藤さん!」と声が出てしまいました(すみません)。

 itunesストアでありったけビジネスpodcastをダウンロードした、1年ほど前から伊藤 さんのファンです。これからの数年も日本の政治・経済は不安だらけですが、国内で活動する多くのビジネスマンも世界経済の動向を知り、力をつけてほしいと願っています。

 これからも世の中の変化に遅れをとらぬよう、この放送をずっと聴き続けていきたい と思います。どうぞお体をお大事に。

 ははは、メールをもらって良かった。そうでなければ、「あれはどなただったのだろう」とずっと、そしてちょっと悩むところでした。ちょうど自転車に乗りながら私のポッドキャストをお聞きになっていたということですか。そりゃ今耳で聞いている放送の本人が前から歩いてきたら、驚きますよね。あちこちで声を掛けてもらえるということは嬉しいことです。

 毎週大きなもので二つポッドキャスト番組を出しているのですが、両方とも常にビジネス部門の上位にあるのは嬉しいことです。まあ今後もいつもフレッシュな視点を入れていきたい、聞いている人にデジャブを感じさせない放送を続けたいと思っています。


2008年09月24日(水曜日)

 (04:45)日本時間の23日午後10時半過ぎに始まった米上院銀行住宅都市委員会の公聴会の時系列的な展開はこのサイトなどに見ることが出来るのですが、証言に立った(座って答えていましたが)ポールソン財務長官とバーナンキFRB議長は予想以上の与野党議員の反発に遭遇している。

 それは理解できる。7000億ドルもの国民の税金が投じられるのに、「不良債権買い取り計画(機構)」の詳細は必ずしも明らかではなく、かつ機構がどう運営され、ワークするかが明らかにされていない。不良債権買い取りの権限の大部分は財務省、その中心にいるポールソン財務長官に集まるが、彼自身が「ウォール街の寵児」とも言える存在なのだ。議員のポールソンを見る目は必ずしも温かくない。

 またウォール街は救われるのかも知れないが、では一般の住宅ローンが払えなくなって差し押さえに直面している国民にどんなメリットがあるかと言えば、今のところ何もない。「経済が良くなるから」「(買い取り計画が進展しなければ)もっと経済が悪くなる」というのでは、説得材料に欠ける。

 ポールソンとバーナンキの発言の一番肝心なところは以下です。

  1. Paulson said that "this troubled asset purchase program is the single most effective thing we can do to help homeowners, the American people, and stimulate our economy."(不良債権買い取りは、住宅保有者、アメリカ国民にとって単一では最も効果的な措置であり、アメリカ経済を刺激する)
  2. With global financial stresses and uncertainties continuing to play out, the chairman of the Federal Reserve, Ben Bernanke, warned in his testimony prepared for the hearing that "if financial conditions fail to improve for a protracted period, the implications for the broader economy could be quite adverse."(仮に金融市場が長期にわたって回復しなければ、アメリカ経済の広い範囲に対する影響は、極めて悪いものになりうる)
 しかし議員達は辛辣だった。「丸投げ権限を欲しい」という財務省の言い分には、「緊急性は認めるが、タガをはめたい」という意見から、「哲学論争」にまで発展しかねない意見まで出た。議会側の印象としては、財務省案は「stunning and unprecedented in its scope and lack of detail」(その規模と詳細は不明という点において、驚愕すべき、かつ前例のないもの)という意見が強く出ている。それはそうで、あと出た意見としては、
  1. 「"After reading this proposal, I can only conclude that it is not only our economy that is at risk, Mr. Secretary, but our Constitution, as well.」(Senator Dodd=コネチカット・民主  ポールソンに絶対的な免責権限を与えることは、アメリカ憲法そのものを危険に晒す、という意見)

  2. 「the plan would "take Wall Street's pain and spread it to the taxpayers." "It's financial socialism, and it's un-American.The free market for all intents and purposes is dead in America.”」( Bunning=ケンタッキー・共和  ウォール街が痛みを全納税者に広げる。これは金融社会主義であり、非アメリカ的だ。それは意図と目的の両方において、自由な市場がアメリカで死んだということだ)

  3. 「“Fannie and Freddie have utterly failed to deliver on their intended purpose.In fact, they have done just the opposite.”」(Senator Elizabeth Dole=ノースカロライナ・共和)
 誰もが持つ疑問、怒りだろう。どうも聞いていると、ポールソンがゴールドマンで会長として高給をはむ当事者であって、その人間が不良債権買い取りに当たると言うことも議員達の心証を悪くしているようだ。「この機構を監視する機関が作るべきだ」ということで、議会とホワイトハウスの間で意見がまとまりつつある。

 議会がもっと求めているものは、「legislation that would protect mortgage holders」(住宅ローン保有者を保護する法律)、「cut the salaries of executives at Wall Street firms」(ウォール街の経営者達のサラリーのカット)、「将来の金融システムの崩壊防止策」など。

 ウォール街トップのサラリーを減らすことや上限を設けることに関しては、政府と議会の意見は一致していないようだ。日本でもウォール街の大物達がもらった高い報酬は驚きを持って迎えられたが、アメリカでもこうした危機が起きると不満が噴出する。議会は差し押さえの危機に直面した住宅ローン保有者の返済額の引き下げに関しても条項が欲しいと主張している。

 エコノミストの間からも、例えば「"This administration is asking for a $700 billion blank check to be put in the hands of Henry Paulson, a guy who totally missed this, and has been wrong about almost everything," said Dean Baker, co-director of the liberal Center for Economic and Policy Research in Washington. "It's almost amazing they can do this with a straight face. There is clearly skepticism and anger at the idea that we'd give this money to these guys, no questions asked."」という形で、財務省案に懐疑と怒りをぶつける向きが多い。

 7000億ドルものお金をどうやって回収するのか。金融機関から安く買い取った住宅ローンを「景気や環境が良くなったら市場で売り出す」というのが基本的なアイデアだ。スウェーデンで前例がある。その時は非常にうまくワークした。

 しかしそれは全てがうまくいったケースにおいてであり、さらにうまく売り切れた場合でも、税を使われた国民にはもっと得られるものが多くあってしかるべきだという意見もある。

 議会の議論を見ていたのか、ニューヨークの株価は寄り付きが200ドル近く上がっていたが、その後は急落して私が見た範囲では100ドル安もあった。その後は戻している。引けがどうなるかは不明だ。

 つまり不安定だということだ。議会も早急な立法の必要性は認めている。しかしこの財務省の「不良債権買い取り機構」案に対する異論は強い。最終的には「財務省の不良債権買い取りを厳重に監視する」「一般の住宅ローン保持者に対する援助措置を検討する」「ウォール街の大物達のペイに対する何らかの規制」などを柱に、機構の構造が決められていくことになるだろう。

 あと最後に一番問題なのは、不良債権の買い取り価格だ。これが甘いと、7000億ドルは直ぐなくなる。厳しいと金融機関がなかなか売りに出さないという問題が起きる。


2008年09月23日(火曜日)

 (05:45)月曜日段階で私が書いた金融市場分析をお読みになりたい方は、このサイトをご覧になっていただければ良いのですが、それ以降も世界の金融当局から次々に声明が発表される。私の記憶でもこれほど「声明続き」なのは珍しい。それだけ世界がunusual な状況にあると言うことでしょう。こんなに声明が連発されると、逆に市場は不安になる。

 先ず出たのはFRBの声明です。この声明には「pending a statutory five-day antitrust waiting period,」(法令で決められた5日間の反トラスト待機期間を経て)とあるが、その後またFRBは声明を発表して、司法省との協議に基づき「the transactions may be consummated immediately without the application of the five-day antitrust waiting period.」と発表した。consummate とは「完了する」ということですから、「即時実施(の可能性)」ということです。

 ウォール街に残った最後の二つの伝統あるインベストメント・バンク。この二つが銀行持ち株会社に移行する。はっきり言ってウォール街のランドスケープが変わったと言うことです。狙いははっきり書いてある。「To provide increased liquidity support to these firms」(二社に対する流動性付与増大の為)。先週他の株式が大きく上がっているときでも、私の記憶ではあまりこの二社の株価は上がっていなかった。

 月曜日もゴールドマンが7%安、モルガン・スタンレーが0.4%安。三菱UFJがモルガンの株の最大限20%を買うという報道で下げ幅を縮小したが、上げには転じることが出来なかった。以前は米金融機関に海外から資本が入ると当該金融機関の株価は急騰していたのに、大きな変化だ。ウォール街の脆弱性がよく出ている。

 そりゃそうでしょう。3、4、5がなんらかの形でいってしまった。2と1に対する疑念が燻ったり、インベストメント・バンクという業態そのものへの疑念が出てきても不思議ではない。FRBの声明の全文は以下の通り。

For release at 9:30 p.m. EDT

The Federal Reserve Board on Sunday approved, pending a statutory five-day antitrust waiting period, the applications of Goldman Sachs and Morgan Stanley to become bank holding companies.

To provide increased liquidity support to these firms as they transition to managing their funding within a bank holding company structure, the Federal Reserve Board authorized the Federal Reserve Bank of New York to extend credit to the U.S. broker-dealer subsidiaries of Goldman Sachs and Morgan Stanley against all types of collateral that may be pledged at the Federal Reserve's primary credit facility for depository institutions or at the existing Primary Dealer Credit Facility (PDCF); the Federal Reserve has also made these collateral arrangements available to the broker-dealer subsidiary of Merrill Lynch. In addition, the Board also authorized the Federal Reserve Bank of New York to extend credit to the London-based broker-dealer subsidiaries of Goldman Sachs, Morgan Stanley, and Merrill Lynch against collateral that would be eligible to be pledged at the PDCF.

 これに続いて、今度はG7が声明を発表した。「危機感共有の国際化」です。声明は以下の通り。まあこれは、「一緒に心配しています」といことで、あまり大きな意味はないが、将来的な意味合いは大きい。「危機感の共有」をしたわけだから、何かあったら協調介入なり、協調利下げ、さらには株の協調下支えなりをするという意志表示です。
September 22, 2008

Statement by G-7 Finance Ministers and Central Bank Governors on Global Financial Market Turmoil

Washington, DC-- The Group of Seven Finance Ministers and Central Bank Governors released the following statement today:

The G-7 held a conference call today to discuss global financial markets. We reaffirm our strong and shared commitment to protect the integrity of the international financial system and facilitate liquid, smooth functioning markets, which are essential for supporting the health of the world economy.

We strongly welcome the extraordinary actions taken by the United States to enhance the stability of financial markets and address credit concerns, especially through its plan to implement a program to remove illiquid assets that are destabilizing financial institutions. We also strongly welcome the measures taken by other G-7 countries. Major central banks have been coordinating to address liquidity pressures in funding markets, which has been critical in addressing disruptions in global financial markets. Several regulators have taken decisive actions to combat market manipulation and stabilize financial markets, including a temporary ban on short selling of financial stocks.

We recognize the importance of making regulation more effective and bringing investors back into a liquid and stable marketplace. We remain committed to full and rapid implementation of the Financial Stability Forum (FSF) recommendations to enhance the resilience of the global financial system for the longer term. We look forward to the FSF report this fall on progress made in strengthening prudential supervision and regulation, improving firms' risk management practices, enhancing disclosure and transparency, and strengthening accounting frameworks.

We pledge to enhance international cooperation to address the ongoing challenges in the global economy and world markets and maintain heightened close cooperation between Finance Ministries, Central Banks and regulators. We are ready to take whatever actions may be necessary, individually and collectively, to ensure the stability of the international financial system.

 将来への架け橋は最後の文章です。協調の枠組みを一段と高いところに置き、最後の文章は「国際金融システムの安定を確保するために、我々は個別的にも集団的にもどのような措置であろうと実施に移す用意がある」と述べている。私の印象ではこの表現はかなり強い。

 ちょっと気になったのは、「Group of Seven」となっていることかな。最近のアメリカとロシアの関係は悪い。この声明はポールソンの呼び掛けで行われたそうだから、アメリカは「ロシアを外した」とも読める。

 力強い声明にもかかわらず、今終わった週明けのニューヨーク市場は株価が大きく反落。先週の木曜日、金曜日に合計約780ドル上がっていたが、月曜日はほぼその半分の372ドル75セント(ダウ平均)下げた。これで過去6日間で350ドル以上のダウのアップ∩ダウンになった日は合計5日。

 金融株の下げがきつい。JPモルガンが13.3%、バンカメが8.9%安。高かったのは自社株買いと配当引き上げを発表したマイクロソフト(1%高)程度。AIGの代わりにダウに入ったクラフト・フーズは4.5%も初日下げた。上がったのは原油です。日中の高値は25ドル以上上がり、引けでも先週末に比べて16.37ドルも上がって引値はバレル120.92ドル。金先物は驚くなかれオンス43.30ドル上がって引けは903.90ドルと900ドル台を回復。

 株が木、金と上がったせいか、米民主党は「政府案のままではとても飲めない」というスタンスを強めた。危機感が弱まって大統領選挙の最中でもあるし、自分達の意見をなるべく入れようというスタンスに変わって、ウォール街がばかりでなく国民や消費者も守れ的な意見が強くなった。ある意味では自然です。よって「買い取り機構」が最後どういう形になるか分からなくなった。しかしこれが今度は、月曜日のニューヨーク株価の下げを誘った。世の中は複雑系です。

 下げたのはドルと米財務省証券。あまりに大量の資金が bailout では必要になる。国債の発行が増えて、アメリカのFRBや財務省の資金状態は悪化する、つまりアメリカの財務状況は悪くなる、との見方が強まった。アメリカ市場の不安感や脆弱性は取れていない。


2008年09月21日(日曜日)

 (23:45)またまた強烈な雨。日曜日の夕方からの雨は凄かった。たった50メートルくらいを歩いただけなのに、靴からズボンの裾までびっしょになってしまいました。

 日曜日の夜なのに無粋なことにNHKBSの「新BSディベート」の収録で、あまりにも濡れてしまったので、到着してメークをしている間も、その後も私がしたことといえば、メークさんからドライヤーを二つ借りてずっとズボンの下半分と靴を乾かすことでした。

 濡れて寒気がするままスタジオで3時間以上の収録をするのは身体のために良くない、と思ったからです。ドライヤーは普段決して使わないタイプですが、今回は致し方ない。使っていて「これは相当強烈」と思いました。ハンカチも乾かしましたが、ズボンも靴も結構素早く乾いた。ハンカチなど見る間に、という印象でした。

 放送は28日の午後8時10分から午後9時までが前半、10分のニュースがあって午後9時10分から午後10時までが後半。テーマは「どうなる原油価格 広がる金融不安の中で」です。海外の論者が4人、スタジオが日本人3人と7人で論じたのでちょっと論点が行ったり来たりしてめまぐるしかったのですが、まあ面白かった。

 ははは、ご一緒だった丸紅の柴田明夫さんが強烈な阪神ファンらしいのですが、収録途中の休憩で珍しく盛り上がっているセリーグの首位攻防の結果がケイタイでチェックできたのでお伝えしたら、ちょっとがっくりしておられましたな。まあ、これでやっとスタート台に戻ったと言うこと。少しは面白くならなければ。


2008年09月19日(金曜日)

 (05:25)軌跡を見ると、日中は前日引値を上回ったり下回ったりを繰り返していたことが分かるのですが、最後の一時間にニューヨークの株式市場は大幅に反発して、引けはダウで410.03ドル高(3.85%)、Nasdaqで100.25ポイント(4.78%)、SPで50.12ポイント(4.33%)の大幅上昇で終わった。また柔道に例えると、むろんこの上げはもうこれで試合が終わるという「一本」ではないが、観客を安心させる「効果」くらいのパフォーマンスだったといえる。

 興味深い点を挙げると、既に紹介した各指数の上げ幅でダウが一番低くて、NasdaqとSPが4%台の大幅上昇になっているという点。つまりダウを構成している30の銘柄より、より幅広い銘柄に買いが入ったと言うこと。それが第一。

 第二には、金融株が大きく切り返してきた点。ダウの構成銘柄であるAIGは32.5%の上昇。ただし政府管理下に入ってAIGは間もなくダウの構成銘柄を外され、代わりにクラフト・フーズが入る。金融が抜けて、食品が入る。これも流れか。

 その他金融株では、Bank of Americaが12.4%高、Citigroupが20%高、そしてJ.P. Morgan Chaseが12.6%高。

 ウォール・ストリート・ジャーナルは各国中銀の協調しての市場へのドル資金供給や、ブッシュの市場支援声明以外に、以下のような要因をこの日の株上昇の背景に上げている。ブッシュ大統領は「金曜日もワシントンに残る」そうだ。緊張感は続いている。

  1. A series of news reports about various forms of government intervention in Wall Street's latest crisis bolstered investors' mood. The cable network CNBC reported that Washington is considering formation of a body to accept soured credit bets, something akin to the Resolution Trust Corp., which was a key tool to liquidating holdings of failed savings and loans in the late 1980s and early 1990s.
  2. Also, New York Attorney General Andrew Cuomo said he has started a "wide-ranging investigation" into short selling, or bearish bets, in the financial sector. The U.K. Financial Services Authority imposed a temporary ban on short-selling financial stocks. And The California Public Employees' Retirement System, the nation's largest pension fund, said that starting Thursday it is no longer lending out shares of Goldman Sachs Group and Morgan Stanley, joining a growing list of public funds that are trying to limit short-selling of those two stocks.
 RTCとは考えましたね。1980―90年代に破綻が相次いだ貯蓄金融機関(S&L)の不良債権処理のため、1989年に設立されたもの。金融機関から不良債権を買い取って処理する。効果としては、金融機関の帳簿から不良債権が切り離されるので、時価会計で計上する必要がなくなり、金融機関の健全性が前に出てくる。

 ポールソン米財務長官と米連邦準備理事会(FRB)のバーナンキ議長が18日夜、議会幹部に構想を説明する見通しだという。RTCは債権を回収出来るまで持つことが出来ると考えられるので、そういう意味ではアメリカの金融市場の不安感は、不良債権がRTCに集中されるため、相当解消される。ポールソン長官らはブッシュ米大統領にも構想を説明したという。

 カリフォルニアの年金ファンド(The California Public Employees' Retirement System、米最大)の「ゴールドマン・ザックスとモルガン・スタンレーについては貸株を行わない」というのは、かなり有効です。他の年金ファンドでもこうした姿勢を強めているという。年金ファンドの中に「この二つは守ろう」という意志が働いているのかも知れない。場合によっては、当局の空売り規制より有効かも知れない。

 今調べたら、この二つの銘柄は小幅安だった。


2008年09月19日(金曜日)

 (00:25)やはり次に動き出したのは、「協調」という名前を伴った各国中央銀行でした。日米欧の6中銀が「ドル安定化で協調して、例えば日銀はFRBの間で600億ドルの通貨スワップ協定を締結して、自国市場にドルを直接供給するという緊急措置。

 米金融危機の影響で、欧米民間銀行を中心にドル資金調達が難しくなっているのに対応するもの。形としては、日銀と米連邦準備理事会(FRB)との総額600億ドル(約6兆3000億円)のスワップ協定となっており、日銀は外国銀行を含む金融機関に直接ドル資金を貸し出す。金融機関同士の信頼感が低下する中で、民間のドル資金融通の機能が低下していることに対処するもの。

 つまり、各国中銀が民間の金融仲介の役割を肩代わりする、という異例の措置だ。日本時間の18日午後4時に発表されたFRBの声明は以下の通り。

For release at 3:00 a.m. EDT

Today, the Bank of Canada, the Bank of England, the European Central Bank (ECB), the Federal Reserve, the Bank of Japan, and the Swiss National Bank are announcing coordinated measures designed to address the continued elevated pressures in U.S. dollar short-term funding markets. These measures, together with other actions taken in the last few days by individual central banks, are designed to improve the liquidity conditions in global financial markets. The central banks continue to work together closely and will take appropriate steps to address the ongoing pressures.

Federal Reserve Actions The Federal Open Market Committee has authorized a $180 billion expansion of its temporary reciprocal currency arrangements (swap lines). This increased capacity will be available to provide dollar funding for both term and overnight liquidity operations by the other central banks.

The FOMC has authorized increases in the existing swap lines with the ECB and the Swiss National Bank. These larger facilities will now support the provision of U.S. dollar liquidity in amounts of up to $110 billion by the ECB, an increase of $55 billion, and up to $27 billion by the Swiss National Bank, an increase of $15 billion.

In addition, new swap facilities have been authorized with the Bank of Japan, the Bank of England, and the Bank of Canada. These facilities will support the provision of U.S. dollar liquidity in amounts of up to $60 billion by the Bank of Japan, $40 billion by the Bank of England, and $10 billion by the Bank of Canada.

All of these reciprocal currency arrangements have been authorized through January 30, 2009.

Information on Related Actions Being Taken by Other Central Banks Information on the actions that will be taken by other central banks is available at the following websites:

 しかし、これを読んで分かるが、「協調」という今まで欠如しているファクターを含む措置で市場としては「目新しさ」を伴ったものではあるものの、では今のクライシスを収めることが出来るのかというと「力不足」の感は否めない。

 この措置が発表されたあとの世界の市場の脚気反応は、とりあえず株の買い戻しとなっている。しかしニューヨークの市場も今のままプラス圏内で一日の取引を終えるかどうかは不明である。この日から実施された全銘柄に対する空売り規制と合わせて「効果」(柔道で言うならば)という程度。市場の不安感は残る。

 (追記)ワシントンのホワイトハウスでは、ブッシュ大統領が「旅をキャンセルして経済に関する声明」を発表した。午前中にも会ったが、午後にもポールソンと会うと予告している。ということは、市場が異常な動きをしたら今度はホワイトハウスが行動するということでしょう。声明は以下の通り。

President Bush Discusses Economy

THE PRESIDENT: The American people are concerned about the situation in our financial markets and our economy, and I share their concerns.

I've canceled my travel today to stay in Washington, where I will continue to closely monitor the situation in our financial markets and consult with my economic advisors. I spoke to Secretary Paulson this morning, and I will meet with him later on today.

In recent weeks, the federal government has taken extraordinary measures to address the challenges confronting our financial markets. We've taken control of Fannie Mae and Freddie Mac -- the home finance agencies -- to help promote market stability and to ensure they can continue to play a role in helping our housing market recover. This week, the Federal Reserve acted to prevent the disorderly failure of the insurance company AIG -- a development that could have caused a severe disruption in our financial markets and threatened other sectors of the economy. Yesterday, the Security and Exchange Commission took action to strengthen investor protections and step up its enforcement actions against illegal market manipulation. Last night, the Federal Reserve, in coordination with central banks around the world, took a substantial step to provide additional liquidity to the U.S. financial system.

These actions are necessary, and they're important. And the markets are adjusting to them. Our financial markets continue to deal with serious challenges. As our recent actions demonstrate, my administration is focused on meeting these challenges. The American people can be sure we will continue to act to strengthen and stabilize our financial markets and improve investor confidence. Thank you.



2008年09月18日(木曜日)

 (14:55)世紀をまたいでのイチローの8年連続安打というのはやはり素晴らしいことだと。松坂が、「ケガをしないで続けているのが凄い」と言っているが、その通りだと私も思います。松井を見れば。まあ当分ワールド・シリーズに行けそうもないチームにいるのが、なんとも彼自身として歯がゆいでしょうが。

 今朝の新聞では、フィナンシャル・タイムズの一面の下の写真がちょっと目を引く。メドべージェフとプーチンが向かい合ってなにやら話をしている。あまりニュースになっていないが、ロシアの株もこのところ急激に下がって、この間に失われた富は7000億ドル相当に上ったと言われる。

 ロシア政府が取った措置は、「追って通知するまでロシアの二つの株式取引所の閉鎖」というもの。ちょっと乱暴だが「管理経済」で育ってきた二人には、その手段しか思い浮かばなかったのでしょう。閉めると、開けるときが難しいのです。

 この記事によると、モスクワの大手不動産開発業者の一つであるミラックス・グループは、進めていたいくつかのプロジェクトを凍結したという。市場の混乱が実体経済に影響し始めた最初の兆候です。

 今朝のやじうまの朝6時の冒頭で、

  1. モルガン・スタンレー(25%弱安)、ゴールドマン・ザックス(14%安)という残ったウォール街の投資銀行に激しい売りが集中したこと
  2. その結果、モルガン・スタンレーがワコビアなどとの合併を検討しているとアメリカのニューヨーク・タイムズが報じていること
  3. 「質への逃避」を含めて、「資産のキャッシュ化の動き」が顕著であること
 などをお伝えしたのですが、モルガン・スタンレーの合併話については、その後ウォール・ストリート・ジャーナルも伝えているようで、現実になる可能性が強い。としたら、単独で生き残る米インベストメント・バンクはゴールドマンだけになるのか。そのゴールドマンも今後どうなるか分からないのか。モルガン・スタンレーの輝かしい歴史を知っている身としては、「時代が変わった」と思わざるを得ない。

 いずれにせよ、ウォール街のランドスケープはこの短期間で全く変わってしまった。いったいいくつ企業がなくなり、政府管理下に入り、いくつ合併したのだろう。市場の動きは素早い。

 一回変わったらもう戻らない。まあ18日から始まるニューヨークの全銘柄対象とした空売り規制がどうワークするかが、一つのポイントでしょう。昨日の449ドルの下げには、明らかに「売れるうちに売ってしまおう」という動きがあった。

 18日の東京の株は一時400円を超える下げを記録していたが、その後かなり戻して先物が310円安、現物が260.49円安での引け。あまりにも安くなって、利回りが6%に達している日産のような銘柄もある。普通だったら買う。しかし、今は買いたくても買えないという投資家が多いのでしょう。企業の利益見通しも不安定だから、理解できないこともない。しかし地獄まで堕ちる相場もない。

 案外落ち着いているのは為替です。103円台のドル・円があったら、その後は104円台で比較的落ち着いている。円と他通貨の関係も、不安定ではあるが小康状態。ポジションの傾きは相当解消されたという印象だ。


2008年09月17日(水曜日)

 (21:35)ははは、私のいつもの方針は、「何があってもまずは原文に当たる」ということで、何はともあれFRBのAIGに関する発表文を見ます。日本の新聞などに載っている解説などを最初に読むのは頭を混乱させるだけです。

Release Date: September 16, 2008

For release at 9:00 p.m. EDT

The Federal Reserve Board on Tuesday, with the full support of the Treasury Department, authorized the Federal Reserve Bank of New York to lend up to $85 billion to the American International Group (AIG) under section 13(3) of the Federal Reserve Act. The secured loan has terms and conditions designed to protect the interests of the U.S. government and taxpayers.

The Board determined that, in current circumstances, a disorderly failure of AIG could add to already significant levels of financial market fragility and lead to substantially higher borrowing costs, reduced household wealth, and materially weaker economic performance.

The purpose of this liquidity facility is to assist AIG in meeting its obligations as they come due. This loan will facilitate a process under which AIG will sell certain of its businesses in an orderly manner, with the least possible disruption to the overall economy.

The AIG facility has a 24-month term. Interest will accrue on the outstanding balance at a rate of three-month Libor plus 850 basis points. AIG will be permitted to draw up to $85 billion under the facility.

The interests of taxpayers are protected by key terms of the loan. The loan is collateralized by all the assets of AIG, and of its primary non-regulated subsidiaries. These assets include the stock of substantially all of the regulated subsidiaries. The loan is expected to be repaid from the proceeds of the sale of the firm’s assets. The U.S. government will receive a 79.9 percent equity interest in AIG and has the right to veto the payment of dividends to common and preferred shareholders.

 発表は日本時間の午前10時だったのですね。私が神戸の郊外でまだうろうろしていたころ。「財務省の完全支援の下で」というのがまず気になる。そうか、昨日はリーマン支援を拒否したポールソンも今回は承諾したかと。しかしちょっと恥ずかしいのか彼は出てきていない。

 850億ドルの融資に関しては、「has terms and conditions designed to protect the interests of the U.S. government and taxpayers」(米政府と納税者の利益を守るための条件を備えている)と断りを入れ、リーマンとの違いを浮き出させるために「AIGが秩序なく破綻した場合には、既に高まっている金融市場の脆弱性は一段と悪化し、資金需要家の借り入れコストは高まり、家計の富を減らし、アメリカ経済のパフォーマンスを相当悪化させる」とその影響の大きさを指摘している。

 私がここまで読んで思ったのは、「この声明はアメリカの国内のことしにしか触れていない」ということ。本当はFRBはAIGが世界130カ国で営業していて、その破綻は世界的な意味合いがあることを十分知っている筈なのだ。それなのに触れていない。

 つまりこの声明は、アメリカの国民や議会に向けられていると言うことだ。議会には例えAIGであろうとも、民間企業を政府が助けるべきではない、という原理主義者がいっぱいいる。それに対するメッセージということでしょう。

 「海外」の事に触れると、「ではFRBは海外の投資家のために貴重な国民のお金を使うのか」ということになってしまう。この辺はFRBも気を遣っているのです。しかし、口頭では「世界経済が大変なことになる」とホワイトハウスにも議会にも説明しているはずです。

 「(850億ドルものお金を貸すからには)十分担保を取っていますよ」「納税者の利益は保護されていますよ」と最後に解説しているところは面白い。このローンの担保は、AIGとその主要な非規制子会社の全資産であるというのだ。そしてその資産を売却することによって、ローンは返済されると書いてある。

 まあでも、リーマンを見限ってAIGを助けたのは、業態の違いです。リーマンの取引相手はほぼすべてがプロです。しかしAIGの相手は違うし、「保険」は金融というナーブ組織の要ですから。でもまだ続きますよ。それらに対して、助ける、助けないでまだまだ駆け引きは続くでしょう。金融市場は引き続き一喜一憂です。


2008年09月17日(水曜日)

 (05:35)FOMCは久しぶりに「全員一致」で、政策金利の2.0%での据え置きを発表しました。金融市場が極度の緊張状態にあり、米経済も労働市場のさらなる軟化に直面しつつあることを認めながらも、インフレのアップサイドリスクは大いなる懸念材料であるとして、「据え置き」の道を選んだ。

 月曜日のニューヨーク株の504ドル強の下げ、そしてリーマンに続き先行きが危ぶまれる企業が噂に上る中で、ニューヨークの先物市場では「利下げ」を先取る動きが見られ、金融市場関係者の中にも「利下げ」を予想する向きがあった。しかし、このコーナーの16日の分で指摘したように、ウォール・ストリート・ジャーナルは「Fed Likely to Stand Pat on Rates」と昨日書いて、「火曜日の市場の状況次第だが」としながらも、「据え置き」を予想していた。そしてその火曜日は、比較的ニューヨークの株はしっかりしていた。

 FOMCは声明で「Strains in financial markets have increased significantly 」と今のマーケットが平静ではないと認めながらも、しかし行為としては平静を装った「据え置き」という行動に出た。その中央銀行の行動に、ニューヨークの株は現時点でダウ平均で見て100ドル以上の上げを持って歓迎している。声明の全文は以下の通り。

The Federal Open Market Committee decided today to keep its target for the federal funds rate at 2 percent.

Strains in financial markets have increased significantly and labor markets have weakened further. Economic growth appears to have slowed recently, partly reflecting a softening of household spending. Tight credit conditions, the ongoing housing contraction, and some slowing in export growth are likely to weigh on economic growth over the next few quarters. Over time, the substantial easing of monetary policy, combined with ongoing measures to foster market liquidity, should help to promote moderate economic growth.

Inflation has been high, spurred by the earlier increases in the prices of energy and some other commodities. The Committee expects inflation to moderate later this year and next year, but the inflation outlook remains highly uncertain.

The downside risks to growth and the upside risks to inflation are both of significant concern to the Committee. The Committee will monitor economic and financial developments carefully and will act as needed to promote sustainable economic growth and price stability.

Voting for the FOMC monetary policy action were: Ben S. Bernanke, Chairman; Christine M. Cumming; Elizabeth A. Duke; Richard W. Fisher; Donald L. Kohn; Randall S. Kroszner; Sandra Pianalto; Charles I. Plosser; Gary H. Stern; and Kevin M. Warsh. Ms. Cumming voted as the alternate for Timothy F. Geithner.

 何よりもこの声明を読んで私が真っ先に気が付いたのは、冒頭にも書いたがこの「据え置き決定が全員一致」だったということだ。FOMCは確か去年の10月以来だと思ったが、ずっと「異論」を抱えながら走ってきた。

 去年は「利下げ幅をもっと多くすべし」という異論があったし、今年に入ってからは「もっとインフレに関心を払うべきだ」と主張した理事がいた。今年に入ってずっと「利上げ論」を展開したのはダラス連銀総裁であるリチャード・フィッシャーで、時には彼には賛同者があと一人付いたが、一貫して大勢の見方に異を唱えてきた。

 しかし今回のFOMCでは、リチャード・フィッシャーも「据え置き」 に賛成した。今まで数回の「速く利上げすべきだ」の立場を修正した。FOMCが全員一致での決定を下すのは、私の記憶では約一年ぶり。そうする必要があったからでしょう。「全員一致」というのは、市場に対する一種のメッセージだ。

 なぜ市場の一部に根強くあった「利下げ」を拒否したのか。考えられるのは、

  1. ポールソンを初めとして米財務省が哲学的に拒否したリーマン救済を、「通常の措置」としてFRBとしても認めたい意識があり、財務省の通常の措置(救済拒否)には「通常の、先週まで予想された形での据え置き」をしたかったし、火曜日のニューヨーク市場はそれを許す環境だった

  2. マーケットに押されるような形での異例の利下げは避けたく、悪しき先例としたくなかった

  3. 2.0%の低いレベルからの利下げ余地はそもそもあまりないし、今回下げてしまうと益々下げ余地はなくなる。これは金融政策の自由度を維持する上でも好ましくない

  4. 今以上に金融市場が世界的に混乱した場合には、「先進各国の協調利下げ」といった措置が予想されるが、その時用にも下げ余地を残しておきたかった
 などだろう。しかし声明の文章には随所にFRBの危機感が表れている。最初に紹介した「Strains in financial markets have increased significantly」もそうだが、「Economic growth appears to have slowed recently, partly reflecting a softening of household spending. Tight credit conditions, the ongoing housing contraction, and some slowing in export growth are likely to weigh on economic growth over the next few quarters.」(家計支出の減少を一因とする経済成長の最近になっての鈍化、タイトな金融情勢、住宅市場の縮小、一部で見られる輸出の伸びの鈍化などは今後数四半期の経済成長に重しになるだろう)といった文章がそれに当たる。

 インフレ見通しについては、「expects inflation to moderate later this year and next year」と低下を予想している。今まであった原油高に対する言及がないのも、FRBがインフレ先行きにむしろ楽観的になっていることが分かる。しかし声明は「the inflation outlook remains highly uncertain」(インフレの先行きはようわからん)と言って、警戒感は残した。これは例えばドル安の物価に対する影響なども考えたのだろう。しかしFOMCは言及しなかった。

 その結果は、「The downside risks to growth and the upside risks to inflation are both of significant concern to the Committee.」として、「成長に対するダウンリスクとインフレのアップサイドリスクは共にFOMCにとっての懸念材料」とした。両方が懸念材料なら、据え置きにするしかない。

 しかしその後の文章も重要である。今回は「据え置き」としたが、「The Committee will monitor economic and financial developments carefully and will act as needed to promote sustainable economic growth and price stability.」(FOMCとしてはアメリカ経済と金融市場の展開を注意深く監視し、持続的な経済成長と物価の安定を促進するために必要とあらば行動する)と述べている。つまりそれが脅かされるときには、行動(利上げか利下げ)をするとしているのである。ニューヨークの金融市場がもっと混乱したり、米経済のダウンサイドリスクが高まったら利下げする、と宣言しているのである。

 このFRBと財務省には依然として試練が待ち受けている。AIGはどうするのか。その後にまた待ちかまえている他の金融機関の危機にどう対処するのか。月曜日のニューヨーク株は4.4%(504ドル)下げた。火曜日は1.3%程度(141.51ドル)上げて終わった。ということは、今週のニューヨーク株価はまだ先週末に比べて3%強下げたままだ。

 FOMCの据え置き発表を受けて、外国為替市場ではドルが対円で大きく上昇して、これを書いている現在、106円13銭となっている。つい数時間前に103円43銭があったことを考えれば、ドルの反発幅は大きい。円は他通貨に対しても今は全般的に弱い。

 (追記)今読んだニューヨーク・タイムズにはAIGに関する交渉の進展具合として、

Updated: The Federal Reserve is considering participating in a $75 billion emergency financing package for the American International Group, people briefed on the matter said, in an apparent reversal of its refusal to bail out the sickly insurance giant.

Fed officials were still meeting with A.I.G., JPMorgan Chase, Goldman Sachs, Morgan Stanley and others at the Federal Reserve Bank of New York Tuesday morning to discuss possible options. It isn’t clear that any solution, including one involving government money, will emerge, this person said.

If a financing solution is not reached, A.I.G. may file for bankruptcy as soon as Wednesday, a person briefed on the matter said Monday night. The company has hired the law firm Weil, Gotshal & Manges ? which is also handling the Lehman Brothers bankruptcy ? to draw up bankruptcy papers.

 という記事がある。水曜日にもAIGが破産法申請をする可能性があるという状況の中だから、事は緊急を要する。総額750億ドルのAIG救済融資にニューヨーク連銀が参加すれば、AIGは当面の危機は脱する。しかし、リーマンは拒否してAIGを助けるには、「AIGは保険会社だから」といった別の論理構成が必要になる。財務省はどう考えているのか。AIGの関連会社は日本にも多い。AIGの破産は、リーマンの比ではない。
 


2008年09月17日(水曜日)

 (00:45)大阪から神戸に移動して会合を終えてネットを開いてウォール・ストリート・ジャーナルのHPに渡ったら、「あんりゃ」と。ページのイメージが昨日までと全く違う。契約している人しか見られない新聞のページなので表示できないのですが、昨日までは左横にずらっとセクションが並んでいたのに、今回のデザインは日本の新聞サイトのように横にセクションが並んでいる。

 ニューヨーク・タイムズなどもそうなのですが、アメリカの新聞サイトは総じて左に国際とか、政治とか、経済とか市場とかの入り口がある。ウォール・ストリート・ジャーナルはこれをがらっと変えた。どういう意図があるのか。まあ「あれはどこ」と探す状態が続きそうです。

 新聞といえば、火曜日に日本で唯一一般紙として店頭に並んだのがSankei Express。以前から出ているとは聞いていたのですが、スタンバイに急遽朝呼ばれて行ったらどんと置いてあって、「えらい.....」と褒めちゃいました。中身もまあまあかな。見出しがうまい。

 だってそうでしょう。まあたまたまかもしれないが、重大ニュースが重なっているときに、日本の一般紙は全紙が休み。このコーナーで何回も書いているのですが、「新聞が休み」なんて世界でもあまり例がない。正確には知りませんが、日本の新聞は年に6回ほど「休刊日」がある。「休肝日」じゃあるまいし、新聞は毎日出て欲しいモノです。スタンバイの最後にあまり関係ないのにそのことに触れちゃいました。ははは。

 月曜のニューヨーク市場の株価急落を受けて、週明け(事実上)火曜日のアジア市場は東京を含めて大きく反落。ニューヨーク月曜日の4.4%の下げ(ダウで)に対して、東京は日経平均で4.9%(605円強)の下げ。まあ「脚気反応」としてはこうなりますよ。相場観はなくなっているのだし、先行き不安が先に立つ。

 しかし欧州の市場は反応二日目だから、スペインなどは上げているし、さっきから始まったニューヨーク市場は神経質に上げ下げを繰り返している。当面こういう状態が続くのでしょう。ニューヨークではAIGの株価が1ドル台にまで下がったという。同社の危機の深まりは、世界中で保険を売っていたという事実関係(日本でもそうですが)からすると、投資銀行のリーマンよりは非常に深刻です。それを米当局はどう考えるのか。

 格付け会社が「ここぞ」とばかりにAIGの格の引き下げを行って、それが株価をさらに押し下げている。本当にアメリカの格付け会社は「アクセラレーター」だと思う。見方によっては実に有害な存在です。以前は日本にとって有害だったが、今はアメリカの企業にとってもっとも脅威な存在になっている。審査基準は結構いい加減だし、現状後追いです。

 今日はこれからFRB待ちですな。ベアからファニー、フレディーと来て、リーマンで線引きした。しかしその後の市場安定化策はなかなか難しい。AIGをどう考えるか。銀行でも、投資銀行でもない保険会社です。アメリカ最大の。FOMCの結果は、日本時間の午前3時ごろでしょうかね。どんな声明になるのか。


2008年09月16日(火曜日)

 (02:45)一眠りして起きて読んだウォール・ストリート・ジャーナルのUltimatum by Paulson Sparked Frantic Endという記事には、この週末にリーマン・ブラザーズに関して米政府財務省、FRB、そしてリーマン倒産で混乱に巻き込まれるウォール・ストリート各社首脳(銀行など)の間で緊迫した話し合いが行われた経緯が詳細に記述されている。今後も起きるであろう「各社別金融危機」に対するアメリカ政府の姿勢を見る上でも参考になる。

  1. ポールソンなどブッシュ政権の幹部の間では最初から「リーマン・ブラザーズを政府が救済することはない」、つまり「国家の公的資金を使うことはない」という方針は決まっていた

  2. 最初にリーマンの処理について財務省、FRB、そしてウォール街の幹部達(約30人の実力者)が会合を持ったのは金曜日12日の午後6時である。場所はニューヨーク連銀で、あの茶色と白の連銀のビルの周りは幹部を乗せてきたリムジンが週末を通じて集まり、時に動けない状態となって交通渋滞が起きた

  3. この冒頭から「リーマン救済には国家資金、公的資金は使わない」とのブッシュ政権の方針が伝えられた。「ウォール街が起こした問題はウォール街が解決すべきである」という考え方。「モラル・ハザードを再び引き起こしてはいけない」という考え方からだった(モラル・ハザード=特融や預金保険といったセーフティネットの存在により、金融機関の経営者、株主や預金者等が、経営や資産運用等における自己規律を失うこと)

  4. しかし最後まで残ったリーマンの買い手、バンカメとバークレイズともリーマン買収の条件として「公的資金の導入」を要求し、会議に参加していたウォール街のバンカーの間にも一部には「政府が最後の最後には公的支援を約束するのではないか」という印象を持つ参加者もいた

  5. 「政府資金は入れない」という前提で、金曜日の会合ではニューヨーク連銀のガイトナー総裁がリーマンに関して二つのあり得るシナリオを描いた。一つはリーマンの「秩序ある解体」、もう一つはウォール街の有力金融機関が資金を出し合ってリーマンの悪しき資産を別会社などに移し、優良資産が残ったリーマンを他の会社が買収しやすくする、という案。ポールソンは後者での意見統一を望んだ。「リーマンでは誰もがリスクに晒されているはずだ」と

  6. 金曜日の午後8時まで続いた会合では、ウォール街の幹部達は財務省やニューヨーク連銀の説明を聞き、質問をしただけで「各社が何をするのか」に関しては意見を述べなかった。この時点でリーマン買収に興味を抱いていたのはバンク・オブ・アメリカ(アメリカ)とバークレイズ(イギリス)の二社だった

  7. 翌朝、つまり13日土曜日の会合は午前9時からまたニューヨーク連銀の一室で始まった。二つのグループに分かれて会合を行い、一つはリーマン解体のシナリオで会合を行い、この会合に参加した各社がニューヨーク連銀から新しい融資制度(ベア・スターンズの救済合併の際に用意された)での借り入れを行い、その資金でリーマンの資産を買収することなども話し合われた

  8. もう一つのグループは単一の買い手を探すこととなり、候補はバンカメとバークレイズだったが、その場合でも両社が買いたいとしたのはリーマンの優良資産、例えば株式取引、アナリスト業務など。リーマンの悪しき資産850億ドルに関しては、銀行団が資金を出し合って「バッド・バンク(bad bank)」に移管し、悪しき資産がウォール街に流れ込まないようにすることなどが検討された

  9. しかし政府支援なしでのウォール街のリーマン救済案には、大きな無理があった。リーマンと取引があるという意味では、機関投資家、ヘッジファンド、それに海外投資家も救済に参加すべきだと会議参加者の意見もあったし、モルガン・スタンレーのジョン・マークCEOのように、「リーマンの次はメリルなどきりがなくなる」というもっともな意見も出た。政府が公的資金提供を拒否し続ける中で、「政府の公的資金が出るなら」という条件を譲らなかったバンカメが土曜日の昼までに買収交渉から撤退

  10. 午後5時には会合を終えた。政府と会合に参加した銀行家達の立場は大きく離れていた。交渉プロセスを「世界最大のポーカーゲーム」と称する人もいた。相手の手の内を互いに探っていたということだ。週明けの市場大混乱という展開が頭をよぎるだけに、「政府が救済に最後はウンというのでは」という期待は最後まであった

  11. リーマンの悪しき資産を集めたバッド・バンクを作るという構想は、土曜日の夜の間に消えた。ヘッジファンドであるLTCM危機(10年前)の時に比べて、ウォール街の各行の健全度がはるかに低く、共同対処する体力がなかったからだが、一部の銀行は週明けの市場混乱を予想して、バークレイズが買収するのであればそれを助けたいと支援を惜しまないという銀行もあった

  12. 日曜日、14日の朝。リーマン買収の唯一の候補として残ったのはバークレイズとなった。バークレイズは「一気にウォール街の有力証券会社、インベストメント・バンクになる」思惑があった。しかし唯一の買収可能性のある会社が外国企業ということで、アメリカ政府がリーマンに公的資金をつぎ込む可能性はさらに低下した。しかしその一方で、バークレイズは公的資金を欲しがったし、バークレイズは「最後は米政府は折れる」と踏んだ

  13. 「バークレイズによるリーマン買収」が決まりかけた、と思われるような時期もあった。バークレイズは、決定次第投資家やジャーナリストに配る文章まで用意したし、交渉成立を祝うためかニューヨーク連銀にはケーキ、クッキー、サンドイッチなどなどが持ち込まれもした

  14. しかし、バークレイズは最後は再び財務省やニューヨーク連銀と”些細な問題”(mundane matters)、具体的には「この取引を承諾するためには株主総会が必要になる」といったバークレイズ側要求などで最後の最後に行き詰まった。バークレイズはこの時点でも、「アメリカ政府による何らかの形の公的金融支援」を求めていた。対立は解消できず、バークレイズも日曜日の昼頃には買収から撤退。リーマンのチャプター11申請への道が敷かれた
 リーマン買収の思惑を持ったバンカメやバークレイズがどう考えたかは別問題として、この間一貫していたのは政府の態度だったと思われる。それは、「リーマンには公的資金を使わない」という方針である。交渉に参加した一人はウォール・ストリート・ジャーナルに対して、「政府は(公的資金導入を拒否することによって)火遊びをしている」と考えたそうだが、ゴールドマン・ザックスの会長だったポールソンの考え方は「支援拒否」で一貫していたようだ。それが「火遊びに」なろうとも、彼は一貫していたと見える。理由は
  1. (政府による民間企業救済という)著しく悪しき先例を残すことになり、他のウォール街の金融機関、さらに言えば他の業種が国の資金を求める先例になりかねない。既にデトロイトの米自動車業界は国に巨額の低利融資を求めている

  2. ポールソンはウォール街が彼を「救済に乗り出す男」と見なし始めているのに苛立っていた。ポールソンはリーマンの苦境は既に長く知られており、市場はそれに備える時間があったはずだ、と考えた

  3. 加えて、リーマン・ブラザーズはベア・スターンズが生き残りを賭けていたときにはなかったFRBの特別融資制度を使える環境にあった。環境が違うのだから、今回はベア救済方式を再び発動すべきではないと考えた
 結局「モラル・ハザード」の再現をここで、つまりリーマンで防ぎたかった、リーマンで線引きしたかったと言うことでしょう。突然死に見舞われそうになったベア・スターンズはJPモルガン・チェースに引っ付けたし(今年3月)、公的住宅金融企業のファニー・メイとフレディー・マックは救済した(一週間前)。しかし「そこまで」という姿勢。

 週明け15日のニューヨーク市場は、急落して寄り付き、一時はダウ平均で300ドル以上下げた後、200ドル安から300ドル安の間を比較的狭い範囲で浮動している。しかし引けまであと2時間以上あるので、今後の展開は読めない。為替は直後のドル急落による104円53銭前後からはドルが反発して105円台の後半(ニューヨーク時間の午後1時半)。

 リーマンの破綻を受けて、同様の危機にあると見られていたAIGの株価は急落。一方でバンカメに救われたメリル(一株当たり29ドル、総額500億ドルのバンカメによる買収劇)の株価は急騰とウォール街は再編の嵐の中にある。リーマンの従業員の中でも他に移れる人、業界から去る人。リーマンの過去1年間における株価の最高値は先週末に調べたら67ドルだった。それが紙屑になった。この激しさが「不安感」を呼ぶ

 米政府の選択が正しかったのかどうか。多分長期的には正しい。しかしウォール街型の金融システムの将来像や持続性は検討する必要があるし、今回の「モラル・ハザード回避の意志」は賞賛に値するとして、市場参加者が将来もこの蹉跌をきちんと思い起こすのかどうか。

 様々な問題を投げかけた週末の二日間でした。(それにしても、日本の新聞は明日はお休みですか......)


2008年09月15日(月曜日)

 (19:45)お台場で新番組「世の中進歩堂」の収録している間にリーマンが破産法申請。市場がもっとも可能性が薄いとたかをくくっていた選択肢。それを米政府は選んだ。ウォール・ストリートの有力行幹部と財務省の幹部が話し合って何も結論が出なかった。話し合いは、日本時間の月曜日昼過ぎまで続いていたのでしょう。しかしまとまらず。その結果のリーマン破綻というわけです。

 頑なだったのは恐らく米政府でしょう。まだよく調べてはありませんが(これから色々な資料を読みます)、ポールソンは明らかにファニーとフレディーの時とは違うスタンスだった。「モラルハザード」もそうだが、「民間の事にそこまで政府が介入すべきではないし、国民のお金をつぎ込むのは良くない」と考えたのでしょう。

 しかし、リーマン破綻の道を選んで、その結果ニューヨークの株式市場が大混乱になったらそれはそれでアメリカ経済、そこで暮らす国民の生活も大打撃を受ける。結局そこのバランスだったのだから、私も何らかの形でリーマンは救済されると思っていた。市場もそうでしょう。しかし違った。

 アメリカ政府とウォール街は後始末に追われることになる。リーマンが結んでいる金融取引は山ほどある。それを liquidate するのは容易ではないし、メリルはバンカメが救済合併したとして、その他の金融機関にも噂のあるところはある。それをどうするのか。

 今これを書いている状況で、欧州を初めとして世界の金融市場が大きく動揺しているのは当然でしょう。これを見てFRBは以下の声明を発表している。

For immediate release

The Federal Reserve Board on Sunday announced several initiatives to provide additional support to financial markets, including enhancements to its existing liquidity facilities.

"In close collaboration with the Treasury and the Securities and Exchange Commission, we have been in ongoing discussions with market participants, including through the weekend, to identify potential market vulnerabilities in the wake of an unwinding of a major financial institution and to consider appropriate official sector and private sector responses," said Federal Reserve Board Chairman Ben S. Bernanke. "The steps we are announcing today, along with significant commitments from the private sector, are intended to mitigate the potential risks and disruptions to markets."

"We have been and remain in close contact with other U.S. and international regulators, supervisory authorities, and central banks to monitor and share information on conditions in financial markets and firms around the world," Chairman Bernanke said.

The collateral eligible to be pledged at the Primary Dealer Credit Facility (PDCF) has been broadened to closely match the types of collateral that can be pledged in the tri-party repo systems of the two major clearing banks. Previously, PDCF collateral had been limited to investment-grade debt securities.

The collateral for the Term Securities Lending Facility (TSLF) also has been expanded; eligible collateral for Schedule 2 auctions will now include all investment-grade debt securities. Previously, only Treasury securities, agency securities, and AAA-rated mortgage-backed and asset-backed securities could be pledged.

These changes represent a significant broadening in the collateral accepted under both programs and should enhance the effectiveness of these facilities in supporting the liquidity of primary dealers and financial markets more generally.

Also, Schedule 2 TSLF auctions will be conducted each week; previously, Schedule 2 auctions had been conducted every two weeks. In addition, the amounts offered under Schedule 2 auctions will be increased to a total of $150 billion, from a total of $125 billion. Amounts offered in Schedule 1 auctions will remain at a total of $50 billion. Thus, the total amount offered in the TSLF program will rise to $200 billion from $175 billion.

The Board also adopted an interim final rule that provides a temporary exception to the limitations in section 23A of the Federal Reserve Act. It allows all insured depository institutions to provide liquidity to their affiliates for assets typically funded in the tri-party repo market. This exception expires on January 30, 2009, unless extended by the Board, and is subject to various conditions to promote safety and soundness.

 最初の文章でも明らかなように、「既存のファシリティーの強化を含めて、金融市場に新たに流動性を付与する措置」です。しかし、流動性は付与できても、「信用 confidence」は付与できない。今のニューヨークの金融市場で一番欠如しているのはこれです。少なくともリーマンを救済していれば、これは維持できた。しかしそれは国家の意思としてはやらなかった。さあどうするかです。

 まあ明日の朝までには大きな動きがあるのでしょう。市場の行方はFRBがどう出るかでも違ってくる。しかし先週末に増して、市場の不安感が高まったことだけは確かです。


2008年09月14日(日曜日)

 (23:45)明日が初収録なので、「ちょっと勉強」と思って、やっと送られてきた新番組「世の中進歩堂」のスクリプトを読んでいたら、「これは勉強になりそう」という印象がひしひし。何せ、「これでもか」と新しい技術情報、世の中の新しい動きが出てくる。

 番組は10月からなのでその時(毎週日曜日の午後8時30からBSジャパン)に見ていただければ良いのですが、収録は徐々に始まって、明日は昼からお台場のテレコムセンター内のディノススタジオで初収録があるのですが、スタジオも新しそうだし、ゲストもいらっしゃるしで楽しそう。

 ネット上に城間さんのデータがあまりなかったので「プロダクションは何をしているのだろう」と思ってまた調べてみたら、ははは、9月の2日に新しいブログを作ったようで。そう言えば「韓国にロケに行っていた」と先日会ったときに言っていた。

 スクリプトを眺めていた以外は、結構音楽三昧でした。まずサザンが先日横浜でやったラスト・コンサート(?)をWOWOWが放映したのですが、それを。長いので、全部見るのに時間がかかった。しかし、全員が最初から最後まで立っている。誘われたのですが、行かなくて良かったと。

 カメラを30台くらい使って収録しているので、迫力がある。スイッチングが素晴らしい。ビデオの方が。「アリーナー、スタンドー」と相変わらずのシーンと、「30年有り難う....」という部分と、そして今後について比較的曖昧にしている部分と。でも改めて良い歌がけっこうあるなと改めて思いました。

 あと、安室奈美恵さんの「ベスト・フィクション」を全部聞きました。これも曲数が多い。CDで17曲あり、聞くのは結構時間がかかる。日本で売れなかったときにも台湾などで確実にファンを増やしてきた努力の結実でしょう。今回のアルバム大ヒットは。

 DVDが一緒についてくるのですが、この踊りも相当良い。彼女の生き方にはいろいろ意見がある人が多いのでは。しかし、これはこれで一つの答えだという気もしました。ジャンルはR&Bで、歌の題名はすべて英語。国際市場をターゲットにしている。

 本も読み始めました。「ルポ 内部告発」という題名。最近の内部告発が契機で表面化した事件における、告発者、記者、それに警察や検察の動きを克明に追っている。つい最近の事件も多いので、「あの事件はそういう経緯だったのか」と思い出しながら読める。

 告発にいたる人間の心の動きは複雑です。実際には、「正義」というのもあるが、どちらかというと「妬み、恨み」などが多いのでしょう。それでも、告発は多くの場合には社会正義に合致する。しかしその一方で、告発者に様々な負荷を課すことになる。考えさせられる本です。


2008年09月13日(土曜日)

 (23:45)今週覚えたことで書き残しておきたいことと言えば、まず「コンドル」かな。久しぶりに伊藤忠の田中さんなんかと会合のあと飲みながら諸々話していたら、この話が出た。わたしゃ全く知りませんでした。

 何かというとゴルフ。アルバトロスは例えば通常はパー5のコースで2打で上がることですが、コンドルは

コンドルとは、ゴルフ競技で規定打数から4打少なくホールを終了した場合のことで、「ダブルアルバトロス」や「トリプルイーグル」とも言う。

コンドルの名は他のゴルフ用語と同様に鳥類のコンドルに由来している。コンドルの達成にはロングホール(パー5)でホールインワンすることが求められ、長きにわたって空想上の産物であったが、近年のゴルフ用具の進歩に伴って実際に数回記録されている。とはいえ、現代の用具をもってしても500ヤード以上の飛距離を記録できるプレイヤーはごく限られており、フェアウェイが大きく湾曲したドッグレッグなどのコースでショートカットを狙うといった、特殊な条件下でのみ達成可能な究極の技である。

 とWikipedia には書いてある。当然予想されるのは激しくドッグレッグしているコース、馬蹄形のコースでの達成が予想されるのですが、その後の文章を読むと「2002年アメリカコロラド州のGreen Valley Ranch Golf Clubの9番ホール(517ヤード)においてMike Creanが世界初のストレートコースにおけるコンドルを記録した。これは世界最長のホールインワン記録でもある。」という記述がある。

 「ストレート」と言っても、また「道具が進歩した」と言っても、どうなんでしょう。ちょっとは下りのコースだったのではと思う。まあこれが出来る人は人類の中でもそうはいないでしょう。通常のコースでは。

ゾロのオープンなサイドから見た東京タワー  行って面白かった店では、東麻布のZORROかな。東京タワー芝公園スタジオ(旧テレビ東京)の直ぐ下にあるバーです。6〜7年前に毎週このスタジオで収録していたころにはなかった。いつも帰りに通っていた道の直ぐ左側にある。

 この店で何が面白かというと、側面、東京タワーサイドなのですが、それが完全に開く。つまり店から顔を出して上を眺めると、東京タワーが全く下から見えるという構図になっている。写真はそうやって撮ったものです。

 むろん中はあの辺にあるバーの典型的な形をしている。カウンターがあり、後ろにちょっとした椅子がある。しかしサイドが開いているときには、そこを縁側のようにして座り、ちょっと首が痛いが上を見て東京タワーを見ながら酒が飲めるのです。ははは。

 ヒルズの一番上からタワーを見下ろすように飲んだ直後に移動して時間を過ごしたので、ちょっと面白い組み合わせでした。何とその店を教わったのは、大阪の友達からでした。彼等は大挙して東京に来ていて、昼間は上野でオペラを見ていた。優雅な奴らです。季節も良く、小さな椅子を外に出してずっと飲んでいました。

 あと今週は、修理に出していたものが徐々に返ってき始めた。まずはケイタイ電話。札幌で階段で落としてかなり外装が壊れた。そこで改修に出していたのです。代替機をもらって。しかしこれがなかなか問題だった。i-appli に入っているスイカとかエディー、DCMX、ナナコなどを全部短期間でも移管する必要があったから。

 エディーやナナコなどは機械で簡単に移る。しかし、DCMXやスイカはちょっと手順が必要です。それを代替機に移して、土曜日に戻ってきたので名古屋の帰りにドコモでやったのですが、各1時間以上かかった。ケイタイは壊すものではないと。

 でも返ってきたケイタイは完全に外装が戻ってまた綺麗になった。好きな機種の外装がきたなくなったり壊れた人は、時間をかけ、確か3800円(私の機種の場合)出せば、完璧に買ったときの綺麗さが戻ります。ご参考までに。


2008年09月12日(金曜日)

 (11:45)プーチンもメドべージェフも「びっくら仰天」というところでしょうね。グルジアに軍隊を派遣して、オセチアなど分離運動が強いところを西側と対立する形で支援したら、「猛烈なロシア売り」が起きてしまった。株が落ち、ルーブルが急落した。

 彼等の頭の中に「マーケット」がどのくらい入っていたのか知らない。しかし私の記憶ではソ連が崩壊し、その後ロシアの主要輸出商品である石油と天然ガスの価格が急騰し、ロシアが「繁栄する資源国」になって以来、今回は初めての「西側との深刻な対立」でしょう。

 今朝の日経の「ルーブル防衛 100億ドル」という記事の左側にあるメドべージェフの写真を見ると、なにやら困惑顔だ。資本はリスクに敏感だ。ロシアの株式市場に資本が西側から入っていたのも、「資源の富」を梃子にロシア経済が繁栄し、株式市場に上場された銘柄の業績が上がり、株価が上がるという前提だった。

 しかし、ロシアのグルジア介入と西側との対立路線は、投資家にとってのロシアのイメージを一変させた。ロシアという国に、資本はリスクを感じたのだ。だから「ロシア売り」が起こり、RTSで見た株価は2500から1500を割るところまで下げ、ルーブルの相場は高値1ドル=23.5ルーブル当たりから26ルーブル近くまで下がった。100億ドルも介入しての相場レベルだ。フリーだったら相当下がった。

 資源しか世界に誇れるものがないロシアの製品輸入は、ルーブル安で軒並み割高になった。多分もともとインフレ傾向が強いロシアの物価(日経には11%とある)は、急激な上昇に見舞われているのだろう。どの国でも、インフレは庶民の生活レベルを下げるから、「政権批判」への動きに繋がりかねない。「市場の洗礼」をプーチンとメドべージェルは真っ向から受けていることになる。これを見て、彼等は今後のロシアの対外政策を少しは変えるかもしれない。

 加えてエネルギー価格は急落のプロセスにある。147ドルあった石油価格は、今は100ドルを割りそうだ。ロシアの繁栄が脆弱なことが示された。世界中の政府が、「マーケット・パワー」に振り回されているが、ロシアも全く例外ではなかった。


2008年09月11日(木曜日)

 (22:45)新しいエッセイがアップされました。もうこのシリーズも30回を迎えました。


2008年09月10日(水曜日)

 (07:45)中国外務省の姜瑜副報道局長は「(健康悪化説について)聞いていない」といい、アメリカ国務省のスポークスマンは「建国60周年のパレードに金正日総書記が現れなかったことの意味は分からない」と述べている。

 しかし、過去2回の5年刻みの周年行事(5年、10年の「節目の年」)には同総書記が参加する大規模な軍事パレードや軍内部での集会を開催していたことを考えれば、尋常でない動きと言える。もし健康悪化説が本当なら、そして金正日が北朝鮮の政治をキャリーできなくなったとしたら、日本海情勢、北東アジア情勢は大きく転換する可能性がある。

 金正日に関して今出ている説は、ニューヨーク・タイムズに掲載されている

 The North Korean leader Kim Jong-il is seriously ill and might have suffered a stroke weeks ago, an American intelligence official in Washington
 といったものが多い。ここでは「一人のアメリカ高官」が匿名希望で言っている。一方朝鮮日報は金正日が倒れた日を8月22日と特定している。これは北京に駐在する外交筋の話。しかしこの「一人のアメリカ高官」は同時に
it did not seem Mr. Kim was on the verge of death.
 とも述べている。つまり、「重大な病気だが、もうすぐ死にそうだというわけではない」と。金正日総書記は現在66才。一般的に考えると、そういう状況が自然に生まれるにはまだちょっと若い。しかしまあそう言うこと(stroke=脳卒中)が起きても必ずしもおかしくない年齢ではある。

 金正日総書記が欠席しただけで、例の広場での周年行事は行われている。ただし10年前、5年前のような「大規模な軍事パレード」は行われなかったという。これは「先軍政治」の北朝鮮では珍しい。まあ直ちに金正日体制が崩れるかどうかは別にして、北朝鮮では何か変則的に事態が生じていると考えるのが自然だと思う。

 金正日が過去に何回かしたように、「かくれんぼによる国際社会の注目集め」の芝居の線もむろん消えてはいない。重大決定をするとき、世界の注目を集めたい時に金正日総書記がしばしば取ってきた手法が「長期間姿を消す」だった。しかし北朝鮮を巡る情勢は、核の問題でも、アメリカとの関係でも、国内経済情勢の逼迫でも尋常ではない。今後の北朝鮮情勢に関しては、仮に金正日が表舞台から消えるとして

  1. 北朝鮮の新しい統治システムが当面は軍中心の集団指導体制になるとして、その後はどう展開するのか。3人の息子達はどう動くのか
  2. 経済苦境の中にある北朝鮮の一般国民が、「金正日という重し」が取れた、または取れつつあることによってどう動くか(集団窃盗団などが地方権力を握り、それが中央の軍と対立する構図もあり得る)
  3. ウォンの急落、外貨準備の2500億ドル前後への急減などの苦境に直面する韓国、韓国経済が北朝鮮情勢の変化の中でどう動くのか
  4. その際、アメリカや日本はどのように動くかの。また六カ国協議の枠組みはどう機能するのか
 などの当面の問題の他に、仮に北朝鮮という国が消滅して、東ドイツが西ドイツに吸収されたように北朝鮮が韓国に吸収された場合に朝鮮半島情勢、日本、中国、ロシア、アメリカなど周辺国を取り囲む情勢がどう展開するのか、その時に日本にどういうリスクとチャンスが訪れるのか、などでしょう。

 南による北の吸収は、北の人口が韓国(4600万程度だと思った)の半分近くいることを考えると、またその想像を絶するインフラ不足、国民の貧困を考えると、容易ではないだろう。東ドイツは西ドイツの四分の一の人口だった。

 まあ私は北の体制としての崩壊は遠からず来る、というのが私の予測ですが。


2008年09月09日(火曜日)

 (08:45)金曜日のこの番組で言ったのですが、せっかく自民党と民主党のトップが同時に決まるプロセス、期間にあるのだから、政策論争は「自民党の総裁候補複数と小沢民主党代表候補」の間でやればどうでしょうか。今朝の日経の社説にもそういうタイトルになっている。中味は弱いが。

 だってそうでしょう。その中の誰かが次の日本の首相になるのだから、全員集めて討論会をやれば、結構我々が聞きたいところが出てきて面白いと思う。民主党も自民党の総裁選に埋まってしまう危険から逃れられる。少なくともテレビとかラジオの番組としては可能なはずです。民主党の財源問題も聞いてみたい。小沢さんが集中攻撃を受けない工夫をすれば良い。

 それにしても日経の一面トップ「銀行にマネー滞留」を読んで分かるのは、「お金は行き場を失っている」ということです。ということは、場所が見つかれば動くと言うことです。全国の銀行の預金残高549兆円(日本のGDPに等しい)に対して、銀行貸出残高は404兆円。預金超過幅は145兆円

 こりゃ銀行にとっても迷惑でしょうな。超過額は2000年には20兆円程度だったそうだが、今は預貸率は70%台。つまり30%弱の預金過剰分については、ただ利子をつけてやっているだけ、ということになる。むろん、雀の涙ですが。資金が動き出すにはちょっと時間がかかる。キャッシュ、それに近い預金の増加は別に日本だけの現象ではなく、世界的なものでしょうが。

 大相撲問題。「依然吸引を否定」と他の多くの新聞には載っているのに、朝日の一面だけには「露鵬ら 6月米巡業で吸引」とある。これが本当だったら、白露山ともどもの「絶対吸ってない」はウソだったのか。

 もっとも6月の吸引と今回の検査における陽性は、「時期が離れているため関係ない」そうで、陽性が出たと言うことはその後、例えば日本とかロシアに帰国した際にも今回の検査が陽性になるほど吸ったことになる。真剣な顔をして否定していたのに、一方では再発防止検討委員会には「吸った」と言っていたと。

 白露山や露鵬は「陰謀説」まで。それにしても、大相撲の出直し策はなかなか難しい。あと今日の注目点は、北朝鮮がどのような周年行事をするかでしょうね。


2008年09月08日(月曜日)

 (08:45)米財務省や連邦住宅金融局、それにFRBが共同で発表した措置は四つですな。ポールソンの発表はここにありますが、要するに

  1. conservatorship。つまり連邦住宅金融局(FHFA)がファニーメイとフレディーマックを管理下に置くということ。日々のオペレーションからトップ人事まで。この結果、今までの両社のトップは交代させられた
  2. 財務省とFHFAは優先株購入協定(Preferred Stock Purchase Agreements)を通じて両社(ファニーとフレディ)の発行した優先株を購入する。当初は各10億ドル、最大限各1000億ドル
  3. 財務省は両社に対する新しい融資制度を創設
  4. 公開市場などを通じてMBS(mortgage-backed securities)を購入する
 これ以上政府が金融市場安定に資するとしたら、それは民間銀行への公的資金注入くらいしかないので、やはり相当力の入った措置と言うことになる。予想された範囲ではあるのですが。

 今後の問題は、アメリカ経済や世界経済の実態がどう展開するかですね。アメリカも悪い、途上国も一時の状況からは大きく転換してしまった。株と為替は先週末とは逆の動き。問題は持続性です。


2008年09月07日(日曜日)

 (23:45)ちょっと移動を繰り返して、土曜日の午前中に綺麗だった諏訪の新作花火は札幌から一回東京に帰ってきて、今度はその日の午後に諏訪に移動しました。諏訪は毎年8月15日に40000発以上を打ち上げる全国有数の花火大会があるのですが、9月にも「新作花火競技大会」というのが開かれ、今年は9月6日だったため。

 この花火大会は打ち上げられる花火の数は1万9000発とちょっと小規模なのですが、全国の花火師が新作の技を競うもの。秋田や山形などの花火師30人がエントリーし、「清流の華」「秋色の詩」「幻の青いケシ」など名前の付いた花火を競う。「こちらの方が(8月のそれより)個性的で面白い」という人も多い。

 私は8月の諏訪の花火は子供の頃から見ているので珍しくないのですが、「新作花火競技大会」は今回が初めて。確か80年代の半ばくらいから始まったのではないかな。この新作花火大会が終わると諏訪は秋なのですが、この週末は異常に暑かった。

 アメリカではこれからポールソンが「アジア市場が開く前の時間帯での3回目のメジャーな発表」として、フレディーとファニーに関する重要発表をすると言うので待っているのですが、それが世界の株式市場の大混乱を治める花火になれるかどうか。

 まあその前に私が撮った諏訪の花火でもご覧下さい。


2008年09月06日(土曜日)

 (07:45)金曜日の午後から札幌に来ています。札幌の大学の連続講座の一つに呼ばれたので久しぶりに。どうでしょう、年に1〜2回は札幌に来る機会がある。この時期は札幌は学会が多いようで、ホテルも満杯でした。「でも景気は悪い」とタクシーの運転手さん。

 ちょっとしたクロスがいろいろ。「やはり北海道はちょっと涼しいですね」と私が言ったら、一緒にいた大学の先生が、「ここ一両日は残暑が酷かったんです.....」。旧知の玉山さんら3人の北海道の先生の方と食事に行って私が、「これは東京では珍しいので」と注文すると、なぜか北海道にお住まいの方々はひいた感じ。ちょっと齟齬か......

 私も途中で「どして」と聞いたら、「この蟹は北海道のあの地域に行くともっと安くてもっとうまい。丸かじりなんですよ....」と。そんなの私は知りませんよ。残念ながら、北海道はほとんど札幌しか知らない。あとは、東京の六本木に小樽の寿司屋があって、そこにたまに行くので独自の食材を知っているだけなので。

 ひつじの肉の炙りを頼み、蟹を食べて、そして最後にじゃがを食べた。まあ皆さんつきあってくれましたがね。そうそう最後に、「秋刀魚茶漬け」をいただきました。これも東京にないので。あれは秋刀魚のひらきの燻ですな。これにお茶を掛けて。

 癪に障ったから、小樽の店で出てくる「ブドウエビ」の事を話したら、皆さんご存じありませんでした。ははは。ある先生が、「北海道はいっしょくたじゃないですよ.....」と。まあそりゃそうだ。いろいろなところから、いろいろな経緯で北海道に来ている祖先が多い。「(札幌に比べて)あそこは浜言葉で汚い....」とか。いつか北海道全体を車でゆっくり回るのもいいな....と。

 木曜日にダウ平均で342ドルも急落したニューヨークの株価は、金曜日は失業率の6.1%への急上昇(2003年9月以来の5年ぶりの高い水準)や非農業部門就業者数の予想を上回る8万4000人の減少(予想は7万台だったと思った)にもかかわらず、33ドル弱上昇。しかしNasdaqは続落しているし、ウォール・ストリート・ジャーナルの見出しじゃないが「Stocks Climb, but Anxiety Remains」ということです。

 まあ前の日にあれだけ下がったから、売り込まれた金融株などに買いが入ったようで、下げ過ぎの銘柄には反発するものも多かった。しかし、これで危機が去ったのかというとそういう印象はしない。逆に不安感が残った。なにせ、アメリカの経済実態が悪い。

 アメリカの失業率はつい今年の2月までは5%を下回っていた。それが半年で6%台乗せですからね。職の減少は広範で、製造業、建設、サービスなどにおよぶ。アメリカではサービス産業は雇用の重要な吸収口でしたから、これはちょっと痛い。もっと痛いのは6月、7月分の雇用減少規模が大幅に悪しき方向に改訂されたこと。6月の統計など当初の「5万1000人の減」から、「10万人の減少」に改訂された。

 金曜日の朝のTBSのラジオ番組でも言ったのですが、今の世界ではどこかの市場が「ぼこっと」落ちると、その下げの損失を穴埋めしようとして関係ないほかの市場が売られる。サブプライムの混乱の中で、あまり関係がないと思われていた日本の株価が売られたのもそうです。

 今回は私は「商品相場の暴落」が引き金になったと考えている。きっとどこかのファンドにやられたところがある。酷く。損の穴埋めのために、また生き残りのためにポジションを持つ他の市場では売れるだけ売る。その結果、売りの連鎖が世界の市場を飲み込む、という流れ。今の世界の資金の素早い動きの中では、「この市場は比較的ファンダメンタルズがしっかりしているので大丈夫」などということはあり得ない。

 世界の市場は資金を動かす人にとっては全く一つです。商品も株も債券も、そして為替も。流動性ある市場の一角で異変(急落など)があると、それは必ず他の市場の波及する。なにせ資金を動かしている人は、横断的に各地市場で何の区別もなくお金を動かしていますから。

 ということは、「世界中の市場でバブルがなくなり、起こそうにも急落場面が起こりえなくなった場合」には、世界の市場は安定することになる。だって、相場レベルが底に張り付けば、しばらくの間はもう売りようがなくて買うしかないわけだから。

 まあ正直言って、そういう局面は徐々に近づいている印象はする。商品は最後の最後に来たバブルです。その商品相場は、「山高ければ谷.....」の原則で、かなり高みから落ちてきている。原油も70ドル〜80ドルだったら十分経済の需給から言って正当化できる。昨日のニューヨークでは105ドル台があったそうです。105ドルだったら高値の147ドルよりも80ドルに近い。

 為替も激しい動きでした。円に絶対的な魅力があるわけではないが、従来からのポジションの傾きの巻き戻しの中で相場は変動した。十分に円高に動く理由はあった。しかしどうなんでしょう。円安バブルも相当剥げた印象。今後の世界の市場は、実体経済がこれ以上の変調をきたさなければ、落ち着きどころを探す展開も予想されるのですが。

 それにしても、札幌では実に大勢の方にいらっしていただき、熱心に聞いて頂きました。ありがとうございました。


2008年09月04日(木曜日)

 (09:45)朝はテレビ番組などあって詳しく読んでいられなかったのですが、今朝の新聞では産経新聞の一面が非常に面白い。政治の裏側まで分かるまとまった記事だと思う。

 私が興味を持った記述は、

  1. 小池は2日夕、後見人とみられてきた元幹事長、中川秀直に総裁選出馬への協力を求めたが、中川の態度はそっけなかった。「まず自助努力で推薦人を集めるべきだ…」。これに奮起した小池は事務所にこもり、若手議員らに次々に電話で協力を要請したが、町村派の同僚議員は元首相、森喜朗らの顔色をうかがい及び腰、小泉チルドレンからも色よい返事はなかった

  2. 3日昼、元幹事長の武部勤は1年生グループ「新しい風」の約20人を党本部に集め、こうぶち上げた。「自民党への批判は問答無用で強いが、総裁選を通じてピンチをチャンスに変えることができる。われわれ自身が総裁候補になるつもりでマニフェストを作り、権力闘争を政策論争に変えよう!」
     出席者は意気上がり、候補者選定を進めることになった。元少子化担当相の猪口邦子らの名が取りざたされたが、武部を推す声はなく、武部は「どうしておれを推す声が出ないのかな…」と首をひねった
 ここに出てくるように「どうして俺を押す声が出ないんだろう」と思っている人は、他にも何人かいるんでしょうね。

 それにしても、この記事にも書いてあるように今のところ出馬が決まっているのは麻生さんだけ。石原さんが4日の朝に「20人集まれば出たい」とはっきり言ったそうだが、彼は山崎派。「山崎派は石原も所属するが、派として石原を擁立すれば、武部らのグループと、麻生支持を鮮明にする前経産相、甘利明らのグループの3分裂になりかねない。山崎が態度を決めかねる理由はここにある。」(産経)という事情だとすると、石原さんが20人の推薦人を集めるとしたら塩崎さんなどの派閥外の同志から集めないといけない。

 これはテレビでも言ったのですが、今回の自民党総裁選で非常に特徴的なのは、戦後の大部分の期間を通じて自民党の総裁選というのは派閥の領袖が立って争われてきた。だから派閥の合計の数が極めて重要だった。しかし今回は、大派閥の領袖は誰も立ちそうもない。町村派が大きいとしたら、なぜ町村さんは立たないのか。

 領袖が立たなければ、どうしても動きは横断的になる。横断的になるということは、党内がぐちゃぐちゃになると可能性を秘めているということだ。それが良いことか悪いことかは別にして。名前が挙がった麻生さん以外の人が20人を集められないことに関して産経新聞の記事は、「中選挙区制の名残である派閥主導型政治と元首相の小泉純一郎が敷いた”開かれた政党”との狭間で揺れる各議員の葛藤がある」と分析している。

 といことは、小泉さんほど現状を大きく動かす力を今の段階で持っている人がいない、ということです。「2人続いて政権を投げ出した」自民党とその体質に対する国民の批判の声は強い。今挙がっている名前を全部考えてみても、この国民の間に沈殿した自民党への不信感を一気に跳ね返す力を持っている人は現段階ではいないように見える。

 ということは、結局は総選挙になっても「どっちがましか」という争いになる。それだと多分国民はあまりエクサイトしない。政策論争が面白くなるかというと、今の状況ではどうも「人」が前に出そうな気がする。古い顔の登場だと、もっと面白くなくなる。閉息感は残るでしょう。

 総選挙は出来るだけ素早くすべきである。政治には正統性が必要だが、総選挙の洗礼を受けていない政権が3期も続くのはどうかと思う。だから選挙は素早くやるのがよい。しかし衆議院議員の数の面で言ってはたして自民党か民主党かのはっきりした勝負がつくのかどうか。つかなければ今のじりじりする、何も決められない日本の政治状況は変わらないことになる。その可能性はかなりある。

 よく衆参のねじれと言われる。その通りだが、自民党の中も、民主党の中もいろいろな形でねじれの力が働いている。中川さんは森さんの立場に気を遣っている。派閥は実は力を失っているのに、候補者は「何々派の人間」という意識は抜けていないし、そこから出て行く勇気はなかなかない。

 ねじれていても、合意できることはあると思うが、他の不合意点を巡る齟齬があり、それがじゃましてなかなかこの国の政治は前に進めない。民間が時代の変化を先取りして変わっていくしか当面はないような印象もする。国も動くのが非常に重要なんですが。


2008年09月03日(水曜日)

 (21:45)グーグルのHPからブラウザをクリックして、アメリカでは昨日から無償配布が始まった同社の新ブラウザである「クローム」をダウンロードして使ってみました。ははは、面白い特徴が結構ある。

 まず、アドレスバー(ブラウザの上の普通はアドレスを入れるところですが)に直接調べたい単語を入れて検索すると、そのまま反応して自分が調べたいことをいつものグーグルでやっている結果と同じ表示が出てくる点。

大阪で見つけたポスター。今の政治情勢を端的に示していた面白い  今まではマイクロソフトのエクスプローラーを起こして、グーグルのサイトに行って、その上で検索バーにキーワードを入れていたから、クロームを起こせば既にグーグルになっているという点で、一つステップを省略できる。私のエクスプローラーのアドレスバーではやってみたが同じ事は出来ない。

 何よりもクロームはエクスプローラーに比べると非常にアピアランスがすっきりしている点。ツールバーの真ん中には何もない。右と左に少しアイコン(ボタン)がある程度。画面の中程にあるのはアドレスだけです。まあこれで十分なんでしょうな。印刷は右から二番目のボタンの中に。

 最初とまどったのはホームページの設定。私は当然自分のホームページがブラウザのホームですから、それをどこから設定するのかと思ったら、右に「設定」をよく示す工具があった。そこのオプションのホームページの所に自分のサイトを入れて、それで終わり。その下に「ツールバーにホームボタンを表示」にチェックすると、左にホームボタンも現れる。

 ダウンロードは素早かったな。しばらくグーグル・クロームをブラウザにしてもっと使い勝手が良くないか調べてみようと思っています。どちらにしろ毎日ブラウザには本当にお世話になっていますから、使い勝手が良いものの方が良い。他にクロームに何か特徴があることを知っておられる方がいたら、是非お知らせ下さい。

 夕刊では日経の「国際商品が急落」が面白かったな。というか、個々の商品相場が下落したことはむろん把握しているのですが、CRB指数として「約7ヶ月ぶりの安値」というのが記憶するのに都合が良い。

 中国など新興市場の需要が頭打ちになり、先進国の経済は不調になり、アメリカでは市場規制の話が出てきている。資金として商品にはもうこれ以上行けないというレベルが、原油で言えば147ドルだったと考えることが可能。その他の提灯がついた商品相場も大幅に下落。もっと下がるのでしょう。

 問題は商品を逃げ出した資金がどこに行くのかです。掲載した写真は、大阪の街角で見つけました。今の政治状況を結構物語っていると思う。


2008年09月03日(水曜日)

 (11:45)ハリケーンのニュースを聞いていると、今回のグスタフもそうですが、「カテゴリー3からカテゴリー2に下げられた」とか出てくるじゃないですか。解説もなしに。「それってなに」と昨日のアンカーの前に興味を持って、気象予報士の片平さんに聞いたのです。

 それはあとで紹介するとして、まず「風速」とその影響をネットで調べると以下のように出てくる。これらは、台風やハリケーン以前のレベルです。

 風速は観測する瞬間の前の10分間の平均風速で表されます。よくニュースなどで聞く最大瞬間風速はその名のとおり「最大」の風速なので、平均風速の2倍になることもあります。

平均風速(メートル/秒)  風の吹き方・様子
10以上〜15未満      風に向かって歩きにくくなり、傘がさせない。
              取り付けの不完全な看板が飛ぶ。
15以上〜20未満      風に向かって歩けなくなり、転倒する人がでる。
              ビニールハウスが壊れ始める。
20以上〜25未満      しっかり体を確保しないと転倒する。
              車を運転するのが危険なほどの風。
25以上〜30未満      立っていられない。
             ブロック塀が壊れ、取り付けの不完全な屋外外装材が飛ぶ。
30以上          特急列車並の風で屋外での行動は危険。
             家屋の屋根が飛んだり、全壊する家屋も出る。

 なるほど。風速30メートル(秒)までは分かった。これを見ると、風速30メートルというのは、もうその段階で危険だと言うことが分かる。それにしても10分間の平均なんですな。

 片平さんはその上の台風とかハリケーンの強さの尺度(日本では強いとかハリケーンではカテゴリーXとか)について、「もっぱら風速で表現します」として、以下のように日本とアメリカを別々に教えてくれた。

 まず日本の場合は

 強い       風速33〜44メートル
 非常に強い   風速44〜54メートル
 猛烈な      風速54メートル以上

 これに対して、アメリカの台風の強さに関する風速の基準は以下のようになっているということです。

 カテゴリー1   30〜38メートル
 カテゴリー2   38〜44メートル
 カテゴリー3   44〜52メートル
 カテゴリー4   52〜62メートル
 カテゴリー5   62メートル以上

 これとは別に台風やハリケーンの大きさを表現する言葉も日本では使われる。「大型」とか「小型」です。まあ一般的には「大型」の方が風力が強いのではないでしょうか。カトリーナもグスタフも見ると非常に大きい。

 アメリカが風速62メートル以上まで決めているということは、一般的にハリケーンの方が台風より勢力が大きいと言うことなんでしょうか。まあちょっと調べますが、この二つを比較すると「台風」の強さの表現から「ハリケーン」のカテゴリー(1〜5)が大体想像できる。カテゴリー3が日本で良く言う「非常に強い」に相当する。カテゴリー4は「猛烈な」です。カテゴリー5のハリケーンというのは凄まじいの一言だと言うことだ。


2008年09月02日(火曜日)

 (09:45)思い出してみて、昨日の福田首相の記者会見で一番記憶に残った言葉は、会見の最後の最後に福田さんが気色ばんで言った「あなたと違うんです」でしょうか。

 福田首相が質問した記者(中国新聞の記者さんだそうです)のことを良く知っていたとしたら、私が想像する言葉の意味合いが違うかも知れない。よく知っている人に対しては「あんたと違う」(ちょっと言い換えると)とはそれほど珍しい発言ではない。まあたまに使う。しかしどちらかと言うと多少の笑いの中で使うケースが多い。しかし昨日の福田首相は明らかに気色ばんでいた。

 もしあまりその記者を知らないのに(私が想像している線ですが)「あなたとは違う」と言ったとしたなら、それは「私は私以外の人とは違う」と言っているようにも聞こえる。その先に国民があっても、「私は違う」というように聞こえもするのだ。

 こだわるようですが、私にはこの発言が非常に気になった。なぜか福田さんという人がこの言葉に象徴されているように思うからです。良い意味でも悪い意味でも。エリート意識かも知れない。それはある意味では必要です。

 しかし一方で、「私とは違う人々」の間でリーダーシップを取るのはなかなか難しいから、一体感が周囲の人と持てない人のような気がするし、だとしたら基本的な政治家の資質を欠いているとも言える。まあいずれにしても一年弱で福田時代は終わる。明らかになったのは、安倍さんの復権はこれで消えたと言うことでしょう。「投げ出し」の一番手の浮き上がりは難しい。

 日本も大変だが、アメリカでも大きなニュースが。それはマケインが副大統領候補に選んだサラ・ペイリンの17才の長女(未婚)が「妊娠五ヶ月」であることが判明したこと。このコーナーで彼女には男の子2人の他にBristol、Willow、Piperの三人のお嬢さんがいることはお伝えしました。

 ペイリン知事本人が発表したもので、ブリストルちゃんは近く父親と結婚するとしている。しかし17才でのできちゃった婚はアメリカでも大きな議論を呼ぶでしょう。ニューヨーク・タイムズの記事によると、最近ブログでは「実はサラ・ペイリンの最後のダウン症の男の子は、長女のブリストルちゃんの子供ではないか」との噂が出ていたという。

 ニューヨーク・タイムズはハリケーン・グスタフで大騒ぎの共和党大会には、「新たな騒動が持ち込まれた」と伝えている。サラ、トッドの夫妻は声明で

 Our beautiful daughter Bristol came to us with news that as parents we knew would make her grow up faster than we had ever planned.As Bristol faces the responsibilities of adulthood, she knows that she has our unconditional love and support.
 と述べているが。保守に訴えるはずのペイリン知事の娘は、かなり進んだことをしていたことになる。多分ブリストルはサラが副大統領候補に決まった後に母親に伝えたのでしょう。

 アメリカの大統領選挙はまだまだ不確定要素が多い。日本の政界も一寸先は闇ですが。


2008年09月01日(月曜日)

 (21:45)なんという展開なんでしょうか。去年は9月12日の午後1時くらいからでした。最初のニュースは「安倍首相が麻生幹事長など自民党幹部に辞意を表明している」とのケイタイなどを通じて流された速報。それは直ぐに現実になった。自民党が選んだのは、安倍首相とは全く逆のタイプの福田さんだった。

 それから一年もたたないのに、またしても日本の首相、安倍さんとは逆のタイプの日本の首相が、就任して一年もたたないのに、そして内閣改造をしてほぼ1ヶ月しかたたないのに辞任した。一年に一回代わる日本のトップ。驚くばかりです。

 福田首相の午後9時半からの記者会見を見ていましたが、詰まるところ「やれることはやった。次は新しい人が新しい体制で」という主張だった。しかし聞いていて、「嫌になったのだろうな」という印象しかしない。「やったことはやった」と言われても、納得できる人は少ないでしょう。だとしたら国民の政治不信は高まるでしょう。

 「年金などの問題で就任早々大変だった」「民主党が何でも、特に重要法案では反対した」から会見は始まり、福田首相自身は道路特定財源の一般財源化や消費者庁の設置方針などを成果に挙げた。しかしこの二つは記者の質問にもありましたが、「道半ば」で、成果とは言えない。

 「今後の日程も考えると、今の辞任が一番良い」(福田首相)と言われても、政界インナーの話の種類に聞こえて、日本という国、日本という経済にとって何が良いのか一向に分からなかった。非常に残念です。

 記者会見を聞いていて思ったのは、「支持率も私は低い」「新しい人に託した方がよい」として、安倍さんとはまた別の意味で「後の人に投げた」ように思えたこと。自分で選挙やったら負ける、別の人がやった方が良いと判断したのでしょうが、それは選挙をやる勇気がないようにも見える。

 安倍さんも最後に相談したのは麻生さん、今回の福田首相も最後に相談したのが麻生さん。自民党の総裁選がどのような展開になるのか分かりません。一応麻生さんが有利なように見える。しかし二回の総裁辞任に絡んだ麻生さんがそのまま次の自民党総裁になれるかどうかは分からないと思う。

 総選挙を経ないで総理を選ぶのはこれで3人目になるわけですか。これはちょっと酷い。総選挙は早くやらなければならなくなるでしょう。国民も真剣な選択をするときが来ると言うことです。


2008年09月01日(月曜日)

 (09:55)最近中国関係で一番気になったニュースは、国務院農民工弁公室の主任を務める労働社会保障部の楊志明副部長が明らかにしたものです。それは、「中国の出稼ぎ農民労働者(農民工)は2億1000万人に上る」というもの。政府の正式発表統計と見て良いのではないでしょうか。実際にはもっと多いかも知れない。。

 信じたとしても、この数字驚くべきものです。「中国は人口が13億人だから、2億人ちょっとと言えば六人に一人程度」と考える人がいるかも知れない。しかし13億人とは、生まれたての幼児、働けない子供や老人を含めた総人口です。対して「出稼ぎ」している人は壮健で一家の家計を支えている人でしょう。どの国でもそうです。お父さんが圧倒的に主で、その次にお母さん、それに息子、娘達。

 中国の平均所帯人数はネットで調べたがよく分からなかった。あまりそういう統計はないかもしれない。日本の場合はつい最近3人を割った。まあ仮に4人としましょう。ということは、中国の所帯数は3億2500万所帯ということになる。

 しかしこれは総所帯数に過ぎない。3億2500万所帯には、都市に住む家族の所帯も含まれる。中国の農民の数は大まかに6億人とか7億人とか言われるが、農民工というのは彼等の中からしか出てこない。都市所帯が農民工を出すわけはない。

 仮に中国の農村人口を7億人と計算し、それを4で割って所帯を出すと1億7500万所帯となる。これらの所帯から「農民工」は出てくる。とすると、この1億7500万所帯の中から、「農民工は2億1000万人」ということになる。ということは、農村でもいろいろ専業、副業で儲けて農民工を出している農家もあるだろうから、「貧しいところは一所帯で2人とか3人の農民工を出している」ということになる。

 しかしその農民工の都市での職は極めて不安定で、その上にしばしば不払いにあったり、理由を付けて大幅に支払いを減らされたりすると聞いている。経済成長の恩恵など受けられない「農民工」所帯が、もしかしたら全所帯の半分近くになるかも知れない中国。これは凄まじい。

 9月1日の朝日新聞には、「五輪後の中国」ということで、興梠 一郎さんがインタビューに答えている。その中で彼は中国のどこに注目しているのかに関して

 社会の変化、ざわめきです。民衆の不満が表に出てきた。農村では過激な集団抗議行動が頻発している。貴州省では地方政府のビルや公安の建物を襲い、火をつけたり破壊したりするなど、権力の象徴が標的になった
 と述べている。そうなんでしょうな。繁栄に加われなくなったと悟った瞬間に、民衆の体制への不満は爆発する。何せ共産党の「統治の正統性」は成長、繁栄ですから、それがなくなれば民衆が共産党や権力装置を敬う理由はない。

 確か16日の関西テレビの番組「ぶったま」だったと思ったのですが、北京五輪の開会式で人文字として「和」が出たことを指摘して、これは胡錦濤が推進する和諧社会から来ていると指摘して、それは逆に「和諧」が出来ていない証拠である、と指摘した。

 興梠さんも同じような見方をしたようです。「和諧」どころか、五輪後の中国は漂流する可能性が高い。株民は大損をし、農民工は工事の減少という現実に直面している。日本の最大の輸出相手国がアメリカから中国になる中での中国経済の変調と、先行き不安。まあ、中国国民は不必要となったら体制など簡単に捨てて、自分の生活を真っ先に考えるんでしょうが。



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