21年目 〜世界を手中に リネッティ4年目〜

昨年後半の戦績が奮わなかった事を理由に、全世界ネット中継は僅か1シーズンで打ち切りとなってしまった。 まぁ、仕方のない事ではあるが。幸いアジアネットで放映してもらえるとの事なので、引き続きクラブの矜持にかけて 真剣な戦いを続けるとしよう。

一方の日本代表は、輝かしい戦果に国際ランクも50位から33位と躍進を遂げた。 私の手腕も高く評価され、国内外のメディアからの取材も増えた。まんざら悪いものでもないな。 しかし大事なのは今年だ。浮かれ無いようにしなければ。

今年の契約更改は5名である。 代表でも左SDFとして活躍する路木(30歳)には50%アップの135百万で5年契約。同じく代表入りした 源(31歳)は185百万で3年契約とした。源の後継には山岸ないしは藤田を当てるつもりだ。 そして出場機会の激減した山形(32歳)だが、一部のスタッフからは契約延長をいぶかしむ声もあった様だ。 仮にもしかしシュトルツの「10」を背負った男だ、私は現状維持の65百万で単年契約を指示した。 バックアッパーの佐藤(29歳)も現状維持33百万で単年契約である。 最後は若手の常松(20歳)か。こちらも当座は勉強第一だな。現状維持13百万で3年契約だ。

今年は不況の様で、投資は控えた方が良いと財務部長の進言があった。 まぁ、クラブ施設もそれなりに整っているし、言う通りにするつもりだ。 悪いが今年一年はクラブより代表を優先させてもらおう。

2月に入ると昨年に続き、協会の意向で<欧州チャレンジリーグ>へ参戦する事になった。 ここで一つの大事件が勃発する。 代表GKを勤めた柏レイソルの南の引退である。 昨年末に腰を痛めて、選手生命を絶たれてしまったのだ。これには参った。 しかし私はここで天啓を受ける。そして代表に召集されたのは・・・

『代表GKにシュトルツ控えGKの佐藤抜擢!』 『縁故人事か?代表にクラブのNo.2?』 『清水エスパルスの羽田 憮然』

様々な憶測が飛び交ったが、この世界は結果が命。私はチラバートと常に一緒に練習している佐藤の実力を 過小評価していないだけだ。

大会が行われるオランダへと到着したのは2月2日の事であった。 緒戦は、元シュトルツ監督であるオライリーが率いるアイルランド戦である。ここをまずは完封スタートと行きたい。 直前のディフェンス練習には熱が入った。試合は終始日本がペースを握り、前後半に主将三浦が1得点ずつを挙げ、 守備陣も完璧な出来で2−0とシャットアウト勝利。

2戦目に早くも優勝候補のフランスと激突。正に剣が峰である。 私はとにかく守備を固めて、前線から早いプレスを指示。 これが奏効し、カウンターから平塚が望外の先制点。すかさずデュキャナンに同点ゴールを叩きこまれはしたが、 このまま引分け狙いと誰もが思ったその時、平塚が中盤で相手ボールを奪うと、そのままドリブルシュート。 再び勝ち越し。なるほどヴィッセル神戸が強い訳だ。まさにワールドクラスである。後半は焦れたドサイーの退場もあり、 そのままホイッスル。2−1でまさかの2連勝である。これにはメディアもぐうの音も出まい。

トルコを3−0と一蹴し、迎えたイタリア戦。どこか油断もあった事は否めない。 3戦全勝で首位に立っていた日本は、冷や水を浴びせられる事になった。 堅守のイタリア相手に様子を見ていたが、前半のうちにピアジオに2ゴールを許してしまい、主導権を握られてしまう。 後半はマッツーロの退場で10人となったイタリアだが、守備は依然強固で、三浦が1点奪うのが精一杯であった。 逆に1点を追加されて1−3と初黒星で首位もイタリアに奪取されてしまった。

この敗戦が選手たちを萎縮させたのか、続くオランダ戦ではまったく良い所がなく平塚のFKで先制しながらも 受身に回って後半2失点。この流れを変えるべく私の出した指示が主将三浦の交代である。 この時、国際中継のアナウンサーは狂気の沙汰と伝えたとか。しかしこれも大正解。交代出場のシュトルツ大石が90分に アーリークロスをワントラップからDFをかわしてシュート。これがオランダゴールに突き刺さり、土壇場で2−2のドロー。

再び行きを吹き返した選手たちはドイツ戦もミューレンの退場に助けられ、 1点ずつを奪い合った後半43分に待望のPKを得て、三浦がキッチリ決めて2−1。 アシモビッチのいないクロアチア代表を3−0と大勝してイタリアに次ぐ 準優勝で大会を終了する事が出来た。

<欧州チャレンジリーグ>
優勝 イタリア代表 勝ち点19 6勝0敗1分け 18得点3失点
2位 日本代表   勝ち点16 5勝1敗1分け 15得点7失点
3位 フランス代表 勝ち点13 4勝2敗1分け 13得点3失点
この結果に国内外で私の手腕は更なる評価を得て、7月の本大会の指揮を危なげないものとした。 オライリー アイルランド監督などは「7月の1次リーグで日本と同じ組にはなりたくないものだ」とのコメントを残して 大会を後にしたと言う。それにしても恐るべきはヴィッセル神戸。主将の三浦をはじめ、牧野、平塚、斎藤と代表の主力を 4人も抱えているのだから。来月のJリーグでは一転難敵である。

成田空港に着くや否や熱烈な歓迎を受けた。佐藤の代表召集の誹りなどどこ吹く風である。 すっかり佐藤も時の人となり、他クラブからの身分照会があったとか無かったとか。 とにかく、これで一旦代表は解散して4ヶ月間のJリーグに身を置くこととなる。 昨年の通算勝ち点でトップだったヴィッセル神戸に限らず、清水エスパルス、大阪エステーラなどは 通算勝ち点で下回るシュトルツの優勝を臍を噛む思いで年を越したに違いないのだ。 リネッティ監督、よろしくお願いしますよ。

開幕戦はホームにほぼ満員のサポーターを抱えてサガン鳥栖とのデーゲーム。 シンゴが先制点を挙げると後半もアシモビッチ、原と追加点を挙げて、藤田がJリーグデビューを飾る余裕の4−0勝利。 3節までは負け知らずで藤田や伊武がピッチに立つ横綱相撲であった。対するライバルはと言えば大阪エステーラは 2節で、ヴィッセル神戸は3節で早くも黒星を喫し、余裕の展開かと思われた。

しかしここからシュトルツに大ブレーキがかかる。 4節に15位ジュビロ磐田に競り負けて初白星を献上、続く5節のFC東京とのダービーマッチはホームで同じく1−2と敗戦。 あろう事か14位アビスパ福岡との7節は古賀、岡本に蹂躙され0−5と惨敗。アシモビッチが苛立ちを隠せずに レッドカードを受けて成す統べ無し。幸か不幸か、この間清水エスパルスも引分けが2つ、ヴィッセル神戸も1分け1敗と 勝ち点を伸ばし損なっている。

チームの体たらくにミーハーな(と言っては何だが)サポータークラブの会員が大挙して脱会。 1ヶ月で差し引き400人以上の会員減となってしまった。 広報部長からクレームの多さを報告される。そうは言ってもなぁ。

酷かったのはカップ戦で、清水エスパルスに3−4、0−2と連敗して1回戦で姿を消す事になってしまった。 カップ戦の1回戦敗退はここ10年間無かった事だけにチーム関係者も失望を隠せないでいる。 リーグ戦も混迷を極め、7節は3位ガンバ大阪をチラバートの直接FKなどもあり、延長の末3−2とVゴール勝ち。 ヴィッセル神戸はジュビロ磐田と引分け、清水エスパルスはFC東京に1−2と破れている。まだまだここからだ。

エンジンがかかってきたシュトルツに立ちはだかったのが柏レイソルの老兵、片切叡山である。 11節はカップ戦の疲れも見えた沖田、宮田を外して常松、伊武を先発起用したリネッティ監督であったが、 前半2失点すると後半は沖田、宮田を強行。この采配に応えたのがシンゴで、後半2ゴールを挙げ同点。 しかしここで途中出場の片切にやられる。サイドからのアーリークロスに飛び込んで勝ち越し。 阿部が87分にレッドカードでまたしても負け越しとなる4敗目で11位に順位を落とす。

実は後日選手たちにハナシを聞いてみたところ、私が代表監督となっているために、余計に結果を出そうと 空回りしていたそうだ。また縁故人事と呼ばれてはお互い適わないものな。

そうは言えども、リーグ戦の最中は気が気でならない。 他会場で試合を観戦しながら、篠原クンと連絡を取ってシュトルツの結果を気にしていたのだが。 9節のジェフ市原戦では路木がボランチに入り、常松が左SDFとしてディフェンスラインを務める。 CKからジャビが先制したものの、スミー、オービルという2枚看板にあっさりと逆転を許して5敗目。

再昇格の鹿島アントラーズとの10節は水城の2ゴールで8試合振りの90分勝利、首位大阪エステーラとの11節は 120分耐えきってドローとしたまでは良かったが、首位戦線を戦う清水エスパルス、ヴィッセル神戸には共に0−4と 完膚なきまでに叩かれ、結局このステージは12位と低迷してしまった。4ヶ月連続で月間MVPを手中に収めた 伊東の率いる清水エスパルスも一歩届かず、優勝は豪華絢爛な陣構えのヴィッセル神戸のものとなった。

 優勝 ヴィッセル神戸  勝ち点32 10勝3敗2分け 34得点10失点
 2位 清水エスパルス  勝ち点30  9勝3敗3分け 37得点14失点
 3位 大阪エステーラ  勝ち点29 10勝4敗1分け 30得点14失点
 4位 横浜F・マリノス 勝ち点26  9勝5敗1分け 19得点10失点
 ・
 ・
 ・
12位 品川シュトルツ  勝ち点16  5勝8敗2分け 17得点28失点
この敗因は得点力の低下につきる。昨期得点王となった水城が徹底マークで僅か3ゴールに終わり、 シンゴ、原も4ゴールずつとFW陣で11ゴールしか挙げられなかった攻撃力の無さが敗因だ。 代表FWの大石もリネッティ監督の構想ではサブとしての途中起用がほぼ固まっているが 2ndステージでは戦い方を変える必要がありそうだ。

オールスターにはそれでもシンゴ、アシモビッチ、チラバートが投票で選出されてピッチに立ったが2−2で決着は PK戦に委ねられた。チラバートの調子は今一つで2−4で今年もWestの勝利で終わった。ヴィッセル神戸の 主力が揃っているだけに勝利は難しいか。

いよいよ日本中が待ち望んだインターナショナルカップ本戦のメンバー発表の日が来た。 2月の欧州チャレンジリーグから4ヶ月。選手もみな持てる力を振り絞ってくれた。 これには真摯に応えねばなるまい。

GK 佐藤(シュトルツ)
DF 太崎、斎藤(神戸)、玖珂(エステーラ)、中澤(横浜FM)、路木(シュトルツ)
MF 伊東(清水)、平塚、牧野(神戸)、中村(横浜FM)、阿部、源(シュトルツ)
FW 三浦(神戸)、棚田(清水)、吉原(G大阪)、大石(シュトルツ)
最終的に私が召集したのは以上の16名である。 最後にチャンスを得たのは1stステージにゴールを量産し、ベストイレブンに名を連ねつづけたFW吉原と、 ヴィッセル神戸の一員として鉄壁のディフェンスを披露した太崎の2名である。 もはや、この16人に異を唱えるものはいなかった。

開催国ドイツへと赴いた我々はラインラント地方に宿舎を設け、調整に余念が無かった。 何せ1次リーグC組にはブラジル、カメルーン、ユーゴスラビアと言った強豪が揃ってしまったのだ。 ブックメーカも日本の決勝トーナメント進出は望み薄と見ていた。 下馬評は覆るか? 1次リーグ緒戦はいきなりブラジル。しかし、これに勝利すれば決勝トーナメント進出への大きな弾みとなる。 私は2TOPに三浦と吉原を選びスピード勝負を挑む事にした。頼むぞ吉原。

16:00 運命のキックオフである。開始早々ヒヤッとする場面もあったが、意外にボール支配率は日本が上回る。 惜しいシーンも何度か訪れたが決定機が掴めぬままハーフタイムと思われたその時、ショートパスで中央を崩され失点。 これが王者ブラジルか。項垂れてドレッシングルームに帰ってくる選手たちを叱咤。 今更ブラジルは強かったではハナシにならん。とは言いながらも、私もこれ以上の失点だけは許すなよと、 ネガティブな発想になったその時、牧野が中盤のルーズボールを掻っ攫い速攻。一度サイドに振ったボールを 平塚が折り返すと牧野が体ごとゴールにぶちこんだ!後半開始僅か4分の出来事である。 ブラジルも虚を突かれた様だった。ここから怒涛の反撃を凌ぎきり、価値ある勝ち点1を得た。

これで気が楽になったか。カメルーン戦は選手たちが持てる力を存分に発揮。 先ずは前半に吉原がそのスピードを活かして、カメルーンDFを置き去りにし2ゴールを先取。 まったく身体能力でも引けを取らない日本FWにカメルーンも驚きを隠せない。 後半も勢いは衰えるどころか、一方的な試合展開。牧野が2試合連続ゴールを決めたと思えば、 吉原がハットトリックとなる3点目。牧野が駄目押しのゴールで1次リーグ突破を後押しする5−0の大勝利である。

負けさえしなければ決勝トーナメント進出が濃厚な3戦目。 相手はユーゴスラビア。この試合も前半からエンジン全開で臨むが、ステファノビッチを中心としたユーゴ攻撃陣も 黙ってはいない。再三のカウンターから好機を演出するが、こちらも玖珂、中澤がよく凌ぐ。 結局90分間戦ってスコアレスドロー。この瞬間、ブラジルに告ぐ1次リーグ2位が確定し、見事 決勝トーナメント進出が決まった。

奇しくも決勝トーナメント1回戦の相手は韓国。 インターナショナルカップの舞台でアジア決戦である。 沖田が留学するレバークーゼンのホームスタジアムでの決戦となり、スタンドには沖田本人の姿も確認できた。 沖田の前で無様な試合はできん。この試合も先制は日本。前半FKを直接平塚がねじ込んだ。 終了間際にも吉原がDFの裏を走って追加点。2−0でハーフタイムに突入。 韓国は切り札キムを後半から投入。狙いは大当たりでセットプレーのこぼれダマをキムが押しこみ1点差。 選手交代も考えたものの、平塚が試合を決定付ける3点目を入れて勝負あり。3−1で日本がベスト8進出。

アシモビッチのいるクロアチア代表を破ってG組2位通過したメキシコが次なる相手である。 この試合はGK佐藤が大活躍。前半に2度のビッグセーブで試合の流れを引き寄せると、 玖珂のCKに飛び込んだのは主将三浦。三浦は6分後にも中央から自ら持って行って追加点。 こうなると勢いは止まらず、後半もCKからファーの三浦がハットトリックとなる3点目。 結果的に2失点は喫したものの3−2と競り勝って、なんとベスト4にコマを進めた。

準決勝で当たるのは決勝トーナメント緒戦でチラバートから3ゴールを奪ったイタリア代表である。 2月の欧州チャレンジリーグでも勝てなかったのがイタリアである。 選手たちに不安がよぎる。しかし私には勝算があった。2月は出鼻に様子を見る事でペースを握られてしまった。 今回は最初から持てる力をぶつけるまでだ。もうここまできたら結果よりも、楽しんで来い。 このゲキで肩の力が抜けたか、選手たちの気負った表情は一変。開始早々のピンチは中澤が体を投げ出して危機一髪。 牧野も前線で激しくプレスを仕掛け、イエローをもらったりしている。 この勢いが前半終了間際のPK奪取に繋がる。このPKを三浦がキッチリ決めると、後半は猛攻を絶え凌ぎ イタリアから大金星の1−0勝利で、遂にインターナショナルカップ決勝に日本が勝ち進む事になった。

決勝の相手は地元ドイツ。 ホームアドバンテージの影響は計り知れず、決勝トーナメント進出後も対イングランド(2−0)、対ウルグアイ(4−0)、 対ブラジル(2−0)とカーワン率いるディフェンス陣が本領発揮し、無失点での決勝進出である。 2月は相手退場もあって勝利したが、今回はそうもいくまい。先ずは守り固めて大量失点は防ぎたいものだ。

7月30日 私はこの日を終生忘れる事は無いであろう。 定刻通り18:00に日本ボールでキックオフ。 するといきなりビッグチャンスが訪れる。ボールを持った吉原に行ったチェックがファウルを取られてゴール右30m地点で FKを得たのだ。このFKを平塚が直接狙うと、カーワンの手を掠めてネットイン。何と日本先制である。 ところが、このファウルで吉原が試合続行不可能。棚田を急遽ピッチに立たせねばならない事態になった。

不安の中、更に世界を驚かせるゴールが産まれる。中盤でインターセプトしたボールを素早く繋げて遠目から 牧野がシュートすると、カーワンが一度は弾くが、そこに詰めた平塚が押しこみ2点目をゲット。 あの無失点GKカーワンから前半で2ゴールを奪ったのである。 ベルリンオリンピックスタジアムに陣取った日本サポーターは狂気乱舞。白と黒のドイツサポーターは大ブーイング。 私も当然笑みが止まらない。

しかし、当然ドイツイレブンも黙っていない。先ずは主将ルンゲ.Kが佐藤の不意を突く40mロングシュート。 これにはドイツサポーターも大満足。割れんばかりの歓声にやや浮き足立ったか。 伊東が不用意なファウルでイエローカードをもらってしまった。 ここから崩れるかと思った試合を立てなおしたのは主将三浦である。前半終了直前。スローインからボールを受け取ると 縦に突破。ユルゲンスを交わして放った右は三度ドイツゴールに突き刺さる。

誰が日本の3得点を予想し得ただろうか。しかしハーフタイムのドレッシングルームは驚くほど落ち着いていた。 「こんなプレーじゃ駄目だ。もっとシンプルに」「そう、中盤で持ちすぎると必ずやられる」 「後ろからもっと声を出してフォローしないと」選手同士で後半の対策を考えているではないか。 私の出る幕など無い。

後半は選手を3人入替えて、猛反撃をしかけたドイツだったが何とかワルサーの1ゴールに抑えて試合終了のフエがなった。 まさかの インターナショナルカップ優勝 である。 選手たちはオリンピックスタジアムを駆け回る。 私もあと10歳も若ければ選手と共に走り回った事だろう。 スタンドに目を移すと篠原クンが泣いている。篠原クンなくして、私もここまでの我侭は出来なかっただろう。 ありがとう。 そして、何より感謝は当然選手たちだ。カーワンを抑えてGK佐藤は大会MVPに選出された。 主将三浦は通算5ゴールでミューレンに次いで得点ランク2位である。 みんな、本当にありがとう。ありがとう。

帰国後しばらくは、首相官邸だの、日本サッカー協会だの、東京都庁だのと 様々なところを行脚して、選手ともども暫くは本業には戻れない毎日であった。 品川区長からは名誉区民の表彰を頂いたりもした。 はぁ、本当に私が成し遂げた事なのか。今でも目覚めた時に夢幻だったのではないか、と思う毎日だ。

「会長ぅ、本当に私感激しました。会長とお仕事できて良かった」
「ありがとう。篠原クンには私も感謝しているよ」
「本当に良かった。見てください。クラウスのサインです」
「クラウス?そんな選手ドイツ代表にいたかなぁ」
「何言ってるんですか。格闘家ですわ。きゃー、家宝にしなくちゃ。まさかオリンピックスタジアムに現れるなんて!」
「・・・」
夢から現実に引き戻されると、そこには新たな戦いが待っていた。 我々のサッカー人生はここで終了ではないのである。 寧ろ、インターナショナルカップを制覇した日本の今後こそが大事なのだ。 いつまでも浮かれている訳にはいかないな。 もう間もなく、三浦も、吉原も、敵になるのだから。

肩の荷が下り、ようやく私も代表監督としての役目を終えてクラブに本腰を据えようと言う時に メディカルスタッフから、大石、佐藤の能力が飛躍的に開花した可能性があるとの報告を得た。 佐藤は先の大会の活躍が高く評価されて、今では国際GKランクも14位に名を連ねる程である。 リネッティ監督とスタメンをチラバートで行くか、佐藤で行くか、遅くまで議論した結果、 キャプテンシーを考慮して、あくまで我が品川シュトルツにおいてはチラバートを第1GKとして起用する事が決まった。 そして、FWには大石を先発起用するようにリネッティ監督に強く求め、2ndステージの結果如何で監督の残り任期に 関わらず契約見直しの心構えをお願いした。

なるほど大石は先の大会で、一皮剥けた様だ。 開幕戦でいきなりのハットトリック達成で10.0評価を得ると、2節の横浜F・マリノス戦も2ゴールを挙げて 2試合連続の10.0評価。3節のモンテディオ山形戦は価値あるVゴールと水を得た魚のような大活躍である。 これには水城も奮起しない訳が無い。6節のアビスパ福岡戦では水城がハットトリック達成で8月終了時に3位と 好位置につけることが出来た。

ライバルが星を落とした7節、シュトルツは首位ガンバ大阪を大石のゴールで1−0と下して首位奪取。 ガンバは次節の大阪エステーラ戦も敗れてずるずる3位後退。 シュトルツも9節で大石が2ゴール挙げながらジェフ市原に延長戦に粘られて勝ち点1を失い2位降格したものの、 次節に首位大阪エステーラは、そのジェフ市原に1−3と敗れて、チラバートのFKでVゴール勝ちしたシュトルツが 首位奪還。目まぐるしい首位戦線となった。

大阪エステーラとの直接対決は11節。 代表DF玖珂が守り、代表FW大石が攻める。 そんな試合展開を予想したものの、ペースは大阪エステーラ。嶋村が先制ゴールを挙げたものの、 チラバートが汚名返上の直接FKで同点に。試合はそのまま動かず120分ドロー。首位は辛うじてシュトルツがキープ。

12節には7位と苦しむ清水エスパルス戦で源がレッドカードをもらって一人少なくなったシュトルツではあったが、 大石が決勝ゴールを挙げて1−0と辛勝。ところが、これで4位ヴィッセル神戸との直接対決のスタメンが難しくなった。 仕方なく大石をMFに下げて原と水城の2TOPで対戦。先制されては水城のゴールで追い付き、 突き放されては原のゴールで追い付き、延長戦まで粘ったものの最後は城に決められVゴール負け。 初黒星を喫すが、勝ち点の関係で首位はキープ。ここからは一敗も出来ない。

ところが14節の京都パープルサンガ戦を90分で勝ちきれず、大石がどうにかVゴールを叩きこんでいる間に、 勝ち点でガンバ大阪に並ばれ、得失点差で2位に順位を落としてしまい迎えるは最終節。 大量得点が必要な試合で、幸いにも相手は最下位のベガルタ仙台。前半から猛攻撃の指示の下、大石2ゴール、 シンゴ1ゴールと3点リード。ハーフタイムにガンバ大阪2点リードの連絡。 よし、このまま3点差ならば逆転でシュトルツの優勝。ところが・・・

88分。山下に1点を返され、試合終了のフエ。ここまでくると、たかが1点。されど1点である。 思えば14年前、初めてチャンピオンシップを獲得した年の2ndステージも得失点差3が明暗を分けた。 そう言うものである。

肩を落とすスタッフたちの目に飛びこんできたのは電光掲示板の試合速報。 どうやら後半にガンバ大阪が1点失って、そのまま2−1で試合終了したらしい。 これで得失点差は並んだ。次は総得点数だ。シュトルツはシンゴのゴールが32点目のはず。 「ガンバは今ステージ何点上げているんだ?」「・・・に、29点です。やったぁ、優勝だ!」

最後まで苦しんだ2ndステージだったが総得点の差、僅か3点で優勝が転がり込んできた。 この3点は吉原と大石の差であったかどうかは定かではない。が、2ndステージに大石を先発起用したことが 実を結んだ事だけは間違い無い。1stステージのチーム総得点は17ゴールであったが、その内大石は2ゴールに止まった。 2ndステージは先発フル回転で32ゴールの半分16ゴールである。 これでドリームエンタープライゼスとの契約条件である得点ランク10位以内というハードルも6位ノミネートで 契約違反にならずに済んだ。

21年目2ndステージ
優勝 品川シュトルツ 勝ち点35 13勝1敗1分け 32得点14失点
2位 ガンバ大阪   勝ち点35 12勝3敗0分け 29得点11失点
3位 大阪エステーラ 勝ち点32 10勝3敗2分け 29得点14失点
4位 ヴィッセル神戸 勝ち点30 11勝4敗0分け 38得点20失点
1stステージ優勝のヴィッセル神戸はチャンピオンシップ挑戦件があるからまだしも、 大阪エステーラ、ガンバ大阪、清水エスパルスの3チームの関係者は相変わらず通算勝ち点が下回る シュトルツのチャンピオンシップ進出を認められぬなどと騒いでいる様だ。 悔しかったらリーグの規約を変えてみろ。

得点王は代表でも4ゴールと活躍した吉原。そして城が31ゴールでタイトルに輝いた。 最優秀評価点も代表の主軸であった玖珂が8.0と2年連続受賞であった。 シュトルツからはアシモビッチが6.9の9位、大石が6.8の13位と2人が上位20人の中にランクインした。

そしてこの喜びの中、青柳と岡本がそれぞれラゴスFC、レバークーゼンFCからの留学を終えて戻って来た。 今年のチャンピオンシップには早速その力を借りようか。

日本サッカー協会から連絡があったのは2ndステージ優勝を決めた4日後の事であった。 FIFAより、<インターチャンプカップ>なる大会への招待出場を頂いたと言うのだ。 7月のインターナショナルカップのチャンピオンチームとして、私の代表監督としての最後の勤めと言う訳か。 負ければその責任で監督辞任。勝っても勇退となる訳だな。確かに新監督はこの大会の後のほうが良いだろう。 私はすぐさま篠原クンと連絡を取り、身支度を整え、協会を通じて7月の代表メンバーを召集するとフランスへと発った。

インターチャンプカップはどう言う基準だか分らんが、 フランス、イタリア、アルゼンチン、ドイツ、ブラジル、クロアチア、オランダ、そして日本という8ヶ国の トーナメント形式で行われる大会で、日本の緒戦はフランスであった。 7月のインターナショナルカップでは決勝トーナメント緒戦でオランダに敗れたフランス。 往年の強さはどこへやら。玖珂の左右のCKから吉原が2発。後半にアリンの意地のゴールがあったものの2−1で 1回戦突破。

2回戦はイタリアを破ったアルゼンチンとの対決。前半は拮抗した展開となったが、 後半に平塚、吉原の連続ゴールが生まれて2−0と圧倒。吉原はこの大舞台で 2ndステージとチャンピオンシップに出場できない憂さ晴らしをしている様だ。頼もしいと言うべきか、 恐るべきストライカーである。

この大会も決勝で顔を合わせたのはドイツ。 ブラジル、オランダと強豪を破って雪辱に燃えるドイツである。 ところが、フタを開ければ一方的な展開。7月の時の強さはどこへやら。 吉原がカーワンをかわして先制すると、その後も中澤がオーバーラップから追加点。 ブラックが1点返したが、後半に牧野、三浦、平塚とヴィッセル神戸トリオが揃い踏みでなんと5−1の圧勝。 マツオカジャパンがインターチャンプカップ優勝を決めた。 大会MVPは主将三浦。それにしても、各国ともに7月の大会の直後と言う事もあり モチベーションも上がらなかった様だ。FIFAももう少し考えた方が良いな。

日本だけは相変わらずのフィーバーぶり。 主将の三浦をはじめ牧野、平塚は今オフにドラマ出演の噂もあるとか無いとか。 シュトルツのオーナーとしては阿部たちにも一時金くらい奮発した方が良いのだろうか、と考えてしまうな。

私は今回の戦績をタテに、協会に一つだけおねだりをして 各国代表を日本に呼んでシュトルツと対戦させてもらう事にした。 無論、形の上ではシュトルツのメンバーを日本代表としてフレンドリーマッチを行おうというのだ。 多くの非難が寄せられたが、これを契機に監督の座を譲ると言い出した途端に次期候補を目論む連中が それとなくとりなしてくれた様だ。

お蔭様で、常松、伊武、山岸といった選手まで各国代表と対戦する貴重な経験を得る事が出来た。 シンゴ、沖田、常松、伊武、山岸、藤田と言った若手は再来年の世界スポーツ大会で日の丸を 背負う事になるかもしれないのだからな。 結果はユーゴスラビア(0−3)、オランダ(1−3)、チェコ(0−4)、スペイン(0−3)、イングランド(0−4)と 散々なもので、各国ともによく事情を話して含み置いた。 言うまでも無く、唯一の得点は大石のゴールだった。

こうして私は代表監督の座を正式に辞し、クラブ運営と言う本業に舞い戻る事にした。 他クラブの選手を率いながらも、やはり世界の頂点に君臨したと言うのは悪い気分ではない。 後は、これをクラブチームとして達成するのみ。 在命中には不可能な夢かもしれないが、品川区民に夢を託す事にしようか。

師走に入ってめっきり寒くなった。 篠原クンも流石に厚着をして神戸ユニバへ向う。 チャンピオンシップ1戦目。アウェーでは守り固めよ、と言うリネッティ監督の指示に従った シュトルツイレブンではあったが、やはり三浦、牧野、平塚を軸に展開される神戸の攻撃サッカーには歯が立たず、 パラグアイ代表チラバートも奮闘するが3失点。ほぼチャンピオンシップの行方を決める点差である。

4日後のシュトルツスタジアムには、それでも多くのサポーターが足を運んで下さり満員となった。 この期待に応え、先制ゴールを挙げたのはシュトルツが誇る代表FW大石。 これには牧野が黙っていなかった。あっさりループシュートで同点。ところがホームスタジアムでは 恥ずかしい試合は出来ない。ピッチには立てなかったが、これまた代表に選出された源が勝ち越しゴール。 しかし流石はヴィッセル神戸。今度は代表に選出されなかった悔しさか。FW城が再び同点弾。

前半終わって2−2と言う点の奪い合いに、スタジアムも大盛況。 神戸の優勝は固いが、シュトルツサポーターからも大きな声援が上がる。 後半開始早々にその声援に応え、3度目の勝ち越しゴール。せめて1勝1敗と誰もが願ったが、 勝負は甘くなかった。三浦がやはり3度目の同点弾を叩き込み3−3で試合終了。 負けはしたものの、サポーターにも満足してもらえたのではなかろうか。 通算勝ち点では5位のシュトルツだが、規定により今シーズンの準優勝として称えられた。

この一戦に全てを注ぎ込んだのか。 それとも、帰国したての青柳、岡本との息が合わなかったのか。 1週間後に行われたニューイヤーカップの1回戦。FC東京とのダービーマッチは 青柳が復帰を祝うゴールで先制したものの、佐東に立て続けにゴールを割られて1−3で 緒戦敗退の憂き目にあった。 大会を制したのは案の定ヴィッセル神戸で、チャンピオンシップとのダブルクラウンである。 惜しくもカップ戦はジュビロ磐田にさらわれ2度目の三冠はならなかった。

この年末も淋しい別れを迎える事になった。 先ずは山形の引退である。 シュトルツの「10」を背負った男も年齢と、試合での貢献がままならない事から現役引退を決意したようだ。 幸い、ユースのコーチ役を買って出てくれると言うので、強化部所属と言う事でこれからは違う貢献を お願いする事にしよう。 15年以上もの長い間、後輩にレギュラーを奪われながらも愚痴一つこぼさなかった山形。 本当にありがとう。そしてお疲れ様。

そして・・・

篠原   「会長ぅ。私決めましたの」
マツオカ 「篠原クンか。何を決めたんだい?レスラーフィギュアなら買わないよ」
篠原   「インドへ参ります」
マツオカ 「??? インド ???」
篠原   「そう。ですから、申し訳ありません。会長。私、辞めさせて頂きたいんです」
マツオカ 「何だって?そりゃぁ、篠原クンが言い出した事なら止めても無駄だろうが」
篠原   「会長。今年は本当に感動しました。会長のお側でお仕事できた7年間は幸せでした」
マツオカ 「こちらこそ。ありがとう。インドで何をするのかは分らないが、体に気をつけてな」
篠原   「この等身大レスラーフィギュアは・・・」
マツオカ 「おお、もちろん持っていってもらって構わないよ」
篠原   「私だと思って、飾っていて下さいね」
マツオカ 「・・・」
篠原クンがいなくなると、オフィスも随分と静かになってしまった。 いつも元気にはしゃいでいた姿をしばらく忘れられそうに無いな。 さて、年末の資料整理だ。 サポーターの減少傾向が止まらない様だから、来年は手を打たなくてはな。 何か施設面での不満があるのか、運営費が足りないのか。戦績は1stステージは悪かったが 2ndステージで取り返したものな。まぁ、話し合えば解決するだろう。 年間収支は不況の折、36億の黒字か。まずまずかな。 品川区も昨年から5万人も増えて116万人にまで人口が増えたか。 スポーツ振興の力の入れ甲斐があると言うものだな。

さぁ、来年はじっくりと腰を据えてチームの育成に力を入れるぞ。


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