英国磁器全般及びマーク辞典
英国磁器全般(General)
Geoffrey A. Godden "British Porcelain An Illustlated Guide" (1974)
"An Illustrated Encyclopedia of British Pottery and Porcelain" (1965)
Goddenは、英国陶磁器全般に関する、現在最高の権威であり、多数の著書がある。両書とも、彼が初期に書いた標準的な解説書である。2冊目が陶器・磁器の双方を扱った基本文献であるが、磁器に限って言えば、1冊目の方がより幅広く、かつ詳細である。2冊目から磁器関連の部分のみを切り出したものではなく、解説文、写真ともに重複は少ない。(同様に陶器のみを扱った著書もあるが、未読。)主要メーカーごとに簡単な歴史と製品の特徴を記述した上で、多数の写真を掲載している。各メーカーのパターン・ナンバーについても、全般的解説書としては詳しく書かれている。18世紀から20世紀までと、扱っている年代も幅広い。
W. B. Honey "Old English Porcelain" (1946 revised)
18世紀の英国磁器に関する、一時代前の標準的な解説書である。窯別の章立てとなっており、まず、その窯の歴史を記した後で、作品の質や特徴的な図柄などについて詳細に論じている。写真は全て白黒かつ小さいものが多く、古さを感じさせる面も多いが、バランスのとれた記述で、現在でも有用な文献である。
George Savage "Eighteenth Century English Porcelain" (1964 revised)
本書も今となっては古くなってしまったが、18世紀の英国磁器の各窯について概説的に触れた代表的著述である。どちらかというと、各窯の歴史や特徴の解説に重点が置かれ、個別作品に関しては、写真(白黒)に添えられる簡単な解説が中心となっている。
Simon Spero "The Price Guide to 18th Century English Porcelain" (1970)
今となっては"Price Guide"としては機能しえないが、18世紀英国各窯を代表する作品400点以上を、写真(白黒)とともに解説している点は、現在でも参考になる。窯別の作品解説の後に、フィギュア(人形)の章とコーヒーカップの章が設けられている。
R. J. Charleston (edited) "English Porcelain 1745-1850" (1965)
今となっては「超」のつく大物研究者たちが、オールスターで分担執筆している総合解説書。チェルシーはJ.V.G Mallet、ボウはHugh Tait、ダービーはA.L. Thorpe、ロントンホールはBernard Watney、ウースターはFranklin A. Barrett等々という具合である。編者のR.J Charleston自身も、総論的序章に加えてニューホール他の章も執筆している。各窯に十数ページずつ割かれている程度なので、それほど詳しい解説がなされているわけではないが、バランスのとれた記述が多く、マークについても詳しい。写真も、ほとんどが白黒ではあるが、豊富である。
Geoffrey Godden "Eighteenth-Century English Porcelain A Selection from the Godden Reference Collection" (1985)
極めて私的な著作である。Goddenが自分の収集作品の中から、個人的思い入れの強い作品を、各窯3作品ずつ選んで解説している。一つの作品の角度を変えた写真をいくつも掲載して、懇切丁寧な解説を加えているので、とても勉強になるが、一方でその作品を購入したときのいきさつなども詳しく紹介されており、エッセイ的要素も備えている。最終章で、同業者(骨董商)であった父親がかつて雑誌に発表した文章をいくつも再録しており、父親への強い愛情を表明している点からも、極めて私的な著作と言える。なお、陶磁器専門書店の"Reference Works"(「参照文献入手のためのヒント」参照。)のサイトにGoddenのページがあり、ここに本書のアップデート版(2003年二訂版)が公表されている。
Bevis Hillier "Early English Porcelain" (1992)
「初期英国磁器」の範囲をどう定めるかについては、色々な考え方があろうが、本書は、1750年以前に設立された磁器窯のみを「初期」と位置付けている(英国最古の磁器窯がどこであるかは明確には分かっていないが、英国磁器の誕生は1740年代中盤である)。したがって、本書で扱われている磁器窯は、チェルシー、ガール・イン・ア・スイング、ボウ、ライムハウス、ポモナ、ダービー、ロントン・ホール、ヴォクソール、ルンズ・ブリストルの9社であり、1751年設立のウースターすら外されている(続編が予定されているとのこと)。この9社のうち3ないし4社は、従来独立した磁器会社とは認識されていなかったものであり、最近の研究によって徐々に実態が明らかになってきたものである。こうした会社については、十分な研究書もなく、この点に光を当てた本書の意義は大きい。また、従来から研究の進んでいた会社についても、定説に対する異論や新たに判明した事実が付け加えられている。
本書は100ページ足らずの小著であり、個々の会社について詳細に論じられているとは言い難い。また、掲載されている写真は全てカラーで非常に美しいが、いかんせん、絶対数が少なすぎる。しかし、そうした点を割り引いても、英国磁器の大家によって最新の研究成果が簡潔にまとめられている本書は、相応の評価を受けるべきである。
Bernard Watney "English Blue & White Porcelain of the 18th Century" (1973 revised)
「ブルー&ホワイト」作品(日本で呼ぶところの「染付け」)は、色絵作品とは異なる魅力をたたえており、個別磁器窯に関する文献でも、独自の章をたてて解説されていることが多いが、本書は、この「ブルー&ホワイト」に関して、窯を横断的に分析した書物の中で筆頭にあげられるものである。個別窯に関する記述も詳細で、ブルー&ホワイト作品に限らず勉強になる。また、写真も多い。(なお、この分野に関しては、長らく本書が他の追随を許さない存在であったが、2004年にGoddenが"Godden's Guide to English Blue and White Porcelain"を発行している(未読)。)
Phillips Catalogues"The Watney Collection of Fine Early English Porcelain, Part I - III " (1999, 2000, 2000)
英国陶磁器研究の権威であったBernard Watneyの死後、彼のコレクションが3回に分けてオークションにかけられた際のカタログである。有名なコレクターたちが財力に物を言わせて収集したコレクションも確かに素晴らしいが、一流の研究者が執念を燃やして集めた「研究材料」がどれだけすごいものか、このカタログを見るとよく分かる。Watneyは、特に、ブルー&ホワイト作品、リバプール、ロントンホール、ダービー、ライムハウス、ヴォクソールなどの窯の作品研究に心血を注いだが、それが彼のコレクションに如実に反映されている。このコレクションは、各窯の代表的作品を集めたものでは決してなく、むしろ、そうした「代表的作品」に慣れた目を驚愕させるものである。3冊合わせて1200強の作品が、全てカラー写真付きで解説(John Sandonが執筆)されている。窯別の作品数は、リバプールが約350、ルンズ・ブリストル/ウースターが約210(ほとんどが1750年代の作品)、ロントンホール/ウエストパンズが約150、ダービーが約130(このうち90近くがダービーでは少ないブルー&ホワイト作品)、ボウが約90、ライムハウスとヴォクソールがともに約60などである。18世紀英国磁器を真摯に勉強しようとするなら、必携のカタログである。
Catherine Beth Lippert "Eighteenth-Century English Porcelain in the Collection of the Indianapolis Museum of Art" (1987)
掲載作品数は70点弱と多くないものの、極めて詳細な解説と豊富な写真とで貴重な文献。チェルシー11点、ボウ8点、ダービー15点、ウースター25点、その他、チェンバレン・ウースター、カーフレイ、ロントンホール、スポード、ヒルディッチなど。徹底した解説内容はとても参考になる。
Peter Bradshaw "18th Century English Porcelain Figures 1745-1795" (1981)
英国の磁器人形に関する最近の研究を代表する文献。中国の陶磁器人形から説き起こし、マイセン、セーヴルからの英国への影響を論じ、個別窯の人形に関しては、チェルシー及びガール・イン・ア・スイング、ボウ、ダービー、ロントンホール、プリマス及びブリストル、その他について豊富な写真とともに解説している。
Victoria & Albert Museum: Department of Ceramics "Catalogue of the Schreiber Collection Vol. I Porcelain" (1928改訂版)
ビクトリア&アルバート美術館収集品の基盤を形成する「シュライバー・コレクション」のカタログである。シュライバー夫妻の収集した膨大な作品群は1884年に同美術館に寄贈された。翌1885年には、早くも本コレクションのカタログが発行されている。本書は新版カタログのさらに改訂版である(それ以降の改定はない)。全3巻のうちの第1巻で、残りの2巻は各々「陶器」と「エナメル、ガラス及び彫刻」を扱っている。全825作品がリストアップされており(個別作品の解説もかなり詳しい。)、そのうちのかなりは写真(全て白黒)も掲載されている。ほとんど全てが18世紀英国磁器作品で、内訳は、ボウ116作品、チェルシー167作品、ダービー144作品、ウースター206作品等々である。最新の研究成果に照らしても、製造窯の判別にほとんど誤りがないとされ、高く評価されているカタログである。
Llewellynn Jewitt "The Ceramic Art of Great Britain" (1878初版。全2巻)
英国磁器に関する古典中の古典。英国における陶磁器の歴史を古代から説き起こしているが、特に、18、19世紀の個別磁器窯に関する記述に力点が置かれている。本書なくして、その後の英国陶磁器研究は成り立たないという、まさに「原典」である。(ただし、18世紀窯の記述に関しては、現在では誤りだと判明している点も少なくない。)主要窯に関する記述は詳細で、また、写真はないものの精密な図版が数多く挿入されていて、視覚的にも優れた文献である。なお、本書は1883年に1巻で完結する形に改訂されているが(未読)、この改訂版では19世紀の磁器窯についての記述範囲は拡張されているものの、18世紀の窯に関しては記述が減らされている。この改訂版は、1970〜80年代にかけて復刻されている。
Geoffrey A. Godden (revised) "Jewitt's Ceramic Art of Great Britain 1800-1900" (1972)上記のL. Jewitt著"The Ceramic Art of Great Britain" を、Goddenが改訂したもの。偉大な原著ではあっても、18世紀に関する記述は誤りが多いとして全て削除し(さらに、1883年改訂版の誤りのリストまで掲載している。)、一方で、19世紀終盤に関する記述を新たに付け加えている。また図版も大幅に入れ替え、多数の写真を挿入している。19世紀に存在した英国陶磁器メーカーの会社録的な性格を前面に押し出した内容となっており、事典的な使用に向く。しかし、もはや「改訂版」の域を超え、実質的には書き換えと呼ぶべきものであり、Jewittの原著とは別物と考えた方がよい。
W. Moore Binns "The First Century of English Porcelain" (1906)
18世紀から19世紀の英国窯について、その歴史と作品の特徴を写真とともに解説した先駆的な出版。主要窯については、当時の著名なコレクションの写真(この時代の出版としては、カラー写真も多い。)を多数紹介しており、その点でも貴重な存在。例えば、Dyson Perrinsのウースター・コレクション、William Bemroseのダービー、ピンクストン、ロントンホールのコレクション、Alfred Trapnellのブリストルとプリマスのコレクション等々である。ピンクのバラが散らされた表紙の装丁も魅力。
George Savage & Harold Newman "An Illustrated Dictionary of Ceramics" (2000)
陶磁器全般に関する用語辞典として定評のあるもの。初版は1974年であるが、2000年にはペーパーバック版の第2刷が発行されている。素材、図柄、形状等に関する3000以上の用語がアルファベット順に並べられている。それぞれの用語解説はどちらかというと簡潔にまとめられているが、豊富な写真とあいまって分かりやすく、有用な書物である。
David Harris Cohen & Catherine Hess "Looking at European Ceramics A Guide to Technical Terms" (1993)
特に陶磁器の技術用語に力点を置いて解説している用語辞典。90ページほどしかない小さな本ではあるが、採録されている用語に関しては詳しく解説してあり、貴重な資料である。写真もカラーを中心に比較的豊富である。
Simon Spero "Simon Spero Exhibition 1992" (1992)
英国磁器に関する権威の一人である著者が、何らかの観点で稀少であると考える作品を40〜50点集めて、年一回カタログを作成している。1992年版は「English and French Porcelain 1735-1775」と題されているが、実際にはほとんどが英国の作品で、ウースター、ヴォクソール、リバプール各社などの作品が多い。個々の作品についての簡潔な説明とは別に、どのような観点で、それらの作品が「稀少」であると判断されたのかについても解説されている。(他の年のカタログは未読。)
Exhibition Catalogue "18th Century English Porcelain A Loan Exhibition from Private Collections" (1996)
オークション・ハウスのカタログ
マーク辞典(Mark Books)
Geoffrey A. Godden "Encyclopaedia of British Pottery and Porcelain Marks" (1964)
英国陶磁器マーク辞典の金字塔。メーカー別にマークが並べられており、年代も詳しく書かれていて、とても分かりやすい。英国磁器を本気で勉強するのであれば、必携の書の一つである。なお、1991年に改訂版が発行されている(未読)。
William Chaffers "Marks and Monograms on European and Oriental Pottery and Porcelain 14th Revised Edition" (1946)驚くべき書物である。洋の東西を問わず、古今の陶磁器及びそのマークについて詳しく解説されている。本欄で紹介している本は、基本的に全て大著なのだが、本書はその中でも飛び抜けて分厚い。全部で1100ページ近くあり、そのうち330ページほどが英国(ウェールズ及びスコットランドを含む。)に充てられている。一応マーク辞典ではあるのだが、各メーカーに関する解説も、そこだけ取り出して第一級の専門書にできるくらい詳しい。(ただし、図版は少ない。)マークに関しては、メーカーの網羅性という観点からは、上記のGoddenの本の方が上であるが、主要メーカーの、特にレア・マークについては、本書は他の追随を許さない。どこの博物館にある作品(あるいは、どこのコレクターが所有している作品)には、こんな希少なマークが記されている、という具合である。著者のChaffersはもとより、度重なる改訂を行ってきたF. Litchfieldすら、とうにこの世になく、実は、1965年には「第15版(2分冊)」が出版されている(英国部分はGoddenが執筆担当)のだが、いまだにこの「第14版」は人気があるようで、1991年に再版された。
Ralph & Terry Kovel "Kovels' Dictionary of Marks Pottery and Porcelain 1650 to 1850" (1995 revised)
"Kovels' New Dictionary of Marks Pottery and Porcelain 1850 to the Present" (1986)
西洋陶磁器のコレクターやディーラーの間で最もよく使われている、言わばマーク辞典のベストセラーである。メーカー毎ではなく、マークの形状(アルファベット順、動物、丸や四角等々)によってマークを分類している。あるメーカーのマークを調べたいというときには、巻末索引から引いてページをあちこち開かなければならないので、あまり役に立たないが、あるマークがどのメーカーのものなのかを調べたいときには威力を発揮する。1冊目と2冊目は、扱っている年代で分けただけであり、同じ本が2分冊になっていると考えてよい。
Ludwig Danckert "Directory of European Porcelain" (1981 4th ed.)