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カップ&ソーサーに関する専門書


 ★:どれか一冊という人向け
 ◎:さらにもう少し勉強したい人向け


◎ Michael Berthoud "A Compendium of British Cups" (1990)
              "An Anthology of British Cups" (1982)
 Berthoudは、現物を並べて写真で示すという形式で本を書く人である。体系立ってはいないかもしれないが、分かりやすいことこの上ない(ただし、写真は大半が白黒)。上記2冊とも磁器カップを形状ごとに分類したもので、タイトルは違うが、内容的には重複も多く、1冊目("Compendium")が事実上、2冊目("Anthology")の改訂版である。英国製カップの判別に際しては、一種のバイブルとなっている。
 改訂版の特徴としては、メーカーの特定が進んだこと、量的に(特に19世紀以降の作品に関して)充実したこと、評判の悪い写真の質についても(全体としては変わりばえしないものの)部分的にカラー図版を挿入しており見やすさが若干改善されたこと等があげられる。また、冒頭に置かれているいくつかの解説文、例えば、金の点が打たれている取っ手について、ハーキュラネウムの取っ手について、カップ形状の名称について、等々も重要な情報を含んでいる。ただし、18世紀の作品に関しては、改訂版になって落とされた作品がいくつかあり(逆に改訂版で追加された作品はほとんどない。)むしろ"Anthology"の方が役に立つこともある。
Michael Berthoud & Richard Maskell "Cups in Colour" (2003)
 近年のBerthoudの活動の広がりには目を見張るものがある。本書は、上記のカップに関する著作の補充及び改訂として出版されたものである。冊子形式の出版であり、ボリューム的には大きな補充とはいえないが、写真は全てカラーとなり(それでもピンボケの作品が若干目につくが)見やすさは大きく改善した。また、上記"Compendium of Cups"及び下記"Cabinet of Creamers"で、窯不明とされていた作品のうち新たに窯の判明したもの及び誤りの判明したもののリストが巻末に付されている。
Philip Miller & Michael Berthoud "An Anthology of British Teapots" (1985)
 こちらは、まだ「白黒期」に発行されたもの。とにかく、おびただしい量(2200作品以上)のティーポットが掲載されている。カップの本とあわせて、図柄や形状の研究をするのに極めて有用である。(ただし、目当ての作品を探し出すのは容易ではない。)
Michael Berthoud "A Cabinet of British Creamers" (1999)
 こちらは、完全カラー化されている。形状ごとの分類も分かりやすく、「比較論」的アプローチを得意とするBerthoudの面目躍如といったところである。上記カップ及びポットの本とあわせて、ティー・ウェアについて調べる強力な参考文献となる。(次は砂糖入れか?)


Jim & Susan Harran "Collectible Cups & Saucers Identification & Values" (1997)
              "Collectible Cups & Saucers Identification & Values Book II" (2000)
              "Collectible Cups & Saucers Identification & Values Book III" (2003)
 Harran夫妻は、良くも悪しくも、Berhoudの後継者的存在であるが、その著作は、より大衆的、より非専門的である。カラー写真に簡潔な解説及び価格(1冊目については、価格が2001年に更新されている。)が付記されている。"Book II"、"Book III"と続編が出ているが、量的な追加分をまとめたもので、1冊目との重複はない。3冊合わせると、量的にはかなりのものだが、現代のものも含めて西洋陶磁器カップ全般を扱っており、英国初期のカップということになると、残念ながら量はとても少ない。


John Twitchett "Derby Porcelain 1748-1848 An Illustrated Guide" (2002)
 ダービーの大家による最新の全般的解説書であるが、巻末付録にカップの章があり、ダービーのカップが200個、写真つきで解説されている(この付録はBernard and Nancy Wilsonが担当)。年代別及び形状別にカップが並べられており、個々のカップに関する解説も、形状、図柄、マーク、サイズ、年代など簡潔ではあるが十分なものである。ただし、写真は白黒で上記Berthoudの本と同程度の水準。ダービーのカップをこれだけ集めて解説した書物は他に見当たらず、カップ・コレクターにとっては、この付録だけでも十分な価値があろう。もちろん付録以外に、本体にもたくさんのカップが掲載・解説されている。(ダービーの参照文献のページを参照。)


★ 和田泰志 「ヨーロッパ アンティーク・カップ銘鑑」 (1996)
 日本語によるきちんとした専門書(あるいは本欄に掲載している優れた書物の和訳)がないことが、日本における西洋アンティーク陶磁器普及の大きな障害となっていることは間違いない。本書は、カップに特化した、しかもボリューム的にも限られた書物ではあるが、日本語で書かれたものの中で、読んで勉強になるという点で、ほとんど唯一の文献である。欧州磁器を広く対象にしているが、英国磁器にもかなりのスペースを割いている。写真も全てカラーで非常に美しい。


和田泰志 「アンティーク・カップ&ソウサー 色彩と形が織りなす世界」 (2006)
 日本における西洋カップ研究の第一人者による新著。前著(上記「ヨーロッパ アンティークカップ銘鑑」)より大版化し、大きく鮮明な写真による解説が効果的。掲載作品数は前著より少ないものの、重複はない。欧州大陸と英国という二分類を軸としており、構成面でもすっきりした感がある。解説文もより詳しくなっており、英国についても多くの窯に言及している。全体として、歓迎すべき一冊と言えよう。
 一方、残念な点としては、18世紀の英国作品については、解説文は詳しいものの掲載作品の数が(ウースターを除いて)少ないこと(例えば、チェルシーとダービーは各1点のみ、ボウはなし。)、重要な窯でありながら全く触れられていないものがあること(ロントンホール他)、読者向けの参考文献の紹介がないこと、などがあげられる。


Steven Goss "British Tea and Coffee Cups 1745-1940" (2000)
 40ページしかない小冊子であるが、英国磁器カップの歴史と特徴について真摯に解説した良書である。写真もカラーを中心に、それなりの量が掲載されている。価格も安い。英国初期の磁器カップ全般について一通りの知識を得ることが目的であれば、本書と上記和田の著書(「銘鑑」)の2冊を丹念に読み込めば十分である。


Ulla Stafford "Custard Cups. Pots a Jus" (2001)
 欧州の18世紀から19世紀にかけての陶磁器カップの中でも、特にカスタード・カップに焦点を当てている。用途は様々とのことだが、蓋のある取っ手付きカップというのが、共通点である。国別・窯別の歴史と作品の特徴を全般的に解説し、作品をカラー写真で紹介している。フランスをはじめとする大陸作品が多いが、英国では、チェルシー・ダービー、ウースター、スポード、ウェッジウッド、カーフレイ、コールポートなどが扱われている。ちなみに、表題にある”Pots a Jus”とは、この形状のカップを指すフランス語(18世紀にセーブルで用いられた用語)であり、熱い肉汁を飲むために用いられたことに因むそうである。


関岡滋 「美しいアンティーク・カップ入門」 (1997)
 西洋磁器カップをめぐるエッセイ、あるいは経験談的な読み物である。写真が大きく、図柄の細かいところまで見ることができる点がありがたい。全体の半分くらいのページが英国作品に充てられている。特に、ドクター・ウォール期ウースターと19世紀初めのスポードやコールポートの作品が多く紹介されている。



「クイズ:デミタス・カップ 〜私は誰?〜」の答え
1.コープランド(19世紀後期) 2.ロイヤル・ドルトン(20世紀中期以降) 3.ロイヤル・クラウン・ダービー(19世紀後期) 4.コープランド(19世紀後期) 5.ミントン(20世紀前半) 6.ロイヤル・ドルトン(20世紀初期) 7.コウルドン(20世紀初期)