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ダービー及びチェルシー・ダービー


 ★:どれか一冊という人向け
 ◎:さらにもう少し勉強したい人向け


◎ John Twitchett "Derby Porcelain" (1980)
 Twitchettは、ダービー磁器に関する大御所(ロイヤル・クラウン・ダービー社が誇るダービー美術館の館長を長く務めていたが、現在は引退)である。本書は、発行以来、ダービーの代表的文献としての座を占めてきた。下記続編(改訂版?)が発行されて、一部の記述は古くなったが、同社の歴史や作品の特徴に関して総合的に著した文献としては、いまだ筆頭に挙げられるべきものである。本書の最大の功績は、ダービーの図柄について、パターン・ナンバーを網羅したリストを掲載したことであろう(リスト自体はTwitchettではなく、Betty Clarkにより作成された。ただし、このリストも新著で更新された)。これは、18世紀終盤の作品を調べる際の大きな手助けとなる。なお、Twitchettは、キング・ストリート工場及びロイヤル・クラウン・ダービー社についても代表的な解説書を書いている(ともに未読)。


★ John Twitchett "Derby Porcelain 1748-1848 An Illustrated Guide" (2002)
 同じ著者によるダービー全般に関する解説書の続編。絵付師・金彩師の解説、パターン・ナンバーのリスト、マークの解説などの面では、上記著作の改訂版と呼べないこともないが、編年的なダービー窯に関する解説は前著に譲る形で最小限の記述にとどめ、テーマごとの用語についてアルファベット順に辞典的解説を試みるなど、構成面でも変化を加えている。また、掲載写真(カラー写真が増え美しい)の重複も非常に少ない。
 重点が置かれているのは、やはり前著発刊以降の研究成果の取入れである。特に、彼自身が議長を務めていた「ダービー磁器国際学会」における成果を多く紹介している。なお、巻末にカップのみを集めた付録が掲載されている。(カップの参考文献を参照。)


Franklin A. Barrett & Arthur L. Thorpe "Derby Porcelain 1750-1848" (1971)
 少し古くなったが、非常によくまとまった、ダービーの総合的解説書である。プランシェ期、デュズベリー(I世)期、チェルシー・ダービー期、それ以降の時期についてバランスの取れた解説がなされている。特に、チェルシー・ダービー期に関しては、3つの章が立てられており、他の文献より力を入れた解説がなされている。マークに関する説明が細かいのも特筆すべき点である。写真は、大半が白黒ではあるが、各時期を代表する作品を集めている。


F. Brayshaw Gilhespy"Derby Porcelain" (1961)
 窯の歴史などは軽い解説で済ませているが、作品の特徴については詳しく解説している。セーブルからの影響について一章を割いている他、図柄番号についても当時としてはかなり詳しく記載している。職人たちに関する情報や、DuesburyとJoseph Lygo(ロンドンでの販売エージェント)との手紙などについても詳しいが、他の文献との重複も少なくない。写真は大半が白黒であるが、18世紀の作品、それも特に1750年代の作品を多く掲載しており、この点に関しては、いまだにかけがえのない文献である。


F. Brayshaw Gilhespy "Crown Derby Porcelain" (1951)
 同じ著者による10年前の出版である(限定600部の発行で、その全てに著者の署名が入っている)。Crown Derbyという名称は、現在のRoyal Crown Derbyの社名と混同されがちであり、さらに、本書の表紙に同社のマークが大きく描かれていることもあり、同社作品の解説書とみなされがちであるが、実際にはダービー窯草創期からの分析がなされている(Royal Crown Derbyについての記述はない)。写真についても、各時期の作品をバランスよく配置しており、上記"Derby Porcelain"との重複も少ない。また、19世紀に開催された、ダービー作品のオークションや展覧会のカタログ(一部写真つき)を採録してあるのも興味深い。


Frank Hurlbutt "Old Derby Porcelain and Its Artist-Workmen" (1925)
 本書は、造型師や絵付け師などの個別の職人に関する解説を通して、ダービー作品の特徴を論じるのを主眼としている。写真には、細部の拡大もあり、個別絵付け師の特徴を見比べられるように工夫してある。ただし、より新しい文献で(アップデートされた上で)カバーされている内容も多い。


John Haslem "The Old Derby China Factory: The Workmen and Their Productions" (1876)
 全てのダービー磁器研究の出発点となる著書。Haslemは、彼自身がブルア期ダービーの絵付師であり(Twitchettの本に彼の作品がカラーで掲載されている。)、今はなき偉大なダービーの歴史、製品、技術者たちを詳細に記録した。同時代に生きた人だけが知りうる貴重な記述が満載されている。上記の各文献の全てが、本書の記述に多くを依存している。また、ダービーの図柄の幾つかが、カラー図版とともに解説されている。(ダービー「D3-3」参照。)


Dennis G. Rice "Derby Porcelain The Golden Years 1750-1770" (1983)
 デュズベリー期として一括して語られることの多い18世紀ダービーを、1770年を境にその前後に分け、ダービー最初期について詳しく解説している。1770年というのは、デュズべリーがチェルシーの経営権を入手し、ビジネスでの成功だけでなく、伝統と名声をも得た年である。さらに、ダービーの独自窯印の導入(ある種のステイタスを得たことの証であるとも考えられる)が1770年代前半であることも合わせ、まさに栄光に向かって上昇期を突き進んだのがこの時期であったと言えるであろう。
 18世紀ダービーの作品は、この最初期のものに限らず、市場での流通量があまり多くないが、特に、本書で扱われている1770年以前の作品は希少である。本書は、この時期の作品や絵付師等について詳細に論じており、他の文献では得られない貴重な情報も多い。


Winifred Williams "Exhibition of Early Derby Porcelain 1750-1770" (1973)
 アンティーク・ディーラーによるセール・カタログであるが、内容は超一流である。1770年以前のダービー作品が80点、年代順に掲載されているが、最初期のプランシェ期の作品が15点、デュズベリー期のうち1750年代の作品が約30点、そして1760年代の作品が約35点である。大御所Bernard Watneyが序文を寄せていることからも、水準の高さが察せられる。各作品の解説は簡潔ながらも要点を押さえたものであり、また、ほとんどの作品に写真が付けられている(多くは白黒であるが、写りは鮮明である)。上記Riceの著作とともにダービー初期作品の貴重な資料である。


Stephen Mitchell "The Marks on Chelsea-Derby and Early Crossed-Batons Useful Wares 1770-c.1790" (2007)
 書名にあるとおり、いわゆる「チェルシー・ダービー期(1770〜84年)」と「初期の暗褐色(puce)マーク期(1784〜90年)」の皿やカップなど実用品に付けられたマークを詳細に論じた研究書である(決して単なる「マーク辞典」ではない)。特定窯のしかも20年間という短期間のマークを扱っているだけ(さらに言うと、フィギュアや壷などの装飾品に付けられたマークは、基本的に分析の対象外)なのに、本文約200ページ+解説付きの図版約120枚(図版1枚に平均数枚の写真)という大著となっている。著者は、美術館収蔵品から個人所蔵品まで数百点に及ぶ作品を実際に分析するとともに、18世紀当時の一次資料から最新の論文までを網羅的に検証した上で、緻密かつ大胆な結論を導き出している。おそらく、数多いダービーの専門書の中でも一時代を画する、まさにエポック・メイキングな著作になると思われる。
 本書の研究成果は広範であり、とてもここで紹介しきれるようなものではないが、特に、@チェルシー・ダービーを代表する「金色の錨とDが組み合わさったマーク」はチェルシーでではなくダービーで用いられたマークであり、使用された年代も1772〜77年頃に限定されること、また「青色の王冠の下にDのマーク」はそれに引き続いて1777年頃に導入されたこと、A金彩師番号で「空席」となっていた6番の主はEdward Withersであり、彼の最初のダービー滞在期間は1779/80〜84年であること、といった点は従来の定説をも覆す重大なものである。他にも、B「交差バトン・マーク」が導入されたのは1782年ではなく1784年だと明確に論証したこと、C各金彩師のマークを経年分析したこと等々きりが無いが、とにかく興味深い諸論点で胸のすくような論証がなされている。
 本書は、写真(作品全体及びマーク。全てカラー)も多く、視覚的にも優れた文献ではある。ただ、本文と突き合わせながらマークを確認する形になっており、その本文が専門家向けの書きぶり(連綿とした論文形式)で、一般的な読者を対象としたものとはとても言えない。価格(90ポンド)も高い。そうした事情を反映して発行部数も少なかったのであろう、発行直後から入手困難な状況になっている。したがって、残念ながら広くお勧めするわけにはいかないのだが、今後のダービー研究の基盤となる書であることだけは確かである。


Elizabeth Adams "Chelsea Porcelain" (1987)
 チェルシーに関する近刊の優れた専門書であり、チェルシー・ダービーについても一章を割いている(十分な記述とまではいかないが)。なお、本書は2001年に改訂版が出版されている(未読)。


◎ Gilbert Bradley "Derby Porcelain 1750-1798" (1990)
 Bradleyは、長らくダービー磁器国際学会の会長を務めるなど、ダービー研究の重鎮として知られる。本書は冒頭で、18世紀のダービー窯に関する資料(ダービー本社とロンドンのエージェントとの間の手紙のやりとりなど)や窯の生い立ちについて紹介し、続いて、時代別・作品のカテゴリー別の章立てとなっている。各章では、冒頭にかなり詳細な解説が置かれた後に、個別作品が紹介されている。掲載作品は、ダービー美術館所蔵の18世紀の優れた作品を中心としており、120余りの作品が全てカラー写真付きで掲載・解説されている。ダービー作品に関しては、コレクションを紹介する形の出版物が比較的少なく、本書は、数少ない作品に即した解説集としても貴重である。


H.G. Bradley (edited) "Ceramics of Derbyshire 1750-1975" (1978)
 ダービー窯だけでなく、ピンクストンやワークスワースなどダービーシャー州の磁器窯の作品を集めた写真解説集である。全470作品のうち、ダービー作品が300弱、キング・ストリート工場とロイヤル・クラウン・ダービーの作品が40弱ある。ダービーの作品集としては最も掲載作品の多いものであろう。全てではないが、大多数の作品に写真がついている。(ただし、基本的に全て白黒。カラーは15点ほど。)各窯の歴史などについても、ひととおりは触れてあり、個々の作品の解説も丁寧である。


Anthony Hoyte (catalogued) "The Charles Norman Collection of 18th Century Derby Porcelain" (1996)
 個人名の冠されたコレクションではあるが、これは一収集家が集めたものではなく、基金をもとに研究のために専門家集団が集めたものである。Charles Normanはその基金設立者である。作品数は50点強と多くはないが、全ての作品が詳細に分析され論じられている。また、何代かに遡って過去の所有者が記載されている作品も多く、まさに一流の作品群と言える。
 1780年代及び90年代を中心に活躍したダービーのスター絵付師たちの作品は、収集家が競って追い求めているが、判別はなかなか難しいのが実態である。本コレクションは、研究者たちによって間違いなくその絵付師の作品であると位置づけられた作品ばかりであり、個々の絵付師の特徴を、写真(全てカラーで鮮明かつ詳細)と解説によって、できるだけ詳しく説明することを主眼としている。読者にとっては、個別作品の判別に際しての信頼できる基準となるべきものである。
 なお、本書に登場する絵付師たちは以下のとおりである。
Richard Askew, James Banford, William Billingsley, Zachariah Boreman, John Brewer, George Complin, William Cotton, Fidelle Duvivier, Thomas 'Jockey' Hill, William 'Quaker' Pegg, George Robertson, Edward Withers


Neales "The Anthony Hoyte Collection of Derby Porcelain" (2003)
 大手オークション・ハウスによる、ダービー研究者Anthony Hoyteのコレクションのセール・カタログである。約160点のダービー作品が、全て美しいカラー写真付きで掲載されている。本コレクションは、19世紀初期の優れた作品を多く含んでいる点が大きな特徴である。


John Twitchett and Henry Sandon "Landscapes on Derby and Worcester Porcelain" (1984)
 風景画絵付けに焦点を絞った文献である。前半がTwitchettによるダービーの風景画、後半がSandonによるウースターの風景画の解説となっている。ともに、18世紀から20世紀に渡る風景画の代表的絵付け師とその作品を多くの写真(大半は白黒)を交えて解説している。
 ダービーでは、風景画作品は、Zachariah Boreman以降の伝統があり、多くの優れた作品が残されている。一般的なダービーの解説書でも、かなり論じられているが、風景画に特化して詳しく解説した文献は他に見当たらず、貴重な資料である。(ただし、せっかくの好企画にも関わらず、ダービーとウースターの風景画が個別に論じられているだけで、両者の比較論がなされていないのは残念。)


◎ Peter Bradshaw "Derby Porcelain Figures 1750-1848" (1990)
 18世紀英国の磁器人形について精力的な研究を進めている著者による、ダービーの人形に関する決定版と呼ぶべき著作。プランシェ期のいわゆるドライ・エッジ作品、デュズベリー期への移行期作品、1750年代、1760年代など、細かく時代を切って、それぞれの時期の特徴を解説するとともに、個別作品を多くの写真を添えてリスト化している。
 しかし本書の中心となるのは、何と言っても、1770年代から18世紀終盤に至る、作品番号のついた人形のリストの再構築であろう。従来のHaslem及びBemroseによるリスト(約400作品)を詳細に検証し、できる限り現物の写真を添えて、これ以上は望めないというほど徹底したリストを作り上げている。ダービーの磁器人形を体系立てて勉強するのであれば、まさに必携の書である。


Frank Stoner "Chelsea Bow and Derby Porcelain Figures Their Distinguishing Characteristics" (1955)
 タイトルからも分かる通り、磁器人形で英国を代表する三つの窯の作品の特徴を比較することに力点を置いた本である。土台、造型、色、マークなどについて三つの窯の特徴を比較した上で、各窯の個別作品をカタログ的に整理している。作品数で見ると、チェルシーが約40点、ボウが約50点、ダービーが約20点掲載されている。古い本ではあるが、英国磁器人形に関しては、今でも主要文献の一つである。


Robin Blackwood & Cherryl Head "Old Crown Derby China Works The King Street Factory 1849-1935" (2003)


"The Derby Porcelain Pattern Books"(仮題)
 図柄番号を添えた図柄集(パターン・ブック)は製造及び在庫管理に不可欠であったにとどまらず、顧客に品揃えを説明する観点からも有用であった。そして現在では、研究者やコレクターにとってかけがえのない情報を提供してくれる一次資料となっている。
 ダービーは、英国で最初に図柄番号の制度を導入した磁器窯と言われている。しかし、その図柄集はダービー閉窯後売却され、何と長らくロイヤル・ウースター社が保有していた。この図柄集は、1970年にJohn Twitchettが私家出版で発行しているが(未読)、発行部数が200部程度と極めて少なく、現在では入手は困難である。
 今回、ダービー美術館がこの図柄集をロイヤル・ウースター社から買い取り、再出版(ただしCD-Rom版のみ)の運びとなった。ただし、今回も、事前予約があった部数のみの限定出版となる予定である。(当初2001年春に出版予定であったが、大幅に延期されている。)


Derby Porcelain International Society の出版物
 英国のいくつかの磁器窯に関しては、かなり専門的な学会が個別に組織されているが、「ダービー磁器国際学会」は、そうした中でも1、2を争う活発な活動を行なっている学会であろう。講演活動、論文集・資料集などの文献出版が基本的な事業である。
 "News Letter"は、年に2〜3回発行される会員誌で、これまで60回ほど発行されている。内容は、短い論文が何篇かと、学会の活動報告、各種情報などである。会員にはダービーの著名な研究者が多く、この会員誌を読むだけでも、最先端の研究の雰囲気を知ることができる。
 より本格的な論文集としては、"Journal"が第5巻まで発行されており、全般的な専門書ではあまり触れられない論点について深く掘り下げた、興味深い論文が多く掲載されている。
 また、この他にも、18世紀のオリジナル文献の出版やダービー磁器に関する網羅的な文献リストなど、各種の刊行物がある。
 なお、個人コレクションの紹介コーナーなどもあった同学会のホームページは、現在は更新作業のため閉鎖中のようである。


The Pinxton Society "Billingsley Mansfield" (1999)
 不世出の絵付師・磁器製造者であるWilliam Billingsleyは、ピンクストン窯の挫折の後、1799年に、マンスフィールドの町に自らの絵付工房を開設した。本書は、その開設200年を記念して開催された展覧会のカタログである。タイトルからはマンスフィールド時代の作品を集めた展覧会かのように読めるが、実際は、ダービーに始まり、最後はコールポートに至る、Billingsleyの長い遍歴の各時期を時系列にしたがって全て追った作品集となっており、非常に貴重な文献である。全178作品のうち、ダービー作品は21点である。Billingsleyの生涯に関しても、かなり詳細に記述されている。ただし(展覧会カタログという性格上仕方のない点もあるが)全ての作品に写真が付いているわけではなく、別の文献で確認できるものは、そちら(例えば、Billingsleyに関する代表的文献であるJohn W.D.著 "William Billingsley 1758-1828" (1968 未読))に譲っている。


Usher Gallery "Not Just a Bed of Roses William Billingsley (1758-1828)" (1996)
 ピンクストン窯の設立200年を記念して開催されたBillingsley作品に関する展覧会カタログである。w(***)マーク、ナントガルー及びスウォンジー作品、ブランプトン工場跡の発掘などに関する若干の解説に続いて、ダービーに始まりコールポートに至る各時期の作品がカタログ化されている。ただ残念なことに、約140の作品のうち、写真が掲載されているのは40点程のみと少なく、視覚的資料としては物足りなさが残る。