ウースターの参照文献
★:どれか一冊という人向け
◎:さらにもう少し勉強したい人向け
◎ Henry Sandon "The Illustrated Guide to Worcester Porcelain 1751-1793" (1980 3rd.ed)初期英国磁器窯のうち、最も多くの専門書が書かれているのは、おそらくウースターである。全般的な解説書から、特定の切り口での分析、有名なコレクションの紹介まで、数え切れないほどの文献がある。本書は、全般的な解説書として標準的なものである。 Henry Sandonは、現役のウースター研究の第一人者で、彼が指揮を執った同社窯跡の発掘の成果をまとめたのが本書である。なお、彼は、息子のJohn Sandonとともに、英国BBCの名物番組「アンティーク・ロードショウ」(日本ではNHK・BS放送で放映)の陶磁器部門の鑑定家としても著名である。
Henry Sandon "Flight and Barr Worcester Porcelain 1783-1840" (1978)同じ著者による上記著書の続編。フライト社(「フライト」、「バー&フライト」、「バー、フライト&バー」及び「フライト、バー&バー」)に関する解説書である。フライト社に焦点を当てた専門書は、本書しかないと思われる。ウースターの後半の歴史とともに、洗練された作品の数々が紹介されている。なお、この著者は、グレンジャー・ウースター社及びロイヤル・ウースター社についても、標準となる解説書を書いている(ともに未読)。
H. Rissiki Marshall "Coloured Worcester Porcelain of the First Period" (1954)ウースター創立200年記念の大展示会が1951年に開催された。その展示作品を核にして、合計1100作品以上という膨大な数の色絵ウースター磁器(ドクター・ウォール期)を全て写真に収めた究極のカタログ。第一部と第二部とに分かれ、第一部では作品を性格によって分類して総括的な解説を展開している(珍しい作品のカラー図版もいくつかある)。そして第二部が本書の白眉であるカタログ編であり、写真(ただし、全て白黒)の洪水である。個々の作品の解説は最小限のものであるが、とにかく、ウースターが製造したありとあらゆる色絵作品が掲載されており、極めて貴重である。ウースター研究における基礎文献としての地位を確立しており、他の専門書で引用されることも多い。
R. L. Hobson "Catalogue of the Frank Lloyd Collection of Worcester Porcelain of the Wall Period" (1923)
20世紀初期における、おそらく最良のウースター・コレクション(ドクター・ウォール期)であるFrank Lloydコレクションが大英博物館(British Museum)に寄贈されたのを記念して発行されたカタログ。当時のウースター研究の大家であり、同博物館の陶磁器部門の責任者でもあったR. L. Hobsonが執筆している。(彼は、今でもウースターの主要解説書の一つである"Worcester Porcdelain" (1910 未読)の著者でもある。)本書は、上記Marshallの著書とともにウースター作品カタログの双璧を成しており、基礎資料として欠かすことのできないものである。
★ Simon Spero & John Sandon "Worcester Porcelain 1751-90 The Zorensky Collection" (1997)
現時点において、ウースター作品に関して、ディーラーやコレクターの間で最も広範に参照されているカタログ文献かもしれない。個人が収集した作品群の写真解説書であるが、掲載作品数が約800と多く(それも、掲載されているのは収集作品の半分程度だという。)あらゆる系統の作品を含んでおり、しかも個々の作品解説も詳細で、写真も全てカラーで美しいとあっては、難点を見つけるのが難しいほど見事な文献である。
Simon Spero "Worcester Porcelain: The Klepser Collection" (1984)
個人収集家によるウースター・コレクション(ドクター・ウォール期作品)のうち最良のものの一つであるKlepserコレクションの詳細な解説書である。博物館のコレクションと比べれば数は多くないが、超一級の作品が一つ一つ写真(カラーも多い)付きで解説されており、非常に興味深い。製造年代をかなり細かく付けているのも特徴の一つである。また、Klepserが終生に渡って作品を購入しつづけたディーラーからの一連の手紙が巻末に掲載されており、コレクターとディーラーとの関係をうかがい知る良い資料となっている。
Samuel M. Clarke "Worcester Porcelain in the Colonial Williamsburg Collection" (1987)
米国ヴァージニア州の古都・ウィリアムズバーグにあるDeWitt Wallace装飾美術館収蔵の英国磁器のうち、ウースター作品のみをカタログ化したもの。同じくチェルシー作品をカタログ化したJohn C. Austin著"Chelsea Porcelain at Williamsburg"(チェルシーの参照文献のページを参照。)と比べると、かなり小型化されたカタログであるが、カラー写真を中心に、18世紀のウースター作品が簡潔にまとめられている。
Geoffrey A. Godden "Chamberlain-Worcester Porcelain 1788-1852" (1982)チェンバレン・ウースターだけを専門に取り上げた文献は、本書一冊しかないと思われる。しかし、本書があれば、ほとんど十分と思われるほど内容は充実している。時代ごとに作品の特徴を詳細に追い、多数の写真とともに解説している。図柄番号の全リストを掲載しており、判断に迷うことの多い同社製品の判別にも極めて有用である。
R. W. Binns "A Century of Potting in the City of Worcester" (1877 2nd.ed)著者のBinnsは、チェンバレン社を引き継いだカー&ビンス社の経営者の一人であり、ロイヤル・ウースター社の創立メンバーの一人でもある。いわば「ウースター新興の祖」とでも呼ぶべき人物であるが、その彼が、ドクター・ウォール期以来の磁都ウースターについて体系的にまとめたのが本書であり、全てのウースター研究の出発点となっている。最近の著作で引用されている内容も多く、図版も少ないことから、本書を読まないと得られない内容は多くないが、研究に際して原典に当たることが必要と考えるならば、不可欠の書物である。
◎ John Sandon "The Dictionary of Worcester Porcelain Volume I 1751-1851" (1993)John Sandonは、上述したHenry Sandonの息子であり、父子ともにウースター研究の第一人者である。本書は、ウースター磁器に関するあらゆるキーワードをアルファベット順に並べて解説した辞典である。解説の対象は、本家ウースター(ドクター・ウォール、フライト)だけでなく、チェンバレン社及びグレンジャー社も扱っている。写真も多い。全般的な解説書ではあいまいな説明しかされていない用語についても、本書では詳解されていることが多く、キーワードを知らない初心者にはとっつきにくい内容かもしれないが、ある程度の知識を持った読者が勉強するには必携の書物である。なお「Volume II」は、1852年以降、すなわち、カー&ビンス社及びロイヤル・ウースター社の時代を扱うことになっているが、出版が大幅に遅延している。
Gerald Coke "In Search of James Giles" (1983)
ロンドンで独立した絵付工房を経営していたジェイムズ・ジャイルズに関する研究書。ジャイルズは、当時の磁器メーカー各社、特にドクター・ウォール期ウースターから絵付けの依頼を多数受けていた。ウースター研究に際しては、ジャイルズ作品を避けて通ることはできない。上記の各書物でも必ずジャイルズ工房については触れられている(特に、J. Sandonの"Dictionary of Worcester Porcelain"は、かなり詳しい。)が、ジャイルズ工房に焦点を当てた専門書は少なく、本書は極めて貴重である。絵付けの特徴や図柄により作品が系統立てて分類されており、写真も多い。
Stephen Hanscombe "James Giles China and Glass Painter (1718-80)" (2005)
2005年に開催されたジャイルズ作品の展示会のカタログであるが、ジャイルズ工房とその作品の特徴についての、最新の研究成果を集大成した内容となっており、単なるカタログを大きく超えた、研究書としての性格を強く持った文献である。カタログ化されているのは約130作品で、その全てに美しいカラー写真が付けられている。個々の作品にジャイルズ作品としての特徴が必ず記されているのも、本書のポイントの一つである。