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チェルシー サターンと息子の像(1755年頃)
A Chelsea Group of Saturn and His Son Ca.1755



 

 チェルシーのレッド・アンカー期のフィギュアである。本作品は、英国の個人コレクターが長く所有していたものを買い取ったのだが、その際、かつてそのコレクターが本作品を購入した際にディーラーが書き送った「評価書」も併せて入手した。そのディーラーは、英国デヴォン州のB. & T. Thorn & Sonであり、評価書の日付けは1983年6月28日である。興味深い内容なので、その全文を以下に記載する。(ちなみに、本品裏面にはこのディーラーのスティッカーが貼られている。撮影の際には剥がしたため上の写真には写っていない。)

−Letterhead−
B. &T. Thorn & Son
Antiques and English Ceramics
Telephone: 2448 Budleigh Salterton

2 HIGH STREET
BUDLEIGH SALTERTON
DEVON
EX9 6LQ



Valuations for Insurance and Probate

28th June 1983

(Buyer's name and address: Omitted)

An extremely rare and important Chelsea porcelain group of Saturn and his son very finely modelled as an old man with a long beard, his naked body draped with a puce cloak, devouring his child he holds in his arms, a sickle and corn leaning against a tree trunk support, the square base applied with flowers and leaves. 10'' high Red anchor mark, Circa. 1755. Minor repairs to sickle, childs hands and base.

This group is from a series of large figures of gods and goddesses probably modelled by Joseph Willems, see Lane, 'English Porcelain Figures of the 18th Century', pages 66 & 67.

Only two other examples of the group are recorded. One from the collection of Lord Fisher which is illustrated in 'English Porcelain Figures of the 18th Century', by William King, fig. 20. 'Chelsea Porcelain, The Red Anchor Wares', by F. Severne Mackenna, fig. 114 and 'The Cheyne Book of Chelsea China' by Reginald Blunt, pl. 10A. The other example from the collection of Sir Bernard Eckstein was sold at Sotheby's, 29th March 1949, lot 147.

There are two 'fine large figures of Saturn' mentioned in the 1755 Chelsea auction sale catalogue, March 14th lot 12 and March 18th lot 84. See William King, 'Chelsea Porcelain, appendix. Also 'Chelsea Porcelain at Williamsburg' by John Austin, appendix. The Lord Fisher example was also illustrated in 'Apollo' May/June, 1945, page 129.

£850.00
<仮訳>

―レターヘッド部分は略―

保険及び遺言のための評価

1983年6月28日

(購入者名及び住所:略)

極めて希少かつ重要なチェルシー磁器のサターンと息子の像。とても良く造形されており、老人でひげが長く、裸体に暗褐色のクロークをまとい、腕に抱えた彼の子を飲み込もうとしている。鎌と麦が木の幹の支えに立てかけられている。四角の台座には花と葉が配されている。高さ10インチ(25.4cm)。赤い錨のマーク。1755年頃。鎌、子どもの手及び台座に小さな修復あり。

この像は、神と女神たちの大きな像のシリーズの一つで、おそらくジョセフ・ウィレムズが造形したものである。レイン(Arthur Lane)著'English Porcelain Figures of the 18th Century'の66及び67ページを参照。

この像は他に2作品しか記録されていない。1つはフィッシャー卿のコレクションにあったもので、ウィリアム・キング著'English Porcelain Figures of the 18th Century' fig.20、F. セヴァーン・マッケナ著'Chelsea Porcelain, The Red Anchor Wares' fig.114 及びレジナルド・ブラント著'The Cheyne Book of Chelsea China' pl.10A に掲載されている。もう1つの作品は、サー・バーナード・エクスタインのコレクションにあったもので、サザビーズの1949年3月29日のオークションの147番ロットで売却されている。

1755年のチェルシーのオークション販売カタログでは、'優れた大きなサターンの像'が2回言及されている。3月14日の12番ロット及び3月18日の84番ロットである。ウィリアム・キング著'Chelsea Porcelain' appendixを参照。また、ジョン・オースティン著'Chelsea Porcelain at Williamsburg' appendixも。フィッシャー卿の作品は、'Apollo'誌1945年5/6月号 129ページにも掲載されている。

850ポンド



 ローマ神話のサターン(Saturn; ギリシャ神話のクロノス(Cronus)と同一視されている。)は、自らの子どもによって討たれるとの予言を恐れ、生まれた子どもたちを次々と飲み込んでしまった。本作品はそのシーンを表現したものと考えられている。サターンは農耕の神であり、本作品にある鎌や麦はそれを象徴していると思われる。造形師(モデラー)は、ベルギー出身のジョセフ・ウィレムズ(Joseph Willems)だと考えられている。彼は1749年頃に英国に来て、長くチェルシーで働いた造形師である。

 「評価書」にあるとおり、1755年のチェルシーのオークション(クリスティーズ)・カタログには、サターン像が2回登場する(チェルシーのレッド・アンカー期のオークションで、カタログが現存するのは1755年と1756年の2回であるが、1756年のオークションにはこのサターン像は登場しない)。より正確には、以下のように他の神あるいは女神像とペアで売られている。

1755年3月のクリスティーズ・カタログ:
 5日目(3月14日)
  12 Two very fine figures representing Saturn and Jupiter
 8日目(3月18日)
  84 Two fine large figures of Diana and a Saturn

 ただし、このカタログには、単にサターン像とあるだけで、その姿形についての記述はなく、これが本当に本作品を指すのかどうかは明確でない。「評価書」にあるマッケナの著書では、この像が「サターン」であるか「シュネム人(Shunammite)」であるか論争があるとされている。旧約聖書(列王記 下)には、予言者エリシャが敬虔なシュネム人の女性に息子が授かるとの予言をし、また後にその子が死んでしまったときにエリシャが生き返らせたとの記述がある。マッケナは、本作品がこの説話に基づくとするなら、息子が死ぬ直前に麦を刈り取る父親のもとで頭痛を訴えた場面を像にしたものだと述べ、彼個人としては「シュネム人」説を支持するとしている。ただし、1755年あるいは1756年のカタログにも、シュネム人の像の記述はない。


 本作品の背面には、赤い錨のマークが記されているが、木の幹との幹の間にとても小さく(2mm)記されている。


高さ/Height: 25cm
マーク: 赤い錨
Mark: A red anchor
参照文献:「評価書」にあるとおり。
References: As mentioned in the 'Valuations'.


(2017年10月掲載)