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ダービー 壺 (1770年頃)
A Derby Vase Ca.1770



 肩の部分が張り出した四角形の壺で、首には穴が開いており(用途はポプリ入れであろう)、4つの脚はスクロール状になっている。蓋は紛失している。本体側面は、薄青地の上に縦長の白地の窓枠が四面に開けられ、チェルシー・ダービー期(1770-84年)の絵付け師Edward Withersタイプの花絵が多色彩で描かれている。

 下記参照文献にあるMackennaの本に、本品と同様の作品を含む壺3点のセット(チェルシー・ダービー期の)が掲載されている。そこでは本品は両脇に置かれる作品で、中央には基本形状は同じだが、肩部の四方の角に「四季」の人物胸像が配されてた壺が置かれている。いわゆる「四季の壺(season vase)」と呼ばれるものの一例である。その中央の壺については、単品の類似品がヴィクトリア&アルバート美術館に収蔵されており、下記ウェッブサイトで見ることができる。

 本品の形状はロココ調で、チェルシー・ダービー期には時代遅れになりつつあったと思われる。壺の型番が記されておらず、また壺の掲載が多い1774年のロンドン店舗カタログにも、この形状の作品は含まれていない。(さらに、1771年から1785年までクリスティーズで開催されたダービーのオークションで、season vaseが登場するのは1771年のオークションだけのようで、それも素焼白磁の作品である。)

 本品の製造年代は、形状だけを見れば1760年代だとも考えられるだろうが、絵付けの特徴やMackennaの本に掲載されているセットには「金色の錨」マーク(チェルシー・ダービー期のマークでもある)が記されている点から見て、チェルシー・ダービー期だと考えるのが適当であろう。しかし、上記のとおり形状的には既に流行遅れで、1774年カタログにも登場しないことから、おそらく1770年代の初頭の製造ではないかと思う。なお、本品がスプリモント経営下の1769年以前のチェルシー作品である可能性(素地の色合いや釉薬に一部ひび割れが見られる点などは、チェルシー作品と類似している。)については、絵付けの特徴や脚部裏面にパッチマークが見られることなどから考えると、低いと思われる。(チェルシーの型に基づいて1770年以降にダービーで作られたという可能性もなくはないが(1774年カタログには、「チェルシー」の名を冠した作品もいくつか含まれている。)、本品がチェルシーの型であることを証明する作例は見当たらない。)したがって、やはり、チェルシー・ダービー期のダービー作品だと考えるのが妥当であろう。(ちなみに、ヴィクトリア&アルバート美術館収蔵品は、ウェブサイトの解説では1765-1770年頃の製造とされている。おそらく形状面から判断したのであろう。しかし、同解説中には「チェルシー・ダービー期の1775年頃の作品として入手した」とも書かれており、興味深い。)


高さ(H):19cm

マーク:なし
Marks: None

参照文献/References:
- F. Severne Mackenna "Chelsea Porcelain The Gold Anchor Wares (With a Short Account of the Duesbury Period)" Plate 42 Fig.80
- Victoria & Albert Museum website: http://collections.vam.ac.uk/item/O165474/vase-and-cover-derby-porcelain-factory/


(2014年2月掲載)