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ダービー 平型の壺 (1810年頃)
A Derby Flat Shaped Urn Vase Ca.1810
横に平たく広がった蓋付きの壺。本品にはダービーの交差バトンマークが赤で記されており、19世紀に入ってからの作例ということになるが、この形の壺自体は1770年代に導入されている。型番は7番であり、その番号が本品裏面にも刻み込まれている。1795年時点で取りまとめられたダービー作品(主としてフィギュアであるが、壺もいくつか含まれている。)の型やモールドの番号リスト(いわゆるBemrose List (*1))には、7番の壺として"7 A vase, antique."との記載がある。(*2)
実は、型番の6番も(Bemrose Listには記載がないが)本品に似た平型壺である。ただし、垂れ幕やそれを支える頭部が加えられているなど、より装飾的な作品である。The English Ceramic Circle (ECC) の1948年の展示会カタログ及びF.S. Mackennaの著書に、この型番6番の作品が掲載されている(下の写真を参照)(*3)。両者の壺自体は装飾も同じだと思われるが、台座が異なる。なお、両者の壺には型番の記載がないが(台座が壺本体に固定されている場合、壺裏面に刻まれた型番が隠れてしまっている可能性がある)、同型・同装飾の壺(台座なし)で型番6番が刻み込まれた作品が、ロンドンのディーラーStockspring Antiquesの展示会に出品された例があり(*4)、これにより型番が判明している。
ECC "English Pottery and Porcelain Exhibition Catalogue 1948" Plate 53 より。
型番6番の一対の壺と台座(1774年カタログのNo.34参照)
Mckenna "Chelsea Porcelain The Gold Anchor Wares" Plate 39 より。
左の壺は1774年カタログのNo.49参照。右の壺は型番6番(上の写真の作品と台座が異なる)。
ところで、型番6番と7番を含む平型壺については、1774年のダービーのロンドン店舗カタログ(*1)に、以下のような記載がある。
34 A crimson coloured flat shaped rich pair of urn vases and pedestals, with a laurel wreath round and a white gold fringed drapery festoon, supported by two white masks ; to the gold rimmed neck are fixed two white rams heads as supporters to a golden festoon, the top, calix and foot are foliated in white and gold, heighth of the vase seven inches, breadth 7 1/2 inches and with the pedestal 11 inches high
49 A Mazarine deep blue urn vase, onion shaped, richly ornamented with a white and gold foliated rim, hung with a gold festoon, connected with two goats heads, and forming two anses above them ; the white and gold pedestal corresponding. See No. 34 10 inches high
50 Another ditto, in pea green, differently ornamented, but without festoons, with white and gold foliage handles, top, pediment, frieses(*5) and pedestal 10 inches high
99 A pair of skie-blue onion shaped urn vases ; top, handles, neck, friese, bottom, and pediment, in white and gold, as No. 49 7 inches high
100 A ditto, same form, but another design, very rich ; the cover, the body, and the pediment in crimson, studded with a gold net-work ; the top, neck, and bottom white and gold, foliated, on a pea green ground ; the broad edge enriched with a gold zone ; the base and tablet gold and white 7 inches high
(仮訳)
34 深紅の平型の豪華な一対の壺と台座。月桂樹のリースが周囲に、そして白と金の房のついた垂れ幕が2つの顔面によって支えられている。金彩で縁取られた首部には2つの羊の頭部が金の垂れ幕の支えとして取り付けられている。上端部、杯の部分及び足部は白と金の葉模様が施されている。壺の高さ7インチ(17.8cm)。幅7 1/2インチ(19.1cm)。台座を含めた高さ11インチ(27.9cm)。
49 濃いマゼリンブルーの玉ねぎ型の壺。白と金の葉模様で豪華に装飾された縁。金の垂れ幕は2つの山羊の頭部につながり、その上で2つの取っ手を形作っている。対応する白と金の台座。34番を参照。高さ10インチ(25.4cm)。
50 もう一つ同様の例。青豆色。装飾は異なっており、垂れ幕はない。白と金の葉模様の取っ手、上端部、ぺディメント、フリーズ(*5)及び台座。高さ10インチ(25.4cm)。
99 一対のスカイブルーの玉ねぎ型の壺。白と金の上端部、取っ手、首部、フリーズ、底部及びぺディメント。49番のとおり。高さ7インチ(17.8cm)。
100 同上。同型だが別のデザインで、とても豪華。蓋、本体及びぺディメントは深紅。金の網模様が埋め込まれている。上端部、首部及び底部は、青豆色の地の上に白と金で葉模様が施されている。広い縁は金の帯で装飾されている。金と白の底板。高さ7インチ(17.8cm)。
これら5件のカタログ掲載作品の記述ぶりを注意深く読むと、いくつかの点が明らかになる。34番はECC、Mckenna及びStockspringの作品とほぼ同じだと見られ、型番6番の壺であると思われる。50番は「垂れ幕はない」、「葉模様の取っ手」といった記述が、型番7番の特徴に適合している。色も青豆色(pea green)であり、本品と同様の雰囲気の作品(製造年代は40年程度異なるが)だったであろう。
49番の記述には「34番を参照」とあるが、「金の垂れ幕は2つの山羊の頭部につながり、その上で2つの取っ手を形作っている」という点は、34番とはかなり異なる。上述のMckennaの著書の写真の左側の作品がこの記述に適合するように思う。
99番は「49番のとおり」と記述されている(ただし、台座がない)。「玉ねぎ型」という表現も49番と共通である。次の100番は99番と「同上。同型」とされているが(台座がないのも同様)、「金の網目模様(net-work)」という記述が気になる。この「網目模様」とは、本品(型番7番)の胴体円周部分にある螺旋模様のことを指しているとも考えられるが、どうだろうか。
高さ(H):17.8cm (7in)
マーク:赤い「交差バトンマーク」。刻み込んだ"No.7"(壺の型番)と"*"(リペアラーIsaac Farnsworthのマーク)。
Marks: A crossed-batons mark painted in red. A "No.7" as the shape number for the vase and a "*" for the repairer Isaac Farnsworth, both incised.
(*1) ダービーのフィギュアや壺の型番リストである"Bemrose List"は、William Bemrose "Bow, Chelsea, and Derby Porcelain" Chapter VIに掲載されている。また、1774年のロンドン店舗カタログは、同書のChapter Vに掲載されている。
(*2) 型番7番の壺の他の作例としては、V&A美術館の収蔵品(Museum Number: 3394-1901)がある。また、英国のディーラーPeter Jackson Antiquesの1991年のカタログ"Sweetmeats and Surprises" (Item No.7)に型番が刻まれた作品(製造年代は本品と同じく19世紀初め)が掲載されている。
(*3) The English Ceramic Circle "English Pottery and Porcelain Exhibition Catalogue 1948" Items 250 & 251 (Plate 53)及びF. Severne Macknna "Chelsea Porcelain The Anchor Wares" Fig.74 (Plate 39)。
(*4) Stockspring Antiquesの2009年11月展示会カタログのNo.81
(*5) ぺディメント(pediment)、フリーズ(friese/frieze):ぺディメントは、一般に、建築において切妻屋根の下の三角形の部分を指すが、ここでは壺の脚部(下方に広がる部分)を指すと思われる。フリーズは、装飾を施した水平な帯状の部分。
(2015年11月掲載)