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ダービー 壺 (1774年頃)
A Derby Vase Ca.1774



 チェルシー・ダービー期の壺。胴体は曲線的で、口が横に広がり、そのまま取っ手につながっている。全体的な形状は、ダービー(D2-10)と類似しているが、表面に小花の貼り付けはなく、平らである。絵付けは、グレー単色での女性胸像と、その伸びた髪の毛と交差する形で、緑色の月桂樹リース模様、それに紫色の幾何学文様(脚部も同様に紫)が主体で、あとは金彩である。

 裏面に型番は刻み込まれていない。ダービー(D2-10)は型番"55"であるが、これと同じ型番なのか、それとも胴体表面に小花が配されていないことをもって異なる型番が振られていたのかは不明である。なお、裏面中央の穴の中に、小さな「金色の錨」マークが記されている。


<追記>
 1774年のダービーのロンドン店舗カタログ(*1)の中に、本品と同型と考えられる作品を二点見つけたので以下に掲載する。特に、二つ目の作品(89番)は、装飾面でも本品と同一だと思われる。

88 A pair of pear shap'd wide mouthed beakers (amphoras(*2)) white and crimson, edg'd with gold, the body adorned with gold framed antique heads, imitating white marble medallions, surrounded with laurel wreaths 6 1/2 Inches high

89 Another pair of the same, all white, except the pediment(*3), in crimson, mouth, handles, and foot edg'd in gold, the body adorned with crimson pateras(*4), hung with green festoons, intermix'd with full fac'd chiaroscuro(*5) female masks, veiled and joined by a drapery festoon 6 1/2 Inches high

(仮訳)
88 一対の梨型の口が広がったビーカー(アンフォラ(*2))。白と深紅で、金彩で縁取られている。胴体は金枠内の古代の頭部像、白い大理石のメダリオンを模して月桂樹のリースで囲まれたもの、で装飾されている。高さ6 1/2インチ(16.5cm)。

89 もう一つ同様の対。ぺディメント(*3)が深紅の他は全て白。口、取っ手及び足は金彩で縁取られている。胴体の装飾は、深紅のパテラ(*4)と共に吊るされた緑の花綱が、明暗(キアロスクーロ(*5))をつけて正面から描かれた女性の顔、ベールをかけ垂れ幕の花綱とつながっている、と交差している。高さ6 1/2インチ(16.5cm)。


高さ(H):16cm

マーク:裏面の穴の中に金色の錨
Marks: A gold anchor in the hole of the back.

(*1) William Bemrose "Bow, Chelsea, and Derby Porcelain" Chapter V
(*2) アンフォラ(amphora):2つの取っ手がある古代の壺。
(*3) ぺディメント(pediment):一般に、建築において切妻屋根の下の三角形の部分を指すが、ここでは壺の脚部(下方に広がる部分)を指すと思われる。
(*4) パテラ(patera):献酒に用いる古代のボウル。
(*5) キアロスクーロ(chiaroscuro):明暗のコントラストを用いて絵を描く技法。


(2014年3月掲載。2015年10月更新。)