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ウースター ボウル (1757-59年頃)
A Worcester Bowl Ca.1757-59

 

 

 

 ウースター初期のボウル。サイズから見てスロップ・ボウル(茶こぼし)だと思われる。ややくすんだ白色の、薄くかっちりと焼き上げられた素地の上に、黒色で釉薬上の銅板転写による装飾が施されている。

 図柄は、最初の写真にあるのが"Rural Gambols"と題されているもの。「田舎のじゃれ合い」とでも訳せばいいかもしれないが、田園風景の中で腰を下ろした男女が二匹の犬がじゃれ合うのを見つめている図である。二番目の写真の図柄は"L'Amour"(愛)と題される人気図柄で、ベンチに座った男性が隣の女性の手にキスをしているものである。この二つの図柄に挟まれる形で、人物像と東屋(柱が曲がっている)の図柄が配されている(三番目と四番目の写真)。さらに、ボウル内底には白鳥の図柄がある(五番目の写真)。

 これらの図柄はどれも、1757年頃からウースターに在籍した銅板の彫師ロバート・ハンコック(Robert Hancock:ボウ(B15)を参照)によるものとされている。最後の写真("L'Amour"図柄の右下部分)に、錨マークとその下にRとHを組み合わせたモノグラム、その右にWorcesterの文字が記されている。このうちRとHのモノグラムがハンコックのサインだと見られている。(このモノグラム以外にも、Robert HancockやR. Hancock fecit等々のマークがある。)

 錨のマークは、ウースター社の経営者の一人であるリチャード・ホールドシップ(Richard Holdship)のマークだとされている。彼の苗字ホールドシップ(船を泊める)の謎かけのようなマークである。彼は、ウースター社への大出資者の一人であっただけでなく、ウォームストリー・ハウス(Warmstry House)をウースター社屋として用いるために自ら借り上げたり、ブリストル社からソープロックの使用権を買い取るなど、初期の経営の屋台骨を支えた人物である。ウースターの転写印刷部門に関しては、彼と弟のジョサイア・ホールドシップ(Josiah Holdship)が深く関与し、ハンコックが彫った図柄を用いて作品を生み出していたと考えられている。その後リチャード・ホールドシップは、1759年に破産してウースターを去っている。錨のマークは、それ以降はウースター作品では用いられなくなったと考えられている。彼は1764年にダービーに移り、同じ錨マークの記された転写印刷の作品(磁器ではなくて、陶器作品)をダービーに残している。(ウースターでは、ホールドシップが去った後も、錨マークを除いた、ハンコックだけのマークは用いられていたと思われる。ハンコックは1774年まではウースターに所属していた。)


口径(D):15.5cm
マーク:側面図柄下部に、黒色印刷で、「錨、RHのモノグラム、Worcester」
Mark: An anchor rebus (for Richard Holdship), Monogram of R and H (for Robert Hancock), and "Worcester", printed overglaze in black beneath the "L'Amour" design printed on the side of the bowl.
参照文献/References:
- Cyril Cook "The Life and Work of Robert Hancock" Item No.2 (L'Amour) and No.96 (Rural Gambols)
- John Sandon "The Dictionary of Worcester Porcelain"
- Geoffrey Godden "Eighteenth-Century English Porcelain A Selection from the Godden Reference Collection" Chapter XIV Robert Hancock, Engraver


(2016年10月掲載)