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メトロポリタン美術館(米国:ニューヨーク)
The Metropolitan Museum of Art (USA: New York, NY)

 世界で最も有名な美術館の一つで、とても多くのジャンルの収蔵品があるのは、皆さんご存知のとおりです。その中で陶磁器は比較的地味な扱われ方をしており、展示も分散しているので、それほど注目を浴びていないのですが、実は立派な作品が豊富にあります。

 この美術館にある18世紀の英国及び欧州大陸磁器作品は、寄贈されたIrwin Untermyerコレクションを基盤としています。このコレクションは、陶磁器だけでなく家具、刺繍・タペストリー、ブロンズ彫刻、銀器まで含む膨大なもので、その内容は全6冊の同コレクション・シリーズとして出版されています。陶磁器に関しては、ともにYvonne Hackenbroch著の”Chelsea and Other English Porcelain””Meissen and Other Continental Porcelain”として2冊にまとめられており、世界でも屈指のコレクションとして知られています。”(チェルシーの参照文献のページを参照。)

 多くの作品は、1階奥中央の「欧州の彫刻と装飾品」のセクションに展示されています。大陸の磁器人形や壷などの装飾品が展示の主体で、マイセンをはじめとするドイツ作品はもちろん、フランス、イタリア、オーストリア、ロシアにいたるまで、量的にはコレクション全体のごく一部とは言え、それでも幾部屋も使ってかなりの数の作品が展示されています。英国磁器ファンとしては、もう少し英国作品を並べてくれればとも思いますが、少し欲張りかもしれません。香水入れなどの小物もかなりあり、その中にはチェルシーやガール・イン・ア・スイングの作品も展示されています。

 マイセンのケンドラーの大作、白磁の山羊の母子像など、ガラス・ケースから出されて(というか、大きすぎて入らない?)無造作に置かれています。あまり近寄ると警報が鳴るのですが、しょっちゅう鳴るせいか、警備員が飛んでくることもなく、みな至近距離で作品の迫力を堪能しています。マイセンに関しては、白鳥の浮彫りが美しい”Swan Service"のうち、大皿、カップ&ソーサー、砂糖入れ、フルーツ・スタンドが集めて展示されているのも要注目です。

 1階中央の一番奥まったところに集めてあるRobert Lehman Collectionにも、陶磁器がかなり含まれています。16世紀イタリアのマジョリカが多いですが、18世紀のベルリン、マイセン、ウィーン、セーヴルなどのカップ&ソーサーやジャグなどもあります。

 中国や日本などアジアの磁器作品は(それに一部の英国や欧州作品も)、ロビーの正面階段を上がった2階の階段脇及び吹き抜け部分の展示スペースに集中しています。「何だ、廊下に展示されているのか」とも思いますが、入口に近く、比較的目に着きやすいスペースです。中国の作品は、清代のものが多いようです。日本の物は伊万里や柿右衛門図柄の作品が中心です。欧州作品は、中国や日本から影響を受けた図柄のものが並べられています。他に、韓国や中東などの作品もあります。

 一番見落としやすいのは、「アメリカン・ウィング」と名付けられたセクションに並べられている作品でしょう。1階右手奥に吹き抜けスペースとカフェテリアがあるのですが、その脇に石造りの大きな建物を模した入口があり、その中の2階に米国家具などがガラスケースの中に積み上げられて、所狭しと展示されています。そのさらに奥の方に、食器類(銀器、ガラス器、陶磁器)が入っている展示ケースがあり、そこに18世紀英国磁器作品が含まれています。かなり虐げられた形の展示で、点数もそう多くないですが、チェルシー、ボウ、ウースターなどの食器類が並べられています。さらに問題なのは、個別作品には整理番号がふってあるだけで、どのメーカーのいつ頃の作品かなどの情報が一切書かれていないことです。倉庫代わりの場所かと邪推したくもなりますが、実はすぐ横に検索のためのコンピューターが何台か置いてあり、そこで作品を確かめられるようになっています。もう少し作品に敬意を払った場所に移されることを期待したいところですが、ご関心のある方は、注意して探してみてください。

 もちろん、この美術館を訪れて、陶磁器だけ見て終わらせるわけにはいかないでしょう。古代エジプト関係の展示は圧倒的な迫力ですし、中国や日本のセクションも必見です。もちろん、欧州絵画はいつも一番人気です。膨大な彫刻群も見落とすわけにいかないですし、武具や楽器などの興味深い展示にもついつい時間を忘れて見入ってしまいます。さらに、常に何かしら特別展をやっていて、これがまた垂涎モノの企画の連続です。ですから、限られた時間では、陶磁器の展示にあまり時間を割けないのです。館内はあまりに広くて、すぐに脚が痛くなりますし、後で戻ってあそこを見ようなどと思っていると、もう疲れて戻る気が失せてしまいます。できれば、陶磁器関係だけのために改めて訪問して、分散した展示スペースを回りながら一気に見てしまうのがいいのでしょう。(ニューヨークにキラ星の如くある他の有名美術館を差し置いて、再度メトロポリタン美術館に来ることができればの話ですが…。)

 最後に、くたびれついでに売店をのぞいてみてください。一階正面左右にある売店は広くて、品揃えもかなり充実しています。特に書籍に関しては、美術専門書店と呼んでも差し支えないほどです。英国・欧州の陶磁器の専門書についても、書棚が一つ当てられていて(でも、店内をよく探さないと見つけられません。)比較的新しい本に限られるものの、一般的には書店の店頭で見つけることの難しい本が並んでいます。




<久しぶりの訪問(2012年夏)での感想>
 西洋陶磁器に関しての展示は、「驚くほど変わっていない」という印象です。上記に修正したり追記したりすべき点は特にありません。今回は、「アメリカン・ウィング」にある英国磁器作品に振られている番号を控えてきたので、それを使って本美術館のウェブサイトで収蔵品検索をしてみました。ちゃんと出てきました、写真は白黒ですが。




<再訪(2014年夏)>
 今回の訪問で、英国陶磁器の重要な展示を見つけました。(これまで見落としていたとは思えないので、展示替えによるものだと思いますが。)「欧州の彫刻と装飾品」セクションの中に、英国装飾品を集めた部屋がいくつかあり(部屋番号で言うと、509〜514のいくつか)、一部は絵画や家具と一緒に、18世紀の素晴らしい陶磁器が展示されています。具体的には、ボウのモンゴル人胸像(ペア)、ダービーのドライエッジ期の中国人像、チェルシーの恋人像やロココ調の壺、ウースターのティーセット、チャンピオン・ブリストルの壺、ウェッジウッドのジャスパーウェアの壺等々です。お見落としなく。


(更新:2006年4月、2012年8月、2014年6月)